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[第五章:明かされる全て]その1



「…先輩、やっぱり私、反対です」

「またですか。あなたは…」

 [ソリード]のとある支部の事務室で、ソリッドジュールは面倒くさそうに言った。

 そこには数年の間先輩後輩の関係で働くリーフルの姿がある。

 ソリッドジュールとほぼ同じ格好をした彼女は、長い髪を揺らし、どこか遠慮がちに彼に言う。

「…幾ら[第二種子]の脅威を退けるのに必要だとしても…幾ら強いのだとしても…でも、あれは…リーフルを改造するなんて…」

 彼女が語るのは五年前まで進行した計画で作られ、その後に手に入れる予定の成功といえる個体の大半が逃げ去った、ある存在のことだ。

 それは[騎装樹]を最強(あるいは一騎当千)にするため強化部品として改造され、ある()の苗床にされるリーフルたちの事である。

 計画が始動した六年前の時点から彼女らへの実験、研究に反対していた後輩は、一度は成果物が逃げたために凍結した利用計画を、部分的に今また発動することに及び腰ながら異を唱えているのである。

「…[第二種子]の攻勢が激化して、どうしても必要なのだとしても…こんな道徳に反するような…」

「…だから何だと言うのですか?アンリミテッドリーフルが今必要なのは確かなのですよ?あれらがあれば、厄介極まりない[第二種子]の先兵を容易に打倒できる。手の足りない状況を打開できるというように…」

 ソリッドジュールはわざとか、あるいは意識せずにか、見せつけるように露骨なため息をつく。

 それに後輩は嫌な気分になり、同時に委縮する。

「無駄に時間はかかったようですが、そろそろ見つかった最高傑作が手に入るはずです。…利用計画の再始動と逃げた成果物の捜索・捕獲命令より数ヶ月。一つの成功作がミィジットの網にかかり、さらには最高傑作が見つかり、最後の捕獲作戦が進行している…やっと、やっと[ソリード]にとっても強力な駒が手に入る状況なのです…その状況で世迷いごとを…」

「……」

 ソリッドジュールは不出来な(だと彼は思っている)後輩を叱りつけるように言う。

「…いい加減にしておきなさい。あなたも必要だと分かっているならこれ以上この話は蒸し返さないように。それぐらい、分かりますよね?」

「……で…」

「しつこいですよ。第一あなたには五年前、あの大量逃亡、研究者の脱走を他数人と共に手引きした嫌疑があることを忘れたんですか?証拠不十分で牢屋行きにこそなっていませんが…もしまだ言うのなら、このことを理由に再度審理にかけて、あなたをみじめな状態に突き落としてもよいのですよ?」

 その言葉に後輩はびくりとし、それから目を伏せて言う。

「…。分かりました…」

「よろしい。馬鹿なことはこれ以上言わないように。いいですね?それぐらいわかり、ますよねぇ?」

「…はい」

 それからアンリミテッドリーフルなるものの話題はなくなり、淡々と二人の業務は進む。

 ただその中で、後輩は内心思い続けていた。

(…本当に、よいのでしょうか…)

 

▽―▽


「…ついに、ここまで」

 くらんはさくややっちゃんと共に、前方にそびえ立つ円形のドームを見上げて呟いた。

 ケルガラと[スカーレッドバレル]による二度目の襲撃から二日。

 ついに一行は目的地の大会会場に辿り着いていた。

 会場となるドームは大きな町のやや外寄りに存在するもので、他の建物の高さがそこまでないために、[チェリーヘヴィエスト]よりも大きいそれはかなり目立っている。

 だが、目立つのは高さだけが理由ではない。その外観にもあった。

 まず、外周部分には窓と同じ透過性の葉が大部分に渡って使われており、まるで湖面のような光の反射をしていて非常に美しい。

 それを複数の、螺旋状に並んだ木材が囲み、支えている。

 さらにその周囲には、ドームを中心にして色とりどりの植物が規則正しく植えられ、また道も整備されている。

 そして、それら全てを上空から見れば、ドームとその周辺の植物たちはまるで一つの料理のような、纏まった美しい光景を形作っているのを知ることができた。

「…ここがその会場かぁ…こりゃすごいなぁ」

 [屋台骨]に乗ったやっちゃんは、ドームを見上げ、感嘆する。

 彼女らがいる場所からではドーム周辺の全ては見ることはできないし、上空からの姿も見ることができないが、地上部分から部分的に見るだけでもそれらが凄まじい出来で、圧倒されるような外観を誇っていることは容易に理解できた。

「…確かにこれは凄い。新人とかの大会っていうから、もうちょっと小さいとか思ってたけど。結構豪華」

「…確かに想像以上です。私もチラシの絵で外観は知っていましたが、実物がここまでとは」

 言って、くらんは笑う。

 そこで、やっちゃんがふと言う。

「…ドームに見とれ取ったけど。うちらの本来の目的ってエントリーやなかったっけ」

「あ、確かにそうですね」

 くらんは我に返って言う。

 彼女らは先刻、町の近くで擬装・待機状態となった[チェリーヘヴィエスト]にモモナ以外にミスリィを残し、[屋台骨]に乗って街並みも見ながらドームへやってきた。

 その目的は勿論、ドームで三日後に開催される大会への、くらんのエントリー処理のためだ。

 本来、それはくらん一人いれば事足りるので、ドームに来るのも一人でよかった。

だが、先日のケルガラの襲撃などの不安や、[チェリーヘヴィエスト]のが近づけた町の外縁部からドームが遠い事もあり、さくに加え、やっちゃんが移動手段としての[屋台骨]を提供して、同行していたのだ。

 そうして、大会が近づいて盛り上がる街を通り、彼女らはこうしてドームまで来たのである。

「…それじゃぁ。もう入り口もすぐそこなので、私行ってきます」

 くらんはそう言って[屋台骨]の端から降りる。

 いつもならさくもついていくところであったが、ドーム入り口及びエントリーのための受付は本当にすぐそこであり、窓越しに見えてもいた。

 同行せずとも十分に見守ることができる。

 それに、ドームが大会のエントリーを目的とするリーフルで溢れていて二人で行くと邪魔だということもあり、さくは[屋台骨]から見守ることとしていた。

「いってらっしゃいやで。しっかりエントリーしてき」

「うん。私はここで見守ってるから、何かあった時はすぐ動ける。安心して行ってきて」

 二人の言葉に、くらんは顔を綻ばせる。

「…はい。二人とも、ありがとうございます」

 それからくらんは二人に頭を下げた後、ドームの中へと入っていった。

「……」

「……」

 二人は、受付にできる列に並ぶくらんを見守る。

 長らくの目標にして、大切なやりたいことを目前とした彼女は、いつになく興奮していて、楽し気なオーラが出ていた。

 そんな彼女が、テンションとは裏腹に大人しく順番を待つ様子を静かに見ている…そんなときだ。

「…なぁ。さく」

 ふと、やっちゃんが言った。

「…何?やっちゃん」

 視線はくらんから離さずに、さくは言う。

 それに、やっちゃんは寂しそうに返した。

「…もう、終わりかもしれへんのやな。くらんとの時間は」

「……。確かに…」

「…ここまで、やったからな」

 そう。

 あの[準種子]でさく達がくらんに提案したのは、このコンテスト会場まで共に行き、守るということであった。

 だが、既にくらんは無事、[第八種子]にあるこのドームに、目的地に到着した。

 そして今、どうしても参加したかったコンテストに、彼女はエントリーしようとしている。

 彼女の目標は達成されつつあるのだ。

 もはや、今までのような旅の日々は必要とされていない。

「…まだ、数日はある。くらんは[チェリーヘヴィエスト]を宿代わりに使ってくれる予定やし、そこまでは、一緒のようなもんや。…けどな」

 やっちゃんは少し目を伏せて続ける。

「…これ以降は、うちらが一緒にいる理由があらへん。くらんにはやりたいことがあって、うちらはそれを応援することはできても、手伝うことは出来へん。…だからこそ、幾ら仲が良くても、この先一緒とは限らない…」

「…うん」

 その可能性をはっきりと示され、さくは少し寂しい気持ちになる。

(くらんがコンテストで上位取ったら余計にそうかもしれない。そして、くらんなら狙えない、なんてことはないだろうし)

 さくは[緑彩地区]でクラッカ達に対して行ったくらんのライブのことを思い出す。

 あそこで見ることになったくらんの実力は決して低くない。

 むしろ、目覚めた少女に心から称賛され、さくがお世辞でなく純粋に上手い、凄いと感じられる程に優れたものだ。

 他の相手がどれほどのものなのかは不明であるが、どんなライバルが相手であろうとも、決して引けは取らない。

 場合によっては優勝も狙えるのではないかと、さくは思う。そうでなくとも審査員の目に止まりぐらいはするだろうと、半ば確信めいた感覚もあった。

(…だけど)

 もしさくの思う通りになった場合、大会の目的通りくらんは新人の歌姫として選ばれ、デビューを飾ることになる。

 そうなれば、新人歌姫としての活動をしていくことになるくらんについていくなど、よっぽどの理由がない限りはできない。

 さく達は歌関連においてくらんにまともな助言はできないし、脅威から守る以外の手助けもできない。

 また、大きすぎる上にモモナと一体になってるがゆえに放棄できない[チェリーヘヴィエスト]という、[種子間]の移動がなければただの大荷物に等しいものも抱えている。

 くらんのやりたいことの邪魔になる、役に立たない可能性はあっても、その手助けとなる可能性はほとんどない。

 彼女が強く望みでもしない限り、護衛以外でさく達がくらんといることの必然性などありはしない。

 そして、もしデビューできるのなら護衛だって別で付くだろう。

 そうなれば、さく達が共にいる意味などますますなかった。

「…本当に、あと数日でくらんと一緒も終わりかもしれない、か…」

「そぉや。寂しいけどな」

 離れることになった場合に、無茶を言って一緒にいる気はない。

 そうなった場合は、後は受け入れるしかないと思っている。

 だからこそ二人は、くらんと離れてしまうという確かにある可能性に対し、寂しい思いを抱えているしかなかった。

「…と。くらんや」

 五分ほどしんみりとした気分に二人が浸っていると、エントリーを完了させたくらんが、ドーム内から出てくる。

 わざわざ雰囲気を悪くすることもないだろうと、二人はひとまずそれまでの気分を心の奥へ押し込め、くらんを迎える。

「割と早かったな」

「あ、はい。やる事がほとんど紙に名前を書くだけでしたし」

 後は出場の順番と利用する準備室を示す番号を把握するだけであったのだと、くらんは言う。

「そか。あっさり終わってよかったな」

「はい。無事エントリー出来たので、後は出る日に行くだけです。衣装は以前に貰ったこれがありますしね」

 くらんは、もはや普段着にしている、かつてさく経由で贈られた服を見せて笑う。

 そうする彼女は、念願の大会に参加できるからか、とても明るく、嬉しそうだった。

 …と。

「……。ありがとうございます。さく、やっちゃん」

「…ん?急にどうした?」

 ふとかけられた言葉に、二人は目をぱちくりさせる。

 それに、くらんは頬を掻いて答える。

「…いえ。こうしてここにきて、大会にエントリーも出来たので、そのお礼をちゃんとしておこうと、思って」

「お礼…」

 さくの言葉にはいと頷いたくらんは、それから二人を見て、静かに話し始めた。

「…今までさくやミスリィが守ってくれて。モモナさんが運んでくれて、やっちゃんが楽しく話してくれて」

 目を瞑り、胸に手を当てて今までを振り返りながら、色々なことがあった旅路を思いながら、くらんは語る。

「そんな日々があったから、みなさんの優しさがあったから。私はこうして無事で、元気で、ここにたどり着いて。そして、やりたいことができます」

 くらんはゆっくりと目を開け、二人を見る。

「…それは、私一人では絶対に無理でした。皆さんがいてくれたから、今私はこうしてここに、嬉しい気持ち一杯で、いることができます」

 だから。

「ありがとう、ございます」

 そう言って、くらんは頭を下げた。

 深く、深く。

 それは礼儀の考えからではない、純粋な感謝の念による、強い思いの籠った礼であった。

 二人はそれを、共に過ごしたからこそ理解できる。

 だからこそ、二人は礼に現れるくらんの思いをそのままに受け止めて、

「…そか」

「うん」

 微笑と共に、そう返すのだった。


▽―▽


「…ああ。揃ったな」

 ケルガラは暗いある場所で呟く。

 その傍らで、サクシドは不満げにぶつぶつと呟く。

「…一応の成功作のくせに失敗して…成功作の僕の立場はどうなる…」

「…いいだろう?それは、今は…。なんにしても、次成功させればいい」

「そうね」

 ケルガラの言葉に同意するのは、同じ場所にいるミィジットであった。

 彼女はサクシドの様子を見て面白がりつつ、ケルガラに言う。

「…次こそは絶対よ?必ず成功作と、最高傑作を手に入れるのよ」

「ああ。そしてあいつの方は…」

 ケルガラのその言葉に、ミィジットは一瞬苛立つように眉を寄せるが、すぐにやめて頷く。

「ええ。データ取り用として、参考資料として、施設に置いときましょう。普通の方は[ソリード]に売って」

「ああ。そうしてくれ。そうすれば、形はどうあれ一緒にいられるからな」

 そう言ってケルガラは思い人の姿を脳裏に思い描く。

 彼のそんな姿を、ミィジットがどこか不機嫌そうに見ているのにも気づかず。

「…とにかく、よ。明日、最後の作戦を始めるわ」

「ああ」

「…そうだ。今度こそ成功作たる僕の実力を、ガワだけ野郎どもに見せつけてやる!」

 サクシドが無意味に力むのを見て、ミィジットは若干機嫌を直して言う。

「…ふふっ、その息よ。じゃぁ、最後の準備を始めるわ」

 そして、彼女らは動き出す。

 情勢の変化から[ソリード]に要求されたそれらを手に入れるため、最大の行動を開始する。

「…あのバカなモモナから、とってやるのよ」

 少し憎々し気に、ミィジットはそう呟いた。



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