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第54話

「バカなっ!? この結界はダンジョンの向こうにいる存在から与えられた絶対防御の力だぞ、それが……それが破られるなんてあるわけがない!」


 黙れ誠和。

 余計なことを口にするんじゃない、そういう後々に変なことに繋がりそうなフラグを言うのマジでやめてほしい。


 これ以上俺の探索者生活に変な要素は要らないんだ。

 今大事なことはただ一つ、俺は探索者でお前たちはモンスター。

 そしてここはダンジョンだという事実だけ。


 探索者はダンジョンを探索して出会ったモンスターは基本的にサーチ&デストロイ、それがこの国の法律なんだよ。

 さっ仕事仕事、お掃除お掃除といこう。


「取り乱してるところ悪いが、どんだけ無様を晒そうが俺はお前らを見逃すことはないからな誠和」


 俺の言葉に誠和ゴブリンがたじろぐ、どうやら魔法を扱えるゴブリンメイジなコイツと七光りの嫁は俺の魔力のステータスランクの高さあたりをなんとなく理解出来ているみたいだな。


 力の差をまともに理解出来るからこそ、結構序盤からビビっていた訳だ。


「たっ頼む見逃してくれ、私は初めから……本当はこんなクソみたいな事はしたくなかったんだ。五味川に従うのも嫌だったんだ!」


「せっせせせ誠和! 貴様!」


「私はただ自分よりも下に人間が存在する組織で、それなりにストレス解消をしながらいい思いさえできればそれでよかった、それだけの矮小な人間なんだ!」


 自分が矮小な人間ってことは理解できてんだな、だが殊勝な態度を気取っていても無駄だ。


「お前という人間は矮小云々なだけじゃなく完全に腐りきってる。違うか?」


「くっ! ひっ日影君、 確かに私は過去に君に見下したような物言いをしたことは事実だ、しかしそれには理由があって……」


「そんな理由どうでもいい、俺が怒ってるのは別の話だ。お前は以前この町工場に入った新人を何の理由もなく不当解雇しただろう」


「!?」


 誠和ゴブリンの表情が歪む。

 そうっお前はついさっき自分自身も言った通り、自分より下の人間がいることが組織に身を置く上で一番大事だと思っている。


 そうじゃないと自分のストレスを発散できる相手、ストレスをぶつけるサンドバッグがいないからな。

 そういうところだけは余計な頭が回る小狡い人間、それが誠和という男だ。


 過去に高校を卒業して四月からこの工場に働きに来てた青年がいた。

 しかしその青年は十二月の終わりに突然解雇を言わされたのである。


 共に働く人間とも気さくに話をして、ここで働くのにあると便利な資格なども積極的に取ろうと勉強もしていた意欲的な青年だった。

 もちろん工場にある物を壊したとか他の社員とトラブルがあった訳でもない。


 本当に何の理由もない突然の解雇だった。

 普通なら解雇は一ヶ月以上は前に言う必要がある、会社が突然の倒産にでもない限りはな。


 解雇された人間にも再就職の為の準備期間が必要だからだ。

 それを全くなんの配慮もない即日解雇通告をされた。


 その詳しい理由は不明、ただ分かった事は七光りにごまをするのが得意なこいつは五味川に色々とあることないこと吹き込んで青年を解雇させた、その事実だけだ。


 当然、不当解雇である事を知った俺はその青年と話をした。


 話聞くと青年には五味川が解雇を言い渡したわけだが、 その時に自己退職したことにすれば青年の社会的な立場を傷つかずにすむから自己退職で自分から辞めた事にした方がいいと……マジで訳の分からん事を言われたらしい。


 俺はそれは口からでまかせの戯言だということを教えた。

 俺も詳しい訳ではないが、確か働き始めて一年未満、その上で自己退職となれば失業手当すら貰えなくなる筈だと話した。


  余所から働きに来ている青年の場合、働き始めて八ヶ月間弱、とてもまとまったお金なんて貯めてるわけもなく、生活が詰みかねないことになるから話をした。


 その言葉を聞いた青年は何とか頑張って信じようとしていた人間に最後の最後まで裏切られていたことを……絶望的な表情で理解していた。


 そしてその年の年末となる。

 社会人となって初めて年末年始、青年がどんな思いで過ごしたのか想像に難くない……。


 年が明けた後、青年は弁護士の男性とともに現れ事務所の方で五味川と誠和としばらく話をしていた。

 その後、仕事終わりにその青年が俺の元に来て。


「こんなゴミみたいな会社、早々に辞めれてむしろ良かったと思います」


 そうっ晴れやかな顔をして言った、そして去って行った。

 この職場に残ってる俺ではあるが、素直に青年の前途が明るいものであること願わずにはいられなかった。


 その後数ヶ月間は五味と誠和がやたらと不機嫌に人間や工事の物に辺り散らかしていた。


「誠和……お前が一体どんな理由で、何のつもりでそんな真似を五味川と一緒にしたのかは知らん。だがな人間にはしていい事と悪い事とがあるんだ、因果応報って言葉は知ってるか?」


「やめろ、やめてくれ……私は悪くない! 底辺の人間が不幸になるのは当たり前のことだ! あの時だってこの私の失敗をほんの少しヤツのせいだと五味川に話しただけで…」


 予想以上に下らない理由みたいだな、手柄はみんな上の物、失敗は全て下の者ってか?

 ぶっ殺すぞ、八つ裂きにしてな。


「もうこの会社のルールなんて意味ねぇのさ、上も下もない。ただダンジョンで会ったお前ら雑魚モンスターが俺と言う探索者に始末される、それだけだ」


 俺は五味川の嫁の時と同様に足元に転がる通路の途中で拾っていた石ころ、あの罠とかで破壊されまくったダンジョンの天井や床の一部の欠片を誠和ゴブリンに投げつけた。


 欠片はバリアを一瞬で突き抜け、誠和ゴブリンに直撃。

 その頭を粉々に消し飛ばした。

 それをみたゴミゴブリンはひぃっと声を出してビビる。


 なあ五味川……世の中でブラック企業だなんだとろくでもない組織って呼ばれてるやつには、特徴があるらしいぜ?


 「その一つがな、ブラックな組織には世の中とは全く別次元の腐ったルールがあるんだとさ。本来ある当たり前の常識ってヤツが全くの別の物に置き換わってるんだとよ、心当たりがあるだろ五味川?」


「だっ黙れ! ここは俺の国、俺の会社だ。俺が全て正しい……俺こそがルールなんだよぉおおっ!」


「確かにお前はこのブラック企業のトップだ。ならトップのお前がしでかした事のその結果の責任は全てお前が取るんだよ、だが……お前はその責任からすら逃げた」


 だから会社の外の人間と中の人間、その全てから信用も信頼も失ったんだろうがよ、全部お前の責任だ五味川。


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