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第56話

「どうだ思い知ったか! このキングハウルこそこの俺の切り札、全魔力と引き換えに放つ必殺の…」


「切り札ねぇ~~? けどどうせそんなもん効かないことくらい分かってた…いや、お前なら何も理解してなくても不思議じゃないか…」


「ッ!?」


 五味川の莫迦の言葉を無視して言い切る、ヤツの攻撃は直撃したがそれだけだ。俺にダメージはない。


 ステータスの格差が本来ある膂力やらなんやらのモンスターと人間の肉体的な能力の差をこれだけ無意味に出来るのもまたダンジョンがもたらした理不尽なんだろうな。


「何……だと……そんな馬鹿な!」


「馬鹿なじゃねぇだろ、そもそも俺に絶対に効くと思ってる一撃だったらお前みたいな姑息なヤツは開幕ぶっ放するに決まってるだろうが」


 それをしてこなかった時点で分の悪いが賭けだったことは容易に想像できる。

 そんでコイツはその賭けに見事に負けた、それだけだ。


「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなよ!? どうしてなんだ!? ダンジョンの向こうにいる存在と契約して、せっかくダンジョンの支配者になったのに、何故最初にお前みたいな化け物が来るんだ!」


「契約とかそういうことを言うのやめてくれる? 変なフラグとか立って欲しくないんだよ、無駄な労力てかかけさせないで楽に倒されろよな五味川」


 俺はこれからはこの力を使って死ぬまでローリスクハイリターンな楽して大金稼いでのんびりと暮らす人生送りたいんだからな。

 ダンジョンの向こう側の存在とか、そんなフレーズはマジでパスだ。


「ふざけるなぁあっ! なぜお前みたいな人生舐め腐ったようなヤツがそんな力を手に入れたんだ!」


「フッもしかしたら……お前という人生舐め腐ったゴミに対して因果応報ってやつを教えるためなのかもしれないな」


 俺は凛々しい感じで言った。

 当然莫迦はキレた。


「黙れや日影! お前は……オマエは黙ってぇ、オレ様の命令に従っていたあの頃に戻ればいいんだよぉおっ! さぁっ命を断て、自ら自害しろぉおっ! さっさと死ねや日影ぇえっ!」


「……はぁあ~~~たくっ」


 この状況になってでも人様に言う言葉がそんなカスい命令か……本当にコイツは救いようのない方の莫迦な二代目なんだな……。


「おいっ七光り、お前が社長になった時のことを覚えてるか? 先代の社長が急死した時のことだ」


 先代の社長の時から給料は安かった。

 だがそれでも高卒で仕事もド素人だった俺を雇って長い目で育てようとを考えてくれた人だった。


 唯一困ったことといえば、このどうしようもないバカな七光り相手でも社長という立場に据えればその立場が人を育ててくれるんじゃないかと大分バカ息子に甘いところがあったところか。


 ただ本当に社長にするかどうかやはり迷っていたな、何しろもう五十代も過ぎたいい大人がこんな脳内クソガキ状態だったから。


「お前が社長になるって言う話が出た時点で、お前が社長になったらこの会社を辞めるって言ってた人間が何人かいたよな…」


 みんな先代の社長の代からこの会社に勤めていた俺の大先輩だった…。


「ふざけるな、あんな老害どもいなくなって清々するくらいだ!」


「…その人達がここを辞めてさっさと新しい会社に転職していった、そしてこっちの方は能力のある人間が一気に抜けて例年通りの仕事もできなくなった。その結果、お前は毎日のように残業を社員に無理強いしてきたな」


「社長はオレだ、オレの命令に従うのが雇われた人間であるキサマらの当然の行いだろう!」


「そういうセリフが、てめぇの段取りのテキトーさと周囲への細かな気配りのなさが、その社員を見下したようなセリフと態度が、さらに働く人間のモチベーションってやつを奪ったんだよ」


「モチベーションなんか関係あるか! 俺が働けと言ったら100%の力で全力で働くんだよお前らは!」


「人間の全力なんていうのは数分と続かないんだ、知らないのか? テレビで偉い先生が言ったぞ」


「バカかてめえは、たかが毎日十数時間くらい全力で集中しろってんだ、全集中ってやつだよ!」


 言うことがことごとくつまらなすぎる上に不快すぎるぞゴミ野郎が。


  俺はレインボーフレアをまとった両手で手刀を放った、五味川の真似をして飛ぶ斬撃っぽいのを飛ばす。


 五味川の両腕が切り飛ばされ、燃え尽きる。

 盆暗は絶叫した、俺は構わず話を続けた。


「お前は本当に…社長とか経営者みたいな人の上に立つべき器じゃねぇよ。そうだっ安全第一って言葉知ってるか?」


「キッキサマよくも俺の腕を……っ!」


「安全第一って言葉を知ってるかって聞いてんだよ」


 俺がにじり寄ると馬鹿は言葉を改め始めた。


「しっしし知ってる! それが何だってんだ!?」


「お前はその言葉を知ってるだけなんだよな、いいか? この言葉には続きがあるんだよ」


「何……だと……?」


「安全第一、品質第二、生産第三だ。これは元はアメリカでから言われ始めた言葉でな、元は工事現場らしいが、昔の日本にきて今の言葉になったんだ」


 この言葉は100年以上も前から言われ続けている、いわば労働社会の大原則だ。

 ただのスローガンじゃねぇ。


 日本にこの考え方がもたらされたのは1912年の大正元年。

 この考え方が生まれたアメリカではかつて生産第一というのが当然だという時代があった。生産第一、品質第二、安全第三と言う時代がな。


  その時のアメリカ社会は労働者は過酷で劣悪な最悪労働環境の中で働かされ、労働災害で死ぬ人間が後を絶たなかった。


 この莫迦は、まるっきりその大昔のアメリカの生産第一主義を模範にしてるようなものだ、時代遅れよりも更に酷いレベルで話にならない。


「俺たちみたいな小さな田舎の町工場でも物作りの現場だ、生産を第一至上主義にしたらどれだけ周りに迷惑かかるのか、お前みたいな莫迦には理解できないのか?」


「キサマ……!」


 まず、生産の下に品質があるとな、いいものを作らなくて良いから低品質のものを大量に作ろうってことになるだろう。


 機械が大量生産するやつにだって最低限の品質は求められる。

 ましてや人間の手で作ったものならそれ以上のものを求めるのがこの日本って国の人間だ。


 そこで例年よりも物の質が悪くなったら直ぐに人は買わなくなる、誰もゴミに金を出そうなんて思わないからな?


 俺の言葉に心当たりがあり過ぎるどこぞの盆暗はただ黙って俺をにらむ事だけだ。


「お前は働く俺たちだけじゃなく、金を払う客も舐めてたんだよ」


 だから会社の経営がお前を代になって速攻で傾いた。


「…人間がいないからじゃねぇ、ましてや俺たちがちゃんと仕事をしなかったからじゃ断じてない! お前の客を舐め腐った態度が見透かされたんだよ五味川っ!」


 結果、会社の経営が傾いた事を理由にコイツは商品の一個あたりの単価を下げに下げて、まとめて買ってくれるところに苦し紛れに物を売った。


 俺たちの会社が売る商品の値段がどんどん下がっていった。

 働く量は増えるのに給料は一切増える事はない。


  七光りは俺を視線だけでぶっ殺すとでも言うような強烈な殺気をぶつけてくる、それをどこ吹く風といった感じで受け止めた。


「いいかこの安全って言葉には社員の心身の両方を支えることも意味してんだ」


 社員を一人の人間として扱い。

 細かいところまで気配りってやつが行き届いた会社とは真逆の物をお前は作った。


「社員を働くだけの機械か何かの人間以下の石コロみたいに扱うようなブラック企業じゃ働く意欲が天と地ほどに違うんだ」


 その意欲の差が働く人間の能力、生産性に直結するんだよ。


「そんなこともわからないからお前は定年近くになっても先代の社長がその代を任せられることがなかったんだろうが!」


 コイツは先代が死んだ後、その息子なんだからこの会社は俺のもんだろっと先代が作り、何十年と護ってきた会社をかすめ取るように社長になっただけの人間だ。


 ……ちなみに。なんでこんな殺し合いに関係のない話をずっとしてるのか、それはこの莫迦の目が全く生きる事を諦めていないからである。


 コイツは余裕がなくなると大声で叫んで逆ギレする、それでも駄目なら半ベソかきながら俺の思うとおりに動けと駄々こねるように吠え散らかすのだ。

 つまりまだまだ余裕があるってわけだ。


 ほれっ散々盆暗の心には響くこともない話をして時間を与えてやってるんだ。


 やれることは全部やりきれよ五味川……何しろ最後だからな。

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