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亡くなった幼馴染兼恋人の彼女が義妹になった  作者: せせら木
プロローグ

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12/37

ダイヤモンドの無い指輪

 奈桐パパから教わったとっておき。


 それは、花火大会の日、奈桐の誕生日に仮結婚指輪を渡すことだ。


 別に今すぐ結婚するわけじゃない。


 でも、遠い未来だって傍にいて欲しいから。


 愛の契約をするまでの日々も、俺にください。


 そんな思いを込めた、ダイヤモンドの付いていないプラチナの指輪。


 それを彼女に。奈桐に渡す。


 いつか、そこにダイヤモンドを付けられる日を願って。







 そんなとっておき作戦を成功させるために俺が取った行動と言えば、まずはプラチナの指輪。マリッジリングの値段確認だった。


 ネットで価格の相場を検索。


「……う、嘘だろ……?」


 高過ぎる件について。


 平均的な値段を見て開いた口が塞がらない。


 何……? 十万円って……。しかも、一つが十万。二つ買えば二十万ってことだ。


「け、けど、ちょっと待て。もっとしっかり価格を調べて……」


 時間をかけてネットサイトを繰ってみると、値段にもバラつきがあることが発覚。


 中古ショップとかだと一万円代で販売されてる。


 ただ、これは中古だ。


 記念でもあるし、ちゃんとしたものを渡したい。中古はやめておこう。


 となると……。


「安くて二人分で十万円くらいか……」


 十万……。二十万よりはかなりマシだけど、十万。


 率直に言ってそこまでの貯金は俺に無い。


 お年玉の分が五万円ほど残ってるけど、それでもあと半分の五万は自分でどうにかして調達しないといけないってことだ。


「っ……」


 パッと思いつく中でやれることと言えば、持ってるゲーム機を売ることと、母さんに小遣いの前借りをすること。あるいは借金をすること、か。


「バイトしようにも学校の許可がいるし、そもそも今月の末にはもう花火大会だもんな」


 給料日まで待っていられない。


 五万円。


 私物を質屋で売るしかないか。母さんにも迷惑掛けられないし。


「よし、なら売るのは……」


 部屋の中を見渡し、高値で売れそうなものを挙げていく。


 ミンテンドーのソイッチと、ポレ4。それから、ソフトは高値で売れそうなものと言えば、ナリオカートと、パケモンくらいか。


 他にも一応売れそうなソフトとか、ありったけ買取屋に持って行こう。


 これで十万に届くはずだ。


 せっかく遊んでたものを全部手放すのはかなり心苦しいけどな……。


 肩を落としながら、けれども指輪を渡した時の奈桐の反応を想像し、俺は顔を上げて店の方へ向かった。







「ありがとうございます。全部で買い取り価格五万円になります」


 ありったけのゲームを売った結果、ギリギリ目標価格へ到達。


 ソイッチやポレ4、ナリオカートとパケモン以外に、細々したゲームソフト何本か売ることになってしまったが、とりあえずはよかった。これでプラチナのリングを買いに行ける。


「ゲームショップの次は奈桐だな」


 独り言ち、LIMEでメッセージを送信。


 奈桐に、『今どこにいる?』と送った。既読マークが付くの、相変わらず早い。




奈桐:『お主、突然だな。どうかした?』

橋木田成:『突然だ。奈桐の指が触りたくなった。居場所を吐くのだ』

奈桐:『なんかへんたいっぽい……』

橋木田成:『なぜだ。指を触るだけだ。長さと太さを測らせるのだ』

奈桐:『お母さんに通報しなきゃ……』

橋木田成:『やめい。死ぬ。居場所教えてくださいお願いします奈桐様』

奈桐:『仕方ないのう。居場所は我が家。自室にて勉強中じゃ』


 謎の口調になる奈桐へ感謝し、いざ家へ。


 ゲームショップから急いで自転車を走らせた。


「奈桐~。来たぞ~」


 で、家へ着くや否やインターフォンを押し、名前を呼ぶ。


 休日だってのに、奈桐パパとママの車は見当たらない。どこかへ出かけてるのだろうか。


 考えてるうちに、ガララっと窓の開く音がする。


 あれはたぶん奈桐の部屋の窓が開く音だ。


 玄関から少し離れ、開いたであろう窓が見える位置まで移動。


 すると――


「おぉ~、よくわからないメッセージを送ってくる幼馴染が来てくれた~」


 茶化すような声音で、ニヤニヤしながら奈桐がこっちを見下ろしてる。


 普段はツインテールだけど、今日は髪の毛を下ろした状態だ。それもまた可愛い。


 俺は苦笑し、変質者っぽく手をワキワキさせ、


「指、早く触らせてくれ。メジャーとか測定機器も持って来てる」


「あははっ。うわぁ~、やっぱり変態。なんか色々本気じゃん。どしたの?」


「どうもしない。俺はただ自分の欲望に従ってるだけなのだ。プリーズ、ドアオープン」


 玄関の扉を指し示して頭を下げる。


 奈桐はわざとらしくドン引く仕草をした。


「よくわかんないけど、うん。早く入ってくれた方がいいね。今の成の発言、ご近所さんに聞かれてたら通報されちゃうよ」


「頼む。こっちはこっちでメジャーの出具合とか入念にチェックしとくから」


 言って、メジャーの線の出し入れをガチャガチャすると、奈桐は吹き出し、「待ってて」と一言。


 少しして、玄関の鍵がガチャリと開いた。扉もオープン。


「いらっしゃい、変態さん。外、暑かったでしょ?」


「ん、まあ、暑いけどあんまり気にはならなかったな。今は奈桐の指測定欲がすごいもんで。というか、呼び方よ」


「ふふふっ。今さら。ささ、どうぞどうぞ、中へ~」


 家の中へ通され、すぐに二階にある奈桐の部屋へ行く。


 昔から何度もお邪魔してる場所だ。今さら新鮮味とかは感じない。


 でも、その新鮮味の無さが、逆にすごく俺を安心させてくれた。





「……やっぱ……大好きだ……」





 奈桐の部屋の中に入るや否や、思わず想いが口から漏れ出てしまう。


「……へ……?」


 俺の前。


 引っ張ってくれるように、先陣を切って歩いていた奈桐がキョトンとし、俺の方へ振り返ってくる。


 目と目が合った。


 部屋の中はエアコンが効いていて涼しいのに、途端に顔が熱くなる。


 俺は逃げるように奈桐から目を逸らす。


 奈桐もなんとなく俺の言った言葉を理解したのか、頬を朱に染めて横を向いていた。


 会えばこうなる。


 明るい中、想いを伝えるだけでこうなる。


 俺たちは生まれた時からずっと一緒だったのに。


 好きの力は凄まじい。


 こんなにも二人を冷静じゃなくさせるなんて。


「っ~……!」


 互いに突っ立っていたところで、奈桐の方が先に動き出す。


 歩き、部屋の中心に置いてあるテーブル。その周りにあったクッションへ腰を下ろした。


 耳まで赤くなってる。


「は、はいっ。成も早くこっち来て座って? よくわかんないけど、私の手、触るんだよね?」


「……う、うん……」


「まったく~。突然私の手を触りたいだなんて、成もへんたいになっちゃったな~。ううん、甘えんぼさんなのかな? 手を握りたい、じゃなくて、触りたい、だもんね~」


 恥ずかしさを誤魔化すみたいに、一人でうんうん頷きながら早口の奈桐。


 俺はそんな彼女の姿を見て、ゆっくりと頬をほころばせてしまう。


 何度目かわからないこの感情。


 素直に可愛いと思ってしまった。


 言われた通り、テーブルの傍にあったもう一つのクッションへ腰掛ける。


 でも、それは位置を移動させたうえで、だ。


 奈桐の座っていた場所から向かい合うようにしてクッションは置かれている。


 それを自分で動かし、彼女のすぐ真隣へ置いた。そこへ座ったのだ。


「へっ……? な、成さん……?」


 ギョッとし、ぎこちない笑みを浮かべながら、奈桐は俺の顔を伺ってくる。


 普段は『成さん』なんて呼んでこない。


 俺は近くなった距離で、意地悪く疑問符をわざと浮かべてみせた。


「どうかした?」


「ど、どうかした……って……そ、その……距離が……」


「距離が?」


「っ……ち、近い……ような」


「だって、これくらい近くないと奈桐の指は丁寧に触れないから」


 わかりやすく奈桐の顔が上気する。


 湯気が出てるんじゃないかと思うほど。


「……で、でも……どう……して?」


「……?」


「ほんと……どうして私の指を触りたいって思ったの……?」


 ……どうして、か。


「……それは秘密」


「え、えぇっ……?」


「さすがに言えない。こればっかりは」


「言えないの……? どうして……?」


 ……っ。


 上目遣いで問うてくるのは禁止だ。


 たぶん無意識なんだろうけど、威力が凄い。


「どうしても、かな。ただまあ、ヒントを言うとするなら……」


「ヒントを言うとするなら……?」


「前言ってた、とっておきに関係してることだから、とだけ」


「とっておき……」


「奈桐が心から喜べるようなとっておき、準備するつもりなんだ。だから、ごめんな」


 気色悪いことを突然お願いして。


 指を触らせて、なんていきなり。


 そう付け加えると、彼女は小さく首を横に振った。


「……それならいいよ。謝らないで?」


「……うん。間違っても奈桐の指をサワサワしないと興奮が収まらなくて、とかそういうことではないので」


「…………私は……別にそういう理由で触ってくれてもよかったんだけどな……」


「へ……?」


 本当に小さい声で何かを呟く奈桐。


 俺は訊き返すが、「ううん!」と一転して強めに首を横に振る奈桐だった。


 下ろしている艶やかで綺麗な黒髪も一緒に揺れる。


 ふわりとシャンプーか何かのいい香りがした。


 ドキッとし、それを誤魔化すために関係のない質問をぶつける。


「け、けど、奈桐もさっきまでなんかしてたんじゃないのか? 学習机の上、色々ペンとか散らばってるし」


「あ……! え、えとっ、あれはそのっ……!」


「あ。そか。そういや、さっき勉強中って窓から言ってたっけ? ごめん。邪魔したな」


「い、いいのいいの! 勉強……してたのはしてたけど、別に急ぎのものでもないから……」


 何かぎこちなくて焦ってる感じだ。


「ちなみに、何の科目? 休み明けに小テストあるとか?」


「う、うぅん……。小テストがあるわけではないのですが…………科目は一応国語で……」


「国語……?」


 国語の勉強か。てっきり数学とか英語かと思ってた。


「課題……みたいなもの。とあるお話で、登場人物Aが登場人物Bにどういう思いの伝え方をすればいいか……っていう感じの」


「ふむふむ。何かそれ、哲学っぽいな」


「あ、あはは……まあ、そうだね。哲学っぽいのかも……」


「でも、俺たちのクラスでそんな課題出されたっけな? 確か、国語の担当教師って一緒だよな?」


「っ……! ま、まあ……」


 同じ石垣先生のはずだけど、あの人が課題を出すなんてあんまり考えられない。


口癖は『国語は勉強しなくていい科目だからな!』だ。担当教師がそれ言っていいのかと不安になる。


「と、とにかく、私のことはいいから! ね、はいっ! 指、触ったり、測ったりするんでしょ?」


「ん? あ、うん」


「しっかり、ねっとり、丁寧に私の指を味わうように。普通だったらそんなお願い、気持ち悪いとか言われて終わりなんだからね? 私も……成だから許すけど」


「お、おう」


 言って、奈桐は自分の手を俺に差し出してくる。


 ……のだが、何かが怪しい。


「……奈桐。なんか隠してない?」


「へ!?」


「いや、気のせいならいいんだけど。さっきからぎこちないなー、と」


「っ……! そ、それは……!」


「それは?」


 やっぱり何かあるんだろうか。


 疑念が深まり、俺は彼女へ顔を軽く近寄せる。


 でも、奈桐は……。


「っ……」


 恥ずかしそうにもじもじして、俺の質問に答えようとしなかった。


 仕方ない。


「変な奈桐。ちょっと失礼するぞー」


「えっ!? ちょっ、な、成!?」


 俺は立ち上がり、ペンやら本(?)やらが散らばった学習机の元へ行く。


 机の上を見てみると、そこには消しカスが多く残されていて、試行錯誤を繰り返して何かを書いていた形跡が見て取れた。


 課題、結構難しいんだろうな。


 そんなことを考えつつ、机の左側にある資料へ目をやった。


「……え。これ……」


「あぁぁぁぁ! そ、それはそのっ!」


 慌てて立ち上がり、奈桐が俺の元までやって来る。


 俺はそんな彼女を気にせず、目に付いた一冊の本……いや。


 アルバムを手に取り、表紙をめくった。


「奈桐、何でアルバムが今ここに? 課題やってたんだよな?」


「あっ……うっ……そ、そそ、そうなんだけど……ね?」


「……んん? 奈桐、俺、奈桐が何隠してても怒らないよ? 言ってくれよ。慌ててるの気になるし」


「んぇぇ……そ、それは……」


「あ、もちろん浮気報告とかは嫌だぞ? いや、でもそういうのはしてもらった方がいいのか……!? 隠され続けるのも心に来るし……てか、そんなの起こったら俺今すぐここで死ぬ……」


「そんなのしないよっ! するわけないでしょ!? 私が…………成のとこからいなくなるなんてあり得ないし」


「だったらどうして? ぎこちない理由は?」


「うぅぅ~……」


 目をギュッと閉じ、悶えるような声を出した後、


「や、やっぱ無理! ダメだよ! 言えない! こういうの、事前報告とかどう考えても無しだし!」


 ヤケになったように、手をバンザイして言う奈桐だった。


「そもそも、成だって私の指触りに来た理由ちゃんと言ってくれなかったでしょ? それとおあいこだもん。まだ言えない。これは」


「まだって」


「花火大会の日に言う。私の誕生日だし、やっぱりその日しかない」


「ま……まさか奈桐さん……その身に新しい命を宿したとか……?」


「そ、そんなわけないでしょ!? わ、私たち……そそそ、そこまでのことなんて……まだ……」


「………………」


 一人で鼻血を出しそうになる俺。


 いや、自分で振っといて何考えてんだって感じなんですけども。


 まあいい。この話題はもうやめにしよう。


 よく考えたら、俺も奈桐へ秘密にしてることあるし。


「おーけー、奈桐。わかった。確かに俺も指触らせて欲しい理由とか言ってないし、おあいこだな。お互い、花火大会の日は楽しみにしとこうぜ」


「うん。それがいいと思う」


「てことで、今課題やってたってのは嘘だな? へへっ、ほんとわかりやすいんだから」


「うぅっ……! そ、それは……はい。ごめんなさい……」


 シュンとし、謝る奈桐の頭の上に手をやる。


 そう考えると、俺たちはお互いにこうして頭へ手をやったり、肌へ触れることが昔から多かった気がした。


 だから、今でも好きでい続けられてるし、ドキドキできているのかもしれない。


 この手に持ってるアルバムには、そんな歴史がたくさん詰まってる。


 俺と、奈桐の思い出がたくさん。


「なあ、奈桐? いいタイミングだし、ちょっとこのアルバム見ていいか?」


「へ? いいけど……私の指のお触りは……?」


「それなら後でいいよ。今日は休日で時間もたっぷりあるし」


 指輪を買いに行くのはまた明日でもいい。今日は土曜だからな。


「……わかった。じゃ、じゃあ、私も一緒に見ていい?」


「うん。一緒に見ようぜ」


 言って、俺たちはその後、二人でアルバムを見始めた。


 小さい時の思い出を振り返りながら。隣に座り合って。


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