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プロローグ

文章下手ですが読んでいただけると幸いです。

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 リゼルハイム王国、ここは端的に言えば世界一の国だ。建国してから約1000年、他の国が戦渦の中であろうとも、一度も国が傾いたことはない。むしろ、世界大戦の時は先陣を切って世界を平和に導いたことで有名だ。


 それは、建国以来自他共に世界一を誇るこの国の治安維持団体、騎士(ナイト)による功績の他ならない。少々物騒に聞こえるが、その実態は穏健な組織であり、どんな凶悪な犯罪、災害ですら被害ゼロ、無血での解決を達成している。もちろん、戦争の最中であったかつてはその力を武力に注いだこともあったが、平今では国民が安心して暮らせるための平和の象徴となり、全国の子どもたちの憧れでもある。


 そんな歴史ある騎士団は、国民の安心安全のために平和な今でもいざという時のために鍛錬を怠らない。武力に用いないだけでその実力はやはり今でも折り紙つきだ。その証拠に、宮殿の庭では今日も1人の少女の声が朝から高らかに響いていて・・・


「998・・・999・・・1000!!」


 銀の刃が空気を切る音とともに朝空に響く、少女の勇ましい声。まだ太陽が見えかかったころなのに、少女は重い剣を持って素振りを今日も1000回こなしている。


「少し休んで、次は筋トレだな・・・」


 滴る汗を白のタオルで拭い、彼女はそう呟いた。タオルの隙間から覗く顔は、18歳にしては完成し尽くされていた。


 迫力のある切れ長の大きな目、その瞳はどこまでも透き通った青で神秘的の一言。鼻は高く、まつ毛は長く整っている。


 さらに目を引くのは陽光が照らす銀の髪。汗の粒を弾くそれはまるで磨き抜かれた刀身のよう。


 そんな簡単に言えば、〝すこぶる美しい〟容姿の少女、シェルフィア・ローズフレイム・フルフレアはこの国の騎士だ。


 それもただの騎士なんてものではない。18歳という若さにしてリゼルハイム王国王家直属第一騎士団団長という肩書を持つスーパーエリートだ。自分より2倍以上も歳の離れた大人を従わすその仕事ぶりは圧巻の他ない。


 名家の父、母の元で育ち、幼い頃から弛まぬ努力を積んだ結果、国内トップの大学を13歳で首席合格し、その後も圧倒的な実力でメキメキと結果をあげ、この若さでそんな役職についたというわけだ。


「ふぅ・・・素振りも筋トレもランニングも終わったし、シャワーを浴びて朝食だな・・・平和だからといって慢心しては我々(ナイト)の歴史に泥を塗ってしまうからな・・・決して休んでは、自分を甘やかしてはダメだ・・・」


 シェルフィアは自分に言い聞かせるように独り言を呟くと、汗を拭い、王宮の中へ入って行った。


「ふぅ・・・」


 カーテンで仕切られたシャワールームの内側で、シェルフィアは気持ちよさそうに息を吐く。大理石の床に反射する彼女の鍛え抜かれた肉体が彫刻のように美しい。


 並の男は凌駕するその恵まれた長身から伸びる四肢はしなやかで長く、若さの象徴である艶とハリに満ちており、筋肉質でキュッと絞られた身体から彼女の努力のほどが伺える。


 そんなモデルに負けず劣らずの抜群のスタイルにイケメンフェイスから、彼女のファンは男性だけでなく女性にも多いんだとか。もはや国民的アイドルと言って差し支えないほどだ。


 サッとシャワーを浴びると、シェルフィアはシャワールームから出てしまった。手際よく仕事用の服に着替え、王宮の廊下に出ると、1人の女性が彼女を待っていたかのように姿を現す。


「お嬢様。ご朝食のご用意はできております。召しあがりますか?」


「ありがとう、アイリス。そうさせて貰うわ。」


 彼女はアイリス・ヴァイオレット。シェルフィアが幼い頃から彼女に仕える側近。いわば侍女(メイド)である。


 シェルフィアより6つほど年上なだけだが、その実力はお墨付き。まぁ、こんなスペックのシェルフィアの世話を長年任されているという時点で察せられるかもだが。


 お世話係としての能力は完璧。その上シェルフィアを1番近くか心身ともにサポートし、昔からずっと彼女にとってはなくてはならない存在である。今は単独でシェルフィアと共に王宮に住まい、彼女の側近としての日々を送っている。


 シェルフィアは朝食を摂るため広大な自室に向かった。彼女1人が過ごすには広すぎる部屋だ。街を一望できるテラスから黙々とした朝食が始まる。本当にそれだけだ。言うならテラスの隅の方にアイリスがちょこんと立っているだけ。


 そんな殺風景という言葉が似合う空間だが、彼女らの存在だけで王宮の上品さにさらに華やかさが倍増する。美しいという言葉では不釣り合いな程に。


「ご馳走様。いつもありがとうね、アイリス。」


「お粗末様です、お嬢様。お嬢様の本日のスケジュールについてですが、午後から隣町、アルディラの大学での講義、その後は部隊の訓練、夜は週に一度の定例会議で御座います。ハードなスケジュールですが、お身体は大丈夫ですか?」


「うん。全然大丈夫よ。じゃあ午前中は自由ってことね。」


「左様でございます。私は午前の間は暫く席を外すので、何か用事があれば他の者にご連絡ください。ご不便申し上げます。ご命令があれば今のうちに承っておきます。」


「いいのよ、アイリス。あなたもたまには休みなさい。私は午前中少し街の方へ出かけるから、広場で車のお迎え頼めるかしら?直接アルディラに向かいたいわ。」


「承りました。では。」


 アイリスはシェルフィアに深く礼をしてまたシェルフィアから少し離れた位置に戻った。一方、シェルフィアはというと、どこか、ほんの少しだけ嬉しそうな表情を浮かべ大きなクローゼットを物色し始めた。


 午後には臨時講師としての仕事があるので黒に金縁のついた指導服をチョイスし、手早く着替える。


 パンツスタイルで男性らしい厳格な印象を与える服装だが、高身長でスタイルの良いシェルフィアはそれらのコーデの魅力を存分に引き出していた。


 そして最後に彼女が鍛錬で使っている使い古された剣を腰に刺してシェルフィアは部屋を出た。その表情はやはり少し口角が上がっていた。


「お嬢様、外出時はお気をつけくださいね。何なら他の者を向かわせても・・・」


「いいわ。心配しないで。」


「そう仰るなら、仰せのままに。行ってらっしゃいませ。」


「ありがとう。あとでお迎え、頼むわね。」


 アイリスが護衛を用意しようとすると、すぐさま食い気味に突っぱねる。何かついてこられてはまずいのだろうか。


 彼女の頬は彼女にもわからないほど、ほんのり薄くピンク色に染まっていた。



 ☆★☆



 王宮を出たシェルフィアは素早い足取りでこのリゼルハイム王国1の繁華街、ディルマへやってきた。通りすがりの人が男女問わず彼女の方へ憧れの眼差しを向けて挨拶してくる。その度に彼女は軽く会釈して手を振るだけなのだが、人々は皆それだけで残りの人生に悔いのなくなったかような表情をする。彼女の人気、知名度はどこまで行っても衰えない。


 そんな彼女はとある店の前で立ち止まった。看板には大きく〝武器屋アルフォート〟と書かれている。正直に言って綺麗とは言い難いその外装に、綺麗という言葉では足りない美女。受け入れ難い光景だが、シェルフィアは確かにそこで足を止めた。


(だ、大丈夫かな・・・髪型とか格好変じゃないよね・・・汗も拭いとかないと・・・)


 その武器屋の入り口のドアの小さな鏡を見て自分の姿を気にするシェルフィア。年頃の少女のようなことをいちいち気にするような人間ではないはずだが、その姿は普通の少女と変わらない。


 少し緊張した表情で重いドアを開けるシェルフィア。中からは


「はーい。」


 という青年の声が聞こえる。その途端、シェルフィアの瞳は少し緊張の色が入り混じる。


「またシェルか。いいよ。上がって。」


「・・・何か不満?必要なければ来ないわこんな場所。」


 頭を掻きながら奥から出てきたのはこの武器屋の店主、レオ・アルフォートだ。少し乱れた茶髪、よれたシャツ、眠そうな瞳はどこか残念さというか・・・親しみやすさを感じさせる。言うまでもなく、シェルフィアとは住む世界が違いそうな人間だ。


 そんな彼に妙に高圧的な態度をとるシェルフィア。自分から来た挙句、かなり喧嘩腰である。しかも、レオの口ぶり的にこれは稀なことではないようだ。


「・・・早くこれの手入れお願い。」


「はぁ・・・また手入れ?先週も来ただろ?」


 レオはシェルフィアに押し付けられた使い古された剣を渋々受け取る。そして、その刀身を慣れた手つきで丁寧に磨いていく。


 作業中のレオの前に座るシェルフィア。彼の手先をその大きな目でじっと見つめる。というか、彼の顔から目線を落としているだけのように見えるが。


「それより、いいのかこんなとこ来て。普段から俺と違って忙しいんだから休む時は休んだほうがいいぞ?」


「・・・別に。そんなに脆い身体じゃないわ。休む時は休んでるわよ。それより、あなたの方はどうなのよ。お店はやっていけてるんでしょうね?」


「まぁまぁだよ。シェルのおかげで。」


 シェルフィアの質問に顔を下に向けたまま答えるレオ。彼としては、作業に集中したいようで、あまり聞く耳を持っていない様子だ。


 こんな妙にぎこちないレオとの会話を続けていると、あっという間に時間は過ぎてしまった。


「はい、終わり。どうせ午後から仕事あるんでしょ?無理はするなよ。」


「・・・そう。わかったわ。これ、今日の分。」


 シェルフィアはずっしりと重みのある硬貨がパンパンに詰められた袋をレオの手に渡し、手入れされた剣を持って店を出た。剣の手入れにしてはあまりにも多すぎる額の硬貨を彼は渋々受け取る。


「じゃ、仕事頑張れよ。またな。」


「また用があればお邪魔するわ。さようなら。」


 結局、毎回なんやかんや出口まで見送ってくれるレオに、顔色ひとつ変えずいつもの定型文を発し、スタスタと街を歩くシェルフィア。


 早足で人がいない路地裏まで行くと、我慢の限界かのように急に顔を押さえてしゃがみ込んでしまう。


「はっ、はぁ・・・今日もダメ・・・私の馬鹿ぁ・・・」


 手で覆った顔の隙間からもわかるほどに顔を真っ赤に染め、独り言を呟く。その彼女に似つかわしくない姿は、街行く人が見たら驚くじゃ済まないだろう。


(今日こそはレオともっとお話しするって決めてたのにぃ・・・私ったらいつも緊張して強く当たっちゃって・・・目も合わせられないし・・・もうぅ・・・)


 シェルフィアは1人で悶々と自分の行動の不甲斐なさ、恥ずかしさについて悶絶する。まるでそれは恋する乙女の姿で・・・


(もう・・・なんでレオとだけダメなんだろう・・・いくら頑張ってもこの変な気持ちは治らないし日に日に強くなるしぃ・・・)


 明らかに乱れている、レオに乱されている自分のこの歯痒さ、これがわからない。普段から人に対して強い感情を持つことのないシェルフィアにとって、これは全くもって未知の感覚である。


 普段、努力や才能でどうにでもなってきたシェルフィアにとって、こうも悩まされることはこれが初めてに近かった。目的もなく彼の元へ吸い寄せられてしまう。普段通りにならない、そんな未知の感覚に、彼女は日々悩まされているのであった。


 シェルフィアは、立派な騎士であると同時に、普通の年相応の少女なのだ。本人がそれに気づいていないだけで。

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