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[第四章:星系道中ー3旅館休息]その2

「もうじき旅館やー!」

 言って、やっちゃんは[屋台骨]の上で喜ぶ。

 夕刻となる今現在、彼女やさく達を乗せた[チェリーヘヴィエスト]は[第八種子]に入り、ある街の近くにいた。

 [大道]と繋がる[種子]の出入り口からはある程度離れており、空にあるその穴は遠目にかすかに見える程度になっている。

 そうなるぐらいの、[第八種子]に降り立っておおよそ一時間の道のりを経て彼女らがいるその村は、穴から最も近い中規模の町だ。

 観光業が盛んらしく、町の半分は旅館や売店の類であり、それらの先には大きな山と滝らしきものも、[チェリーヘヴィエスト]の高さからは確認できる。

 それ以外にも、大きな花を咲かせる並木道などの見所があるようで、そこそこの数のリーフルが歩いている様子を確認することができた。

「…お、あれやな」

 無重力環境から出たことで固定していた荷物を整理していたやっちゃんは、先刻出してきた[屋台骨]に乗ったままの状態で、窓から外を見る。

 そこからは丁度、彼女が当てた券に描かれていた旅館の姿が遠目に確認できる。

 絵に描かれたものと見える姿の角度は違うため、一瞬違うものかのように見えるが、その小綺麗な感じと、一部の装飾などの特徴は絵と一致している。

 目的の旅館であることは疑いようがない。 

 そのために、やっちゃんは喜びの声を上げているのだった。

『…みなさん。このあたりで[チェリーヘヴィエスト]を止めることにいたします。目的の旅館はもう見えていますので、ご準備ください』

 モモナの言葉と共に、少しの揺れと共に[チェリーヘヴィエスト]は停止する。

 そうするのは[緑彩地区]のときと同様の理由であり、その巨体は[準種子]にいたときと同じように変形し、丘にカモフラージュされた状態へ移行する。

 ここからはモモナ以外の四人だけで、旅館へ向かうことになっていた。

『わたくしはここで見守っていますので』

 そう言うモモナに、ありがとうと言いつつ、やっちゃんは既に袋に詰めていた宿泊用の荷物を取り、背中の二腕で抱える。

 予定では一泊するだけなので、そこまで大きなものではない。

「さて、や。玄関に集合やな」

 やっちゃんは言い、[緑彩地区]のときにも利用したそこへ移動していく。

 重力のある環境である以上、普段なら商売をしていた習慣により、[屋台骨]に乗って行くところだが、今回は邪魔になるのでなしだ。

 その分、身軽にはなるので、やっちゃんは廊下を小走りで進んでいく。

「…ん?」

 その途中で、用意ができた状態で盗み食いを試みていたミスリィを蹴り飛ばして気絶させつつ、彼女を引きずってやっちゃんは進む。

「…来たで!」

 そうして三分ほど経ったところで、やっちゃんは集合場所に到達する。

「あ、来たんですねやっちゃん」

 さくと共に立ち、振り向いて言ったくらんに、やっちゃんは言う。

「ウチとミスリィが最後か…。待たせてもうたな」

「いえいえ。私達も今来たところですし」

 同意を求めるように言うくらんの言葉に、服を入れた袋を持つさくが頷く。

「そう。別にそんなに待たせてない。むしろ丁度いいタイミングだった」

「そか。ならええけど」

 二人の言葉に、やっちゃんは笑って返した。

 そんな彼女の足元で、いつの間にか目を覚ましたミスリィが不満げに愚痴る。

「…もう少し遅ければ盗み食いができたのに…」

「いややるなや。懲りんかい!」

「げふっ!」

 ツッコミと共に蹴られるミスリィだが、いつもと違って[屋台骨]で蹴られなかったことと、無重力環境のような些細な蹴りでも吹っ飛ばされたりするようなことがなかったため、一回転して地面に伏せた後、何事もなく起き上がる。

「ミスリィが懲りることがあるとでも?よろしい。ではミスリィの動機と理念を語ってやろう。それを聞けばミスリィが懲りるなどあり得ないことを…」

「…面倒くさいから黙っとれ」

「ぎゃふっ」

 長ったらしい話を始めようとしたミスリィを、やっちゃんは袋で張り倒して黙らせた。

「あ、あはは…」

 その様子を、くらんは反応に困った様子で見ていた。

 以前よりは多少慣れたようだが、特にこれといった反応もしていないさく程、やっちゃんとミスリィのやりとりには慣れ切れていないようであった。

「…さて、この懲りんのはええとして」

やっちゃんは、再度気絶したミスリィの片足を掴んで背中の片腕にぶら下げつつ、さくとくらんに言う。

「こうして揃ったわけやし、そろそろ行こか」

「うん。私もくらんも準備はできてる」

「あ、はい。しっかり着替えとかは入れました」

 言って、くらんは背負った袋を見せる。

 灰色のそれはやや膨らみがあり、さくややっちゃんのものと同じように、服などが入っていることが分かった。

「…ミスリィも持ってるようやし」

 やっちゃんはミスリィの背中にある袋を見、中身を触って確かめて言う。

「問題はなさそうやな」

 こちらもちゃんと替えの服は入っているらしかった。

「ですね」

「じゃぁ行こうか」

「そやな!」

「はい!」

 気絶しているミスリィを除き、三人は頷く。

 そのタイミングでモモナが彼女らに声をかける。

『準備はできたようですね。…ふふ。今回は完全な息抜きですから、何も気にせず楽しんできてください』

 優し気な笑みを浮かべているのを想像させる声で言うモモナに、やっちゃん達は答える。

「じゃぁな、お母さん!楽しんでくるわ!」

「私も、楽しんできます!」

「…結局[緑彩地区]のは息抜きになり切らなかったし。今度こそ息抜きしてくる」

『はい。行ってらっしゃい』 

『行ってきま~す』

 見送りの言葉と共に、三人(とミスリィ)は[チェリーヘヴィエスト]から下り、その足元にある小さな森に入る。

 いずれも低木ばかり生えている場所で密度も低く、行くべき方向も分かっているため、迷うことはない。

 彼女らは、周辺住民によって踏み固められているらしいそこの地面を、問題なく進み、間もなく森を抜ける。

「お、[チェリーヘヴィエスト]から見るのとはまた違うな~」

「そうですね」

「うん」

 森を出た彼女らは、すぐ目の前に広がる街を見て感嘆の声を漏らす。

 観光地として発展したそこは、先日の[緑彩地区]の街とはまた別の趣があり、小綺麗で落ち着いた雰囲気をしている。

 [チェリーヘヴィエスト]内から見下ろすように見た時と違い、同じ高さで見たことでその雰囲気を感じられて、彼女らは嬉しくなった。

「…で。旅館どこ」

 復活したらしいミスリィが、ぶっきらぼうにやっちゃんに問いかける。

「さっき見た感じ、わりとすぐや」

「ですね。そんなにかからないと思います」

 一番楽しみにしている二人がそんなことを言う中、彼女らは街に入り、少し歩く。

 そうしてほどなく、目的の旅館は無事に見つかった。

「…ここやな」

 やっちゃんは手元に持った、全員分の券の絵と、目の前の旅館の外観を比べる。

 柵型の横開きの入り口扉に、二階建ての構造、それぞれの階の窓枠周りに施された、細く加工された枝を重ね合わせて作られる装飾。

 雨水を逃がすために前後に傾斜のある屋根の両端に、魚のようなオブジェが取り付けられているその外観は、間違いなく目的の建物である。

 そのことを今一度確かめたやっちゃんは、三人に言う。

「それじゃ、はいろっか」

「そうですね!」

「うん」

 やっちゃんの言葉に、くらんとさくは素直に答える。

 ただ、ミスリィは反応が少し違い、

「…はやく何か食う」

「…いつも盗み食い試みるのもそうやけど、おまの頭ん中は食い物の事しかないんか?」

「なに?よろしい。ミスリィがどのようなことを考え…」

「やかましい」

「ぎゃう」

 またしても面倒な話を展開しかけたミスリィを、やっちゃんは袋で叩いて気絶させる。それから彼女は、ミスリィをくらんに託し、旅館の入り口扉を開け、中に一歩踏み込む。

 それから奥に向かってやや大きめの声で言った。

「…すんまへ~ん。今いいですかぁ?」

「…はいは~い!」

 やっちゃんの声に答え、十秒程してから玄関の先に広がる廊下の一角より、一人のリーフルが出てくる。

 髪は随分と長く、足首の上あたりまで届いている。さらにはその隙間から伸びる耳の葉っぱもまた長く大きく、肩まで届いている。

 だが、それらは無秩序に伸びているというわけではなく一種のおしゃれにも見えるよう、ヘアーバンドなどを用いて上手く纏められていた。

 そこに落ち着いた意匠の着物が合わさることで、綺麗な女将さん、という印象を見る者に与えていた。

「どうもぉ、この[お休み亭]の女将をしとりますナナナールと申します。どういった御用ですか?」

「あ、うちら…観桜っていうんやけど、[緑彩地区]でここの旅館の無料券をもらったんですわ。それでこれで四人全員、一泊させてもらいたいんやけど、ええかな?」

 やっちゃんは券四枚をナナナールに見せて言う。

 彼女はそれを一枚やっちゃんから渡され、確認する。

「…なるほど。確かに以前宣伝も兼ねて出した無料宿泊券です。…確認しましたわぁ。これように常に幾らかの部屋は開けとりますので、すぐにご案内できます」

「そか。なら、お願いするわ。…ええよな、三人とも?」

「大丈夫です」

「うん、問題ない」

「…食い物」

 やっちゃんがなんとなく予想していた通りに復活していたミスリィも、ほぼ肯定するような雰囲気で返答する。

「…全員大丈夫みたいやから、お願いするで」 

「承りました。それではご案内しますね」

 ナナナールは玄関横にあった窓口に声をかけ、中に待機していたリーフルから鍵を受け取る。

 それから四人を促し、廊下を進む。

 あまり大きな旅館でないこともあって、移動に一分もかかりはしなかった。

「こちらになります」

「おお…」

 ナナナールが開錠し、空けた扉から部屋に入り、やっちゃん達は感嘆する。

 そこには、綺麗に整理された畳の部屋が広がっている。

 面積は四人が布団を引いて寝るのにちょうどよいぐらいで、布団を引いていない状態なら狭苦しさも感じない。

 また、磨かれた木の柱に囲まれるような構造をしていることで一種の特別感のようなものがそこにはあり、派手ではなくとも十分お洒落であった。

「荷物は左横に」

「あ、そこですね」

 ナナナールの言う通りに見てみると、確かに荷物を置くため、壁を切り取って広めにとられた空間がある。

 四人は少しだけ畳の床から高いそこに、各々の荷物を置く。

「…夕食は一時間後、ここにお持ちします。それまでごっゆくりお過ごしください。外にあるお風呂も使用可能ですので、そちらもどうぞぉ。タオルは荷物置き横の棚にございますので」

「分かりましたわ。ありがとございますやで」

「いえいえ。当然のことですので。それでは」

 言って、部屋の鍵をやっちゃんに手渡したナナナールは静かに部屋を去る。

 それを確認してから、やっちゃんは三人に言う。

「…じゃぁ、夕食までどないする?」

「…一時間じゃあんまりいろんなことはできないと思う。部屋でいいんじゃない?」

「…う~ん。私はお風呂気になりますけど…でも一時間じゃ行き来の時間を考えると、あんまりゆっくりできないかも…」

「そやな。さっき来る途中に見えた外の風呂は幾つかあったし、楽しみ切るのには一時間じゃ足りひんかもな」

「…ご飯の後でいいと思うけど。お腹が落ち着いてから、全員でゆっくり行けばいいと思う」

 くらんの言葉に、さくはそんな提案をする。

「…ミスリィはご飯優先だということを主張しておく」

 一方でミスリィはあくまで個人的な欲求を一方的に主張する。

「なるほどな」

 やっちゃんは全員の意見を聞き、うんうんと頷く。

 それから、

「…それなら、ご飯までここでのんびりしとこか。お茶菓子もあるようやし。雑談でもしてよか」

「そうですね」

「うん」

「…お茶菓子」

 頷くくらんとさくに対し、ミスリィはお茶菓子の単語に反応し、部屋の中央に置かれた机の上にあるお茶菓子を見る。

 ナナナールが説明の中でさらりと置いて言ったそれらは全部で四つあった。

 傍には急須もある。

 お茶とお菓子を楽しんでという、旅館と女将たる彼女からのメッセージに思えた。

「ミスリィはお茶菓子を食べる」

「ええよ。…あ。うちらの分は奪ったらあかんからな」

 以前くらんのための雑炊を一口、ミスリィが勝手に食べた前科からくぎを刺すやっちゃんに、ミスリィはぶすりとした表情で答える。

「しない。ミスリィは外ではしないと言っただろう」

「…そういえば、そうやったな」

 面倒くさいとやっちゃんはあまり聞いていなかったので忘れていたが、確かにミスリィにはそんなポリシーがあった。

 ならば大丈夫だろう。

 ミスリィは変に捻くれていて面倒くさい奴ではあるが、自分の言葉や決めたことを容易に翻すようないい加減な人物でもない。

 彼女がしないというのなら多分しないのだろう。

 やっちゃんはそう考える。

「…一応、心配はいらんようやな」

 言って、やっちゃんは残りの二人を見て言う。

「ほな、ちょっと雑談とかしよか」

「うん。話題はやっちゃんかくらんが振ってくれると嬉しいけど」

「え、そ、そうですね。…は、はい。頑張ります」

「いや、ないんやったらウチが振るからな。無理はしなくてええで?」

「そ、そうですかね?じゃぁ、はい。お願いします」

 そんなことを言いながら三人とミスリィは机と共にある座椅子に座り、雑談を開始する。

 やっちゃんがお茶を入れて話題を振り、くらんが真面目に答えたり、さくが以外とぼけた回答をしたり。

 その傍らでミスリィがお茶菓子をちまちまと食べて。

 そんな風に、四人は平和に時間を過ごしていった。

 

▽―▽


「…さて。許可も出たし。あいつとあいつを」

 そう呟き、男は[お休み亭]の扉を叩いた。

「ついにご対面だ」


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