[第三章:星系道中―2緑彩地区]その2
「…これは」
施設で朝食をとっていたミィジットは、手に持っているものを改めて見つめ直す。
それは手紙の入った封筒であり、その差出人のことを彼女は勿論知っていた。
だからこそ、やることを終える前に、手紙を寄こして来るなどと言う珍しい行為に出たのは、正直驚きであった。
「…今朝、我々経由であなた宛てに届いたものですが。一体、どのようなものでしょうかね、ミィジット?」
「…ふん。それは開けてみればわかるわよ」
ただの確認作業にすら嫌味っぽい言い方をするソリッドジュールに鼻を鳴らしつつ、ミィジットは、彼から手渡された封筒を開封する。
そして、中に入っている手紙を広げた。
それから数秒後の事である。
「…っ!まさか…」
内容をひとまず流し読みしたミィジットは、そこに書いてあることに目を見開く。
「…あははは」
「…何を笑っているのですか、ミィジット。そんなに無駄な笑いをするような、くだらない詩でもはいっていましたか?」
「なんで詩限定よ。…それはともかく」
ソリッドジュールにツッコみつつ、ミィジットは手紙を読み返す。
そうして、今しがた読んだ内容が読み間違えではないことを確認し、彼女は再び軽く笑う。
「…あはは。これが本当なら、幸運ね」
「幸運?なんのことですか?」
眉を顰めて言うソリッドジュールに、ミィジットはニヤニヤとした表情を浮かべながら言う。
「…あんたたちが惜しんだ、あれが、ね」
「…、なんですって?」
ミィジットの言わんとするところを理解したソリッドジュールは、目つきを鋭くする。
「…仮に。それが本当の事だと言うのであるなら」
「ええ。それなら対応は一択。そして、もし」
ミィジットはソリッドジュールの方を見て言う。
「もしも成功したなら。…分かってるわね?減額分」
「…ふむ。まぁ、いいでしょう。あくまでも成功した場合の話ですが、そのときは減額した分を上乗せし、元の額で」
「ええ。頼むわよ」
ソリッドジュールの言葉に、ミィジットは満足げに頷く。
そして、[第八種子]のあるであろう方向を見て、
「…さて。この幸運、逃す手はないわ。確実にものにしましょう」
今までと違い、怪しく笑うのだった。
▽―▽
「…さて。大体担当は決まったな?」
[緑彩地区]を目の前にする中で、やっちゃんはそう言った。
[チェリーヘヴィエスト]の出口付近でさく、くらんと共にいる彼女は、その四つの腕のうち背中の二腕に大きな買い物袋を握っている。
そして、腰には財布の入ったバックを巻き付けていた。
一方で、さくとくらんもそれぞれ買い物袋と財布を持っている。
前者は服の内側に財布を入れ、効き手とは逆の方に袋を握っている。
後者は、以前渡された新衣装の袖に財布を入れ、袋は反対側の袖の中で握っていた。
三人とも、完全に買い物に行く準備が整っている。
(よしよし。無事準備完了やな)
やっちゃんは二人の様子を見てそう思い、最終確認に移る。
「…さく、くらんの担当はメモの通りや」
「…なるほど。まぁ、慣れてるしわかる範囲」
「…ふむふむ、だいたいわかりました」
二人の反応を見、やっちゃんは満足げに頷く。
「ならええわ。一応、くらんの担当は分かりやすいものにしとる。細かい品種の指定とかない奴やな。そういうのは、見たらわかるか、言ったら出してもらえる範囲の奴のはずや」
「あ、ありがとうございます。簡単なのにしてもらって」
「気にせんでええて。むしろ下手に複雑にして買ってこられんもアカンしな。くらんにできる範囲を考えた結果の、まぁ適切な振り分けの結果ってやつや」
「そうですか、分かりました」
頭を下げようとしたくらんは、やっちゃんの言葉でそれをやめ、笑って返すのにとどめる。
「さてと、や」
やっちゃんはさくとくらんを見回し、言う。
「さっき話した通り、二人は一組で動いてもらうわ。一応、現時点で追手は撒いとるはずやけど、万一襲われたら危ないからな。さくには護衛してもらうわ」
「うん。始めからそのつもりだし、構わない」
さくの言葉にやっちゃんは頷く。
「…すみません、さく。いつも守ってもらって。でもその分、私ちゃんと買い物しますよ!」
「あ、うん。凄いやる気」
「そやな」
くらんのやる気の見せ方に若干戸惑いを見せるさくに、やっちゃんは笑う。
それから、
「じゃ。行こか、[緑彩地区]に」
言って、目の前にある扉を開ける。
すると、その先には徒歩十分ほどの距離に[緑彩地区]の町の入り口が見える。
「[チェリーヘヴィエスト]で来れるのはここまでやしな。後は歩きや」
[超重級]である[チェリーヘヴィエスト]の図体では、そのまま[緑彩地区]に踏み込むなどできない。大きすぎるし、[超重級]で入っていくなど宣戦布告と変わらないからである。
以前[漣湖面]に襲われた際のゆりの主張などから、迂闊に[チェリーヘヴィエスト]を近づけるのを控えるべきと考えたのもあり、[チェリーヘヴィエスト]は現在の場所で、[緑彩地区]の外側にも多少広がる緑の景色に同化する形で停止している。
三人はそこから、歩き(地面などを蹴っての空中移動)で向かうことにしていたのである。
一応、[チェリーライト]と[屋台骨]は移動手段として使えなくもなかったが、前者はモモナがとある作業用に中に置いておきたいこと、後者は使わないだろうと部屋にしっかりしまってあることもあり、使わないこととなっていた。
「…遠目からでも綺麗なのがわかりますね」
「そうやな。[大道]がだいたい味気ない景色してるからやろか。なんだか余計に綺麗に見えるわ」
「まぁ、確かにそうかも」
出口から[緑彩地区]を見、三人は口々に感想を言う。
そうしたところで、やっちゃんはモモナに向かって言う。
「お母さん。それじゃぁうちら、買い物行ってくるわ」
『…はい。分かりました。いざと言うときの防衛は、ミスリィにやっていただくことになっていますし、安心して買い出しに行ってください。…それと、くらんさん』
「あ、なんでしょう、モモナさん」
さくの隣にいたくらんは、画面と拡声器のある方を見て、首を傾げる。
『立て続けの襲撃等で息も詰まっているでしょう。さくもそのようですし、気分転換できる機会だと思って、楽しんできてください』
「…モモナさん」
くらんはモモナの言葉に、ふっと笑う。
「分かりました。…確かに、そういうところがなかったと言ったら嘘になっちゃいますし。さくと楽しんできます。…って、勝手に一緒に楽しむって言っちゃいましたけど、大丈夫ですか?」
「ん?別に。気にすることじゃないって」
いつも通りに言うさくに、くらんはありがとうございますと言う。
その様子を見届けた後、モモナは三人に向かって、画面越しに微笑む。
『それでは、いってらっしゃいませ。お帰り、お待ちしています』
「それじゃな!」
「行ってきます」
「はい、行ってきます!」
三人は画面上のモモナを見て言って後、[チェリーヘヴィエスト]から出、[緑彩地区]へと向かっていく。
「…さく、くらん。ウチはそうそうに別行動になるやろうから、お母さんの言う通り、さくと楽しんできてな。…ま、買い物も勿論ちゃんとしてもらうけど、くらんは言わんでも分かるか」
「はい!しっかりやってきます!」
「ふふ。…さぁ、町は結構すぐやで…!」
そうして、三人のリーフルは久方ぶりの外へと繰り出していった。
▽―▽
『…さて。それでは今のうちにやらなければなりません』
三人が[緑彩地区]の町へと完全に入ってくのを確認した後、モモナは一人呟く。
『ここまでの間にパーツは全て作っておきましたし』
(腕が鳴るものだね。久しく忘れていた感覚だ。…まぁ、それのせいで、もあるから…嬉しがるのもどうかと思うけど)
そう思い、モモナが見るのは格納庫だ。
今そこには、壁の隙間から伸びたツタによって繋がれた[チェリーライト]が立ち、何かの作業を始めようとしている。
その証拠に、その傍らには何かの入った大きな木箱が置かれていた。
『…あまり大胆な改造はできませんが、しかし、しないわけにもいきません。前のようなことは、万が一にも起こしたいとは思いませんから』
(だから、やろうか)
そうして、モモナは作業を開始する。
格納庫に存在する、ある物に対しての作業を。




