[第三章:星系道中―2緑彩地区]その5
「…なに?何の用」
ミスリィは窓枠の葉に頬を押し当てながら、その向こうにいる男に問うた。
『…』
そわそわした様子の男は、ミスリィの言葉は聞こえているはずだが、すぐに回答を返してこない。
どうやら何か別のことを考えているらしい。
その様子にムッとしたミスリィは、
「何の用?答えないなら潰しに行くけど」
『…あ?ああ。すまん。聞いてなかった』
「…ミスリィの盗み食いタイムを邪魔しておいて、そんなふざけた態度が許されるとでも?ならどういう態度が適切か語ってやろうか…?」
『…あ、いやそれはいい。すまんすまん。つい、な…』
男はミスリィが露骨に不機嫌になったのを見て、慌てて謝る。
『いやなぁ。ついつい考えてしまってな…』
「考える?なにを」
聞きつつもあまり興味がなさそうな表情のミスリィに、男は言う。
『いやなぁ…それが』
「それが?」
『俺の唯一の女の子なんだ…』
「は?どーゆー意味?」
何を言っているのか理解できなかったミスリィは、眉をひそめて聞き返す。
「意味わからんこと言うな。ちゃんと言え」
普段やっちゃんに同じようなセリフで怒られているのだが、そんなことはすっかり忘れて言うミスリィに、男は笑って返す。
『ああ、すまん、俺が考えてた女の子ってのは、唯一俺とまともに、心から話し、遊んでくれた女の子のことだ。そして、俺が唯一…好きだと思えた相手のことだよ』
「はぁ?惚気話に付き合う気はミスリィにはない。惚気るなら別のところにでも行くといい」
男の説明を理解し、興味を完全になくしたミスリィは男に背を向け、そう言い放つ。
彼はその背に慌てて声を上げる。
『いやいやいや待ってくれ。すまん、ほんとにすまん。だから待ってくれ。待ってくれって!』
「…」
『…そんなに嫌そうな顔せんでも…いや、なんでもない』
ものすごく不機嫌な顔で振り返ったミスリィを見た男は、思わず出た失言を慌てて取り消す。
「…引き留めるってことは、何か用でもある?なお、これでまともに答えなかったら潰しに行く」
『あ、ああ。…その、聞きたいことがあってな』
「聞きたいこと?なに?」
不機嫌そうな表情のまま聞き返すミスリィに、男は頷いて返す。
『さっき回った限りでは姿は見えなかったんだが…ここ、他に女の子はいないか?』
「女の子?…ここに住んでるのは女の子だけだが」
観桜一家はさく、やっちゃん、ミスリィ、モモナ、それにくらんという風に女のリーフルしかいない。
ミスリィとモモナは除外できるとしても、男が指しているのが残り三人のうち誰なのかは、今の言葉だけでは判断のしようがなかった。
「もっと情報」
『…う、ううむ。他に何か特徴って言ってもなぁ…昔のはあてにならんし…強いて言うと、なんか…目が死んでるというか』
「目が死んでる?そんな奴いない」
あえていうなら感情の揺れがあまりないさくが近そうではあるが、別に感情を喪失しているわけでもメンタル的にやられているわけでもないので、目が死んでるようなことはミスリィの記憶上なかった。
よって違うと思われる。
『…』
男は腕を組み、さらに考える素振りを見せるが、それ以上の情報は出てこないらしい。
それを見たミスリィは、そもそもと前を置きし、
「今、ミスリィ以外のはだいだい出払ってる。だからいない。会いたいのかなんなのか知らないけど、来るのはまた今度にして」
(それまでいるか知らないけど)
『…そ、そうなのか?なら仕方ないか……また今度にするか』
「…なにをそんなに残念そうに」
『いやだってな…』
男はなにかを振り返るように[大道]の上を見上げ、
『…さっきも言ったけどな。好きだからだ。俺にとってのオンリーワン。久しぶりにまともに会えると思ったが残念だ…』
寂し気にそう言う。
しかし、ミスリィはそれに感化もされることも同情する気配もなく淡白に返す。
「あっそ。それは残念だった」
『ああ、凄く残念だ。…はあ』
男はため息をついた後、ミスリィに言う。
『仕方ないから俺は引くとするさ。また次の機会に会うとしようか』
「そう。頑張るといい…」
欠片程も応援している感じを見せずにミスリィは言う。
そんな彼女の視線の先で、男は挨拶代わりに手を振り、壁を軽く蹴ってその場を離れていく。
「…」
ミスリィは遠ざかっていく彼の後姿を無言で見つめる。
そしてふと、呟く。
「…知ってるような…。いや、ありえない。気のせいだろう」
一種の親近感に近いものを覚えるミスリィではあるが、そうなるであろう存在がこんなところで一人いるわけがないと、彼女は感覚を誤認と判断する。
「別に害あったわけじゃないし、襲ってくるわけじゃなかったし。何も問題はない。…さて、忘れて盗み食いの続き」
完全に意識を切り替えたミスリィは、先の食事の続きへと戻っていった。
▽ー▽
「お前たち…ここで、何をしている…」
そう言いながら、その男はくらん達が今来た通路の奥から姿を現す。
背は高い。
[大道]内での生活が長い影響なのか筋肉はあまりなく見え、肉付きもさして良くはない。だが、栄養不足というわけでもないようで、体形はやや細い寄りと言ったところだ。
そこに高身長が合わさることで、実際より細身の印象を見る者に与える。
そんな男は、白衣のような服を着、落ち着いた色合いのフレームの眼鏡(フレームは加工した枝、眼鏡は透明な葉)をかけ、その奥から鋭い視線を二人へ放っていた。
(…い、一体…)
自然とさくが前に出る中、くらんは思う。
男の放つ視線はかなり警戒感の籠ったもので、有無を言わせぬ迫力と圧迫感がある。
それに、くらんはやや気圧されてしまう。
だが、さくはくらんのようにはならなかったようで、こちらはこちらで警戒感を露わにし、男に聞いた。
「…一体、誰?」
「なに?そうだな我は…」
さくの問いに、習慣づいたものがあったのか、男は大仰な動きで名乗ろうとする。
しかし、自然とやっていた動作にすぐに気づき、頭を振って名乗りをとめ、
「…いや待て。質問者は我の方だ。そもそもここは我らの場所。侵入者はそちらだ。お前たちが答えろ」
「我らの場所…?」
さくが眉を顰める。
同時にくらんは男の発言の意味を考える。
(我らの場所……場所…。…あれ?待ってくださいそれって…)
自分たちは盗人の少年を追っているうちに、意図せず他人の家に入り込んでしまったのではないだろうか。
その結論に至ったくらんは慌てて頭を下げる。
「すみません!不法侵入して!」
「…は、は?」
緊迫した雰囲気の中、いきなり頭を下げて謝罪したくらんに、男は困惑する。
そんな彼を見ながら、くらんと同じ結論に達したらしいさくは、
「…ああ、うん。そうなるのかも」
言って、場の流れからやったほうがいいと思ったのか自身も頭を下げる。
「…ど、ど、どういうことだ?…まさかこれで我をけむに巻こうとでも…」
などと男は困惑するしかない様子であった。
「…い、いや。待て、落ち着くのだ我。改造作業を思い出せ。冷静さは大事だ。そしてこの我は落ち着ける…落ち着ける」
男は胸に手を当て、息を何度も吸って心を落ち着かせる。
十秒程それをしたところで男は大きめに息を吐く。
以降、彼は必要以上に息を吸わない。
どうやら落ち着いたらしかった。
「…さて。一体どういうつもりだ?お前たちは」
男は腕を組み、警戒感のこもった視線で二人を見る。
しかし、今しがたの謝罪で勢いを削がれたのか、その視線は先ほどより鋭くなかった。
それに、先に顔を上げて気づいていたさくが、まず口を開く。
「…事情があった。私たちはそれでここに来てしまった」
「事情、だと?一体どんな事情があれば、この[緑彩地区]の奥の奥まで入り込んでくる」
「…それは、ですね」
さくが話始めたことで自身も顔を上げたくらんは、言いながら視線を別方向に動かす。
その視線の先にあるのは例の大樹であり、その上部辺りに浮いている少年であった。
「私達、買い物帰りだったんです。…なんですけど、そのとき急に買い物袋をあの通り奪われてしまって…」
くらんは指をさしつつ(盗人相手とは言え気が引けるので控えめに)、そう男に説明する。
「お店で買ったものが全部、あの中に入っていて…もうお金もないですし、なんとか返してもらおうと追いかけてきたんです」
「そういうこと」
くらんの言葉にさくが頷く。
その様子を見た男は、警戒は解ききらずに、いまだ肩で息をする少年の方へ視線を送る。
すると少年は、
「…」
無言で、しかし誤魔化すかのように笑う。
まるで、悪戯が親に露見した子どものような仕草だ。
男は、そんな少年の様子を見て、大きなため息をつく。
「そうか…そうか。なるほど、我は状況がわかったぞ…」
そうして、男は額に手を当ててやれやれと言う。
「…クラッカ!」
「!」
突如尚を呼ばれた少年がびくりとし、身を縮める。
「お前はまた悪戯をしたか!何度我の説教を受ければ気が済む!」
「…」
声は出ないながら、少年は男の叱責に泣きだしそうな表情を浮かべる。
「つい三日前にも同じことを言ったはずだ。…それに今度はなんだ。ここにまで持ってくるだと?それはただの窃盗だ!悪戯で許される範疇を超えているぞ!」
「…~!」
少年は完全に男の言葉に委縮し、震える。
どうやら、少年にとって男はかなり恐ろしい相手であるらしい。
「全く。これは罰でも与えるか?流石に犯罪は叱責だけで済ますわけにはいかん…」
「…~!」
少年は震えあがり、思い切り首を左右に振る。
罰と言う言葉に恐れをなしたらしかった。
「…一体どのような罰を…」
「…~!」
そうして再び額に手を当てて男が言い出したところで、くらんは言う。
「あ、あの…それぐらいで。私怒ってませんから…ちゃんと返してもらえればそれでいいんです。…あの子、もう反省していると思います」
震えあがる少年を不憫に思い、くらんは助け舟を出す。
それに少年は、藁にも縋る思いか、思い切り首を縦に振る。
「……。まぁ、よくはないが、罰は後で与えるとして、いいとしよう」
「あ、ありがとうございます」
分かってくれた男に、くらんは頭を下げる。
「くらん、別にさげなくてもいいと思うけど…」
さくは律儀に頭を下げるくらんにそう言うが、何故彼女がそうするのかを先刻分かったためか、いつも通りに深く追及はしなかった。
「…さて、だ」
男は気を取り直して二人を見る。
そして、罰が悪そうに頭を掻き、
「…すまなかったな。クラッカが迷惑をかけて」
「クラッカ?」
「…あ、もしかしてあの子の名前ですか?」
「…ああ、そうだ。あいつはクラッカ。我の、息子のような者だ…」
「息子のようなもの……?」
さくは男の言葉に、首を傾げ乍ら言う。
男はそれにゆっくりと頷く。
「…ああ、そうだ。クラッカは我の肉親ではない。それなりの情は持っているが、な」
言いながら男はクラッカを見る。
「…我はクラッカに対して保護監督する責任がある。だから、今回のことは我の監督不行き届きの面とも言えるな」
男は悩まし気に頭を左右に振ってそう言う。
「だからこそすまん。わざわざこんな奥地の場所まで追いかけさせてな」
「いえ、そんな。大丈夫で…」
くらんは言っている途中で、ここまで追って来れたのは、頑張ったのは主にさくであることを思い出す。
そのため、勝手に大丈夫と言うのはどうかと思い、さくに聞く。
「さく、大丈夫でしたか?ここまで」
「別に。大丈夫」
「とのことです。だからそんなに気にしないでください」
「…そうか。それならまぁ、いいとしようか」
「…!」
クラッカは安心しきった表情を浮かべる。
だが、男はそれに鋭い視線を送り、クラッカはまたびくりとして震えた。
「…さて。それはそれとして、クラッカに買い物袋を渡させよう。…そういえば」
言って、男は二人に問う。
「お前たち、なんと呼べばいい?」
「あ、そう言えば名乗ってませんでした。すみません。不法侵入した身で」
「別に侵入者が名乗る義務はないと思うが…我は名乗るとしても」
「え?」
何故か自分は名乗るなどと言う男の言葉に、くらんは首を傾げる。
しかし、男は口を滑らしたと言わんばかりに、
「いや、今のは忘れてくれ。昔の習慣のせいだ」
「は、はい。そうします…」
言って、くらんは気を取り直す。
それからゆっくりと名乗る。
「私、くらんって言います。そして、こちらはさくです」
「そ」
くらんの言葉にさくが頷く。
「そうか。くらん、さくと。…ああそうだ。我は…我はだな」
男はそこで、無意識に大仰なポーズをとる。
そして、ばっと手をかざし、力強く言う。
「我はカランだ!覚えておきたまえ!」
「え、あ、はい…」
「うん…」
二人は急な主張の強い自己紹介に、やや戸惑ってそう答える。
それに男…カランははっとし、
「…く。すまんな。名乗りなどするとつい昔のものが出てしまう。封印したはずなんだがな」
「…封印」
さくはその言葉に、なにか思い当たる物でもあるかのような反応をした。
「…とにかく、我はカランという。くらん、さく。クラッカにはすぐ、買い物袋を返させよう」
「あ、ありがとうございます!」
「礼などいい。こちらが悪いのだからな。…クラッカ!」
頭を下げたくらんにそう言ったカランはクラッカの方を見る。
「悪戯は終わりだ。今すぐその買い物袋をくらんとさくに返せ!」
「…」
クラッカはカランの言葉にびくりとする。
しかし、恐れている割にはすぐに行動に移そうとしない。
それを見たくらんは、重ねるように言う。
「…すみません。どうかお願いします。それを返してください」
「…」
「お願いです」
くらんは頭を下げる。
それを見たカランはため息をつき、クラッカに言う。
「いい加減にしろ、クラッカ。くらんは相当困っている。それが分からない程馬鹿じゃないだろう?だったら返してやれ」
「……」
クラッカは動かない。
「クラッカ」
「…!」
渡すどころか、クラッカは買い物袋を両手で強く抱きしめる。
「クラッカ!」
「お願いです」
「…」
やはり、クラッカは返さない。
その表情は、先刻見せた悪戯小僧のものではない。
手の中のそれを手放してしまったら、何かを失うとでも思っていそうな表情だった。
「クラッカ!いい加減にしろ!早く、くらん達にそれを…!」
カランは一向に渡そうとしないクラッカにしびれを切らし、最初に叱りつけたときと同じくらいの強さでそう言う。
その瞬間だった。
『!』
クラッカが縮こまると同時に、彼の左鎖骨あたりが発光。直後、彼の髪がしなり、結びつき、そして。
「な…、クラッカなにを!」
四つほどに纏まったクラッカの髪は、彼の手から離れた買い物袋を締め付けるように覆った。
「……」
さくは、その様子に…鎖骨の輝きに眉をピクリと動かす。
「クラッカ、何のつもりだ!悪ふざけは…」
再びカランが叱ろうとしたところで、クラッカが口を開く。
しかし、当然彼の喉から声が出ることはない。
必死に口を動かす彼が何を伝えたいのか、くらんには分からなかった。
だが、カランは違うようだった。
「…悪ふざけじゃない、だと?」
「分かるんですか、言ってること?」
カランは頷く。
「…ああ。クラッカが種のせいで喋れないのは知っていたからな。あいつの主張が分かるよう我は読唇術を会得していた」
(種?それって何でしょう…)
カランが無意識に言ったらしき言葉に、不思議に思ったくらんだが、猛毒の種でも飲み込んだことがあるのだろうかと思い、深くは考えなかった。
「…それで、クラッカさんはなんて言っているんですか?」
くらんとカランが話している間にも口を動かすクラッカを見て、くらんは言う。
「…ああ。それがな」
「………………」
カランはクラッカを静かに見る。
その目には、既に先ほどまでの不出来な子を叱る怒気はない。
どこか申し訳なさや後悔の念のようなものをその中に漂わせ、カランは言う。
「…ここのリーフルたちを元気づけろ。でなければ買い物袋と中身は潰すと、そう言っている。そして元気づけるのはくらん達、だ」
「え…?」
急な話にくらんは目を見開く。
それと同時に、クラッカはカランの言葉越しに伝えた自分の意思を示すように、髪の一つを力ませる。
すると、それに包まれた袋が僅かに軋みの音を上げた。
中身に負担がかかっている。
それは見た目にも明らかで、クラッカはその様子を見せた後、髪を緩ませた。
彼のその動作は、要求に従わなければ容赦なく買い物袋の中身を台無しにするという、明確な意思表示にして脅しだ。
「…種を…半ば失敗作のお前では負担が…」
カランは髪を動かすカランの様子を見、苦虫を嚙み潰したような表情をする。
それは、彼を責めるというよりも心配するようなものに、くらんには見えた。
「…くらん。あいつは本気だ。見ての通り、あいつの力があれば袋の中身を台無しにすることは容易だ」
「…確かに、そうですね…」
鎖骨が輝くときの、クラッカの髪の力強さはくらんもここまでの追走劇で理解している。
彼の要求に逆らえば、折角の食材等がお陀仏になるのは確実であろう。
「…なら、要求に従うしかない…ですね」
(そしてその内容が)
そこで、それまで黙っていたさくが口を開く。
「…あのリーフルたちを元気づけるのが、要求と…」
「……」
くらんは、さくが指さす方へ視線を向ける。
そこには、相も変わらず冬虫夏草のようなリーフルたちが浮かんでいる。
彼らの様子には、欠片程の変化もない。
息をしているだけで、意識があるのかすら判然としなかった。
「…彼らを……」
「ああ。そのようだ。…我にも、クラッカにもできなかったことをどうしてくらん達に」
「………」
呟くくらん達を見下ろしながら、クラッカは沈黙する。
「無茶だ。あまりに無茶だ。無茶苦茶に過ぎる…」
それは、クラッカ自身も分かっているのかもしれない。
彼はカランの呟きに表情を暗くする。
だが、すぐに顔を上げ、僅かな期待を込めた目で、彼はくらん達を見る。
(…期待…。私たちに…)
くらんはその視線を受けて思う。
クラッカの行動は、確かに悪戯の面もあったのかもしれないが、その真意は自分たちをここに招き入れることにあったのではないか、と。
どうして彼がそうするのかはわからない。
何故自分たちが選ばれたのかはわからない。
分かっているのは、クラッカがくらん達に、多少なりとも期待している事だけであった。
「…どうして、クラッカは私たちに期待する?」
さくの問いに、カランは首を振る。
「我には分からん。理由がない、ということはないのだろう。しかし、それがなんなのか、までは、な」
「そうなんですね…」
呟き、くらんはクラッカを改めて見る。
彼は沈黙し、そして買い物袋を人質ならぬもの質にしながら、くらん達に視線を送っている。
期待薄でありながら、それでもと求めるような、縋るようなそれを。
「……。分かりました」
「…くらん?」
さくが目だけ動かして聞いてくる中、くらんは言う。
「…事情はよく分かりません。分かりませんけど、それでも…」
(買った物のこともありますし、それになにより…あの目)
涙もその端に浮かべる、縋るようなそれに、くらんは行動を決める。
「私、やります。クラッカさんの言う通り、元気づけるのをやってみようと思います」
「くらん…いいのか?」
「はい。なんだか、そうしたいって、思っちゃいましたから」
「そ。なら、それもいいと思う。それにやらないと買った物潰されるし。私もできること、やろう」
くらんに同調する意思を見せるさくに、くらんは柔らかな笑みを浮かべ、
「ありがとうございます、さく」
軽く頭を下げる。
「別に」
それにさくは、いつも通りに答えた。
「…すまんな。無茶な要求をのませて」
「いえ、気にしないでください」
カランの言葉に、くらんは首を振ってそう答える。
そんな彼女らの様子を見て、クラッカは少し安心した様子を見せる。
「…こいつらの体に関わることは…我はあまり強く出れないからな…」
カランはクラッカやその下のリーフルたちを見、傍らのくらんにも聞き取り切れないぐらいの声で呟いた。
「…それで、くらん。どうする?意識あるかも怪しいリーフルを元気づけるっていっても」
「…そうですね」
くらんは腕を組み、考える。
やることにしたはいいが、では具体的にどうすればいいのか。
その答えはすぐには出てこない。
(…何かありそうですかね…?)
首を捻るくらんとさく。
そんな二人の様子を見て、カランは言う。
「無理はしなくていい。できることでいい」
(できること…私に、できること)
そう考えた瞬間だ。
ふとくらんはあることを思い出す。
「あ、歌…」
(そうです。私歌えます。それに歌って、歌い方や歌詞にもよりますけど元気づける効果、ありますよね。しかも、子守歌みたいに意識がぼんやりしてても効果的なものもあります。あの子たちがどういう状態なのかは分かりませんけど…でも)
今自分ができる中で一番効果がありそうではないか。
そうくらんは思う。
「さく、カランさん」
「ん?」
「なんだ?」
「私、何をするか決めました」
くらんはその意思の存在を確かめるように胸の前でこぶしを握り締める。
(歌う。歌うんです。歌って元気づけられるか試してみます。絶対的自信があるわけじゃないですけど、それでもこれだけです…だから)
くらんはクラッカを見る。そして、彼に向かってその意思を力強く示した。
「…私はここで、ライブを開催したいと思います!」
その言葉に、他三人は目を見開いて驚いた。




