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第58話

「待ってくれ……頼む、助けてくれ!」


 ダンジョンのボスがここに来てまさかの命乞いかよ。

 散々消し飛ばしたいのを我慢して生かした意味はなかったか?


 本来なら無視して始末するところだが、俺は首を掴んでいた手を離した。

 ゴホゴホと耳障りな咳をする五味川に向かって言う。


「お前を見逃すことはない…ただ一度だけチャンスをやる。このダンジョンで命を落としたみんなに。お前の会社で働いていた人たちに心の底から謝罪をしろ」


「っ!? 日影、てめぇ……」


 せめて最後に責任を取るべき立場だったお前が、自分の能力不足を受け入れられないというつまらんプライドを守る為だけに現実から逃げ続けたお前がみんなに謝る機会をくれてやる。


「……ここで地面に額をつけて、土下座して謝罪しろ。そうすれば苦しまずに消してやる」


「くっ!」


  五味川は心底悔しそうに俺を睨みつけながら膝を地面つけ両手のひらを地面につけた、そして再び……。


 薄汚い笑みを俺に向かって浮かべた。


「お前らゴミクズに土下座するなんてぇ…死んでもごめんだねぇっ!」


  五味川の手の平に魔力が集まる。

 まさかコイツ、ダンジョンから魔力を吸い上げてるのか!


 ヤツの身体がどんどん膨張しだした。

 まるで水風船のようにその姿は球形に近い域まですぐに膨張する。


 コイツの目的はパワーアップじゃない、コイツは……。

 俺を道連れに自爆する気だ!


「死ねやぁあああああぁあああーーーーーっ!」


 それに対して俺は……何もしなかった。


 ボス部屋全体を震わせる大爆発が起こる、凄まじい光と爆発そして土煙が俺の視界を奪った。


「自分の安いプライドを守るためなら死ぬことを選ぶか……」


 いやそんなわけねぇよな。

 五味川お前はさ …。


 普通なら爆音で生きていても耳がおかしくなるだろう、しかし俺の耳は問題なかった。

 そして俺の耳と気配を感知するセンサー的な何かがボス部屋からの唯一の出口、俺が入ってきた門の方に移動する小さな気配を捉えていた。


 それが土煙を超えて門を抜けるタイミングで俺はそれの前に全速力を出して、瞬間移動のような速度で立ち塞がる。


 それと目があった。


「ひっ日影!? 何故バレた!?」


「ステータスがちょっとおかしくなるまでランクが上がるとな、目で物を見なくても周囲にどんな奴がいて何をしてるかくらいなんとなくわかるようになっちまってんだよ。心眼みたいなもんかもな」


 俺の目の前にいたのは身長20cmほどもない小さな小さなゴブリン。

 ベビーゴブリンだった。


 豪華な服装なんかしていない真っ裸な上に強そうな装備も持ってない貧相な身体と不細工な顔をした緑色のちっこいゴブリン。


 まさに誰もがイメージする普通の雑魚ゴブリンの小型版だな。


 それがこの男、五味川が身にまとっていた全てを剥ぎ取った後に残った唯一のもの。

 コイツのつまらん人間性が形となった何か、本来のコイツそのものだ。


 本当にヤバくなったら逃げるのがお前だよな五味川よ。


 そういやコイツ、学生の頃チンピラぶって警察に本気で捜査させる様な事件を起こしたとか言ってたな。


 警察に本気でビビったコイツは知り合いに泣きついてずっと遠くの他県まで逃げたそうだ。

 俺は本気の警察から逃げ切ったんだぜ~とか酒の席で自慢げに話してたっけな……。


 温故知新、古きを知り新しきを知ると言うが、それは話す人間も聞く人間もどちらも人間が出来てる事が条件だ。


 過去の犯罪歴を武勇伝か何かの勘違いしてる莫迦と自分が若い頃はなぁ~的な過去話をいくら繰り返し話しても…何も新しい物は生まない。


 時間の無駄だ。

 コイツの元で過ごした俺の人生の時間もな。


「まさに矮小って言葉そのものだな五味川、その姿をごまかして、隠して、忘れるためにお前は人間まで辞めたってか?」


「やめろ……やめろやめろやめろーー! 俺を見下すんじゃなねぇ、お前程度の社会の底辺の底辺の底辺が……俺をーー見下ろすなーーーーー!」


 五味川が俺に飛びかかってきた。

 成る程、これががむしゃらになると言う事か。


「死ぬ気なるのが遅すぎたな」


 俺はかかと落としを五味川の顔面にかまして地面に叩きつける。

 立ち上がろうとするヤツの頭の裏から踏みつけて強制的に土下座の一歩手前の姿勢に持っていかせる。


「お前に謝罪する意思ないのはわかってる。ならも無理やり土下座させてやるよ」


「やっやめろ! やめやがれ! 日影てめぇこんな真似して何がしてぇんだ!?」


「……お前の土下座に何の意味も価値もないのは分かってるさ……だがな、それでも謝るんだよお前は!」


 俺の中で今まで抑えていた怒りというものが吹き出てきた。

 それはマグマのようにドロリとしていて、しかしマグマすら一瞬で消し飛ばしてしまうほどの激しい烈火の如き怒りだ。


 お前という1人の人間とそのつまらない人間に群がる莫迦共のせいで。

 この会社で長年働いていた人間とこの会社に入ってきた新しい人間、一体どれだけの人々の人生を踏みにじってきたか分かるか?


 この会社をやめて新しい道を選んだ先輩たちにだってここでの記憶は消えないだろう。

 なかったことになんてならない。何よりこの会社でこの前まで働いて。

 お前たちの理不尽に必死に耐えていた俺の同期や後輩の社員たちはその挙句…。


 ここはダンジョンになって、お前たちによって命を奪われた。

 そんなクソ以下の理不尽をお前たちはこの社会で頑張って生きていた人間にしたんだ!


「…何の意味もなくても、価値もなくても、お前がみんなに土下座するのは当たり前のことなんだよ!」


 俺は足を下げる五味川の頭が地面に当たった少し力が入って額から血も出てるがまだ死んじゃいないので問題ない。


「もう一度だけ言う。お前と言うクソみたいな人間のせいでその人生を踏み躙られ、そして理不尽に命を奪われた全ての人々に、全身全霊を以て謝罪しろ」


「たっ助けブキュプッ!?」


「謝れぇやぁあっ! 五味川ゎああーーーーーーーーーーっ!」


 俺は五味川を踏み潰した。

 地面に巨大なヒビが入る。

 ベビーゴブリンの頭は完全に消滅している。


 勝敗は決まり、俺はただ無言でそこに立つ。


 そう……意味なんかないさ。

 ヤツとさんざん言い合ったとおり、こんなことをしたところで死んだ人間は蘇らないからな。

 虚しさしかない。


 ただそれでも俺にはこのクソ野郎を一瞬で消し去って、それではいおしまいなんて終わりを許せるほど人間ができていなかったんだ。


 俺は多分一生。この五味川をはじめとした碌でなし四天王の顔と名前を忘れないだろう。


 それはまるで呪いのような何かだ。

 だがそれでも俺は自分が納得できるところまでやりきりたかった、そしてやりきった。

 もはやこれ以上は何も言うまい。


 これで今回のダンジョン探索は終了だ。


【おめでとうございます。ユニークモンスター『虚栄と傲慢の緑鬼王』の撃破に成功しました。この功績により称号『ゴブリン殺し』『 王様スレイヤー』『迷宮の主の討伐者』『迷宮の破壊者』 を得ました。 新たなスキル『キングオーラブレード』を獲得しました】


 ほうやっぱりボスだけあって倒したら速攻で新しい称号とかスキルをゲットできたな。

 今度のスキルは火力は優秀でももうちょっと使いやすいもんであることを祈るね。


「……ん、これは」


 五味川の体が光になっていく、ドロップアイテムか。なら魔石だけってことはないだろう仮にもダンジョンのボスなんだからな。


 光がいくつかの塊に分けられた。

 一つは魔石。

 かなりの大きさの魔石だ、こんな大きいのなんて今まで見たこともない。

 流石はボスドロップといったところか。


 そして他にも光は動きやすそうな長ズボンに変化した。

 えっズボン? ショボっとそれを見た俺は驚いた、しかし俺はそのズボンのドロップアイテムについて心当たりがあった。


「まっまままさかコイツは!?」


 『レインボーフレア』というスキルを使う度に全裸になるという呪いをかけられた俺(今も全裸さ)。


 しかしダンジョン産の装備の中には自身のスキルによる影響を一切受けないという神装備が実在するのだ。


  そういうのが実際にいくつ発見されている。

 その情報をスマホで見ながらいいなあ~と俺もこれさえあれば全裸変態野郎を卒業できるのにと思ったことがあった。


 このパッと見は何のデザインセンスもない普通の長ズボンはそのダンジョン産の装備の一覧の中で見た記憶があった。

 ステータスが上がると記憶力も上がるのだ、おそらく間違いない。


 俺はその長ズボンを早速装備して『レインボーフレア』を使った。俺は全身が虹色に燃え上がる。


 しかし俺のズボンは健在だった。


「よっしゃああああーーーーー! ついに俺は神アイテムを手に入れたぞ!」


  俺は先ほどの暗めの雰囲気的なあれこれを全て明後日の方向に投げ捨てて、全力でドロップアイテムに喜んだ。


 だって俺は探索者だからな。

 いつまでもダンジョンのど真ん中でそんなシリアスな雰囲気出してらんねぇよ。


 そして最後に残った光の塊、これがわざわざボス部屋の真ん中にまで飛んで行った。


 何だあれは? するとその光が大きくなっていく、そしてその形が変化したのは結構な大きさの鋼鉄の箱だった。


「これっまさかトレジャーボックスか?」

読んでいただきありがとうございます。

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