第48話
戦闘を再開する、手始めに壊れた長剣を投げつけたがやはりバリアに阻まれた。
それをみたハイゴブリン、いや腰布ゴブリンは満面の笑みで話し出す。
「無駄だよ、無駄無駄! 日影、キサマの攻撃なんてこの僕に通用するわけないんだ。諦める事をオススメするね!」
「以前から、何の意味もなく無駄によく喋るやつだとは思ってたけど。殺し合いする時までその無駄口は健在なのか?」
「……その言葉遣いはなんなの? 本当に僕を舐めてるね君、以前は言われた仕事だけを淡々こなすロボットか人形みたいだったくせに……あっなら今度は僕が命令してやるよ。僕の槍でサクッと刺されて死ね!」
ロボットや人形ね。
どうしてそんな感じだったと思う? お前と口も聞きたくなかったし顔を見たくなかったからだよ。
「お前さ、どっかの一流企業の役員のつもりか? 下っ端なのはお前も同じだろうが…おっと」
こいつ話してるの最中に攻撃してきやがったな。
禄でもないゴブリンだ、まっ俺もさっき同じことやったけど。
こっちが武器を失ったからってもう勝てる気でいるらしい、いや実際に『神殺し(偽)』の称号を持つ前の俺だったらこいつに歯が立たないで負けているだろう。
確か通常のハイゴブリンの危険度ランクはCだった筈だ。
コイツはそれのユニークモンスターな訳だからその危険度ランクがB以上の可能性もある。
生まれたてのダンジョンのくせにそのクラスのモンスターが出るって事は、やっぱり雑魚モンスターをほとんど出現させない代わりに少数精鋭で強いモンスターを配置しているダンジョンと見るべきだろうな。
ちなみにこのハイゴブリン、暫定腰布の攻撃だが俺に対して全く当たりはしないし当たってもまず効きはしない。
はっきり言ってステータス差がえげつないからだ、コイツの攻撃は目をつぶっててもかわせる。
しかしさっきからヤツの攻撃に合わせてカウンターを何発か叩き込んでいるのだが全てバリアに防がれる、やはりあのバリアはかなり頑丈らしいな。
俺の攻撃でヒビ一つ入っていない、こういうバカみたいに物理攻撃に対して高い耐性を持つバリアの場合、スキル攻撃とかに弱かったりもするのだが…。
俺は腰布ゴブリンに対してゴッドブレイクアローを使う気になれなかった。
理由は簡単でこんなダンジョンの中ボス程度にこっちの切り札を使うのは俺のプライドは許さないからだ。
だいたいこういうやたらと理不尽なダンジョンの仕様には必ず攻略法が用意されてるもんだ、それを探してみるか。
それに向こうの攻撃はいくら様子を見てもやはり何の脅威でもないしな。
「ハハハハハッ! 死ね死ね死ね死ねよ日影! キサマなんて雑魚の底辺人間は僕が人間だった時から、僕の足元にも及ばねぇ存在なんだよこの雑魚が!」
「そうか、それならお前は運がいいぞ、お前はその雑魚にやられて自分がその雑魚以下だと理解出来て消えれるんだからな」
「……黙れやぁあっ! てめえ年上の大人に向かってどんだけ舐めた口を叩いてんだ!?」
「無駄に歳食ってるかなんだってんだ? お前が俺より長年間生きしてその分、人に誇れるもんを手にしてでも来たのか? それがないなら俺が生きてるここ数日間の方がはるかに価値があるかも知れないぞ?」
「日影ぇえーーーーーーっ!」
何しろここ数日で俺の人生は目まぐるしく変わって俺自身も選択肢が多すぎて大変なんだよ。
「そもそもお前この会社に入ったの俺より後の後輩だろうが、七光りが昔馴染みだからって今までが何を偉そうにしてん来たんだよって話だろ」
「あ? 今更、先輩風吹かそうってか? そういうところが目障りなんだよキサマは!」
「……あのさ普通は会社組織っていうのは新人は腰が低くてのは当たり前だろう? 俺もそうだし他の先輩はお前は会社に来る前からこの会社を支えていた人間なんだからな?」
そんなことも分からねぇで七光りにゴマすってりゃ全部うまくいくと勘違いしてるてめぇは確実に俺より格下なんだよ。
腰布ゴブリンが本気でキレた。額の青筋がとても分かりやすい。
「黙れやぁああーーーーーーっ! 日影! お前みたいな雑魚が、雑魚が雑魚が雑魚がーーー!」
まさかモンスターと口で勝負する事になるとはな。
ヤツの攻撃は冷静さを失いつつある、攻撃のスピードは上がるか精細さを失った攻撃はさらに避けやすくなっていく。
そろそろ飽きた。
ヤツが槍で攻撃する時にバリアから槍が一瞬出て来る、そのタイミングを狙って槍を手刀で破壊してやった。
腰布ゴブリンの表情がまた変わる、そろそろ身体能力の差を理解してもいいころなんだけどな…。
腰布ゴブリンがさけんだ。
「くたばれオラァアッ!」
腰布ゴブリンのアホはバリアが強力なのを利用する事にしたらしい。
俺に向かって体当たりをかまそうとしてきた、俺はヤクザキックをかましてやつをぶっ飛ばす。
やつは壁にめり込んだ、が当然バリアに阻まれてダメージはない。
さてっどうやったらあのバリアは破れるのかねクソが。
「躱す時と攻撃のスピードは大したもんだね、まるでチョロチョロと目障りな小バエみたいだよ」
小バエ? それはどちらかと言うと俺にダメージも与えられない攻撃と口先だけでも喋れば俺の動揺が誘えると浅はかに考えたお前自身の方じゃ…。
「僕はね、もうキサマとは立っている場所な違うんだ。僕は人間を超える力を手にした。この力を使ってこれまで手に入れなかった全てのものを手に入れるんだよ」
壁にめり込んでるくせに、どの口で喋ってんだコイツは。
こういう自分の状況を全く理解出来てない所も腹立つんだよな。
「手に入れられなかったもの? それってお前が自分の顔面偏差値も考えないで声かけた結果、キモがられて会社を辞めた女子たちのことでも言ってんのか?」
「……ぶっ殺してやる」
「……フッ」
『神殺し(偽)』の称号のステータス補正によって強化された俺の視力がヤツを守る赤く光るバリアがわずかにひび割れるのが見えたぜ。




