[第五章:明かされる全て]その2
それ(・・)は密かに、そして確実にできつつあった。
できるだけ早く作り上げ、補給線も確保する。
その目的のために、宇宙での作業は高速で進んでいた。
▽―▽
「私もアレ、でるのよ」
「実は吾輩も出るのだ」
「あほほほほ。せいぜい頑張るがいいさ」
「へぇ、そりゃ驚きだ。応援しているゾ♡」
「ぞぞぞぞ!ぷよぷよ、応援ゾ♡」
「いい結果がでるといいねん」
「わっちが優勝ダイ!そうしてみんなの憧れダイ!」
道行く者が、店先で買い食いをする者が、ライバルを見る者が、自信満々の者が、口々に言う。
例のコンテストが開催されるまであと一日。
コンテストが観客を招いてやることや、審査員でもある有名な歌手の特別公演などがセットになっていることで、それを目当てとした客がどんどんと街には集まってきていた。
イベントが街を上げて盛り上げられていることもあり、街中は活気に満ち溢れている。
道行くリーフルの数も、普段を見ていない者でも間違いなく多いと分かるほどのものだ。
まだイベント当日ではないにも関わらず、凄まじい盛り上がりである。
そんな中を、さくとくらん、それにやっちゃんの三人は歩いていた。
「凄い熱気ですね。それだけコンテストへの注目度が高いってことなんでしょうか」
「多分。後はあちこち張り紙や掛け声で煽ってるのもあるのかも」
「…そやな。店とか意図的に盛り上げに行っとるもんな」
三人がそうやって雑談をしながら歩いているのは、コンテストを前にして街を観光しようという、くらんの提案があったからだ。
朝にそれを受けたさくとやっちゃん、特に後者はそれに喜んで同意し、こうして出てきている。
一応、ミスリィも誘われたのだが、特に行きたくもない様子で、結局[チェリーヘヴィエスト]に残っており、この場にはいなかった。
「にしても急にどうしたんや?コンテスト前に、こんな若干むさくるしいところで体力を使うこともないやろ?誘ってくれて嬉しかったけどな」
人込みから、場所を取る[屋台骨]が使えず、また身長差から歩いてははぐれてしまうため、さくの肩に掴まっているやっちゃんは首を傾げながら言う。
「…いえ。ちょっと、ですね。行きたいと思って」
「…まぁ、ええけど」
特に追及する意味もないと、やっちゃんはそこでその話をやめる。
「…それで、どこにいくんや?観光名所があるような場所では、ないみたいやけど」
「確かに。強いて言うなら昨日のドームがそれだと思うけど」
この街は規模こそかなり大きいが、文化的に価値があるような場所であるとは言い難い。
だからこそ、観光と言ってもわざわざ足を運んで見に行くようなところは、それこそドームぐらいしかなさそうであった。
そうなると、後は店を回るということになってくる。
ただ、どのような場所や店を回るかを考えていたわけではなかったのか、
「…た、確かにそうですね。…それじゃぁ」
少し困った様子でくらんは言い、あたりを見回す。
それから数秒してあるところに目を止めた彼女は二人を見て言う。
「じゃぁ、あそこのお店に行きましょうよ。お土産屋さん」
くらんが指さす方向には、言葉通りの店が立っている。
「…ドームでのイベントに来る客、ターゲットにしとるんかな?」
「そうかも」
「かもですね。…とにかく、行きましょうよ」
言って、珍しくどこか強引に、くらんはさくの手を引く。
「あ、うん」
さくはその様子を少し不思議に思いつつも、やっちゃんと共にされるがままになる。
「客、多いなぁ」
「あはは、そうですね」
三人が入った店は、アクセサリー系を主とし、他に生活でも使える土産物を扱う店だ。
木目調の内装を採用しており、本来は落ち着いた雰囲気を持つであろうそこは、客がかなりいることであまり落ち着いた感じはなかった。
一応、商品を見て回るのはなんとかできそうである。
「結構いい店やな。折角やし、しっかり見て行こ」
言って、やっちゃんは陳列された商品を、さくの肩から見ていく。
くらんやさくもまた、商品を次々と見ていく。
「…これって動物の角を加工したものですかね。いいデザインですけど…」
ふと目に留まったものを見て、くらんは呟く。
壁から飛び出た物掛けとなっているそこには、骨を加工した耳飾りが吊るされている。
渦を巻くような造形は非常に丁寧で、表面も相当念入りに研磨されていることでかなりの光沢を放っていた。
「う~ん。でも…ちょっと高いですね…いいものなんですけど…」
くらんは巻き付けられた値札を見て言う。
かなりの値がつけられており、気軽に買うのは正直難しいところであった。
「…う~ん」
「…」
くらんが考えている間、さくはやっちゃんの希望で体を動かしたりしつつ、周囲の商品を見る。
その中で、やっちゃんがふと言う。
「さく、あれ見させてくれへんか?」
「ん?いいけど」
やっちゃんの指さす方へ、さくは移動する。
そこにある棚に並べられていたのは、質の良さそうなコップの数々だ。
やっちゃんはそれらを見回し、近くにある一つを取る。
「いいデザインやな…」
広い机の上に置かれたそれは、[骨格樹]などに使われる種類の、質の良い木を素材として作られたコップだ。
側面には店の名前が彫り込まれており、それも字の書き方や配置によってただの文字に留まらず、一個のデザインとして完成している。
そして、コップ自体もかなり作りがしっかりしているようで、持ち手も全体の大きさに対して均等で持ちやすい。また、コップのサイズ自体はあまり大きすぎず、やっちゃんやミスリィあたりが持つなのに適していそうなサイズ感をしていた。
「えっと値段は…」
値札はコップの下に張り付けてある。
そこに書いてある値段は、小さめのものであるせいか、素材の良さに足して安めだ。
また、大抵の洒落ている、質の良いアクセサリーよりも安かった。
「…これぐらいなら、買ってもええな」
実用性がありそうでデザインもよく、値段も程よい。
そう判断したらしいやっちゃんは、さくに再び言う。
「さく、すまへんけどこれ二つ買うから、レジまで行ってくれへん?」
「うん。分かった」
混んでいて動きづらいと思いつつ、さくは商品を見るリーフルの波をかき分け、会計に向かう。
二、三人分ほど待たされたが、その後は特に問題なく、肩のやっちゃんはコップの代金を支払い、会計を終える。
「…ええもん手に入ったわ。この店に入る提案してくれたくらんには感謝やな」
入口寄りに移動したさくの肩の腕の上で、やっちゃんは満足げに言う。
それから数分して、くらんも何か買って合流してくる。
「お、くらんも買ったんやな。何買ったんや?」
狭さから店を出た三人は、店の前の道で話す。
「…はい。私はこれを」
「…お、耳飾りか。いい感じのデザインやん」
「うん、いいんじゃない?」
二人の言葉にくらんは笑って言う。
「そう思いますか?…ふふ、私もそう思いましたし、値段も丁度いいぐらいだったので買ったんです」
「そか。よかったな。ウチもくらんの提案のおかげでいいカップ手に入ったし、よかったわ」
「はい」
くらんは笑顔で頷く。
それから、一歩二人の前に出て彼女は言う。
「それじゃぁ、他のお店も回りません?これって場所や目的は、ちょっとないですけど。でも、今みたいな行き当たりの買い物でも楽しいですし、していきましょうよ?」
「ええで?せっかく来て、これで終わりっていうのもなんやしな」
良いものを手に入れられて上機嫌なやっちゃんは、笑って言う。
そんな彼女を見ながら、さくはくらんに聞く。
「じゃぁ、次はどこに行く?」
「それじゃぁ、あっちに!」
「分かった。行こう」
「はい!」
何故か、普段以上に嬉しそうに、そして妙に明るくくらんは言う。
それによって、さくはまた不思議に思いつつもやっちゃんと共にくらんの後に続いて、活気のある街中を歩き出す。
…そうして、三人は街のあちこちを巡っていく。
「…あ、あの芸凄いですね」
「確かに。よくあんな大きなものを幾つも空中で回せる…」
「高等テクニックって奴やな」
三人は歩く。
「…くらん、あのご飯屋、列が渦巻いてる」
「ほんとです…整理が追い付いてないんですかね?」
「…だとしてもああはならん気ぃするけどな」
話ながら活気ある街を歩いていく。
「…すっごく綺麗で、丁寧な生け花ですね」
「…この店、全体的に調度品がすごくいい。落ち着いた雰囲気にあってるし」
「…ウチ、自分の部屋の内装、これ参考にしてみてもええかも」
談笑して時間を過ごす。
「ほんと、楽しいですね!観光って。[緑彩地区]での買い物とかとはまた違って」
「うん、ほんとに」
「ほんまやな!」
明日を最後に終わるかもしれない時間は、明るく、楽しく過ぎていく。
そして、歩き疲れた三人はとある店先で串付きの団子を人数分買い、傍にあった長椅子に座って食べる。
「美味しいです。二人はどうです?」
「私も、美味しい」
「ウチもやな」
「ならよかったです」
くらんは笑う。
それにやっちゃんも笑い、さくもほんの少し笑う。
美味しいものを食べ、他愛のない会話をして過ごす。
そんな明るく楽しいときがそこには確かにあるのだった。
「…楽しい、ですよね」
…ふと、くらんは呟く。
「そうやな」
「うん」
二人はそれに心の底から頷く。
明るい気持ちのまま、そうした。
だからこそ、くらんの次の言葉に少し驚いた。
「…でも。これで終わりなんですよね…」
『…え?』
さくとやっちゃんは、くらんの呟きに瞬きする。
「…お別れ、なんですよね」
『…』
「…一緒にって話は、この街に来るまででしたから。もう、みんなとの日々は終わりになってしまうんです」
「…」
くらんのその言葉に、さくは一昨日した話を思い出す。
もう、くらんと離れることになるかもしれない可能性の話を。
(ああ、そうだった。忘れてたけど、そうだった…)
「…そう、やったな」
やっちゃんは寂しげに言う。
「…はい。残念ですけど。寂しいですけど…だから、今日の観光は最後の思い出づくり、だったんです。確実に一緒にいられるのは今日が最後だったから…どうしても、やりたくて」
「そういうこと…」
さくは、普段に対してやや強引な感もあったくらんの態度に納得する。
彼女は言葉通りに、どうしても最後の思い出作りをしたかった。
先刻までの彼女の諸々の態度や様子は、その意識が現れたものだったのだろう。
「…それで、ええ思い出になったか?」
「…はい。とても」
くらんはやっちゃんの問いに笑顔で答える。
その目尻に、寂しさから来る涙を浮かべなら。
「とても、とてもいい思い出でした。だからこういったものがもうないのは…正直、悲しいです」
「…くらん」
目を伏せるくらんに、やっちゃんは言う。
「…別にくらんがええなら、旅が終わってる今後も、一緒でもええねんで?さくも、そうやろ?」
「…うん、私もそう思う」
さく達の方からくらんとわざわざ離れる理由はない。
だからくらんが強く望むなら、一緒でもよいのだ。
「…私も、できたらそれがいいとは思います。でも」
くらんは軽く首を横に振り、言う。
「…一緒だと、狙われている私のために迷惑が掛かります。それはよくないです。さくだって何度も危なかったみたいですし、ここまではやってもらいましたけど、これ以上は」
さくを気にかけるなど、くらんは守ってもらっていることに、さく達が危険を冒していることに引け目と罪悪感を覚えていた。
それ故の、言葉なのだろう。
「それに」
少し笑って、くらんは言う。
「あんまり調子に乗ってるつもりじゃないですけど、私結構歌に自信があります。だから、コンテストで落ちる気はないです。むしろ上位以上を取りにいくつもりです。優勝だって視野に入れてます。そのために、さく達と出会う前から歌の自作もしたりして、頑張って、色々考えて、練習してきたんです。だから…」
くらんは自画自賛した恥ずかしさから顔を少し赤らめつつ、言う。
「コンテストの後、みんなといる都合がつけられるか、分からないっていうのも、ちょっとあります。…やっぱり我ながら言ってて、調子に乗りすぎって思いますけど…」
誤魔化すような笑いと共にくらんは言う。
だが、そんな彼女の言葉に、その実力を目の当たりにしていたさくは思う。
(別に、過信じゃないと思うけど…。くらんが上手いのは事実だろうし)
「…とにかく。そういうことから、一緒は難しいです。勿論、一緒だったら嬉しいですけどね」
「…そうか。くらんがそういうならしゃあないか」
「…確かに。無理に一緒はできない」
「…はい」
申し訳なさそうな笑みを浮かべてくらんは言う。
「…だから明日で、みんなとはお別れになると、思います」
「…寂しくなる」
「はい…」
そうして、三人の間に沈黙が横たわる。
周囲の喧騒が聞こえてくることはなく、そこだけは静寂が満ちていた。
実際以上に長い沈黙の時。
それを破ったのは、ふとくらんが言った言葉であった。
「さく、やっちゃん」
「…うん?」
「…なんや?」
反応する二人に、くらんは笑って言う。
「明日でお別れになっちゃう身ですけど。その前に伝えたいことが…言っておこうと思うことがあるんです。いい、ですかね?」
拒否する理由などない。
むしろ、このタイミングで言いだした時点で大事なことは間違いなく、聞くべきであろう。
そう思い、さくは頷く。
「うん、いいよ」
それにやっちゃんも続く。
「…ああ、ええで。言うてや」
「…ありがとうございます」
くらんはそう言ってから呼吸を整える。
そして静かに、思いを込めて二人に言った。
「…どういう風になっても、私はさく達のことが大好きです」
『…』
二人は軽く目を見開き、直後に穏やかな表情になる。
伝えられたのは、自分たちに対する確かな親愛の情なのだ。
聞いて、不機嫌になるはずなどない。
だからこそ、温かい気持ちに満たされる二人は、そのままくらんの言葉に耳を傾ける。
「例え大会の後、離れ離れになれるのだとしても…もう一緒にいられないのだとしても…。この思いはずっと持ったままです。もしさく達もそう思ってくれるなら…きっと心は繋がっています。離れていても。…月並みな、台詞かもですけど」
最後にくすりと笑うくらんに、さくとやっちゃんは穏やかな笑みを浮かべる。
「…うん。私も」
「ウチも」
「お母さんも、くらんのことは嫌いじゃない…好き」
「ミスリィは、微妙な所かもやけどな?」
捻くれているミスリィの気持ちに関しては、嫌っていない以上のことは謎であることは確かである。
そう思ったのか、くらんはやっちゃんの冗談にくすりと笑う。
「…なんにしても。私たちもくらんが好きだから…それこそ月並みなセリフでも…心は繋がっていると思う」
「そやな。ウチもそう思うで?」
「さく…、やっちゃん」
くらんは二人を見て、涙を浮かべる。
今度のものは寂しさからではない。嬉しさからの、ものであった。
「ありがとう、ございます」
くらんの言葉と共に、三人は自然と手を繋ぐ。
友人として、仲間として、家族のようなものとして…それほど心の距離が近い存在として、互いを認め合っていた。
…そんなときだ。
「…お楽しみ時間は、もう終わりだよ。ガワだけ野郎ども」
「ああ。残念ながら、な」
『!』
三人は、聞き覚えのある声の出所を見る。
リーフルが多数いるど真ん中であるそこには、幾らかの歪な塊がある。
そして、それらを左右に三体ずつ程配して、武装したケルガラとサクシドが立っていた。
「…っ」
さくは目つきを鋭くし、くらんとやっちゃんを守るように前へ出る。
「また、性懲りもなくやってきた?…負けると分かっていて」
「な…!成こ…」
さくの言葉に衝動的に抗議の声を上げようとするサクシドを、ケルガラは制止する。
それから、嬉しそうにさくの方を見て言った。
「負ける、か。果たして、それはどっちだろうな?」
「…。…なんにしても、また撃退する。くらんは渡さない」
威嚇するように声を低くして言い、さくは腰の木刀を抜く。
その様子を見たケルガラは、肩を震わせて見るからに余裕のないサクシドとは対照的な態度を見せて言う。
「…撃退、か。だがな、さく。それは、もう無理だ」
ケルガラがそう言った瞬間だ。
突如、街に突風が吹き荒れる。
周囲で驚きの声と悲鳴が上がる中、思わずさくが目を瞑った直後、空に巨大な物体が出現する。
「!」
さくが目を開けて空の巨体を見止めるのと同時、二つの巨大な翼を持つ、怪鳥の如き巨影が街に落ちる。
「あれは、なんや…!?」
[チェリーヘヴィエスト]を軽く凌駕するほどの影の大きさに、やっちゃんが驚愕する。
それに、ケルガラは答えた。
「[ダークカイザー]。俺たち[チェリアール]を仕切るリーフル…ミィジットの[騎装樹]さ」
「!」
その言葉で、さくはケルガラの方へ視線を戻し、身を固くする。
「分かるか?俺たちのトップが出てきたことの意味が?そうさ。俺たちは本気だ。そして、今まで以上、今までにないぐらいに、全力だ」
「…ケルガラ」
さくの体が、緊張と警戒で力む。
「…今度は本当の、本気で全力の戦いだ。[チェリーヘヴィエスト]を潰し、お前たちを確実に手に入れる。そのために、俺は種の力だって使う…!」
「…っ」
ケルガラは地面を力強く踏みしめ、手の中の板状の打撃武器を、さくに向ける。
そして、強い意志と共に宣言した。
「さぁ、さく!始めるぞ、最後の戦いを!」
その言葉と共に、空の怪鳥は咆哮するような音を上げた。




