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雛宮守

 それから時間は少し経ち、放課後。


 俺は一人でトボトボ歩き、家路についていた。


 奈桐は部活だ。


中学の時からやっていたバドミントンを高校生になっても続け、今日も練習に励んでいる。


一年の最初だし、今は球拾いが多いとは言ってたものの、それでも楽しそうだった。


 あいつが楽しそうなのはいいことだ。


 ユニフォームに袖を通し、躍動する幼馴染の恋人。


 光る汗。零れ落ちる笑顔。


 うん。やっぱ俺の彼女は世界一可愛い。好きだ。


 好きなんだけど……。


「ここまで考えても奈桐の目を見て『好き』って言えないのは何でなんだ……」


 歩きながら肩を落とし、独り言ちる俺。


 夕陽に染まる空を飛び、「かーかー」と鳴いているカラスが俺をバカにしてるようにしか思えない。末期である。


 というか本当のところ、今日一日、奈桐とはどうにも気まずくて、目をまともに合わせられなかった。


 普段ならお弁当を一緒に食べたりして昼休みを共に過ごしたりするのだが、それができなかったのだ。


 気まずい中、一応勇気を振り絞って奈桐を誘いにA組の教室まで行ったんだけど、遠くから目が合った瞬間、あいつの方から逸らしてきた。


 下をジーッと見て、頬を朱に染めてた。


 奈桐も奈桐で気まずいんだろう。気絶してたもんね、昨日。


 そんなことだから、俺も意識しまくり。


 以降も奈桐に話し掛けられず、結局会話することなく今に至ってしまった、と。


 そりゃあね、気まずくても、恥ずかしくても、奈桐の部活が終わるまで体育館近くで待ってるって選択肢も頭の中に浮かんだよ。


 けど、待とうと思って立ち止まってると、ソワソワして仕方が無かった。


 付き合い長いのに、「部活が終わった奈桐になんて話しかけよう……!?」とかいうことばっか考えまくって、気付けばこのザマだ。先に帰ってる。


 とりあえず奈桐にはLIMEで連絡しておいた。


 だから、あいつが部活終わりに俺を探すってことも無いだろうけど……けど……うぁぁぁぁぁ!


「選択肢間違った感半端ない……。うぅぅ……ごめん……奈桐……」


 はぁ、と深々ため息をつく。


 辺りを見れば、既に家まであと200メートルちょっとってとこくらい。奈桐の家のちょうど前に俺は立ってた。


 その横には、奈桐のお父さんが運営させてる【雛宮税理士事務所】がある。


 奈桐パパは税理士なのだ。数字にめっぽう強い。


 確か大学も国立出身で、高偏差値のところを卒業してる。


 だからか、小学校の時から俺と奈桐はパパさんに勉強を見てもらうことが多く、中学になっても定期テストのたびにわからない部分を教えてもらったりしてた。何なら、今でもたまにお世話になってる。


 そうやって勉強ができるってのに、堅物な感じでもなく、温和ですごく親しみやすい。


 俺も叶うことなら、将来的に奈桐のお父さんみたいな男になりたいもんだ、と思いはするんだけどな。まあ無理だ。あそこまで勉強ができるようになるとは思えん。高校の入学直後の実力テストでも下から数えた方が早かったくらいだし……。


「おーい、成くーん! おーい!」


 とまあ、そんな感じでため息交じりにネガティブなことをつらつらと考えていた矢先だ。


 事務所の二階。窓を開けて、こっちへ手を振って来る一人の男性が目に映る。


「あっ……」


 奈桐のお父さんだった。


 噂……は別にしてないけど、頭の中で考えてれば、である。まさかの本人登場。


 俺は肩を落としていたところから無理やり苦笑いし、パパさんへ手を振り返す。


 パパさんは「はははっ」と笑い、


「一人って珍しいね。奈桐は? 一緒じゃないの?」


「あ、いや、奈桐部活なんで。バドミントン」


「あぁ、そうかそうか。それで」


「……?」


 何か意味ありげな言い方だ。俺は首を軽く傾げる。


 パパさんはそれを察し、「いや、ね」と続けた。


「窓から外見てたら成君見つけてね。なんか元気ないなぁ、と思ってたんだよ。ははーん、奈桐が一緒じゃないからだね?」


「えっ……あっ、そ、それは……」


「あははっ! いーよいーよ! ナイスカップル! 小さい頃から一緒とはいえ、恋人として付き合い始めたのは最近なんだ! 今頃奈桐も部活だってのに元気無くしてんじゃない? 成君が傍にいなくて!」


 そんなことは無いと思うけど。


「ふふふっ! うん! とりあえず成君、上がっといで! 暑いし、喉も渇いてるでしょ?」


「……別に渇いてはないですけど……」


 俺がどっちつかずのような言い方をすると、パパさんは親指を突き上げ、グッドポーズを作りながら、


「聞いて欲しい話があるってとこかな?」


「っ……」


「おっけー。とにかくね、ほらほら。上がっといで。待ってるから」


 手招きされ、俺は観念したかのように頷くのだった。


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