第33話
「くたばれやがれ!」
俺は石ころを剛速球の如く投げまくる。
俺のことをはっきりとバカと言ったあの無礼な後輩については今後しっかりお灸を据えてやる、しかし今は目の前のユニークモンスター、クソムシキメラの相手が大事である。
再び咆哮を上げられて雑魚を呼び出されるとおそらく後輩の方が詰んでしまうのでそうはならないように俺が打って出ることにした。
このダンジョンは洞窟系のダンジョンだ、舗装とかされた道ではないので拳を振るえばそこら辺でいくらでも石ころという名の武器を補充することができる。
それなりに離れた距離から奴の注意を引けるように石ころを何個もぶん投げた結果として分かったが残念ながら奴は石ころをぶち込んでも爆裂死散することはなかった。
ただ全くのノーダメージではない。投げた石ころは奴の体にめり込み、緑色の体液を流させることは成功している。
あと後ろのトンボっぽい羽もは破壊することも出来たがヤツのクモ足を狙らった攻撃はあまり意味がなかった。あの足に幾らぶつけてもガンガンという金属に石を投げつけてるような変な音しかしないのだ。
頑丈過ぎてダメージも与えられない。
あの足に直接ライダーキックでもかましてしまえばいいのかもしれないが……もしあの足からも体液が出てきて俺の服に着いたりしたらものすごく嫌なのでそういう積極的な攻撃は出来ない。
現状の目標としては今宮が回復するのを待ちながらの時間稼ぎ、後輩が回復したら再び逃げるしかない。
このダンジョンの通路はめちゃくちゃ広いが本来の通路に戻っていくとだんだんと小さくなっていく、つまりあの新しい通路を発見したあたりまで戻ってくればこいつは追って来れないはずなのだ。
その後は今宮のバカをダンジョンの外に置いて俺が再びここに戻ってくればいい、もし戦ってダメだった場合はダンジョンから引き上げ何かしら遠距離攻撃の装備を手に入れてから再びチャレンジだ。
この通路を隠しておいて今宮は置いていって…よしっ俺の立てた計画は完璧だ。
このユニークモンスター確実に狩りそのドロップアイテムを手に入れる。
そうすれば一気に俺は億万長者になれる……かはわからんけどあれだ、あのどうしようもなく金を稼ぐことが下手くそなバカな後輩に多少なりとも金を渡せるだろう。
ちまちま雑魚を狩るのも安定して稼げるが、やっぱり大物を倒す方が一番稼げる。それが探索者って職業だからな。
そんなことを考えると再びクソムシキメラが咆哮を上げようとしたのか頭を動かした。
俺はそれをさせたくないので頭に向かって全力で石ころに投げる。
しかし違った。ヤツは咆哮を上げようとしたのではなく口から黒い液体を吐いた。
そしてそれはなんと今宮に向かって放たれたものだった。
「……チッ」
それに気づいた俺はとっさに全速力で後輩の前に移動する、そしてその黒い液体を受けた。
「せっ先輩ーーーっ!」
後輩の声が聞こえる、俺の体からシュウシュウとまるで何かが解けるような音が聞こえた。
そして気がついた、これ俺の体じゃなくて俺の服が溶けてるな。
たぶん強力な酸か何かの攻撃なんだろうけど、『神殺し(偽)』のステータス補正のおかげなのか俺には何の効果もなかった、それに気付かない今宮はやたらと取り乱してるけどな。
ただ俺が着てる服がダメになってしまった。
汚れたくないと言う俺の気持ちまで踏みにじられちまった。
そして何より……。
「テメェー…うちの全く可愛げのない後輩に手ぇ出したな? 本気でぶち殺すぞ」
いろいろと要因はあるが俺はガチギレした。
「…『レインボーフレア』」
スキルの発動と同時に俺の体を虹色の炎が包み込む、ヤツの撒き散らかした黒い液体は一瞬で消滅した。
この炎は俺の身を守るためだけではない、七光り相手以外でもそれなりにステータスを強化するうえに炎を操ることで奴を攻撃することもできる、あの七光りスライムの炎の翼が俺を攻撃したようにな。
俺が右手をヤツに向けるとその掌からすさまじい勢いで虹色の炎が広がった。
一瞬にして届いた炎は奴のクモ足を焼き払う、これは俺の意思に従って炎が動いたのだ。
奴の機動性はこれで死んだ、そして次だ。
ドロップアイテムはとても欲しいがこいつは俺を本気で怒らせた、故にそれら全てを蒸発させてでも こいつに存在そのものを完全焼却処分する。
「『ゴッドブレイクアロー』!」
俺の背後の空間に黄金色に輝く巨大な光の矢が出現した。
今宮はその矢と俺を交互に見てめっちゃくちゃ驚いた顔をしてるのが笑えて妙に印象に残った。
さてっ最後もビシッと決めるか。
「あばよ……キモムシ野郎」
俺が指をパチンと鳴らす、光の矢がクソムシキメラに向かって発射された次の瞬間にはヤツの巨体に突き刺さっていた。
そしてヤツは黄金の光に消し飛ばされ、俺たちの目の前は金色の光で埋め尽くされた……。
その光が収まった時、俺たちの目の前にはダンジョンの通路をはるかに超える巨大なクレーターのみがあり、クソムシキメラは跡形もなく消えてしまった。
状況に全くついていけなかった今宮は唖然としていたが少し待つと再起動する。
「先輩! 何なんすか今の阿呆みたいなスキル、それにその虹色の炎も……ちょっと無駄にかっこよすぎじゃないですか!?」
かっこよさに無駄なんてあってたまるかよ。
「今宮、怪我がなかったか?」
「え…なかったですよ?」
「……そうかなら良かった」
俺は今宮の方を見ることなく、背を向けたまま話していた。そんな俺を珍しく澄んだ瞳で見てくる今宮、いつもは人を小バカにした濁った黒い瞳をしているのにな。
「い、今の先輩はその虹色の炎みたいなやつの影響なのか、何かの漫画に出てくる最強キャラみたいな感じがしてますね……何と言うか本当にかっこいいで………」
そこで後輩の言葉が止まった。
理由はわかる、何故ならその虹色の炎の奥に立つ俺の体は……。
衣類が完全に消滅して全裸だからだ。
まっだから俺は今宮に背中を向けたまま話しているのである。
「へっ変態先輩……」
ちょっとそれ、マジでやめて下さいよ。




