[第二章:星系道中ー1]その4
『とまれぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇ!!』
少女の声が響く中、多数の[騎装樹]が[大道]に到達した[チェリーヘヴィエスト]を取り囲むのを、モモナは見た。
(これは…)
見える[騎装樹]はいずれも[軽級]か[中級]だ。形は尖った三本の脚部の上に、チューブ状の袋の付いた腕に、半球型の操縦席がついている、というものである。
明らかに戦闘用ではなく作業・工事用のそれらは、半分剥き出しの操縦席にリーフルたちを乗せ、敵意を示すかのように腕を上げて[チェリーヘヴィエスト]に向けている。
(…この[騎装樹]…。相手はサクシドたちとは違う…これは…!)
[騎装樹]への深い知識を持つモモナは、画面に映るそれらの形状から、自分たちが何に遭遇してしまったのかを察する。
(厄介な連中に絡まれてしまったようだね…)
モモナの視線の先、画面にうつる景色が上の方へと移動する。外の光景を捉える器官の角度が変わったのだ。
それによって、[チェリーヘヴィエスト]を含めたこの場の全ての[騎装樹]を見下ろせる位置に、一体の[中級]が浮かんでいるのが見える。
形は他のものとあまり変わらないが、腕はチューブ状ではなく[チェリーヘヴィ]などに近い、比較的普通の腕だ。
そして、大き目のそれらに挟まれるように存在する、前面が剥き出しになった操縦席には一人の少女がいるのが見える。
(彼女は…)
その姿をモモナが確認した瞬間だ。
少女はいきなり、備え付けられた拡声器越しに叫んだ。
『いい?とまる。とまるの!とまるのよ!そう、停止!その図体の動きを止めさせなさい!止めろ!』
生来の気の短さを示すように矢継ぎ早に少女はそう言い、眼下の[騎装樹]へと指示する。
『一班、左後ろ脚!二班右後ろ!三班!左前!四班は左上!……監視!』
有無を言わせないが、不思議と聞く気になる鋭い指示を受けた[騎装樹]達は、[チェリーヘヴィエスト]の各部をマークしていつでも手を出せる状態になる。
先ほどの止まる命令を無視すれば、その瞬間に攻撃するぞといわんばかりである。
その状況を素早く構築した少女は操縦席の中でポニーテールの黒髪を揺らし、
『分かる?この状況が?見える?彼らが?理解できる?逆らえばどうなるか?』
脅すような口調で、というか実際脅して彼女は言う。
『…はい。理解いたしました』
そう静かに言い、モモナは[チェリーヘヴィエスト]の操作の一部を放棄。
巨大の足と腕の動きが止まる。
『よくできたわね。理解が早いのはいいわ』
満足げに言う少女を見据えながらモモナは言う。
『…名乗ることをお許しください。わたくしはこの[騎装樹]の操縦者、モモナと申します。よろしければ、そちらのことをお教えしていただいてもよろしいでしょうか?』
丁寧な口調でこそあるものの、どこか警戒色のある言葉に、少女は長いポニーテールの黒髪を揺らし、答えた。
『私はゆり。いい?ゆり!それが私の名前よ!そして私と、彼らはね?よく聞きなさい!』
『はい』
少女…ゆりは宣言する。
『私たちはね、この[大道]を維持する者たち…[漣湖面]!そして守る者でもある!』
『守る…』
『ええ!最近の情勢で壊されがちな[大道]を守るね!あんたらみたいな危険な連中からねぇぇ!!』
そう、彼女は勢い良く言い放った。
▽―▽
「これは…」
くらんと共に、部屋の画面に映るものを見たさくは目を細める。
「…さく」
くらんは不安そうな声を上げ、衣装を握ったまま、さくの服の袖を掴む。
「…サクシドの仲間が、待ち伏せをしていたんでしょうか?」
「…さぁ。それは分からない」
さくが画面から視線を離し、部屋の窓を見る。
そこからは、外に浮かんでいる[漣湖面]の[騎装樹]が見えた。
いずれも臨戦態勢に見える。
ゆりの名乗りが、壁越し故に聞こえていなかったさくとくらんは、前者が警戒、後者が不安の目でそれらを見る。
「…さく。どうしましょう…」
「…とりあえず、このままじゃなにかあっても対応できない」
(無重力じゃ、私は上手く戦えないし)
さくはサクシドを容易に退ける実力を持っているが、それは重力下を基本とする。
無重力のここでも、戦えないということは決してないのだが、やはり勝手の違いは実力の発揮に少なくない程度に影響する。
もし、急に外の[騎装樹]が侵入からの攻撃を仕掛けてきたら、いつぞやのようにくらんを守って戦うのはやや厳しい。
少なくとも、それを完璧にこなす自身までは、さくにはなかった。
(とりあえず、リビングに…)
そう思ったさくは、くらんの手を握る。
「くらん。とりあえずリビングに行こう。こういうときは、そこに集まるってなってるから」
「そ、そうなんですか?わ、分かりました。行きましょう」
くらんが頷くのを見たさくは、彼女の手を引き、外の[騎装樹]の動きを警戒しながら部屋の入口へ移動する。
(…気づいてない)
どうやら、相手は[チェリーヘヴィエスト]という[騎装樹]の腕や足という目立つ部分(あるだけで武器となり得る部位)に気を取られてるようで、さく達にはまだ気づいていないようであった。
それを理解したさくは、これ幸いとくらんを連れ、家の中を移動する。
ただし、油断はしないようにし、ちらちらと窓の外の様子を伺ったり、外から丸みのところは早く通過したり、窓から見える[騎装樹]が多いところは物陰を活用したりと、慎重に行く。
それは上手く行き、どうにか二人は外からは見えない[チェリーヘヴィエスト]の中心部分にある、リビングへと辿り着いた。
「…さく。ここまでありがとうございました。さくの的確な判断のおかげで、バレずにいけましたよ」
リビングの扉を後ろ手に閉め、くらんは言う。
「別に、これぐらい気にしないで。…さて」
さくはくらんに言葉を返してから、リビング内を見る。
大きなソファーや机が置かれた広いその空間には、左側にやっちゃんが料理をするためのキッチンやその近くの食卓があり、反対側には巨大な画面が存在していた。
そこには、モモナが今話している相手、ゆりの姿が映っている。
(…あれが、周りの連中の頭?)
などと推測していたところで、聞き覚えのある声がかかる。
「…お、来たようやな」
「あ、やっちゃん」
「無事だったみたいですね」
さくとくらんは声に反応し、向かい側にある二つ目の入り口を見る。
そこから入ってきたやっちゃんを見、二人は少しほっとした。
「…ミスリィは…あ、おるやん」
やっちゃんはそう言い、天助を見上げる。
その言葉に釣られてさく達が視線を上に寄こすと、
「…えっと、転がっているというか、ですかね…?」
ボールのように縮こまったミスリィが真顔で浮いていた。
ただ浮いているというわけでなく、やや画面側に流れていっている。
随分と珍妙な光景であり、それを見たくらんは反応に困っているようだった。
が、さくとやっちゃんはあまり気にしない。
「また変なことやってる」
「いつもどおりやな。…あ。くらんは、あんまりミスリィの奇行、見とらんかったっけ?」
ミスリィから視線を動かしたやっちゃんに、くらんは頷く。
「あ、はい。そもそもミスリィとはあんまり喋ってないですし」
「それもそやな。ならしゃーないか」
やっちゃんは納得した様子で頷いた。
「…それはいいけど。どうする?」
さくはミスリィのことは放っておき、二人に言いながら画面を見る。
「あの集団。敵なのか、そうじゃないのか分からないけど」
「そやな。まぁ見た感じ味方ではないやろな。敵かは微妙やな。攻撃はしてきとらんし。…だからあんまり身構え過ぎてもやで、さく」
その言葉で、無意識に力んでいたさくは少し肩の力を抜く。
「…確かにそうかも」
「そや。そんで、相手がどうなのかの答えは聞けばええ」
そう言うと、やっちゃんは画面の上の方を見、声を上げる。
「なぁ、お母さん!」
『……はい、どうかなさいましたか?やっちゃん』
少し遅れてモモナの返事が来る。妙な間は、先に会話していたゆりに断りをいれるかなにかしたのだろう。
『聞きたいことが?』
「そや。この周りにいる連中がなんなのか。なにをしようとしているのか。うちらにも教えてほしいんや!」
「うん。教えて」
「私も教えてほしいです、お願いします」
「……ぱぁ」
「真剣な時にわけわからんこと言うなや!」
真顔で変なことを呟いたミスリィにやっちゃんがツッコミを入れたところで、モモナから返答が来る。
『はい。分かりました。それに丁度、こちらからもお伝えしようとしていたところです』
画面の左下が揺らぐように変わり、モモナの小さめの映像が差し込まれる。
その後、彼女は瞬きをしながらゆりから聞いたことを話し始める。
『上にいて指揮をしている彼女、ゆりさんを含めた[チェリーヘヴィエスト]の周りにいるリーフル達は[漣湖面]。[大道]の補修を行うリーフルの集団、その一部です』
その言葉に、やっちゃんが納得の表情を浮かべ、さくが少し遅れてその組織の存在を思い出したところで、くらんが言う。
「[大道]の補修ですか?」
『はい。[大道]とはそもそも[星系樹]の古い道管を使ったものです。つまりは、そもそも古く、劣化しているところがあります。それを放置して道として使うのはあまりよいとは言えないのです。だからこそ、彼女らのような直し、維持する者がいるのです』
「ま、[漣湖面]が直すのは、古いってことだけが理由じゃないのやけどな」
「?どういうことですか?」
首を傾げてのくらんの言葉に、やっちゃんは答える。
「最近、[第二種子]の移民やらなんやらの事情で、あちこちで[騎装樹]による戦闘が起こってるんよ。それは[種子]・[準種子]に限らず、その外や、ときには[大道]で行われることもあるんや」
「[大道]で…。なるほど、それでですか」
[騎装樹]による戦闘のために、戦場となる[大道]が傷つくこともある。
その傷を治し、道を直すためにも、[漣湖面]は活動しているということである。
「そういうことや」
やっちゃんは笑って頷く。
「…けど、じゃぁ」
くらんは、話の理解はできたものの気にかかることがある様子で画面を見上げる。
そして、聞いた。
「…どうして、修理屋みたいな方たちが、私たちを包囲なんてするんでしょうか?」
(…確かに。どうしてそんなことを…)
くらんの疑問の言葉を聞いたさくがそう思った時だった。
『だからそれはね!分かる?自覚してる?理解できてる?あんたたちが、[超重級]なんて決戦兵器持ち出してる危険な連中だからよぉぉぉぉ!』
『!?』
急な怒声に四人は驚く。
その後に、申し訳なさげなモモナの声が聞こえてきた。
『申し訳ありません。内緒話を防ぐため、さく達の声も聞こえるようにしろと言われていまして』
「…な、なるほどな。それでうちらの会話に急に入ってこれたと」
『そういうことよ。分かった?』
画面でゆりが腕を組んで言う。
それに四人はそれぞれに返す。
「あ、ああ!分かったわ」
「うん」
「は、はい…」
「…うるさい」
『なに?』
ゆりの目つきが鋭くなる。
「ミスリィ黙っとれ!」
「げふっ!?」
飛び上がって繰り出されたやっちゃんの蹴りに、ミスリィは近くのゴミ箱に突き刺さる。
どうやらその一撃で気絶した様で、不格好な花のような体勢のまま沈黙した。
「…ふぅ。失礼したな。口の悪い奴は処理しといたわ」
『…ふん。まぁちゃんと処理したなら別に構わないけど』
突き刺さったミスリィにくらんが何とも言えない視線を向ける中、ゆりは悪くなりかけた機嫌を直し、そう言った。
『…さて。さっきの話の続きよ』
「続き…ああ。うちらが危険って話か?」
『そうよ。あんた話が分かるわね。よくよく、分かってるわ』
「そりゃどうもや」
と言うやっちゃんの返答を聞いてから、ゆりは再び話し出す。
『それで、よ。私たち[漣湖面]はね、あんたやモモナが言う通りのことをしているけどね。だからこそ、あんたらに聞くことがあるわ』
「なんや?」
『なんでしょうか?』
やっちゃんとモモナの言葉に、ゆりは視線を鋭くして言い放つ。
『あんたたち、[超重級]なんかでなにするつもり?まさかここで、戦う気なんてないでしょうね?』
「なにって、言うとな…」
どう言おうかやっちゃんが思案し、黙ったところで、代わりにモモナが説明を行う。
『…いわば、旅行です。わたくし達は、[第八種子]のある街へと向かおうとしています。それだけ、それ以上のことは、一切ありません』
モモナは曲解するような余地を持たせないようにか、かなり力強く言い切る。
だが、ゆりは素直に信じようとはしなかった。
『本当に?その[超重級]は決戦用の兵器でしょ?だいたい積んである砲撃用の武装こそないみたいだけど、戦闘力があるのは違いない。それに乗ってるあんたらの目的が旅行?嘘くさいわね』
画面上のゆりは、露骨にモモナたちを疑っているのが分かる表情で続ける。
『それ、真の目的を隠すための嘘じゃないの?…あんたら本当は、どっかの[種子]の統治勢力の兵士とかじゃないの?』
「…いや、それはちが」
否定しようとするやっちゃんの言葉は最後まで続かない。
ゆりはかき消すように叫ぶ。
『誤魔化すな!嘘つくな!ほんとの事言いなさい!あんたらはここでの戦いを誘発しかねいような、危険な連中なんでしょうが!』
「…だめや、あんまり話通じひん」
「そうみたい…」
やっちゃん達の主張などお構いなしのゆりに、やっちゃんとさくは諦めの表情を浮かべる。
そんな彼女らの様子を知ってか知らずか、ゆりは続ける。
『いい?タイミングよくあんたらみたいのを通りがかりに見つけた以上、見過ごすなんてないんだからね!今ここで、なにも起こせないようにしてやるんだからね!分かった!?理解した!?わよね!?』
「く…不味い流れやな」
『ゆりさん。どうかこちら側の話を…』
『やかましい!繊細な[大道]を傷つける…あんたら[第二種子]やらなんやらの揉め事連中のことは、決して許さない!逃がさない!処す!そういうこと!なのよ!』
『…くっ』
モモナが悔し気な声を上げる。
『さぁ、覚悟しなさい。今すぐにあんたたちを粉々に粉砕するのを呼んであげるんだから、ね!』
言って、ゆりは目を閉じながら[大道]の上の方へと右手を上げる。
(…不味い。何かが…!?)
さくは直感的に危険を感じ取り、身構える。
やっちゃんもまた、何かしらの脅威の襲来を予感し、身を固くする。
そして、そんな彼女らの視線の先で、ゆりは目を思い切りあけ何かを叫ぼうとする…その瞬間であった。
「ラララ…」
『?』
急に聞こえてきたメロディに、ゆりは動きを止める。
『なに…?』
そう困惑する中で、メロディは…くらんの歌声はゆっくりと流れだす。
「…ラララ…ラ…」
見てください 聞いてください 私の声を
どうか ゆっくりと
私のこれは まだ きっと 上手ではないかもしれない
けれど 私は歌います だって伝えたいから
私の想い 私の気持ち そっと その心に
私は そうしたい
だから 今だけ お願いします
バックコーラスはない。
ただ、くらんという少女一人の歌声がリビングに、ひいてはそこにある拡声器を通し、[チェリーヘヴィエスト]の外へと流れていく。
優しく、柔らかく、ゆったりと、澄んだ声が、広がっていく。
まるで、ゆりを含めた[漣湖面]の面々に落ち着いてと語り掛けるように、その歌声は響き渡って至った。
『…。どういう、ことよ』
歌が終わり、くらんが口を閉じところで、ゆりは戸惑いを隠せない様子でそう言う。
それに、くらんは静かに答えた。
「…私のため、なんです」
『…どう、いうこと?』
何度か瞬きをして言うゆりのことを画面越しに見ながらくらんは言葉を続ける。
「…モモナさんも、さくも、やっちゃんも、ミスリィも。全員が私のために[第八種子]に向かおうとしています。…今みたいな歌…私がやりたいことのために」
『……』
「…私は歌いたい。歌姫と言うものになりたい。そのためのコンテストの会場まで、さく達は私を守り、連れて行ってくれようとしています。それだけです。ただそれだけなんです。本当に」
『…』
「だからどうか、信じてください。ゆりさん。さく達はそんな…悪い人たちなんかじゃ、決してないんです。優しくて、暖かい人たちなんです…」
きっと怖いのだろう。
顔をやや引きつらせつつ、それでもくらんは必死に言う。
相手に見えているのか分からないのに、律儀に頭を下げ、ただ訴えかける。
さく達はゆりの決めつけるような者たちではないのだと。
既に、くらんの歌によって攻撃の気を削がれていたゆりは、その訴えに少し考える素振りを見せる。
そして、十秒ほど経ったところで、彼女はさく達に問う。
『………本当に、そうなの?』
「そう。私たちはそのために行く」
さくは画面上のゆりを見て言う。
それにやっちゃんも、そやと言葉を添え、モモナもその通りですと言った。
ゆりは、それらの言葉を聞き、さらに数秒の間思案する様子を見せ、呟く。
『…嘘は言ってなさそうな気がするし…。歌姫志望の奴の言う通りかしら…』
それからゆりは吐息し、さく達に向かって言う。
『確かに、そうかもね。そんな気がする』
落ち着いた様子で、ゆりはくらんやさくの言葉に納得した様子を見せる。
そして、それを示すように、指示を飛ばす。
『……みんな、解いていいわよ』
その言葉で[チェリーヘヴィエスト]を取り囲んでいた[騎装樹]は離れていく。
それから、素早くゆりの[騎装樹]の下あたりに集まった。
「…くらん。顔上げていいと思う」
「…あ、はい」
さくの言葉に、くらんは顔を上げる。
「…あ。…分かってくれたって、ことですよね?」
くらんは、画面上のゆりを見ながら、少し不安げに言う。
『ええ、まぁ。一応分かったわよ。…悪かったわね』
少しバツが悪そうにゆりはそう言い、
『…粉々にするのはやめとくわ。だから、行きなさいよ』
「え?」
『通すってことよ。行きなさい。私たちが直し、維持するこの道を。私達はそれでいいわ』
「…ゆりさん」
くらんは不安げな表情から一転して笑顔になり、
「ありがとうございます!本当に!」
そう、お礼を言った。
それに画面上のゆりは、少し居心地が悪そうに、しかし悪い気はしていない様子で頷く。
『…それでは。行かせていただきます』
モモナの言葉と共に、停止していた[チェリーヘヴィエスト]が動き出す。
その様子を仲間と見守りながら、ゆりは言う。
『まぁ、行ってらっしゃい。…[大道]に被害出すような奴らとは、会わないといいわね』
「はい!ありがとうございます!」
危機的状況からの開放か、それとも話を分かってもらえた嬉しさか、少し目尻に涙を浮かべながらくらんはそう言った。
そんな彼女に、やっちゃんとさくは言葉をかける。
「ありがと」
「ありがとやで!」
「……?どういう状況?」
ゴミ箱から顔を出したミスリィだけが首を傾げる中、[チェリーヘヴィエスト]は[大道]の床を踏みしめ、その巨体を前へと進めていく。
それを、ゆり達は手を振りながら見送る。
そうして本格的な[種子]間の移動が始まる中、やっちゃんは言う。
「いやぁ凄かったなぁ、くらん。くらんがあそこでやってくれへんかったら、うちら一巻の終わりやったわ」
「うん。確かにそう。これは完全にくらんのおかげ」
(本当に助かった。…くらん弱いところをよく見たけど、こういうとこもあると…)
そんなことを思いながら労うさく達に、くらんは答える。
「あ、はい。…と、咄嗟に。…私のために始めたことのせいでさく達が死ぬことになるのは…って思って」
深い考えなどない勢いの行動だったとくらんは言う。
だがそれでも、いや、むしろそうであったからこそ、さく達は助かったところがある。だからこそ、さく達はくらんに純粋な感謝をする。
「あはは!ほんとありがとな、くらん!」
言って、やっちゃんはくらんを抱きしめた。
「あ、はい…!」
それにくらんは驚きつつも、自分より小さなやっちゃんの体を受け止め、微笑んだ。
(…距離近いのは一番気が合うからかな?)
などと、さくは二人の様子を見ながらそう思った。
「…さてと、や。これで本格的に[第八種子]に向かって進めるな」
やっちゃんはくらんから体を離して言う。
「そうですね」
「うん。後は追っ手だけ警戒していればいいと思う」
「…つまみぐいしたい」
そんな風に落ち着いた会話や、間の抜けた独り言がリビングに響く。
ここからしばらくは穏やかな旅になる。
そんなことをぼんやりとさく達が考えるその時だった。
…何かが[大道]の床を粉砕し、飛び込んできた。
『………!』
(…今度は何!?)
そう思い、画面を見たさくの目に映ったのは、
「これは…!」
白よりの銀色の巨体。背中に袋型の推進用装備をつけたそれらが、それぞれの得物を持って、頭部にある目を光らせる。
『逃がさん…』
そう操縦者が呟くそれらは、多数の[重級][騎装樹]であった。




