第36話
俺が向かったのは九州の片田舎にはいくつもない名前持ちのダンジョンの一つ、『搾取王の灰道』である。
ダンジョンというのは本当に様々な種類があるのだ、何の変哲もない建物の内部がダンジョンになったり、入り口だけが突然現れたりするダンジョンもあるがそれ以外にもまだある。
そのとある例外的なダンジョン、その一つが大抵の名前持ちのダンジョンにある特徴なんだが……。
それは突然現れる、ファンタジー漫画か何から抜き出てきたかのような巨大な造物群、それが地上や海上、はては天空に出現するのだ。
地上の場合は特にヤバイ。
本来そこにあった建物など全て飲み込んでダンジョンとなる、詰まるところは災害の一つだ。
この入り口だけどころかダンジョンの本体そのものがいきなり地球上に現れるんだからな。
そのダンジョンのテリトリー内は地上でも普通にモンスターが闊歩するんだ。
ダンジョンも結局は天災の一つである、それはこの地上にダンジョンその物が直接現れる可能性があるからこそそう言われるのだ。
ある日、寝て起きたら自分の家がダンジョンの一部になっていて自分たちはダンジョンのモンスターが溢れるテリトリー内部に置き去りにされているとか悪夢以外の何ものでもない。
よほど経験を積んだ探索者でもなければそんな状況ではパニックを起こすだろう、とりわけ一般人の女性とかならあまりの状況にものすごい悲鳴とかをあげたりするのかもしれない。
そうなれば当然モンスターたちに自分の居場所を知らせるようなもの、その後はどうなるかは想像に固くない。
ダンジョンは生まれ続けている以上は今でも実際にあるんだっそんな事件が。
構造物として出現するクラスのダンジョンの場合よっぽど人が住む町から離れているところじゃない限り、その被害の規模は把握されることはない。
被害者の人数の確認の取りようがほぼないからな……。
「よし、到着と……」
暗い話はここまでにしよう。
俺は探索者ギルドに到着した。
あの不人気ダンジョンの時に使っていた探索ギルドじゃないぞ。
もうちょっと大きな建物の立派なビルの探索者ギルドだ。
何故ここに来たのか言うと名前持ちのダンジョンは常に大量の探索者が出入りする、だからそこを利用するためには最寄りの探索者ギルドで申請をする必要があるのだ。
その申請をするとき、だいたい数日間くらい或いは日帰りで終わる探索を予定してますと申告する。
登山の手続きに似ているかもな。
例えば三日間の予定で申告した場合は三日経ってもどらない場合は捜索隊が派遣されたりする。
最もこれは一種のダンジョン保険だから保険料を前持って払ってる人間だけにしか適用されない。
ダンジョン探索は登山じゃないので勝手にやってきてテキトーに歩いてたら遭難しました、けど助けて下さいとか言っても通じないのさ。
事前にそういう金を払っていない場合、探索者への身に起こる事故は全て自己責任となる。
当然俺も万が一は怖いのだが……俺はその保険を払うつもりはない。
保険料自体はそこまで高くないんだが、これっ探索する時間とかを細かく指定する必要があるんだよな。
そんでその事前に設定した時間を超えると金こそ取られないが職員からグチグチと小言を言われる事になる。
これはまあ地味に辛い、そしてあまりにもウザいから気の短い探索者とかは苛立って文句を言うのだがそうなると探索者でもあるギルド職員が周囲にチラホラとし出すというね。
個人的にはなかなかに微妙システムなのである。
俺は探索者ギルドの中に入る、やっぱり『搾取王の灰道』に行くつもりの探索者がゴロゴロいるわ。
大抵は4人から6人のパーティーを組んでいるようでそれくらいの数でひと塊になっている。
俺みたいなソロはやっぱりいないか。
まあいいか、よそはよそうちはうちだ。
そんなことを考えながら受付へ向かう。
するとその受付に見知った顔の女探索者がいた、確か名前は花鳥愛華だったか。
あの茶髪ツインテールだ。
この前あった時は色々大変だった、まだ向こうは気づいていない。
気づかれても面倒なだけなのでここは念の為に受付から離れるか。
そして向こうがギルドから出ていったタイミングでも見計らって……。
「あっあんたは…こんな所にいたのね!」
一瞬で気づかれた、さすがそこそこ実力がありそうな探索者だ。
動体視力も無駄に良いらしい、こんなあっさり見つけられるとは思わなかった。
一瞬知らん顔をして他人のふりしようとしたけど向こうはこっちを見つけるとズンズンズンズンと歩いてきやがった。
あっちいってくんねぇかな…。




