プロローグ:ともだち
一人、森の中を歩いている。
日の光の差さない深夜、明かりは手に持った懐中電灯のみだ。
小動物が走り回っている音も、虫の喧しい鳴き声もしない。その代わりに遠くから悍ましい笑い声や、気が滅入るような嗚咽が時たま聞こえてくる。
空を見上げても、生い茂る木々のせいで月も星も見えない。
スコップを杖代わりに足場の悪い森の中を進んでいく。
「……おはよう」
「やっとお目覚めかよ、お嬢さん」
「……ははは、いやぁ、お嬢さんとは照れちゃうね」
いけない、寝てしまっていたようだ。その上夢まで見ていた気がする。——考え事をしているといつの間にか眠ってしまう、これは煙霞の悪い癖だ。
大きな窓から差し込む陽の光が膜のように体を覆い、大気に溶けていくような感覚に襲われて煙霞は慌てて目を擦る。ようやく明瞭になってきた脳は、目の前で流れている映像に意識を向けた。テレビのディスプレイには明るい室内とは対照的に、陰鬱とした雰囲気の森が映し出されている。
とある初夏、十三時。二名の男女がソファに並んでテレビに視線を向けていた。
一人は中学生くらいに見える少女。切れ長の瞳が印象的な端正な顔立ちをしているが、長い前髪、死人の顔色、瞳孔が散大しきった左目、目元に浮かぶ隈、変化に乏しい表情筋からはまるで生気を感じられない。
かたや一人は高校生くらいに見える青年。少女とは違う意味でこの世の者とは思えない、作り物めいた美しい容姿をしている。しかしその冷たく真っ赤な双眸は今、実に人間らしい感情に染まっていた。
その男女は——如月煙霞と暁星深谷は、急速に顔を覗かせてきた暑さから逃れるように、エアコンの効いた煙霞の自宅で映画鑑賞をしていた。
「この数分間ほぼ画面変わってねえし、眠くなるのも分かるぜ」
「いやぁ〜、君なら分かってくれると思ってた! というか、何か進展とか無かったの?」
「特にねえな。流石にこの光景も見飽きてきたんだけど」
煙霞が居眠りを始める前と変わらず、画面に映っているのは主人公が森の奥から出てくる何者かに怯えている場面のままだ。
あからさまな尺稼ぎに辟易としつつ黙って画面を眺めていると、森の奥からいかにもといった風貌の宇宙人がのっそりと姿を現した。それを見た煙霞は思わず立ち上がってしまう。
「おいおい待てよ、まさかこんだけ引っ張っといて正体は宇宙人ってオチ? ふざけるなよ、私はジャパニーズホラーが見たいんであって、パニックホラーやらSF映画やらを見たい訳じゃあないのに。監督は分かってないなあ」
「そうか? 俺は予想外の展開で結構ワクワクしてんだけど」
「いーや、こんなのホラーに対する冒涜だよ! あんなに勿体付けたんだから、土地に憑いてる怨霊とか信仰を失った神とか出てきて欲しかったな……一度見始めたんだからちゃんと最後まで見るけどさぁ……」
煙霞は渋い顔で腰を下ろす。
数十分ほど経ち、主人公が宇宙人を退けヒロインと口付けを交わしたシーンが映し出され、エンディングが流れ始めた。黙りこくっていた煙霞はソファに体を投げ出す。
「うーん……CGも低クオリティだったし、役者も棒読みだったし。何より勿体つけてからの宇宙人オチ! 世間の評価も悪い訳だね」
「確かにCGはかなーりアレだったな。でも最終決戦とか超熱くてマジ最高だっただろ? 主人公が突如目覚めた超能力で敦子を守るために宇宙人の親玉に立ち向かってくとこは痺れたぜ……」
煙霞は憤然とした様子で顔を歪めた。
「ホラー映画に熱いバトルシーンがあるのがそもそもおかしいんだろうが! 確かにアクションシーンは謎に迫力があったけど……この監督はホラー映画に向いてないから、アクション映画監督に転向した方が良い。……はあ、まあいいや。何というか、映画の感想は人によるって感じだね。——じゃあ次、何見る?」
少しの間思案すると、深谷は口を開いた。
「お前、恋愛映画とか見ないっしょ? まあ俺も見ねえんだけどな。最近流行ってる映画あんだろ、『春、出会いとナントカカントカ』——みてえなヤツ。これとかどうだ」
「恋愛映画か……たまにはそういうのもいいね。それにしようか。——そういやさ、映画鑑賞に伴って体が間食を求めてたりしない? 実を言うと私は今すごく口が寂しい。でも一人で間食を取るのは心苦しいから、良かったら一緒に何か食おう」
「言われてみりゃ腹減ってる気がしなくもねえな。じゃ、お言葉に甘えて」
「えーっと、コンソメ味のポテチ、おかき詰め合わせ、お高いチョコ……色々あるけど。どれが良い?」
「じゃあポテチで」
「分かった」
煙霞は袋を漁りながら、思い出したように口を開く。
「そうだ、言ったっけ」
「ん? ホワリフのガチャで盛大に爆死したことか? それなら散々……」
「違ーう! んふふ、腰抜かすなよ。何とねえ……」
手に持ったポテチの袋を深谷に向かって突き出すと、煙霞は勝ち誇った顔でこう言った。
「友達が、できたんだ」
「……は?」
リモコンをいじっていた深谷は呆けたように声を漏らす。
「……マジで言ってる?」
「うん、大マジ」
深谷は服の中にドライアイスでも入れられたかのように、体温が下がっていくのを感じた。
「嘘だろ煙霞、俺とお前は今までもこれからも唯一無二の親友だろ!? お前以外ダチがいない俺を裏切るってのか? まさか忘れたのか、河川敷で殴り合いの喧嘩した後、疲れてそのままぶっ倒れて朝まで寝たあの日の夕焼けの色を、二人でバッテリー組んで臨んだ甲子園の砂の感触を……」
彼らは今まで目立った喧嘩をしたことは無いし、野球経験も無い。全て嘘である。
「もちろん忘れてないさ。ふふ、二人で海に行ったときのこと覚えてる? 到着した瞬間酷い雨が降り出してさ、ニュースキャスターは一言もそんなこと言ってなかったのに。靴脱いでジャブジャブ浅瀬走って、その後二人揃って仲良く風邪引いたよね」
「その頭の回転の速さ、もっと違うとこに生かした方が良いぜ」
ホラ吹きにおいて煙霞は深谷の一段階上を行っているようだ。
「そもそも誰だよ、その友達ってさぁ。お前全然家から出ねえし、自分から友達作りに行くタイプでもねえじゃん。『友人関係は深く狭く、気が合う人間がいないなら無理に合わせず一人でいるのが楽だよ。そもそも孤独であるというのは悪いことじゃないんだよ、むしろ孤独を恐れ周囲に迎合する方が〜』とか何とか言ってた癖に。いつどこで知り合ったんだ?」
煙霞は生粋のインドア派かつ個人主義である。本屋に行く時、何かしら興味を惹かれるものがある時ぐらいしか自ら外出することはないし、他人に自由を阻害されることを嫌うため、積極的に人間関係を広めることもまず無い。逆に深谷はフットワークが軽く友好的な男だ。普段は深谷の方から煙霞の自宅へ出向いて外に引きずり出しているため、彼女一人で外出し、ましてや新たな友人を作るなどまずあり得ない。
「ほら、この前遅い時間に街を歩いてたとき、天使の女の子が執拗にナンパされてるのを見たから助けたって話はしたよね」
「ああ、そう言ってたな。お前が言うには相当可愛い子だったんだろ?」
煙霞は何かを噛み締めるかのように目を閉じ、天井を見上げた。
「そう! すごく髪が綺麗で、透き通った眼差しをしてて、可憐で……星丘ちゃんっていうらしいんだけど、あの後偶然街中で会ってねえ。お礼がしたいって言われて、お茶を奢ってもらうことになったんだよ。近くの喫茶店に入ったんだけど、色々話が弾んでね。本当に信じられないことだけど——交換しちゃったんだよ、連絡先を!」
鼻息を荒くした煙霞は深谷の鼻先にウィズチャットのプロフィール画面を突きつけた。
「へえ、そりゃすげえな! それこそ恋愛映画みたいじゃん。……音海……ふーん、星丘音海って言うんだな、その子。」
「いやあ、可愛い名前だよね、デヘヘヘヘ……」
ポテトチップスの袋を手に、ソファに体を沈めながらにやける煙霞。
そんな彼女に対し、
「随分浮かれてるみたいだけどさ、もしかして『これは恋の予感……運命の赤い糸がはっきりと見える!』とか考えてんのか? だとしたらあんまり期待しないでおくのをオススメするぜ。その音海ちゃんはただ礼言うために声かけただけだろうしさ。期待するだけ落胆もデカくなるだけだって」
と血も涙もないことを言う深谷。煙霞の邪魔をしてやろうという邪な気持ちからつい口走ってしまったが、案外的を射ていたようだ。図星だったようで、煙霞は気まずそうに目を逸らした。
「確かにそう考えてることに関しては否定できない……。そりゃ、彼女と友達以上に親しくなるのは中々難しいことくらい分かってるさ。自分が簡単に人と親しくなれる性格でもないことも、大して美形ではないことも分かってる。私はモテないんだって分かってるんだ! 歩いてるだけで女の子が砂鉄みたいにくっ付いてくる君みたいなヤツには、私の気持ちは分からないだろうけど! 私にだって夢を見る権利くらいはあるんだ……」
深谷はこの世界で吸血鬼と呼ばれている種族である。生物の血液を糧として生きる種族であり、黒髪に赤い目に白い肌を持つ非常に美しい種族としても知られている。先述の通り、女性的で美しい容姿を持つ深谷は、街を歩いていると女性やスカウトに声をかけられたりすることが少なからずある。彼はものすごくモテるのだ。
また、吸血鬼は希少な種族であることから、好奇の目にさらされるのも常である。彼の周囲には厄介ごとが寄り付きやすい。加えて「記憶喪失」、「連邦捜査局特殊任務遂行部隊」なんて物々しくて厳つい立場がひっついてきたらまともな交友関係は望めないだろう。これが顔が良い上に人のできた彼に友人がいない理由である。異性には容姿の良さから言い寄られ、同性には嫉妬から遠ざけられてきた彼は、種族や立場関係なく接してくれる友人に飢えているため、自分と同じく孤立しがちな煙霞に友人ができたことにここまでの羨望を抱いているのだ。
彼らは一見正反対の性格をしているように見えるが、実は変わり者同士気が合ったりする。互いにとって唯一無二の親友、それが彼らの関係性なのである。
「確かに俺がすっげえイケメンですっげえモテるのは間違いねえけどさ、別にお前もそんなに卑屈にならなくていいと思うぜ? 『上の下の上』くらいはあるって。いつもムスッとしてるし、顔色も悪ぃから分かりずらいだけで。まあ、今更直せとも言わないけどさあ。ただ——お前って年齢の割に幼く見えるっていうか。チビだかんな。下手したら12か13くらいに見えるんだよなぁ……」
「15も13も同じようなものだろ! 早生まれなんだよ! ——クソッ、やっぱり私じゃダメなのか……」
自分の限界を感じかけている持たざる者に、持てる者は得意顔で語り出す。
「じゃあ、恋愛初心者の悩める子羊に先輩からのありがた〜いアドバイスだ」
「君だって恋人ができたことなんて無い癖に」
「コホン! ……いいか」
煙霞の言葉をわざとらしい咳でかき消すと、急に真剣な表情を浮かべ、顔をずいと近づける。
「人間、大事なのは見た目じゃねえ! アタックするなら内面で勝負しやがれ!」
「ほう、実に説得力の無い言葉だね」
「そうだな……傍から見たお前は、例えるなら猫と牛とインコとフクロウとハシビロコウとバッファローのキメラだ」
「何だ、それは一種の誹りと受け取って良いのかな」
想定外の方向から飛んできた言葉の刃に煙霞は眉を顰めた。
「要するに、ぱっと見お前はよく分からないヤツってこったな。でも俺は知ってる、お前は頭が良いから俺たちとは違う世界が見えてるんだってことを。個人主義だからこそ多様性を重んじるし、自分の心の思うままに動く。Going my way、それが如月煙霞だ。確かにお前の奇行にはたまに度肝を抜かれることもあるけど、俺はお前のそういうとこ、結構好きだぜ。だからさ、もっと自信持てよ。ワンチャンあるって、多分」
「へへへ……そう言われると照れるな……。でも、なんかすごい失礼なこと言われた気もするな……まあいいや。内面、内面、か……」
煙霞は頬をむにむにと揉みながら思案していたが、小さく頷くと顔を上げた。
「……うん、君が言った通り、大事なのは内面だよね。私はすごく頭が良いし、すごくメンタルが強い。良いところが沢山あるんだ。私のことは気軽に神と呼んでもらって構わない」
先程正反対の二人と言ったが、すぐ調子に乗るところはよく似ている。
「それに……フッ、そう余裕ぶっこいてられるのも今の内だけだぞ。もうしてるんだよ、次一緒に出かける約束」
「嘘だろ!? そう言うのって普通、『また今度遊ぼうね〜』とは言うけどその今度は二度と来ないモンじゃねえのか?」
「私と星丘ちゃんはそんな浅い関係じゃないってことさ。もう私は君の一歩……いや、十歩先百歩先に進んでるんだ。それに、数日前助けた女の子と偶然街中で再開するなんてねぇ……」
煙霞は両手を広げ、天を仰ぐ。
「これはもう運命だよ、運命。数十分話しただけだけど分かるんだ、彼女は芯が通っててすごく魅力的な人だって。ちょっと浮世離れしてる感じが魅力的なんだ。そして、連絡先の交換は向こうから持ちかけてきたんだから、向こうも私に悪い感情を抱いていないことは自明……いや、むしろ明らかにこちらに対して好意を抱いている! これを運命と言わずして何と言う? なあ、暁星君」
彼女は人と深い関わりを持った経験がほとんど無いため、少々人と人の出会いに関して過剰な期待を抱いている節がある。群れることを嫌い、狭く深い交友関係で生きてきた彼女にとって、好意的な感情を抱いた相手はそれだけで特別な相手となるのだ。
「そっか……まあ、当たって砕けろって言うしな。精々楽しんでこいよ、デート。張り切りすぎて迷惑掛けないようにな」
深谷はひとまず生暖かい目で見守ることにした。
「おう、任しとけ!」
そう言って煙霞は勢いよくポテトチップスの袋を開封し、盛大に中身をぶちまけた。
数日後、煙霞と音海は二人でショッピングモールに出かけ、楽しい時を過ごした。深谷以外の人間と遊びに行く機会などほとんどなかった煙霞は終始ソワソワしていたが、音海が楽しそうにしているのを見て内心ホッとし、また次会う約束を取り付けてから帰路に着いた。
煙霞は深谷に彼女のことについてよく話すようになり、深谷はそれを毎回複雑な心境で聞いていた。彼の心に渦巻いているのは、親友が離れていってしまうことに対する寂しさと、自分より先に親しい友人を作ったことに対する羨ましさ、そして、親友に新たな友人ができたことに対する嬉しさといったところだろうか。
そして、彼女たちは度々一緒に出かける仲になり、煙霞は音海のことを少しずつ知っていった。
エデン在住で、聖テオドシス女学院の2年生であること。
新作のコスメ、服、ゲームソフトなどを衝動的に買ってしまうため、よく懐が寂しくなること。
夜眠れないことがあり、そんな時はラジオを聴いたりホットミルクを飲んだりしているが、中々改善しないこと。
エデンからは少々離れているが、色々な店があるためこの辺りにはよく買い物に訪れること。
考え事をする時に人差し指で毛先をいじる癖があること。
気が動転すると頭上のヘイローが回ってしまうこと。
煙霞が綺麗だと言って褒めたブラウンの髪は魔素器官の異常発達による物であり、通常天使は白髪を持つ種族であること。
上記の疾患は彼女の翼にも障害をもたらしており、服で隠れてしまうほど小さいその翼は、空に向かって羽ばたくことができないこと。
髪色、翼といった特殊な身体的特徴によって周りから浮いてしまっていること。
大まかな住所からちょっとした癖に至るまで、煙霞は彼女に関する様々な情報を把握していった。
そして、音海と親しくなった煙霞は彼女の心の繊細な部分を垣間見ることも増えた。
「天使ってプライドが高い人が多いからね。みんな、自分たちの白い髪と空に羽ばたくための翼が高貴であることの証だと思ってるみたい。僕は茶髪で、その上飛べないから……何というか、人間関係に良い思い出が無くて。この前みたいに興味本位で近づいてくる輩がいたり、心無い言葉を浴びせられたり……まあ、僕が身体的に障害を負ってるのは事実だしね。ただ、いつも不思議に思うんだ。人とちょっと変わって生まれたからって、陰口叩かれたりハブられたりするなんてさ。別に望んでこんな風に生まれて来たわけでもないし、みんなに迷惑をかけてるわけでもないのに。せめて目立たないように髪を染めてみようと思ったこともあるんだけど、僕自身はこの髪、結構気に入っててさ」
ある時、緩くウェーブしたサイドテールの毛先をネイルを施した指先で弄びながら、そうぽつりと口にした彼女の薄くて乾いた微笑みが、何故か煙霞の脳裏にこびり付いていた。
「ごめんごめん、ちょっと愚痴っちゃった。今まで友達っていなかったからつい浮かれちゃって。変な空気にしちゃったね、今言ったことは気にしないで」
つい見惚れてしまうような微笑を貼り付けた彼女に対し、煙霞はたまらず口を開いた。
「……別に君自身はそのままで良いんじゃないかな。無理に髪を染めたりなくて良いと思う。自分を抑え込んだり恥じたりせず、ありのまま生きて行けば良いと思うよ」
少し考えた末、煙霞はこのような言葉を口にした。
「例え君が周囲から浮いているとしても、君が君として自由に生きることの方が遥かに重要だと思うから。それに、茶髪だとか翼が機能しないだとか、そんな身体的特徴がどうして君が否定される理由になり得る? 髪色はもちろん、現代社会において飛べないことで困る局面なんてほとんど無いし。無論そういった特徴が人間性に影響することもない。影響したとしても、それはいらんこと言ってくる周囲の影響だよ」
この言葉を口にした後、彼女が求めていたのはただの共感だったのかもしれないという可能性が脳裏に浮かんだが、それは煙霞の得意分野ではないためもっと分かりやすい言葉でエールを伝えることにした。
「あと……少なくとも私は、好き勝手言ってくる奴らに押し潰されず生きてる君っていう人が、とても強くて素敵だと思ってるから。自信を持って、良いと、思う」
これは煙霞の心からの賞賛であり、心の奥底に秘めた熱情の発露であったが、音海がこの言葉をどう受け取ったかは分からない。
「ふーん、そっか。んふふ、そう言ってくれて嬉しいな。ありがと」
煙霞には、そう言って目を細める音海がどうしようもなく魅力的に見えた。
そして、煙霞と音海が別れた後、それきり音海は音信不通となった。