十二、文化祭当日(後編)
どきどきしながら横たわるかずみの唇を、いきなり奪うはるか。横で顔をしかめる薫さん。
「いきなり口かよ。でもあたしは知ってるんだぜ」
ニヤついてかがみ、顔をよせる。
「ここのほうが感じるんだろ、かずみ……」
そして、うなじにぴちょっとキスし、下から上へと舐めあげる。絶妙なわざで性感帯を刺激され、かずみはうめきながら、全身をびくんびくんけいれんさせる。とうにびんびんに勃っていたが、まっかなスカートの波に埋もれてめだたない。
ブギ子がえりから手を入れようとすると、薫さんが注意した。
「こらっ、乳首とチンコを直接はダメだ。あとアナルもな」
「ええっ、そんなルールを勝手につくるなんて、ひどいなり。あ、服のうえならいいなりね?」
「まあ、そりゃかまわんが」
言って、しまったと思った。生地ごしにこすられるほうが、より刺激をこうむる可能性がある。
じっさい、ブギ子がよろこんで胸をてのひらでこすっているうちに、かずみは恍惚とした顔で首を左右に動かしはじめた。
「こらっ、やっぱやめ――」
注意しようと離れた薫さんは、彼のしぐさのすさまじいほどのセクシーさを見て、思わず固まってしまった。感動のあまり目が輝き、なにも言えなくなった。
(うおおおっ! す、すげえええっ!)(すげえよ、かずみいいいっ――!)
わきではるかも口を離し、おどろきの表情になった。見つめるそのほほは、やがてピンクに染まり、目尻はだらしなく下がり、口もとに尋常でなくニヤけきった笑みが浮かんだ。完全にかずみのエロスにヤラれきってしまっている。それを見て薫さんは、自分がこの少年の母親であることを、ひそかに誇りに思った。
二人の反応に気をよくし、ますます胸を責めたくるブギ子。激しいきぬずれに、かずみをめくるめくような快感の極致へ突きおとされた。客席のそこかしこから感嘆のため息が聞こえ、会場全体が静かな興奮につつまれているのが、舞台からも分かる。ほとんどストリップだ。
誰もがこのままイカされると思ったそのとき、いきなり彼はわき腹をどんと蹴られ、かたまった。
水をうったような沈黙。
横から蹴りを入れたのは、やや背の高い、おさげ髪のロミオだった。
「あまい、あまいわっ!」
両腕をひろげ、会場を威圧するようにさけぶ。
「ジュリエットは、こんなぬるいことで満足するような、ハンパなマゾではなくてよ! 彼女が欲しているのは、ズバリ、苦痛! それは、このわたくしが、いちばんこころえていてよ! ねえ、かずみ?」
しゃがんで彼の前髪をいとおしくなでながら、にっこり笑う。そのサド心むき出しの、カミソリのように鋭利な笑いは、彼をわりかしおびえさせた。
「あなたは、お尻や背中を蹴られるのが、いちばん好きなのよね? ねっ、そうでしょう?」
「う、うん……」
小さい子供のようにそう言ってこくんとうなずくと、雪乃は激萌えし、(かっ、かわいすぎるううっ! い、今すぐこの坊やを蛇のように丸のみにしてえええ! がつがつ食い殺してえええ!)と脳みそ爆発しかけたが、なんとか耐えた。
しかし、薫さんがつめたく言った。
「却下。SMなんてやったら、こいつの独壇場になっちまって、勝負にならん」と雪乃を指さす。
「そんな横暴な!」とキレて抗議するお嬢さま。「みなさんはご存知ないのよ! かずみが、どれほどの超激マゾのド変態坊やかを!」
「ふん、君は知ってるような口ぶりだな」
はるかが鼻を鳴らすと、雪乃は女王の笑いを浮かべて、尊大に言った。
「ほほほほ、当然ですわ。このわたくしだけが、かずみくんを奴隷にできる権利を持っているのよ。かずみはもう、わたくしに痛めつけられたくて、たまらないのですわ。苦痛こそが彼のよろこびであり、しあわせなのよ。それを与えられるのは、この真性サド女のわたくしだけ。わかったら、さあ、とっととおどきっ!」
完全に高ピーなお嬢キャラと化した雪乃が手でしっしっと払うと、ほかの三人は一様に顔をしかめた。会場の壁際では、雪乃の父親が、ろく木(体操用のはしご)にベルトを引っ掛けて首を吊ろうとするのを、女房が必死にとめていた。
「話はわかった」と薫さん。「だが今、こいつはかずみというよりはジュリエットだ。今は誰が本物のロミオになれるかの勝負だから、一人だけ有利にするわけにはいかん」
かずみというよりはジュリエット、ってなによ、と雪乃は心で突っこんだが、だまっていた。それに、どう見ても最初から早いもの勝ちで、平等だのは、あっちの都合でいま言いだしたとしか思えない。だが、いちおう最後まで聞いてやろう、とは思った。
「そこで、蹴りとかじゃなく、つねる、とかで妥協してはもらえないか?」
「つねるですって? そんなぬるいことで、かず――ジュリエットを、イカせろと言うの? 自分はなめまわしてキスまでしといて、わたくしには、たんにつねろだなんて、横暴だわ」
「なあんだ、サドの女王というから、」と肩をすくめるブギ子。「つねりだけでも難なくイカせてしまうと思ったなりが。たいしたこと、ないなりねえ」
「なんですってえ……!」
マジで鬼の形相になって低く言い、それを見てさらにおびえるかずみ。だがアソコは、その恐怖に握りしめられたように、びんびんにたけりまくった。
(ゆ、雪乃さん、かっこいいっ……! はあはあ、はやく僕を犯してえぇぇ)
そのうるむ瞳は、激しく訴えていた。
「ふふん、いいわ。そのかわり、つねる場所はわたくしに決めさせてちょうだい」
「チンコとかはダメだぞ」と薫さん。
けっきょく、スカートをまくられ、太ももをつねられることになった。おおしくテントをはったネービーブルーのブリーフがひょこっと顔をだし、観客のどよめきがおきる。
だがそれよりも彼らを感動させたのは、彼のすらりとした美しい足だった。いちおう男なので筋肉質ではあるが、毛は一本もなくつるつるで、美女でじゅうぶん通用するほどに肌がきれいだった。それに太もものぱつんぱつんの張りぐあいといい、ふくらはぎのなめらかなラインといい、まさに芸術品ともいえる均整のとれた見事なプロポーションで、その足全体が、見るものの加虐性をとてつもなくそそり、ぞくぞくとそそられる危険きわまるエロさをまばゆく発している。
いま、半身をぞんぶんにいじられて性的に高まっていることが、そのおみ足全体にみなぎる、みだらなうるおいと光沢に拍車をかけていた。にじむ汗で白い肌がみずみずしくきらめき、その肢体じたいが、見るものすべてを、いやでも性的に挑発しまくった。
すさまじく征服欲をそそられて息を荒らげる無数の客たちの飢えた視線を感じ、かずみはまっかになって顔を両手で隠した。
「ふふふ、恥ずかしいのね、そうなんでしょう?」
ニヤニヤと言いつつ、腰のわきに正座する雪乃。客に配慮したわけでもなかったが、寝ている彼の向こう側に座ったので、その所作がよく見える。
「こんなに体を熱くほてらせて。うわっ、やけどしそう!」
太ももをさわりながら、悪魔のように口もとをニーッとつりあげる。
「とんでもない究極のドマゾね、あなた。この変態。変態。ド変態ド変態ド変態……!」
耳元で連呼され、顔を隠したまま、「そ、それ以上言わないでっ、か、感じちゃう、ああんっ!」とキュートに悶えるド変態のかずみ。
(ちっ、サドは言葉責めがうめーな)
薫さんがにがい顔をしたが、あとでいい言葉を教えてもらおう、とも思った。同じ変態仲間とは、なかよくしておくにこしたことはない。
だが、三人の認識は甘かった。いよいよつねるかと思いきや、雪乃はいきなり顔を近づけ、太ももを甘がみしたのである。
かぷっ。
「ああああんっ――!」
下半身に炸裂する甘い刺激に、思わずのけぞって叫ぶかずみ。かみながら、少しずつ調教されてゆくイケニエをあおりたくる雪乃。
「どお、かずみっ?! 痛くて気持ちいいでしょう?! はむっ、はむっ!」
「ひはああっ! ら、らめっ、ぞごおおっ!」
ろれつすら回らず、白目までむいてあえぎたくるかずみ。
このまま見ている場合ではない。このままでは、こいつにかずみを取られてしまう。もう、なりふりかまってはいられない。そう決意したブギ子は、スカートを胸までまくって顔を突っこみ、乳首をじかに吸いだした。
「あっこらっ、てめえっ!」
怒る薫さんを尻目に、今度ははるかが、かずみの顔に突入。唇をうばい、舌を使って猛烈にかき回す。かずみは息も絶え絶えに、とろけきった甘いあえぎを漏らす。
かわいい息子が愛欲のえじきにされるのを黙って見ていられない薫さんは、自分も反対側のほほに吸いつき、あごをつかんで顔を自分のほうへぐいっと向かせ、口のすきまに強引に舌を突っこんで、唇をうばった。押しだされて口が離れてしまい、かずみの喉によだれをしたたらせて、いきどおるはるか。
「よこせっ!」と自分もほほにキスし、あごをひっぱってぐりっと自分にむかせ、すきまから舌を差しこみ、うばいかえす。舌がぬけて、「ぶはああっ! へめえっ!」とキレた薫さんは、はるかの顔のわきに自分の顔をぐいぐい押しつけて舌を伸ばし、隣の顔をどかそうと押しまくる。男の顔の上で、二つの女の顔の押しくらまんじゅうが始まり、二本の飢えた舌が同時に一つの唇に襲いかかる地獄の事態になった。
そこで二人は、いつしか申しあわせたように交代でキスしまくるようになった。顔をぐいと右に向けられては薫さんに口をがつがつむさぼられ、終わるとすぐ左にぐるんと回されて、はるかにずぼずぼキスされまくる……という暴虐のしうちを、何度も果てしなく繰り返されるかずみ。一定のリズムでえんえんとなぶりものにされ続ける悪魔の所業に、かずみは死ぬほど被虐的に興奮し、このまま殺されたいと切に願うほどの至上の快感におぼれまくった。胸では、ブギ子が乳首責めをかまし、甘い刺激が彼の脳天を何度もつらぬく。
(ああっ、ぼ、ぼく、こ、こわれちゃううっ――!)
新見が気をきかせて(きかすなよ)、舞台袖からスマホでこの狂乱を撮影し、背後に出した巨大スクリーンに映しだしたので、三人の女が男にかぶさって左右から激しく責めたくるさまが、うしろの観客にもでかでかとはっきり見えた。感動のどよめきに包まれる館内。
ほかの教師や警備員とかはいねえのかよ、と思うかもしれないが、彼らは全員がいちばん前のかぶりつきで見て、はあはあしていた。ダメすぎる。
かずみは意識が飛びかかって何度も目の前がまっくらになり、陥落しはじめた。
(も、もう、らめっ――!)(い、イグうううっ――!)
我が子の視線がずれた痴態をいとおしく見つめ、薫さんはキスをはるかにまかせて、最初のように首筋をなめはじめた。彼女がスクリーンを横目で見ると、股間が大映しだった。それは刃物のようにとがり、今にも爆発しそうなほど硬くそそり立っていた。いよいよ最後のときが来た、とそれは告げていた。
薫さんは顔をあげ、息子に聞いた。
「どうだかずみ、気持ちいいか?!」
「あうーん、気持ちいいよおー!」
「イキたいか、かずみ?!」
「い、イキたあい! い、いかせて――」
息がとまり、次の瞬間、彼は泣きながら、赤子のように絶叫した。
「イカせてえええ――! おかあさあああん――!」
彼女の目が光った。
そそり立つそれを、いきなりブリーフのうえからがっしとつかみ、そのまま上下にしごきだした。
「うっ?! うわああああ――!!」
大きくのけぞり、うわずった叫びをあられもなくあげて、わきあがる至上の快感に身をゆだねるかずみ。みんなこの所業に気づいたが、誰もずるいと言わなかった。それぞれの持ち場で行為を続け、ただ彼をイカすことだけに専念していた。
(かずみにイッてほしい、よろこんでほしい!)
(気持ちよくなって、かずみ!)
(しあわせになって、かずみ!)
それだけを最優先した。彼のモノは母の手の中で膨張し、もうあとわずかでイクところだった。
だが、そのときだった。
どこからか、パトカーのサイレンが近づいてきたのだ。
「あちゃあ、やっぱ来たか!」
あせった薫さんが手をはなし、チンポは寸どめで放置された。
あとの三人も責めをやめ、服役とか退学処分とか、あらゆる忘れていた考えが頭をぐるぐるするまま、ぐったりしたかずみを見た。
だが、薫さんは妙なことに気づいた。
(あれ……?)
(音がパトとちがうな……)
数秒後、バーンと扉を突き破って館内に飛びこんだのは、一台の白い救急車だった。パトの音はうしろに続いていたが、救急車の切迫したサイレンが先だった。
客はあわてて席をたち、残ったパイプ椅子をガンガンひきつぶして、救急車が舞台のまえに停まった。出てきた数人の白衣の若者たちは、有無をいわさずかずみを担架に乗せて車内にはこび、女たちも全員のせると、そのまま脇の扉をやぶって体育館を飛びだした。
日はとうに暮れ、遠ざかる夜のキャンパスからは、パトカーのサイレンがいつまでも鳴りひびいていた。
そう狭くもない車内で、マスクをはずしたひとりの顔を見て、ブギ子はそれがとんでもなくイケメンなのにおどろくと同時に、どこかで見たことがある気がした。
そのわけは、すぐにわかった。担架が入るなり駆け寄ってきたその人と、今の男の目鼻だちが、えらく似ていたのである。
「モデル部の伊吹部長?! なぜ、こげなとこにおるぞなもし?!」
だが蘭子は、ブギ子の声に気づきもせず、ただ寝ているかわいい部員の肩をゆすって叫んだ。
「だ、大丈夫か、平川?! しっかりしろ!」
かずみは、ゆすられてもぐったりしていたが、うっすら目をあいたので、蘭子の顔に安堵の色がうかんだ。
だがそのとたん、彼はいきなり「蘭子さあああん!」と絶叫し、彼女に飛びついた。
「うわあああ――!」
おどろいて床に尻をついた蘭子のスラックスの股間に、かずみのそれが押しつけられてブリーフがずれ、中からおどり出たぎんぎんのイチモツから、愛の塊が爆発のように、どばっ、どばああっ! と発射された。きつく抱きつかれたまま、熱気たぎる太腿の内側から、栗の花臭がむんむん立ちこめ、蘭子はわけがわからず、目をむいて叫んだ。
「うんぎゃあああ――!」
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救急隊員になりすましていたのは、蘭子の弟たちだった。
次男のタツロウの話によると、こうだった。
彼らも劇を見にきていたが、ジュリエット集団責めの終わりころに、隣の奴がスマホで通報したのを知り、姉の恋人(ではないが、そうだと兄弟全員が思いこんでいる)である平川さんが逮捕されてしまう、なんとかしよう、ということになり、とりあえずタツロウがバイトしている病院へ全員でもどり、救急車を失敬して、救急隊員に変装した。
「いいのかよ、そんなことして」
薫さんがあきれると、タツロウは「だって、かずみさんの一大事ですよ。まあ救急車の件は、あとでなんとかなるでしょう」と、なんでもないという顔だった。
「じゃあ、どうしてモデル部の部長がここにいるなりか?」とブギ子。
「ああ、そのまえに姉からラインが来てましてね」とタツロウ。「かずみさん宅にお見舞いに行ったら、本人がじつは仮病で、謝られたあと、劇に出ると言って出て行ってしまい、鍵もかけずに帰れないから、家から出られなくなった、と。
で、今は恋人の緊急事態ですから、ついでに寄って、乗せてきたわけです」
後部の窓から暗闇を見る薫さん。
「追ってきてねえな」
ほっと息をつく。
「いや、なにはともあれ、助かったぜ。しっかし……」
言葉を切り、蘭子をしげしげながめる。
(そうか、かずみの好きな女って、こいつか……)
彼の部屋の卓上においてあったファンジンに、たしかそう書いてあった。いま、彼がその名を叫んだから、まちがいない。しっかし、すんげえ美人じゃねえか。
彼女は、うしろを向いて言った。
「なんだ、おめーら、みんな失恋じゃねえかよ」
言われて、気まずくなる三人。
「わ、わかってるぞな」
「とうに知ってましたわよ。でも、もういいんですの」と目をそらす。
「僕は、あきらめないぞ。いつか、かずみを僕のモノに……」
「どうでもいいけど、股間、洗ったら? におうよ」
三男のマコトが蘭子に言ったが、彼女はかずみに抱きつかれて床に座ったまま、真顔で答えた。
「動かないんだよ。ねむっちまった」
そして、寝息をたてる少年の顔を、苦笑して見つめる。
「ほんと、赤ちゃんみたいだな」
「このまえと逆だね」
タツロウに言われ、蘭子は「ああ、そうだな」とほほえんだ。股がくさくてぬるぬるだが、(こいつだから、まあ我慢するか)と思った。
救急車は街角をまがった。
「さあて、お二人には、このままホテルに行ってもらうとして――」
薫さんの言葉に、あわてる蘭子。
「ほ、ホテル?! ちょっと待ってくれ!」
「そういう意味じゃない、服を洗わにゃいかんでしょ。弟さんたちもいっしょだから」
そして彼らを指して、念をおす。
「君たち、気をきかせて消えたりしないように」
「えっ、ダメなんですか?」
三男だか四男だかが言うので、怒りだす姉。
「消える気だったのか?! 最低だぞ、お前ら!」
「だって、二人っきりのほうがいいでしょ?」
「だーかーらー、別にそういう関係ではなくて、だなぁ」
それを聞いて、はるかがブギ子に言った。
「見ろ、かずみが一方的にほれてるだけで、向こうはその気じゃない。僕らにも、大いにチャンスありだ」
「しつこいと、もっと嫌われるなりよー」と流し目。
「どうやったら、そんな心臓が持てるのかしら」
雪乃があきれると、薫さんがガッツポーズした。
「おしっ、今夜は失恋シスターズで飲み会だ。あたしがおごる!」
「お母さんは失恋じゃないでしょ」とブギ子。
「あたしも失恋だよ。いじってるとき、『お母さん』と叫ばれた。もう、あいつのオンナにはなれない」と深刻に顔をふる。
とたんに怒る雪乃。
「母親が、なに言ってんですか! 鬼畜ですか?!」
「いや、あんだけやっといて、今さらでしょ……」
タツロウが苦笑した。
むかいでブギ子が自分を見ながら言った。
「飲み会はいいなりが……このかっこうじゃ、入りづらいぞな」
「あら、そうね」と雪乃。
「大丈夫だ、ロミオOKなとこを知ってる」
そう言って電話する薫さん。
「もしもし、アッキー? 今から店いって平気? にせロミオ四人なんだけど。にせだから、ジュリなしな。
ん? 本物?」
聞かれて、蘭子のほうをちら見してから、言った。
「本物ふたりは、このままホテルへ直行だ」(「薫かあさん」終)