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[第三章:星系道中―2緑彩地区]その1


『はっはっは!さぁガワだけ野郎!今度こそ思い知るといいさ!僕の成功作たる由え…ごがぁ!?』

 [第八種子]へと近づく[大道]の中。

 [チェリーヘヴィエスト]が放った腕の一撃が、性懲りもなく襲撃を仕掛けてくるサクシドの[騎装樹]へと突き刺さった。

『なぁ!?なんで動きが捉えられるぅ!?これは高速種の[スピード・ウィング]なんだぞぉ!?』

 後方へ吹き飛ばされながら叫ぶサクシドが乗っているのは、その巨躯の全体が翼と装甲でできている[重級]だ。

 彼は超高速のそれに乗って飛来し、[チェリーヘヴィエスト]を、ひいてはさく達を倒そうとしている。

 だが、大き目の[スピード・ウィング]も流石に[超重級]の前では大きい鳥程度しかない。

 まずもって脅威とは言えなかった。

 それでも一応、さくは[チェリーヘヴィ]に乗り、[チェリーヘヴィエスト]の上に立ち、にらみを利かせている。

 前の真紅のように急襲してくる相手もいるかもしれない。そう言った警戒心から[騎装樹]で立つ彼女へと、[スピード・ウィング]は襲いかかってくる。

『今のはちょっとしたミスだ!成功作の僕はこんなことではなぁ!』

 大きさゆえに振り抜いた腕を戻すのに[チェリーヘヴィエスト]が手間取っている間に、サクシドは[騎装樹]を高速接近させる。

 それを、さくは静かに見つめる。

『…タイミングは』

『思いしれぇ!』

 目の前に敵[騎装樹]が来る。位置は真正面、さくの視界内の完全なる真ん中だ。

 故に、狙いはつけやすい。

『今…!』

 瞬間、[チェリーヘヴィ]は腰の木刀を勢いよく抜刀。そのまま斜めの一撃へと繋げる。

『なぁ!?』

 馬鹿正直に突っ込んできたサクシドは、的確に叩き込まれる一撃を回避できない。

 結果、[チェリーヘヴィ]を吹き飛ばすはずだった[スピード・ウィング]は木刀の一撃を受けたところから折れ砕け、二つに割れて勢いのまま[チェリーヘヴィ]を通過。

『く、これは、ただの偶然、偶然なんだ!勘違いするなよぉぉぉぉぉぉ!』

 そんなサクシドの、何度目か分からない捨て台詞と共に、真っ二つに[スピード・ウィング]は急速に失速し、[大道]の壁に激突。

 [チェリーヘヴィエスト]はその横を早急に通り抜けていき、すぐに敵の姿は見えなくなった。

『…ふぅ。相当弱いのに、懲りない奴…』

 さくは、安定して瞬殺しているサクシドにそんなことを言いつつ息をつく。

 [漣湖面]や真紅の一件から一週間程。

 二度目のサクシドの襲撃を危なげなく潜り抜けたさく達は、順調に[第八種子]へと近づいていた。

 モモナの公算によれば、このままの速度で行けば後四日ほどで[第八種子]の入り口へと到達できるらしい。

 そこを抜けてしまえば、例の大会の会場には、二日とかからないで着くことができるという話であった。

 大会が開催されるのは、今から十日後。時間としては十分残されている。

 それでも、サクシドら追手を確実に引き離し、あわよくば完全に撒くため、さく達はやや早足での移動を続けていた。

『…けど、高何度も戦っているとさすがに息が詰まる…』

 さくは[チェリーヘヴィ]を、二度にわたって入り口を直した格納庫へと戻しながら呟く。

 旅の初日からして、[漣湖面]や[第八種子]、真紅などと戦い、その後はサクシドの相手も二度していた。好戦的な面があり、戦いを嫌っているわけではないさくとしても、流石に息が詰まるところがあった。

『…けど、気分転換なんてできる?』

 一応、[チェリーヘヴィエスト]は彼女らの家でもある以上、私物はあり、息抜きができなくはなかった。

 だが、そもそもさくにはちゃんとした息抜きになるほどの趣味はない。

 ミスリィのように、訳の分からないことやつまみ食い、盗み食いなどを常時やって、常時息抜きしていられるような性質でもないため、ストレスはそこまでの多量ではないとはいえ溜まっていく一方であった。

『…う~む』

 さくは唸ってから操縦席を出、使い捨ての[保護衣葉]とヘルメットを脱ぎ、近くにあるごみ箱に捨てる。

 全てが植物であるが故、使い終わった後は肥料として再利用するためだ。

 いつものようにそうし、[保護衣葉]の下に着ていた普段着のみになったさくは、格納庫の入り口から覗くくらんの下へと行く。

「…さく。大丈夫でしたか?」

 くらんは心配そうにそう言う。

「うん。相手はサクシドだったし。あれは…真紅の奴と違って雑魚だし。倒すのは全然」

「そうですか…」

 くらんはほっと息をつく。

 ここ最近、くらんは何かあるたびにさくのことを気にかけるようになっていた。

 初日にさくがやられかけたことで、さくが如何に危険なことをしているかを再認識したことが、そのきっかけだ。

 彼女によれば、その際に自分は安全圏にいて一方的に守ってもらうしかないことに、引け目と罪悪感を今更ながらに覚え、さくに対して自分ができることはしようと思ったとのことだ。

 その結果、初日にさくの怪我を手当てしたり、疲れで寝坊したさくを起こしに行ったりなど、世話を焼くようになっている。

 …ちなみに、さくだけでなくやっちゃん達にも、寝床や食事を提供してもらっている事などへのお礼として、くらんは自ら、細かな手伝いなどをしばしば行っていた。

「…お腹空いたりしてませんか?もしそうなら、やっちゃんと一緒に作った軽食があるんですけど」

「軽食…か」

(気疲れしてるせいか、言われてみればお腹空いてる気も)

 そう思ったさくはくらんの言葉に頷き、

「じゃぁ、貰おっかな」

「分かりました!それじゃぁ一緒に来てください!」

「うん」

 くらんに連れられ、さくは後ろ手に入り口の扉を閉めた後、廊下を進む。

「それで軽食って?」

「はい。おにぎりです。今回かなり上手くできまして。やっちゃんの的確な指導のおかげです」

「へぇ」

 ここ数日、くらんはそれまでの恩返しのため、やっちゃんの手伝いをし、料理づくりなどをしていた。

 その中で、手伝いをするためには必要だからと彼女から料理を習いもしていた。

 今日、その成果が出、最初に一度握った時は不格好だったおにぎりが上手く握れたらしかった。

「味見もしましたけど、やっちゃんから悪くないって言われました。だからぜひ!」

「うん。それじゃぁ楽しみにさせてもらう」

 軽く笑って言うさくに、くらんは嬉しそうに笑い、台所へと向かって言った。

 …と。

「…ん?なんか聞こえる」

 さくはふと、廊下の先に見える台所の入り口から音を聞きつける。

「あれ、なんの音でしょう?」

 くらんは首を傾げながらさくより少し先行し、台所を覗く。

「…あ、やっちゃん。何をしてるんです?」

「…どういうこと?」

 続いて台所の入り口に来たさくは、言いながら中を見る。

 そこでは、やっちゃんが四つの腕をせわしなく動かしながら棚の中を見て回っていた。

「…不味いなぁ…」

 二人が見ているのも気づかず、やっちゃんは下の腕を組んで唸る。

「これは良くないな。どっかで補充せんと。このままじゃ明らかに足りへん」

「…あの、やっちゃん?何が足りないんです?」

「…ん?ああ、くらんとさくか」

 二度目のくらんの言葉でようやく二人に気づいたやっちゃんは、振り向いて肩をすくめる。

「いやな。ちょっと食材の量を確認しとったんやけど、どうも食材がほぼ全体的に足らんくてな。急いで[準種子]を出発した関係で、貯蔵量が十分じゃなかったんや」

「え、それじゃぁ」

「そやな。このままじゃ一日三食どころか一日零食の状況になってまう。今日ぐらいは量の調整で何とかなるかもやけど、[第八種子]に行くまでは流石に、な」

「…それは不味いですね」

 さくやミスリィと言う消耗する戦闘要員が居る以上、食べるものがないというのは、通常よりもさらに大きな問題となる。

 初日のように、必ずしも[チェリーヘヴィエスト]だけで襲い掛かる脅威に対応できるとも限らないため、戦闘要員は常にできるだけ元気でいてもらわなければなら居ないが、食料がなければそれは叶わない。空腹はその分元気をなくさせ、実力の発揮に悪い意味で影響してしまう恐れがあるからである。

 そして、そうなれば、[チェリーヘヴィエスト]の関節が固められた時のようなことが起きた際、防衛が満足にできなくなるかもしれない。

 単純な空腹問題に加えてそのことも考えると、食材が足りないという状況は決して無視できないし、軽視できない問題であった。

「…なんとか調達せなならんねんけど」

「近くに、そういう場所ある…?」

「…あったらいいんですけど…」

 三人が腕を組んで唸り、それを横目で見るミスリィが廊下を漂う、そんなときだった。

『…皆さん。どうやら幸いにも、そういう場所が近くにあるようです』

『え…?』

 三人は、モモナの言葉に顔を上げる。

『ひとまず、窓のあるところへ』

「わ、わかったわ…」

 三人はモモナの言葉に従って、廊下を少し進み、窓のある所へ行く。

 ちょうどそのタイミングで、道の先を見やすいようにと[チェリーヘヴィエスト]が巨体を少し斜めにする。

 そうすることで、三人は窓の外の景色ははっきりと見ることができた。

「これ…」

 彼女らの視線の先。そこには緑で彩られた、巨大な街並みが存在している。

 [大道]の一角を覆うように存在するそれは、その活気を表すかのように、上部にぶらさげられた[陽華]を模した照明によって照らされ、瑞々しくも鮮やかに輝いていた。

 やっちゃんはその光景を見て、

「もしかせんでもこれって…!」

 驚き半分、嬉しさ半分の声で言う。

 それに、モモナは答える。

『はい。…[緑彩地区]ですね』

 [緑彩地区]。それは[大道]を修復するための大規模な作業の結果構築された場所である。

 ゆりのような[漣湖面]のリーフル達は[大道]を修復するにあたって、その損傷が広範囲に渡るときは巨大な植物を植え、それに強固な根を張らせることによって[大道]の損傷個所を直す。

 その場合は一定期間その場にとどまり、植物が完全に根を張り、そこに息づくまで管理をするのだ。

 この活動の期間は場合によっては数か月に及ぶこともあり、そのために作業地には一定以上の規模の生活拠点が築かれることとなる。

 そこに他の[種子]のリーフルが移住し、[漣湖面]のリーフルが離脱した後も生活を営むことで、修復の作業地は場合によっては大きな都市となる。

 [第二種子]関連で[種子]内にいるのが不安がられることもある昨今、作業地に移住するリーフルも決して少数ではなかったので、都市構築まで行くのは現在の[大道]内においては多いという程ではないにしろ、少なくもない。 

 今さく達の目の前にある[緑彩地区]も、そういった少なくない事例に当てはまる場所の一つのようであった。

 街は遠目に見ても活気があり、当然店も多くあるように見える。

『あそこならば、食料や、その他不足する物資を買えるはずです。いかがいたしますか、やっちゃん?』

 モモナの問いに、やっちゃんは笑顔で言う。

「勿論、行くで!またとないチャンスやし、この際できるだけ買い込んどこ!」

「確かに」

「そうですね」

 さくとくらんも、やっちゃんの言葉に同意する。

『なら、決まりですね。あの[緑彩地区]へ…』

 モモナは宣言する。

『買い物に行きましょう!』

 それに、三人は次々と返事をするのだった。


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