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[第三章:星系道中―2緑彩地区]その8

「くらん、さく。ありがとう」

 ライブが終了し、片付けが終わった後、カランはそう言った。

 その傍らには、先ほど目覚めた少女の姿がある。

 残念ながら、彼女以外に目を覚ます者はいなかったが、彼女が目覚めただけで、カランとクラッカには十分なことのようで、二人とも随分穏やかな表情をしていた。

「…短い間だったが、クラッカが買い物袋を奪ったり、歌わせたり、色々と迷惑をかけたな」

 カランは傍らの少女をちらりと見た後、くらんとさくに言う。

「いえ、そんな」

「気にしないでいい」

「はい、さくの言う通りです。それに、さっきのライブがなかったら、クラッカさんがなにかするのを望まなかったら、この子が目覚める偶然、なかったかもですし」

「おぉー!」

 くらんにちらりと見られた少女は、花が咲くような笑顔を見せ、嬉しそうに両手を掲げる。

 先程のライブで、彼女は完全にくらんのファンになったらしく、好感度も高い。そのため、くらんに目を向けてもらえることが嬉しいようだった。

「…」

 クラッカは、目覚めた少女のことを見て、何かを呟く。

 カランはその口の動きを見て、

「…偶然ではあっても、くらんのおかげだそうだ。感謝しているようだな」

「そうなんですね。ありがとうございます」

「……」

 律儀に頭を下げて言うくらんに、クラッカは柔らかく笑った。

 …そんなやり取りをしていたところで、ふとさくが言う。

「…それで、カラン、クラッカ。くらんが頑張ってある程度いい結果も出た。それなら、そろそろ」

「…ああ、そうだな」

 さくの言わんとするところを察したカランは、クラッカの方を向く。

「クラッカ。もう、いいだろう?」

「…」

 カランの言葉にクラッカは頷く。

 それと同時に、買い物袋を覆っていた髪が解け、中身の詰まった袋が解放される。

「……」

 髪が元の状態に戻ったことで、疲れが出たように脱力したクラッカに代わり、カランが袋を手に取る。

「…すまなかったな」

 仲間が零れないように口を持ったカランは、それをくらんとさくに手渡す。

「ありがとうございます」

「うん。どうも」

 二人はそう答えてカランから袋を受け取る。

「…くらん、潰れてるのとかない?」

 袋の中を見ながら言うさくに、くらんは答える。

「…いえ、大丈夫そうです」

「そう。まぁ、そういうデリケートなのはやっちゃんの方か」

 食材などの扱いに慣れている彼女の方に、割れやすいもの、潰れやすいものは行っているはずだ。万が一の戦闘時も考えて、揺れてすぐダメになるようなものは端から、二人の方にはあまり割り振られていなかった。

「…こっちも大丈夫そう。買い直しとかはしなくて大丈夫でそう」

「よかったです。やっちゃんが必要としているもの、全部無事に持って帰れそうですね」

「うん」

 くらんの言葉にさくは頷く。

 それから、彼女はカランたちの方を向きつつ、くらんに視線を寄こして聞く。

「…それじゃぁ、行こうと思うけど。くらん、いい?」

「はい。大丈夫です」

 さくはくらんの答えを聞いてから、カランたちに言う。

「…そういうわけで、私とくらんはそろそろ行くつもり。[緑彩地区]の町の入り口辺りに、家族待たせてるし」

「…待ち人ありで、こんなところで時間食わせていたのか…すまんな」

「…」

 カランに手の動きで謝れと促され、クラッカは頭を下げる。

 くらんはそれに、いいんですよと答えた。

「…お姉さん、行っちゃうの?」

 ふと、カランの傍らの少女が残念そうに言う。

 顔にははっきりと、行ってほしくないと書いてあった。

「寂しいなぁ…」

「…すみません。そう思ってくれて、私の歌を好きになってくれたのは嬉しいんですけど」

「そっかぁ……」

 やや顔を俯かせて言った少女だったが、数秒して顔を上げて言う。

「じゃぁ、もしまた会えたらお歌、聞かせてね」

「…はい。それは勿論。私歌うこと自体好きですし、あなたは私のファンになってくれたわけですし。機会があったら、そのときはまた、心を込めて歌います」

「うん!」

 嬉しさから、はにかんでいったくらんに、少女はまた両手を上げて喜んだ。

(…よかったね)

 そんな二人の様子を見、初めてのファンを獲得したくらんに、さくは心の中でほほ笑んだ。

「…じゃ、もういい?」

「…はい」

 くらんは頷く。

「それでは皆さん。またどこかで」

「…ああ。そうだな。もしそういうことがあったら、今度は、迷惑はかけないさ」

 カランは戒めるようにクラッカに視線を寄こして言う。

 それにびくりとした彼は、激しく首を縦に振った。

「じゃぁね、お姉さんたち。またどこかでねぇ~」

「はい、また」

「それじゃ、さよなら」

 言って、さくはくらんの手を引く。

 そうして二人はその場を、カラン達三人に見送られながら去って行った。

 



「…」

 カランは二人を見送った後、一人思う。

(…あいつらは、少なくともあのときよりは幸せそうだ…。我たちのやった事への罪滅ぼし、できているようだな)

 思い浮かべるのは、モモナの姿だ。

 笑って、共に[騎装樹]に関わることをしていた彼女を、行方も現状もよくわからない彼女のことを、カランは改めて思い浮かべる。

(罪滅ぼし…。我も、もう少し明確な成果と共に、できるといいがな)

 思い、カランは目覚めた少女に視線を送る。

 彼女は名残惜しそうに、くらんの後姿を目で追っていた。

(…できることを、していこう。こいつにも、クラッカにも、他の奴にも。今まで以上に、な)

 そう改めて思ったカランは、ふと内心で呟いた。

(…なぁ。お前は、まだ続けているのか?)

 その問いは、モモナに対してのものではない。

 昔共にいた、別の誰かへのものだった。

(…アンリミテッドシード…)

 カランがその言葉と、一人の女性の姿と共に思い浮かべるのは、表現しがたい色合いを持った種であった。


▽―▽


「あ、ようやく来たな!」

「すみません~!」

 さくに抱えられた状態のくらんが、集合場所にいるやっちゃんにそう言った。

「…二人とも随分遅かったようやけど、何かあったんか?」

 三つの腕に膨れ上がった袋を持ったやっちゃんは、集合場所で浮かんだまま、遅れてきた二人を見て言う。

「ちょっと、いろいろありまして」

「いろいろ?」

 首を傾げるやっちゃんに、さくは言う。

「説明すると長くなる。ほんとうに、いろいろ、だったから…」

 何か含みのある言い方をしたさくを見て、やっちゃんは相変わらず首を傾げながらも言う。

「…よーわからんけど、わかったわ。とりあえず帰ろっか。この袋ずっと持ったままは疲れるしな」

 言って、やっちゃんは背中の二腕に持っている袋に視線を送る。 

 よく見れば、小さめの彼女の背丈の半分ほどもあるそれは、中身が外に出ないように口を縛って持っているだけでも負担が大きそうであった。

「…時間かかって、お母さん心配させとるかもやろうしな」

「…確かに」

 さくは頷く、くらんを離す。

 そうして二人はやっちゃんの傍に着地する。

「ほな。行こか」

「うん」

「はい」

 やっちゃんの言葉に二人は頷き、[チェリーヘヴィエスト]の方へ向かって、地面を蹴る。

 そうして進んでる中で、やっちゃんはふと言う。

「…そや。さく、くらん。さっき…ちゅうても一時間以上前やけど、ある店で買い物した時、こんなの手に入れたんやけど」

『?』

 やっちゃんは唯一空いている左前の腕を使い、右手の袋の上部から一つの封筒を取り出す。

「これって?」

「一定数商品を購入したからって、くじ引きさせてもらったんよ。そしたら一等賞が出てなぁ。ただ、中身は見てからの楽しみ言うて、なんなのかは教えてもらって無くてな。そのあと他の店にいかなきゃだったのもあって忘れてたんやけど」

「へぇ…一等賞ですか」

「そや。…折角やし、くらんが開けてみるか?そっちの袋はウチが持っとくから」

「え、私でいいんですか?」

「かまへんよ?誰が開けても同じやし。さくはさくで、別にこういう開けるのに興味、ないし。…よなぁ?」

 答えは分かっていながらも、一応確認するやっちゃんにさくは頷いて答える。

「うん。私は特に興味ないし、開けたいって希望ないし。くらんがやっていいと思う」

「…まぁ、そういうことなら」

 二人に言われ、くらんは封筒をやっちゃから受け取り、買い物袋を彼女に預ける。

「…それじゃぁ、開けさせてもらいます」

「うん」

「…何が入っとるやろうな」

 くらんは二人に見守られる中、簡易的であった封筒の封を爪で切り、中身を取り出す。

 そして、それを見た彼女は、目を見開いた。

「…こ、これって」

「な、なんや?なにが入っとったんや、くらん?」

「はい…これ」

 くらんが見せた、封筒の中身である紙を見て、やっちゃんは目を見開く。

「こ、これって、旅館のタダ券か?」

「そう、みたいです。…それに、場所は…」

 くらんは紙…券をよく見て続ける。

「…これ、[第八種子]のコンテスト会場の近くです。寄ろうと思えば寄れるところですよ多分…」

「な、なんやと?」

 言って、やっちゃんはくらんに券を再び見せてもらい、それを隅々まで見て呟く。

「ほんまや。多分、行けるで、これ…しかもこの旅館、見た感じよさそうやな」

 そもそも券自体が質の良い紙で出来ており、綺麗な装飾がされていたし、そこに描かれている絵から見て取れる建物の外観も良い。

 高級そうな旅館の雰囲気が、券からは読み取れた。

「…これは、なかなかや。なかなかええもんやで。行く価値十分にあるで?」

「…やっちゃん、行きたいの?」

 さくの問いに、やっちゃんは頷く。

「…正直なところ、心惹かれとる…」

「実は私も…絵を見た感じでよさそうで、惹かれます…」

「くらんもか?そう思うよなぁ?」

「はい、そうですね」

「なぁ?」

「はい!」

 二人は楽しそうに笑う。

 やはりこちらの組み合わせの方が、気が合うようである。

「…ふむ。まぁ、二人がそんなに惹かれるなら、行っていいんじゃない?お母さんも、別に拒否しないだろうし」

「…そやな。ウチ、くらん、さく、ミスリィの分もあるしな。お母さんが入れないのは悪いけど」

「でもそれで愚痴るような質でもないし、言ってみたら?」

「そやな、そやな、言って見るわ!くらん、良さそうな旅館に寄れるで、きっと!」

「そう、ですね。そうなるなら、私も嬉しいです」

「そやろ!」

 やっちゃんとくらんは笑いあう。

 それからやっちゃんは、宣言する。

「それじゃぁ、帰ったら旅館に寄れるか、聞いてみるで!行くで、くらん!」

「はい!やっちゃん!」

 言って、テンションの上がった二人は、近くの足場を蹴って、徐々に見えてくる[チェリーヘヴィエスト]へと一気に近づいていく。

「随分楽しそう」

 さくは二人の様子を微笑ましく思いつつ、その後を追って行った。

(…あのときとは違って)

 そう、カランとの出会いと、思い出した過去から、そんなことを内心で呟きつつ。


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