[第五章:明かされる全て]その5
『…っ!』
[チェリーヘヴィエスト]が腕を振るう。
それによって二体の[レッドバレル]が吹き飛ぶが、他が次々と懐に入り込み、動きの止まった脚部に斧や槌で打撃を加えてくる。
『ダメ…限界…!』
懐という、腕の攻撃が届かないところでは相手の連続攻撃を防ぐことができない。
残りの敵[騎装樹]十六体中、十一体の攻撃で四脚のうち前の半分が半ばから折れ、[チェリーヘヴィエスト]はバランスを崩して前のめりに倒れる。
『…ぐっ!』
咄嗟に後ろへ腕を振るうことで、一体の[レッドバレル]と二体の[シルバレル]を潰して大破させることに成功するが、バランスの悪化によって[チェリーヘヴィエスト]の動きはさらに悪化する。
『…さぁさぁモモナ。あんたの命運が尽きる時も、もうすぐよ』
『…っ』
上空では[ダークカイザー]がミィジットの声と共に相変わらず浮遊している。
輸送用であるがゆえに体当たりと押しつぶしぐらいしか攻撃手段がないことから、そうして[チェリーヘヴィエスト]を見下ろし、もはや四脚ではなくなったそれが壊れるさまを、じっくりと観察しているのだ。
『潰れて消えなさいよ。裏切り者…』
『…素直にそうするわけには…』
そうモモナは言うが、実際問題として彼女と[チェリーヘヴィエスト]は危機に陥っていた。
今この瞬間も、一体の[レッドバレル]の撃破と引き換えに胴体部に多数の攻撃が加えられ、窓部分が裂かれ、壁が叩き割られていく。
半ばただの木材と植物の塊と化した[超重級]を、残り十二体の敵が確実に解体していく。
(不味い…このままじゃ…)
モモナは焦る。
だがそれは、このまま負けることに対してだけではない。
そうして[チェリーヘヴィエスト]という外殻が壊された時、自分の体を根として広がるものがどうなるかを懸念しているのだ。
(…[チェリーヘヴィエスト]が半分以上壊されたら…種が…わたくしの中の二人のアンリミテッドシードが…!)
押し込められていたそれが解放され、暴走するかもしれない。
そんな懸念と共にモモナは必死に[騎装樹]を動かし、抵抗する。
『無駄よ。あんたの敗北はもう決まってるのよ。脚が止まった、まともな武装もない[超重級]なんて、ほんとうにただの木の塊なんだからね』
モモナが負ける未来がかなり明確に見えてきたからか、ミィジットは嬉し気に、またあざ笑うかのように言う。
『さぁ!死になさいよ!』
[チェリーヘヴィエスト]の胴体背部が砕かれ、外装が剥がれ落ちていく。
その奥の廊下や部屋もまた壊される。
既にその巨体は中破を超えるダメージを受けていた。
そして、ついにはモモナがいる部屋の近くに[シルバレル]による斧の攻撃が加わり、壁の隙間を這うようにしてあった太い茎が切断される。
それによってモモナが死を覚悟する…その瞬間だ。
『…ぅ!?…がぁ…うぐ』
『…?』
突如、モモナの中に相当な不快感が発生する。
それは主に背中を中心として発生し、同時に背中から繋がる茎によって上側へと流れ始める。
四肢や胴体が周囲に満ちる水分を吸収し、明らかに異常な脈打ち方を、血管が開始する。
(不味い…生存本能で…暴走を…)
強烈な不快感と、体内の何かを吸い上げられるような感覚に襲われるモモナがそう思った直後だ。
[チェリーヘヴィエスト]内部の各所にある、[騎装樹]の[神経茎]とは別の茎が脈打ち、急速な成長を開始する。
せいぜいがモモナの腕ぐらいの太さであったそれらは、モモナの不快感と共に急速に巨大化し、幾重にも枝分かれしていく。
そして、十秒とかからずに[チェリーハイヘヴィ]の胴体ほどの太さになったそれらは、外気晒されているものから猛獣のように暴れ始める。
『これは…』
それにミィジットが軽い驚きの声を漏らす中、多数の茎が[レッドバレル]や[シルバレル]を掴んで街や離れた森などあちこちに放り投げる。
もはや動かなくなった[チェリーヘヴィエスト]の中で、その巨体に閉じ込められていたそれらだけが、抵抗するように荒れ狂う。
その動きは完全な無差別であり、街の方向へ向かって放り投げられるものの中には、半壊した格納庫の中に鎮座していた[チェリーハイヘヴィ]も含まれていた。
『…なるほどね』
ミィジットが、得心がいった様子でそう言った時、襲っていた[重級]は既に三体にまで減っていた。
『…モモナあんた、連れて行った実験体の種、自分に移植したのね』
『……』
ミィジットへの、モモナの答えはない。
いや、答える余裕がない。
多重の不快感や吸い上げられる感覚に加えて頭痛にも悩まされる彼女は、かろうじて意識は保っている。しかし、できるのは暴れる茎たちを僅かながらに制御して負担を少し減らすだけであり、ミィジットの言葉に肯定も否定も返す余裕はなかった。
『…はん。馬鹿なことを。…けど、失敗作状態でも暴走したらこんなに強い。なら、最高傑作を暴走させたら、どれだけ強いのかしら…』
ミィジットは少し考えた様子で、笑い声と共に言う。
『散々なことをしてくれたけど、最後は、小さな発見の役ぐらいには立ったわね?』
『…』
モモナはミィジットの言葉に、少しだけ顔を上げる。
その直後、彼女は言う。
『じゃぁ、潰して終わるわね。さよなら、モモナ』
言葉と共に、残りの[シルバレル]二体と[レッドバレル]一体が退避。
それとほぼ同時に、茎が乱雑に暴れるだけでまともな迎撃もできない[チェリーヘヴィエスト]へと[ダークカイザー]が落下。その超重量を持って、茎ごと大破した巨体にとどめを刺すのだった。
▽ー▽
「…なんです、これ…」
くらんは、前方の光景を見て呟いた。
そこには、どこか気分の悪そうな顔で、背中から植物を生やしたさくがいる。
今しがた一瞬にして成長したそれは、くらんを拘束していたサクシドやその横にいた塊達を吹き飛ばし、くらんとやっちゃんをひとまず開放していた。
そして、さくの体の体積と明らかに合わない植物は、彼女の意思に従ってか、先ほどの攻撃で距離を取っていたケルガラに向かって鎌首をもたげる。
「…あれは…」
くらんは呆然として呟く。
(…あれは…)
本来なら、拘束が解けた時点でくらんはやっちゃんと共にすぐに逃げ出していただろう。
だが、くらんはそうしなかった。…いやできなかったのだ。
その目が、意識が、さくの背から生える植物に、くぎ付けになってしまっているために。
(…あんなもの…)
リーフルの背中から、明らかに不自然に生えている植物。
くらんは、そんなものは見たことがない。見たことがないはずであるのだが。
(…なんで、私はアレに…アレに既視感を…覚えてるんですか?)
そう。くらんは先ほどさくの背から植物が生えた時から、強烈な既視感に襲われていたい。
完全に同じものを見たことは、絶対にない。
にも関わらず、くらんの意識と記憶が、ケルガラを威嚇するように揺れるそれに、反応してしまっている。
覚えがあると、知っていると言っている。
(どうして…)
心当たりがないはずなのにどうして。
そう彼女が自分自身に問いかけたときだ。
彼女の脳裏に、ある光景が蘇る。
(…実験の…)
この状況と、さくとは一切関係ないように思えるそれが、彼女の脳内で駆け巡る。
断片的な記憶が連鎖的に現れては消える。
(なんで、なんで私は…今のさくを見て、あのときのことを…)
そう思って今一度さくを見た時、その横顔にくらんは、別の既視感…いや懐かしさを覚える。
(…え?なんで…なんです、この感覚は…)
まるで、さくと昔会っていたかのような、そんな気がしてくる。
さらには、自分が実験体にされていたあの場所で、今より幼い顔の彼女を、見たことがあるような気までしてきて、くらんは混乱する。
「私は…」
そうくらんが呟いたところで、ケルガラが笑う。
「ははは、そう来たかさく。アンリミテッドシードをついに使ったか…俺たちの嫌な記憶の象徴を」
「……」
さくは、やはりどこか気分の悪そうな目でケルガラを見る。
そんな中でくらんは思う。
(アンリミテッドシード…?)
また、覚えがある。
日々何かを埋め込まれる前に、その作業をするリーフルたちが、そんな言葉を発していたように思える。
(…それが、さくに?…何が、何がどうなっているんですか…?)
あるという発想すらしなかった自分たちの繋がりに、くらんはただ困惑するしかなかった。
そんな彼女を置いて、ケルガラはさくに言う。
「…お前が種を使うというのなら、俺も…やるか!」
言葉の直後、ケルガラは背を低くして何かを言おうとする。
さくはそれに素早く反応し、
「させない…!」
彼女の言葉と意志に従い、その背中から生える植物が力み、一気に伸びる。
向かうのは彼女の正面、ケルガラだ。
彼を即座にノックアウトしようと、それらは彼に殺到する。
だが、僅かに間に合わなかった。
「……ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「!」
「な、なんです!?」
突如のケルガラの苦し気な絶叫と共に、その服の左腕を裂き、さくのものとよく似た見た目の植物が生えてくる。
くらんがそれに驚く中、ケルガラの植物はさくのものを迎撃し、それぞれの太い茎で互いに弾きあう。
直後、さらに植物同士は再度ぶつかり、三度ほどそれを繰り返してからそれぞれの主の元へ退く。
「…ケルガラ…」
先ほどよりやや気分の悪そうなさくは、軽く汗を流すケルガラを見て言う。
「…ケルガラも、成功作?」
(成功作…?)
一体何のことなのか。
くらんの内心の問いに、答える者はいない。
彼女を置いてけぼりにして、状況は進む。
「…ああ、そうだ。一応のな」
ケルガラはさくの目を見て、その問いに答える。
「負担は失敗作よりは小さいが、それでもお前ほど軽めでもない。…まぁそれでも、お前がアンリミテッドシードを使った以上、俺も使わなきゃいかんさ」
言葉と共に、彼の植物もまた、さくに向けて鎌首をもたげる。
それを見たさくは目を細めて言う。
「…そんなもの使って対抗してまで…私が欲しい?」
自分が求められているというさくに、くらんが驚く中、ケルガラがさくに返答する。
「ああ、そうさ。こうするほどに、俺はお前が欲しいぞ。必ず[チェリアール]の本拠へ連れていく。さぁ、…人質が解放された以上戦いを再開するぞ!」
「…。なら、今度こそ倒す」
「俺が、お前をな…!」
それと同時に二人は植物を生やしたまま、戦闘を再開する。
「…そして、手に入れるぞ!」
「…無理!」
言った直後、さくの背中の植物が急速に変形。
幾つもの葉が纏まって皮膜となり、翼を形成し、さくはそれを羽ばたかせ、同時に地を蹴ってケルガラに接近する。
彼はそれに反応し、手に持つ武器と植物で迎撃したのち、自分も翼を形成してさくとの空中戦を展開する。
「…」
くらんがその光景を見る中、さくは数秒くらんの方へ視線を送り、
「…今のうちに」
そう口を分かりやすく動かしてメッセージを伝えてから、ケルガラとの戦いに集中し始めた。
「…さく」
それを、内心混乱したままのくらんはただ見ていた。
…その直後だ。
「…ガワだけ野郎め…。よくも成功作の僕を、アンリミテッドシードなんてズルで倒してくれて…」
「!」
それまで伸びていたサクシドがぶつぶつと文句を言いながら起き上がる。
(ま、不味い…!)
くらんは逃げられたタイミングで逃げなかった自分を呪う。
サクシドを挟んだ彼女の向かい側には、やっちゃんが目を回したまま倒れている。
とても自力で動ける様子ではない以上、くらんが回収して逃げなければいけないが、それにはサクシドとその横で倒れている塊が邪魔であった。
(サクシドが寝ぼけてる間なら…横を抜けていける…?)
今すぐに動けばやっちゃんを回収して逃げられるかもしれない。
そう思ったくらんは、急いでサクシドの横を走り抜けようとする。
だが、その瞬間に足元の塊に足を掴まれ、くらんはもんどりうって倒れる。
「ぐぅ…!」
(痛い……。って、これは…!)
倒れた衝撃を感じた直後に、くらんはサクシドの真横に倒れると言う不味い状況にあることに気づく。
(すぐに立ち上がって…!)
くらんは慌てて塊に手をついて立ち上がろうとする。
だが、そんな彼女の背を、サクシドがすぐに踏みつける。
「痛い…」
「…何をしているんだい?成功作の僕の前から逃げられるとでも?」
「…う」
くらんは以前サクシドに痛めつけられたことを思い出し、身を縮める。
「…は、離してください…!」
「はぁ?するわけないだろ。お前だって売り物として、いるんだ。成功作の僕が逃がすわけないだろ?」
「…くぅ…」
(…私には…サクシドを倒せない…どうすれば…)
サクシドに見下ろされている状況に危機感と恐怖を覚えつつも、くらんは必死に解決策を考える。
そんな中で、彼は得意げに言う。
「…ふん。成功作の僕にかかれば、こんな売り物一つ確保するぐらいはなんとことないの、さ!」
「…っう!」
サクシドは笑って、くらんを踏みつける力を強くする。
それに彼女が苦悶の声を上げると、サクシドはさらに嬉しそうに笑って言う。
「ははは!思い知れ、成功作の僕の凄さを、恐ろしさを!この雑魚めぇ!」
「うう…」
抵抗したくてもできない。
そのことに無力感を覚え、くらんが力なく唸った…そのときである。
『雑魚はお前の方。と、ミスリィは間抜けに言っておく』
「な!?なんだとこ…」
サクシドが突然の罵倒に怒った直後、その顔面に大きな木材の足による、横からの飛び蹴りが入る。
「が!?」
『阿呆』
「なぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
情けない叫び声を上げながらサクシドは吹っ飛び、街のどこかに消えていく。
そして、それを成した者は、くらんとやっちゃんの間に立つ。
『骨が折れる音がした。死んだか。どうでもいいが』
「…あ。[チェリーライト]…ミスリィ」
『…くらん』
言って、[ミスリルチェリー]の棍棒を持って現れた[チェリーライト]…その操縦席に収まっているミスリィはくらんの方を見る。
『どうやら無事だったよう』
「あ、はい。おかげさまで」
『…やっちゃんもそのよう。ならいい』
ミスリィはそう言って、目を回したままのやっちゃんとくらんを回収、[チェリーライト]の肩に座らせる。
ついでに動かなくなっている塊を念入りに踏みつぶしておいてから、[チェリーライト]は街の中を歩き出す。
『…状況はどうなってる?』
「状況、ですか…?」
『そう。敵…[チェリアール]が総攻撃を仕掛けてきた。お母さんはどうなったのか知らない。ミスリィは狙われているさくの救援のために来た』
「さくが…狙われている…」
(さっきも、さくが同じことを…言ってましたけど。一体、どうして…)
だが、くらんのその疑問に、答えが提示されることはなかった。
『くらん、さくはどうなってる?』
即答しないくらんに、ミスリィは少し苛立ち込めて言う。
その問いに、くらんは、慌てて謝りながら答える。
「…さくは先ほどなんかよくわからない植物を生やしてケルガラと…」
くらんは上空、さくとケルガラが今なお空中戦を繰り広げる場所を指さす。
ミスリィはその光景を見て、呟く。
『…アンリミテッドシードを使ったか…』
「…、それは…」
この短時間に何度も聞いた言葉に、くらんは反応する。
「…一体」
答えが与えられず、混乱を深めるくらんが呟いた時だ。
「…!?」
空を横切るものがある。
よく見ればそれは、以前さくが[スカーレットバレル]と二度目の戦いをした[騎装樹]、[チェリーハイヘヴィ]だ。
それが何故か、棒立ちの体勢で宙を舞っている。
加えて、少し離れたところには一体の[シルバレル]の姿も見えた。
それらは重量から、すぐに街の中へ落下していこうとする。
だが、その片方を拾う者があった。
さくだ。
彼女の背中から伸びた植物が落ちていく[チェリーハイヘヴィ]と接続。
すると、その巨体は急に空中で動き、直後にその背にさくのものと似た翼が生える。
さくの体はその胴体に吸い込まれ、消える。
同時、彼女の体から生えていた植物が[チェリーハイヘヴィ]の全身を包み込み、その姿を完全に変貌させる。
「あれって…!?」
『アンリミテッドシードの、真の力…』
二人が言う中、[チェリーハイヘヴィ]は四枚になった翼を羽ばたかせて新たな姿をさらす。
「まるで、リーフル…」
空に浮かぶ[チェリーハイヘヴィ]の姿は、やや無骨とも言えた物から、さくの体を思わせるすらっとしたスタイルに変貌していた。
元々の体に植物が被さっている形であるため、そのサイズは今までより二回りほど大きい。
『…相手もか』
「え!?」
ミスリィが言った直後、先ほど見えた[シルバレル]が[チェリーハイヘヴィ]と同じように翼を生やして浮遊。例の植物が伸び、[シルバレル]の姿をケルガラの体を思わせながら鎧武者のような印象も与える形へと姿を変える。
そうして二体の、[騎装樹]に見えない[騎装樹]が空に並び立つ。
「あれは、一体…」
呟くくらんに、ミスリィは言う。
『あれこそアンリミテッドリーフルとしての力が発揮された形態…。最高の[騎装樹]を形作るための、強化パーツとしての力が発揮されたもの。…か』
(それって…)
またも説明されないことに、くらんは混乱する。
『ああなるためにミスリィたちは…』
ミスリィは空を、険しい表情で見る。
そうして彼女が呟く中で、空の[騎装樹]はお互いの武器を構える。
再びぶつかり合おうとしているのだ。
「さく…」
くらんはただ空を見上げるしかない。
彼女には何も分からない。
どうしてさくが狙われるのか。
アンリミテッドシードとは何なのか。
さくの背の植物への既視感は何なのか。
それらの疑問が一切解消されないまま、疑問が渦巻いてくらんが落ち着かない中で、ついに空の[騎装樹]が戦いを始める。
…その瞬間だった。
『悪いけどね?抵抗はもう終わりよ』
『!』
[チェリーハイヘヴィ]と[シルバレル]のところへ、いきなり[ダークカイザー]が飛来する。
そして、[チェリーハイヘヴィ]がそれに対応する前に、[ダークカイザー]は[シルバレル]に当たるのも構わず[チェリーハイヘヴィ]に減速せず体当たりを敢行。
重質量の衝突で破損し、さくが気絶したのか操られていた植物が力なく垂れ、宙を舞う[チェリーハイヘヴィ]を、[ダークカイザー]は素早い宙返りの後に胴体に隠された腕で確保する。
「さく!」
『…く』
地上から出は何もしようのないミスリィは、悔し気に言う。
その視線の先で、[ダークカイザー]は[シルバレル]を一応回収する。
そして、その内部よりモモナの声が響いた。
『さて?モモナは殺したし、最高傑作は手に入れた。サクシドは失敗したっぽいけど、まぁもういいわ。これだけあれば十分』
[ダークカイザー]は強く羽ばたく。
それに、街の端へ逃げたリーフルたちが戦慄する中、モモナは嬉しそうに笑う。
『あはは。最低な裏切り者は死んですっきりで、軍資金も手に入る。とても、とてもいい気分だわ。ええ、最高、最高よ…こんなのは[チェリアール]の初め頃以来のものよ』
空に、ミィジットの笑い声が響き渡る。
そして、彼女は樹秒ほどでそれをやめて言う。
『じゃ。帰りましょうか。全ての目的は果たしたんだしね』
「…!」
[ダークカイザー]はより強く羽ばたく。
そうしてはるか上空へと昇っていくそれに、くらんは手を伸ばす。
(なんで、どうしてですか…!?)
相手の狙いはくらんであったはずだったのに、何故さくに狙いを変え、連れて行くのか。
(どうして、どうして…!さくを…!)
分からない。
何も知らないくらんには、何一つ分からない。
今まで自分を何度も守ってくれた、大切な彼女の名が連れていかれる状況に、混乱し、困惑し、強制的に遠くに離れるさくへ、届かない手を、衝動的に伸ばすしかなかった。
「さく、さく…!」
だが、その手は決して届かない。
今のくらんには、さくのことを助けることなど、できはしなかった。
「さく――――――!」
そうしてくらんが叫んだ直後、[ダークカイザー]は一気に加速し、彼方へと姿を消す。
その様子を、ミスリィは苦虫を嚙み潰したような表情で見、
「…ミィ…ジット」
[チェリーヘヴィエスト]の残骸の下で、大怪我を負ったモモナは、悔し気な目で見ていた。




