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[第五章:明かされる全て]その4

 空に出現し、街の端に移動した[超重級]に街は動揺し、不安故の騒めきが周囲に満ちていく。

 その最中、くらんとやっちゃんを背にしたさくは、緊張の面持ちでケルガラたちを見た。

(どうする…?)

 彼女の視線の先、敵としてそこにいるのはケルガラ、サクシドに加えて、よくわからない緑の塊が六体だ。

 対して、さく側でまともに戦えるのは彼女ただ一人である。

 やっちゃんに関しては、[屋台骨]があればそれで蹴るなどできるので別だったかもしれないが、今回に限ってはなく、本人は生身の戦闘を全く得意としていないため戦力として数え難い。

 くらんも、サクシド相手に逃げるのが精いっぱいであったことから、やはり戦力にはならない。

 である以上、無力に近い二人を、さくは守られなければならないのだ。

(…相手の数が多いし、ケルガラは…)

 サクシドは雑魚であるとしても、ケルガラは決して弱くない。むしろかなり強いだろう。

 旅館の時にしても、ミスリィと協力して武器を失わせるにとどまったのだ。

 一人で、かつサクシドや強さが不明の塊のことにも気を配り、さらには背後の二人まで守った上で戦うなど、あまりに難しい。

 状況は非常に不味かった。

(今まで一人か、多くて三人だったのに…それほど本気ってこと)

 ケルガラの言葉に、相手の数から説得力を感じつつ、さくはいつ始まるか分からない戦いを前にし、できるだけ戦略を練ろうとする。

 だが、ここまでの十秒に満たない時間しか、猶予はなかった。

「さぁ、ガワだけ野郎!成功作の僕に負かされるがいいぃぃ!」

 先ほどの煽りで既に頭に血が上り切っていたサクシドが、ケルガラを押しのけ、叫ぶ。

 同時、[付能]で熱を発する剣を両手に持って振り上げ、さくへと迫る。

「…」

 相手は雑魚とはいえ、深い思考は打ち切らざるを得ない。

 さくは意識を目の前のサクシドに移し、木刀を低く構え、迎撃を行う。

「顔にアツアツで反省するがいいさぁぁぁぁ!」

「……っ!」

 無駄な口上の後に振り下ろされる剣の軌道は、完全なる直線だ。

 読みやすい。

(そこ…!)

 サクシドの攻撃を見切ったさくは木刀を一気に動かし、振り下ろされる剣を握る彼の手を、下から叩き上げる。

「なぁ!?」

 急な両手への衝撃でサクシドが驚きと痛みの故の声を上げると同時、その手から剣が落ちる。

 それを見届ける間もなく、さくは木刀を振るった勢いのまま体を回転。回し蹴りをサクシドの横っ腹に食らわせる。

「ぬがぁぁぁぁっ!?」

 胴体を曲げた彼は思い切り吹き飛び、さく達の様子を見ていたリーフルの近くの壁に叩きつけられる。

 それを見たリーフル達は危険な雰囲気を感じ取り、そのほとんどが慌ててその場を逃げ出していった。

「…全く。…プライドとコンプレックスですぐキレてやられるとはな。まぁ、野次馬になる奴らが消えたのは動きやすくていいが」

 ケルガラは壁の下で気絶しているサクシドのことなど見ずにそう言う。

 それから、木刀を前に構え直したさくと、視線を合わせる。

「…あいつのことはいいとして、だ」

 ケルガラは板状の打撃武器を構え、さくに笑みを見せる。

「…やろうか」

「…っ」

 来る。そう思った瞬間に、ケルガラは来ていた。

 打撃武器の先端が、さくの頭に迫る。

(昏倒を狙って…)

 狙いを察したさくは、それをすぐに木刀で受け止める。

 ついで力が拮抗し、二人は一時的に鍔競り合いをしたまま膠着状態に陥る。

「…二人とも逃げて。今のうちに」

 背後の二人に、さくは言う。

 正直、このまま二人を背後に置いていては戦闘において打てる手が限られてくる。

 それは、確かな強さを持つ上に相当なやる気を持った状態のケルガラを相手取る上では不味い。

 実力にそこまで極端な開きはない以上、打てる手の数は大きな意味を持つからである。

 さらには二人を守るとなれば積極的な行動をしづらい。どうしても迎撃やカウンターなど消極的寄りである行動をせざるを得ない。

 それでは実力を発揮できず、やはりケルガラ相手にそうなるのは不味い。

 そのような考えで言うさくの意図を汲み取ってくれたのか、やっちゃんがくらんに言う。

「くらん、行くで」

「…はい!」

 さくを置いていくことに気後れしたのか、一瞬遅れるもくらんは力強く頷き、やっちゃんを肩車して逃げようとする。

「させるか…失敗作達!」

「!」

 ケルガラの脅威に目が行っていたさくは、取り巻きである六体の塊のことを思い出す。

 それに少しだけに肝が冷え、一瞬さくの木刀を握る手が緩みかけるが、

「集中してやさく!」

「私たちはなんとか逃げます…!」

 やっちゃんに促されたくらんが、全力で人気のなくなった街中を走りながら発せられた二人の言葉に、さくはすぐに冷静になり、木刀をしっかりと握り直す。

「…分かった。二人は[チェリーヘヴィエスト]のところへ」

「はい!」

 ここからはよく見えない[チェリーヘヴィエスト]の方へ逃げるよう言ってから、さくはケルガラに意識を戻す。

「…これで、全力で戦える」

「…既に足だけが速い失敗作六体が追っているが…彼女らが捕まる不安はないのか?」

 ケルガラの、不安の再来を狙った言葉に、さくは静かに言う。

「…大丈夫と信じる。…それより、私との戦いに集中してもらう」

「…俺を倒すか?」

「そう。そうしてくらんを、守る…!」

 言った直後、さくは力を加えて鍔競り合いを解除。

 少し後ろによろけたケルガラに向かって、外に振った木刀の向きを僅かに変え、突きを繰り出す。

「ふん!」

 それを、ケルガラは体を捻って避ける。

「今度は!」

 こっちの番だ、とでも言いたげに、ケルガラは今しがた捻った勢いに乗せて右手の打撃武器をさくに突き出す。

 だが、彼の突きの動きを何度か見ていたさくは、その軌道を読むことに成功し、左手を上に動かし、体を右側に動かすことで、回避に成功。

 さくの左胸辺りを突くはずだった一撃は空を切る。

「…」

「…」

 一瞬の後、双方ともに次なる攻撃を繰り出すには不都合のある体勢だったために後方へ跳躍し、次いで互いを見る。

「…行くぞ!」

「…!」

 そして、ケルガラから仕掛ける。

 さくはそれに応じ、二人は何度もそれぞれの得物を打ち合わせる。

 決して軽くない木材同士がぶつかる鈍く重い音が、他に誰もいない街中に響き渡っていく。

 ケルガラが横に武器を凪ぎ、さくがそれを回避する。

 さくが下から思い切り木刀を振り上げると、ケルガラは体を反らせて避ける。

 直後に双方が得物を振り下ろして打ち合わせ、鍔競り合いになり、力押しで負けかけた方がすぐに退いて距離を取る。

 戦いは、さくがケルガラの動きをある程度学び、戦う中である程度の対策を立てられたことにより、今のところ互角であり、膠着していた。

 …そんな中で、である。

「…は、はは」

「…?」

 突如、ケルガラが笑いだす。

 それに、さくは怪訝な表情を浮かべる。

「…なに?どうしたっていうの」

「…いや、なぁ、さく」

 警戒心をあらわにしながら言うさくに、ケルガラは微笑と共にその目をしっかり見て言う。

「…やはり、そう簡単には連れて行かせてはくれないな、と思ってな」

「…連れて行く…?」

 以前も聞いた覚えのあるその言葉に、さくは反応する。

(ケルガラが言っているのはくらんのこと…のはずだけど…)

 彼が言うのはあくまでも、くらんを中々回収できないことに対する愚痴であるはずだ。

 その狙いがくらんであれば、それ以外にあり得ないだろう。

 だが、さくはどうにも違うような気がしてならない。

 ケルガラの意図が、自分の認識としているものと微妙に違っているように思えてしまう。

(何…前旅館のあたりで戦った時もそうだったけど…)

 連れて、来てくれとケルガラが言っていたときもそうであった。

 二人の間には、微妙な認識の齟齬がある。

(…前も、ケルガラの言い方は何かおかしかった…。私は何か取り違えている…?)

 意識すれば、違和感はどんどんと拡大していく。

 同時に、二人の間の認識の齟齬のために何か不味い事が起きる可能性に、さくは僅かながらに不安に駆られる。

 だからこそ、であった。

「…ケルガラ」

「…ん、なんださく?」

 ケルガラは笑ってさくに応える。

 その様子に、妙な感覚に襲われつつさくは言う。

「…ケルガラの目的は、くらん…であっている?」

「…ああ、そうだな」

 それに、ケルガラは軽く頷く。

 さくは彼の反応を見て、杞憂だったのかと一瞬思う。

 だが、そうではないことを証明することがすぐに彼の口から発せられた。

「…だが、それはもはや、メインじゃなくオマケみたいなもんだ。俺たちが欲しいのは」

 ケルガラは、ゆっくりとさくを指さす。

「お前だ、さく。特に、俺はな」

「…!?」

 ケルガラの言葉に、さくの顔が驚きに染まる。

「…どうして」

「…それは、分かるんじゃないか?俺たちが[チェリアール]であることから、な…」

 [チェリアール]。改めてその単語を出されたさくの中で、蓋をしていた過去の記憶が噴き出す。

 幼き身に種が何度も埋め込まれた、感情が壊れるほどの辛い日々が、フラッシュバックする。

(…まさか)

「…まさか。そういうこと…?」

「ああ、そうだ。お前は最高傑作のアンリミテッドリーフルだ。それだけでどれだけの価値があるかは、察しが付くだろ?」

「…」

 噴出する嫌な記憶に強引に蓋をして、さくは言う。

「…だから、ケルガラは私にくらんを連れて、来いといったの…?」

「…そうだな。まぁ、これは俺の都合と言うよりミィジットの都合だが。俺はな…」

 ケルガラはそこで息を吸い、はっきりとさくに言う。

「お前が、好きだ」

「!?」

 思ってもみない言葉に、さくの顔は二度目の驚きに染まる。

「…お前は、もう覚えていないだろうがな。あの辛い日々の中、お前だけは俺と心から話し、遊んでくれた。本当に、ごく短期間だけの事だったがな」

「…」

「だが、俺にとってそれは、短くとも何よりも価値がある事だった。本質的に愛も情もないに等しいミィジットより、そんな価値あるものをくれたお前のことを、俺は好きだ。恋してる。これは前言ったとおりの純愛の心だ」

「…ケルガラ」

(…あんまりはっきり思い出せないけど…そういえばそんなことがあった気がする)

 五年以上前のある時、まだ感情が豊かな方の時期の幼いさくは、ケルガラと似た見た目のリーフルと確かに話し、遊んだ。

 その内容や、前後の状況などはもはや忘却の彼方にあって分からないが、ケルガラの言うことが起こったことは間違いないような気がした。

(なら。あんな日々だったから、恋しても仕方がないかも…)

 ケルガラがそう思ってしまうのも、分からなくはない気がする。

 さくは一瞬そう思う。

「…けど。ケルガラが私を好きだからと言っても、私はついていく気はない。勿論くらんも渡さない。…ケルガラ、悪いけど」

 そう言うさくに、ケルガラは苦笑する。

「…ああ、分かっているさ。あんな腐ったところに戻りたくないことぐらいは。さくが拒否するだろうってことはさ。そもそも、俺はお前がミィジットに好き放題されるの込みで求めているわけだしな。受け入れられるわけないのは分かってる」

 でもな。とケルガラは言う。

「…すまんが、お前の意志がそうだとしても俺はお前が欲しい。俺が冷たい日々を脱却するには、お前は必要だからな。欲しいからな、一緒にいたいからな!諦められないくらいに好きだからな!」

「…ケルガラ」

「…我ながら身勝手だと思うが、力づくでもお前が欲しい。ミィジットの望みは置いておいて、な」

「…」

「…嫌いになったか?」

「…別に。ただ、ケルガラの思いに応えるのは、正直無理というだけ」

「…そうか。だがまぁ、気にするまい。俺は身勝手にお前を手に入れる。そのためにお前を無力化しよう」

「…させない。私がケルガラを倒して、くらん達を守る。私はお母さん達と一緒にいる」

 さくは目を細め、木刀をケルガラに向けて構え直す。

 それに彼はすっと言う。

「…お前は、動けないさ」

「…?」

 ケルガラの言葉に、さくが眉をひそめた時であった。

「ガワだけ野郎!見るがいいさ!」

「…サクシド…?」

 気絶させた場所からいつのまにかいなくなっていたサクシドの声に、さくはケルガラに仕掛ける隙を与えないようにちらりとみる。

 そして、目を見開いた。

「…くらん、やっちゃん…」

 呟くさくの視線の先、そこにはサクシドや塊に捕まり、喉元に剣の刃を突きつけられたくらんとやっちゃんの姿があった。

「…さく、残念ながらこいつらは逃げられなかったみたいだな。そして、こうなった以上、利用させてもらうぞ」

「…」

 さくは苦虫を嚙み潰したような顔でケルガラを見る。

 と同時に、サクシドが言う。

「動くなガワだけ野郎!でなければこいつらがどうなっても僕は知らないぞ?」

「…」

 さくは、視界の端で嬉しそうにニヤニヤとしているサクシドに逆らえず、動きを止める。

 今、彼の得物がくらんとやっちゃんの喉元にあるのだ。

 彼らの主な狙いが自分である以上、下手な行動をすれば、彼らが元々狙っていたくらんの首さえも切られかねない。

「…悪いなさく。サクシドみたいな小物くさい真似して」

「な!ケルガラ、それはどういう…」

「黙ってろ」

「くっ…」

 怒って話を遮ろうとするサクシドを一喝して黙らせつつ、ケルガラはさくに向かって言う。

「さく、この通りの状況だ。お前が言う通りにしなければそいつらの喉を掻っ捌く。…それが嫌なら、俺たちの言うことに従ってもらう」

「…」

 さくはケルガラに無言で視線を送る。

「…抵抗も拒否も、するなよ?別に、俺はお前を手に入れるためだからといって、わざわざ殺しをしたいわけじゃない。たまたまこうなっただけだしな。だが…どうしても必要な場合は、また分からないぞ?」

「……」

「だから、な。さく、大人しく俺たちと来てもらうぞ」

 さくはその言葉に沈黙を返す。

 そして、それと同時に彼女は考えていた。

(…距離がある。サクシドが雑魚でも二人の喉が切られるまでに倒すのは無理。ケルガラも行動許さないはず…。なら、なら…)

 さくは思う。

 もはや、アレ(・・)の力を封印したままにいられない。

 忘れたままではいられない。

 この状況を脱するには、もはやアレの力を使うしかない。

 それはとても嫌で避けたいものであり、できれば最終手段としてすら使いたくない。

 だが、今サクシドから二人を瞬間的に救いだし、敵を撃退するためには、今まで使うという考えすら半ば無意識に封じていたそれを使うしかないのだ。

 そう思ったからこそ。

「さぁさく。来い、武器を捨てて、俺の手を取るんだ。そうすればあいつらは…!」

 ケルガラが、反応の遅いさくに手を伸ばしてそう言った時。

 彼女は目を瞑り、呟いた。

「種よ…」

「!」

 ケルガラがその言葉に反応した直後、それ(・・)は目を覚ます。

 そして、それは…さくの背に埋められたアンリミテッドシードは、一瞬にして巨大な植物を形成し、サクシドたちを吹き飛ばすのだった。


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