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[第六章:私のやりたいこと]その6

『…!ガワだけ野郎か、アレは!…ふふふ、やっぱりガワだけだ。あんな怪物になるなんて。…ふははは!僕が、この成・功・作☆の僕がその程度のお前に思い知らせてやるぞぉ!』

 そんな言葉と共に、それは戦場の端から遠い中心に向かって、六枚の翼を持った者は突き進んでいく。


▽―▽


『…さく。こんな…こんなことになったら、種のかける負担で、あいつは無事じゃすまない…!』

(ミィジットめ…!)

 ここまでで既に修復されていた[スカーレッドバレル]の中、宇宙空間で暴れる巨獣を見ながらケルガラは拳を怒りで震わせる。

(もう、今までのようにミィジットに一応の伺いなんてかけてられん…!)

 今までは、ミィジットに捨てられて路頭に迷うわけにはいかないと、一応彼女に対して伺いを立て、その意思に従いながらケルガラは過ごしてきた。

 例え、ミィジットがどれだけ勝手なリーフルであろうと、である。

 しかし、最愛の相手であるさくが、戦場のただなかにいるという危険な状況を前にしては、ミィジットなどと言う畜生に行動の許可など取ってはいられない。

 そう言った考えもあって、さくが心配で耐え切れなくなった彼は先刻、こうして単身戦場へ、さくを手助けるために出てきていた。

 そして今、暴走し、巨獣溶かしたさくの状態は彼が出撃する前よりも明確に悪化し、アンリミテッドシードのかけてくる負担によって、生死をさ迷ってすらいるかもしれない。

 こうなれば、なおさらミィジットに伺い等立てていられない。

(…そうだ。やってられない。…やめだ、やめにしよう。あんな奴の意思なんて伺うのは)

 ケルガラはこの瞬間決意する。

 ミィジットの意志など無視すると、そうして自分の思うままに行動しようと、明確にその意思を定める。

(俺は愛のために、動く…!)

 ケルガラは画面に映る巨獣を見据える。

 今なお暴れ、残存する[騎装樹]を見境なく破壊していくそれの頭部を、さくがいるそこを捉える。

 それから、彼は明確な意思と共に呟く。

『今、助けに行くぞ…さく!種の力を使ってでも!』

 直後、[スカーレッドバレル]は背部の推進装置から思い切り空気を吐き出し、加速する。

『俺はお前が好きだからな!だから、助けるぞ!!』

 愛の叫びと共に、真紅が宇宙を駆ける。


▽―▽


『打つ手が…ある?私だけに…?』 

 目を丸くして言うくらんに、ミスリィは[ミスリルチェリー]を頷かせる。

『確かに、ある。ミスリィや純奈にはない、くらんだけが使える手が、たった一つ。…しかし、それは…』

『…ミスリィ?』

 手があると断言しながらも言い淀むミスリィに、くらんは首を傾げる。

(なにか、言いづらい事なんでしょうか…?分かりませんけど…でも、私にできることがあるというのなら)

 くらんは思う。

 今、この戦場で暴走し、苦悶の声を上げ続けるさくを助けられるというのなら、自分はどんなことでもやってやろうと。

 そのために、コンテストの出場を諦め、ミスリィとの鍛錬をして、怖さを押し殺してここまで来たのだ。

 一度は絶望しかけたが、希望があると言うのならそれを掴むことを、くらんは望む。

(私は、さくを助けたいんですから)

 内心でそう言ってから、くらんはミスリィに言う。

『ミスリィ。さくを助けるためなら、私は何だってします。だから、言ってください。その、手というものを』

『……』

 いつもはずけずけと物を言うのに、ミスリィはやけにためらう。

 だが、くらんの意思を尊重しようと思ったのか、数秒後にミスリィは語り始めた。

『くらん。忘れているかもしれないが、くらんは成功作』

『成功作…』

(それって…)

 もしや、と思うくらんに対してミスリィは続ける。

『くらんはお母さんの手で作られたアンリミテッドリーフルの成功作。つまりはアンリミテッドシードを安全に制御し、その力を引き出すことができる』

『……』

『そして、その力を最大限使えばおそらくさくが今形成している巨獣に近い形態を[騎装樹]にとらせることができるはず。さくのとほぼ同じように。そうすれば対抗できる』

『確かに…』

 ミスリィの言う通りである。

 ここまで失念していたが、くらんの身にはミスリィたちとは違ってあのアンリミテッドシードが埋め込まれ、同化している。

 その力を使ったらなにが起こるのか、どんなことができるかを、くらんはクラッカ、さく、ケルガラの例で見ている。

(その力を使えば、あるいは…)

 流石に、暴走して能力の上限なく暴れまわるさくと同じとまではいかないかもしれないが、種の力を全力で使うことにより、ミスリィの言うように[騎装樹]を強化し、対抗ができるかもしれない。

『…ただし、と言っておく。対抗できる可能性があるのはアンリミテッドシードの力を最大限発揮した場合だけだろう。そして、そうすることはくらんに大きな負担を強いる』

『負担…』

『そう。アンリミテッドシードは軽く使うだけでも負担を強いる…』

 半ば失敗作故の負担の大きさもあるとはいえ、クラッカのそれのように。

『それを、今のさくに対抗するだけの力を引き出すとなると、どれだけの負担と苦痛があるかは想像できない。ミスリィややっちゃんが経験したものよりも酷いものが、くらんを襲うかもしれない』

『…それは』

『…正直、あんな苦痛は…あるいはそれを超えるものなんて味合わない方がいい。今でも鮮明に思い出せるほどに、あれは酷かった』

 辛い過去を思い出してか、ミスリィは普段見ないような暗い雰囲気を出す。

『…味合わない方が幸せだと、ミスリィは断言する。それに、おそらく初めてやって上手くくらんができるという保証もない。力を引き出そうとして制御に失敗するかもしれない。成功作と言えど、そのリスクは最大の力を使う以上十分にある…』

『ミスリィ…』

 [ミスリルチェリー]は巨獣の方を見る。

『リスクも高い。制御に成功しても負担と苦痛は間違いない。しかし…この方法だけが唯一、あのさくに対抗し、中から救い出す可能性があるのも事実…』

 [ミスリルチェリー]が[シルバルヘヴィ]を、ひいてはその中のくらんを見て問いかける。

『くらん。くらんは…どうする?苦痛を承知で、この手段を取るか?』

(ミスリィ…あなたは)

 くらんには分かった。

 ミスリィは、同じ実験体である境遇から、くらんを気遣っている。

 そして、普段ならそんなことはしないであろうミスリィにそうさせるほど、くらんの身に宿る種を使うことは危険であるということも分かる。

 たった一つの希望だとしても、簡単に縋ることなどできないものだと言うのが、理解できる。

(…どんな苦痛が襲うか分からない)

 さくは思う。

(…制御できるかは分からない)

 さくは思う。

(対抗して助け出せるというのも、可能性に過ぎない…)

 全ては不確実で、危険で。

(それでも…です)

 今それが、くらんにとって打てる唯一の手であると言うのなら。

 さくを救い出せる可能性を、仮に僅かであったとしても確実に持つものであると言うのなら。

(私の選択は…決まっています) 

 くらんは、端から決まっていたその意思を、全てを聞いた上で改めて固める。

『ミスリィ。私、やります…』

『…くらん』

 気遣うミスリィの声に、くらんは笑って言う。

『お気遣いありがとうございます。でも、さっきも言いましたけど、私はさくを助けるためならなんだってするつもりです。だから、やります』

『…そうか。分かった。……、使い方は教育されたはずだが…くらん、分かる?』

『…ああ、今のミスリィの言葉で、思い出しました』

(そう、やり方は…)

 くらんは過去の記憶にある、施設の教育で教えられたことを思い出す。

『…大丈夫。やってみます』

『では…』

 くらんは言い、[騎装樹]を[ミスリルチェリー]から離す。

 それを、今まで首を傾げつつ、会話を横から聞いていた純奈と、彼女に操縦される[スペリオ・テュポーン]は見上げる。

『なにがぁ、始まるのぅ?』

『…見ていれば分かると、ミスリィは言っておく』

『うぅん?』

 再び、純奈と[スペリオ・テュポーン]が首を傾げる中、くらんは[シルバルヘヴィ]の中で一度脱力する。

 そして、思い出した手順通りに、行動を開始する。

(アンリミテッドシードを意識する…)

 目を瞑り、体の中の種の存在を感じる。

 すぐに、背中の左下にあることが分かる。

(そこへ力を籠める…)

 意識を、感覚を、アンリミテッドシードへと集中する。

 種のある場所が熱くなる。

(後はたった一つで…発動する)

 一つの行い。それだけで、始まる。

(それだけで…)

 正直、怖さはある。

 ミスリィがあそこまで言う苦痛がどんなものなのか、恐ろしく思う。

 上手くいってくれるか不安でもある。

 一瞬だけ、それらの感情から行為を止めてしまいそうになる。

 だが、それは本当に一瞬だけだ。

 既にくらんはその意思を定めた。決意した。

 故に。

 故に。

 故に。

 彼女は行う。

 その身に宿る力を、解き放つ。

 自身がやりたいと望む、そのことのために。


『種よ…!』

 

 そして。その言葉が放たれたその直後、女神の光臨(・・・・・)は、始まった。



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