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[第六章:私のやりたいこと]その2

 宇宙を飛ぶものが幾つもあった。

 [騎装樹]だ。

 全て[重級]であるそれらは、推進装置から空気を吐き出す、あるいは翼をはためかせて宇宙を突き進む。

 種類は[シルバレル]などに加えて[第八種子]のものも幾らかあるのが伺える。

 [第九種子]を統べる[ソリード]と、それにせっつかれて戦力を貸し出した[第八種子]の混成部隊だ。

 彼らは中央に砲撃に特化した[騎装樹]を配置し、周りを通常の[重級]で囲んだ塊を複数形成し、あるものを狙う。

『!』

 そんな彼らの姿を見止める者にして狙われているのは、それまでゆっくりと進んでいた輸送用[超重級]と、それを護衛する複数の[プリプ系][騎装樹]だ。

 もはや完成間近となっている[第二種子]の侵攻用拠点へと物資を運ぶ補給部隊であるそれらは、拠点への補給線を断とうとする混成部隊の襲撃に素早く反応する。

 主な用途は輸送でありながら、自衛のための装備も持った円盤型の[超重級]は、その背に付いた二門の巨大な砲塔を動かし、迫る混成部隊へとその砲口を向ける。

 瞬間、砲の内部に水が定量流し込まれ、内部にある、[付能]技術で改造された多数の茎が一息もない間に縮む。

 ついで、長大な砲身に収められた巨大な杭が思い切り射出された。

『!』

 その全長が並みの[重級]の全高を容易の越える杭は、二桁にも上る茎が縮んだことによって発生した勢いで宇宙空間を突き刺すように飛び、混成部隊の一塊をほぼ一撃で粉砕し、その破片をまき散らさせる。

『…!』

 それを見た混成部隊たちは、塊は維持しながらもそれぞれの塊の距離を離し、狙いがつけにくいよう変則的な動きで以て[超重級]の懐へ入ろうと加速する。

 [プリプ]達はそれを見て、[超重級]およびその物資を護衛しようとそれぞれの武器を構えて混成部隊の塊一つ一つに三体で対応する。

『っ!』

『!』

 塊の中央にいる[騎装樹]がときたま射撃をし、それによって[プリプ系]の一体が砕かれ、前衛として出た[シルバレル]が[スライド・プリプ]の滑らかな横移動に翻弄され、つい出過ぎたことで孤立し、破壊される。

 ときに[超重級]も砲撃をし、それで塊がまた一つ消えながらも、混成部隊の攻撃が次なる護衛の[プリプ系]を撃破する。

 そうして、[第二種子]側とそれに対抗する[第九種子]と[第八種子]による小規模の戦いは、あちこちで急速にその数を増やしていった。

 防衛側が、[第二種子]新規拠点攻略のため、補給線を断ち、孤立させるためのそれが、である。

 そして、それと並行し、拠点への総攻撃の計画に従って次々と準備が進められていった。


▽―▽


「…ぅ」

 そこは、薄暗い部屋だった。

 左右の壁にある棚には何かの薬品が収められた透明な容器と箱が並んでおり、照明は紫色で、余りにも怪しく、薄気味悪く、どことなく不安感を煽ってくる。

 そんな空間の中央で、さくは両腕と両足をそれぞれ縛られ、円筒形の容器内で吊るすようにして捕らえられていた。

「…ぁ」

 意識はほとんどない。

 ミィジット操る[ダークカイザー]の突撃で気を失い、[ソリード]の拠点の一つで即座に薬品を投与された彼女は、その効果によって体が麻痺し、思考もまともにできなくなっていた。

 さらにそこに、半ば洗脳するようにかつてを思い出すような兵器としての教育を施された彼女は、もはやその内容と命令に従うだけの人形になり果てていた。

「…っ」

 言葉も出ない。

 出るのは薬品に影響による軽度の痙攣反応と、呼吸のために息が吐き出される音のみであった。

 薬品に囲まれ、暗い部屋に閉じこめられた彼女は、まさにかつてのような実験体と言える状態であった。

「…」

 そして、そんな彼女はついに使われることになる。

「…では。兵器として利用させていただくとしましょう」

 ソリッドジュールはさくのいれられた容器を見て、嬉しそうに笑う。

「…[第二種子]の新規拠点を破壊するため、暴れてもらいますよ…その身に宿すアンリミテッドシードの力を存分に発揮して」

 そうして、担当の者たちの手によってさくの身は移動させられ、一体の[騎装樹]へと収められる。

『…』

 漆黒に染め上げられたその[重級]は、どこか[チェリーハイヘヴィ]に似ていた。

 …それも当然だろう。

 [ソリード]の一拠点内で組み上げられたそれは、中破した[チェリーハイヘヴィ]を、ミィジットがさくというパーツのために改造したものであったのだから。

『…ぃ』

 [ブラックバレット]。

 そんな呼び名がつけられた[騎装樹]と、意識のないさくは結び付けられる。

 一度は捨てることができたはずの兵器としての役割が、彼女の身には今また課せられる。

 意志は奪われ、思考はできず、記憶は混濁した傀儡として、あまりに惨い状態で、彼女は使われることとなってしまう。

 アンリミテッドリーフルがつくられたとおりの目的のために、彼女は[ソリード]の手によって運用されることとなるのだった。


▽―▽


「…これは」

 [第二種子]の新規拠点への攻撃開始の日時が迫る中、ソリッドジュールの後輩は、目を見開く。

 その手元には、彼女へ届けられた一通の手紙がある。

 ただし、送り方は正当な手順ではない。

 五年前、[チェリアール]の一部が逃げる手引きをした際、逃走ルートの情報交換のために彼女らが利用したルートを用い、道端ですれ違ったリーフルの手渡しによって密かに渡ってきたものだ。

 そんな手紙の中には、後輩の知るある女性の名前とその事情が書いてあった。

「…先輩が言っていた、あの最高傑作。…それを…助けたい」

 手紙には、かつて逃走ルートの確保のために協力してくれた彼女に、再び協力してくれないかと、そう書かれている。

「…」

 後輩は数秒の間考える。

 だが、答えなど一つに決まっていた。

 ソリッドージュールに詰められ、つかなった踏ん切りが、手紙の存在によってつく。

(やっぱり私はあれに反対です…。なら、五年前のように…)

 実験体とされたリーフルを助けるための手助けをするべきだろうと、後輩は判断する。

(もはや計画が動き、最高傑作が移送されてしまった以上、今の私にできるのは…その行先を教えること)

 アンリミテッドリーフルの計画に関わるソリッドジュールの後輩である彼女も、それなりの情報は掴んでいる。

 それを使えば、手紙の送り主であるモモナの役に立つはずであった。

「…ええ。やりましょう。そうすべきだと、思いますから」

 呟き、後輩は走り出した。

(あの子を助けるために…できることを!)


▽―▽



「…それなり、か。悪くない者になったと言っておこう」

「…ありがとうございます」

 さくが攫われて三週間ほど。

 ミスリィの手で戦いの訓練を行い続けたくらんは、それなり程度に戦えるようになっていた。生身の方はサクシドをなんとか倒せる程度にしかならなかったものの、[騎装樹]の戦闘の方に関してはやはり成功作故の潜在能力やかつての兵器としての教育、さくと出会うまでに[シルバレル]を動かした経験からかなりのものに仕上がっていた。

 誰にも負けないとは流石に言えないが、並みの兵士ぐらいなら苦も無く倒すことができるはずである。

「[騎装樹]に関しては重力のあるところもないところもそれなり。油断しなければそれなりに戦力として使えるだろう」

 ミスリィの言葉に、くらんは頷く。

「…それに、お母さんが改造した、この新たな[騎装樹]もある」

 そう言ってミスリィが見上げる先には、一体の白銀の[騎装樹]があった。

 見た目はくらんの[シルバレル]にどことなく似ている。

 だが、頭部は四角く前に伸び、全体的にかくばったシルエットに、その巨体は変貌していた。

「[シルバルヘヴィ]。これが私の武器…」

 傍らに主武器である槍を置いたそれは、モモナがくらんの許可を取り、その[シルバレル]を戦闘用に全面改修したものでだ。

 [装甲葉]は[チェリーハイヘヴィ]と同質のものを採用し、[神経茎]も同じものにし、[骨格樹]も耐久性のより高いものに部分的に変えてある。

 [特殊樹能]はないが、基本性能が非常に高いものとして、コスト度外視でその[騎装樹]は組み上げられていた。

「…くらん。自信は持つと言い。今のくらんの実力と[シルバルヘヴィ]があれば、さくを助けるための戦いはそれなりにこなせる。そこは鍛えたミスリィがある程度保証する。ただ過信はしないようにと、ミスリィは忠告を加えておく」

「…はい。自信は持っておくことにします」

(…私、最後まで技術ではミスリィにかなわなかったわけですし。強くなったのは確かですけど、自分の力がそれぐらいであるのは覚えておかないと…)

 例えどれだけ強くなったと思っても、自分の力を過度に信じてはいけない。

 驕った結果に無理な行動をし、やられでもしてさくの救出に失敗しては元も子もないからである。

 そう言うことを言っているであろうミスリィの言葉に、くらんは自分を戒めた。

 …そんなときだ。

『皆さん。たった今、[ソリード]にいる友人から手紙が届きました』

 複数の店で使えるパーツを購入し、完全な修復を超えて新生した[チェリーヘヴィエスト]の中に、モモナの声が響き渡る。

『それによって、さくの居場所が判明しました』

『!』

 モモナの言葉に、くらんたちは反応する。

「ついに、見つかったんですね…!」

『…はい。ただ、やはり簡単に助け出せるような状態ではないようです』

「…それは、どういうこと?」

 ミスリィの問いに、モモナは言う。

『…手紙によれば、さくはアンリミテッドリーフルとして…兵器として、[第二種子]の新規拠点攻略戦へ投入されるそうです。…つまりは』

「さくを助け出すなら、複数の[種子]の戦力が入り乱れる戦場への乱入をしなければならない、と…?」

『…おそらく、そういうことになります。そして、さくが生き残る保証がない以上、この戦いが終わるのを待つということはできません。…ですが…』

 そこでモモナは数秒ためらってから、くらん達に言う。

『今ミスリィが言ったとおり、非常に危険な場所へ行くことになります。さくを助け出すにはそれしかないとはいえ…です。それでも、行きますか?』

 その問いは、おそらくくらんに向けて放たれていた。

 モモナが想定していた以上の危険地帯に赴くことに対する、心配からくるそれをくらんは肌で感じ取る。

(モモナさんの気づかいは嬉しいです。…でも)

 答えは端から決まっている。

 そのために今まで鍛えてきたのだし、[シルバルへヴィ]も作ってもらったのだ。

 だからこそ、くらんは迷うことも、ためらうこともなく自分の意思を示す。

「行きます。どんな危険が待っていても、私はさくを助けに行きます。それが私のやりたいことですから」

 戦いへの恐怖心を抱えながらも、それを飲みこみ、その上でのくらんの発言に、ミスリィが同意を示す。

「右に同じとミスリィは、一応言っておく」

『そうですか。…やっちゃんも同じ気持ちのようです。ならば…』

 モモナはそこで意を決したのか、今までより力強い声で言う。

『ならば皆さん、向かいましょう。さくを助け出すために!』

「はい!」

「いいだろう」

「そやな!」

 [チェリーヘヴィエスト]の中に四つの声が響き渡る。

 それと同時に、[第八種子]のある街の近くで停止していたその巨体が動き出す。

 目指すは、宇宙に存在する[第二種子]の拠点だ。

『出発です!』

 そうして、彼女らは最後の戦いに赴く。

 全ては大切な彼女を助け出すために。

 その意思を定めた彼女らは、今動き出すのだった。

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