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番外編 少年と少女はついに階段を上った……

ついに……ついに二人が……。


 なぜ……なぜこんな状況に陥ってしまっているのだろう?


 龍太は水中を見渡しながら〝ある物〟を必死で探しながら自問していた。

 

 「ちょっ、龍太あんまり動かないで。万が一他の人が来たら見えちゃうから……」


 自分の背中にコアラの様に張り付いている愛美の言葉に龍太は反応しない。いや、というよりも反応をする余裕が一切ないのだ。常に無心で居続けなければ間違いなく〝理性〟が崩壊してしまうから。


 だって今の愛美は上半身が裸の状態で直に背中に張り付いているのだから。


 「うぅ~どこに流されたのかしら私の水着は……」


 龍太の背中から顔を覗かせ愛美が必死に辺りを見回す。

 どうして彼女が上半身裸で龍太に張り付いているのか、その理由の方はありきたりなものだ。遊んでいる最中に一際大きな波により愛美の水着が流されてしまったのだ。

 不幸中の幸いなのはスタイルの良い愛美をジロジロと見る男性が多かったため、龍太が気を使い人気の少ない岩場付近に移動していた事で周囲に他の人間は見当たらない。

 だがいくら他の人間が居ないとはいえこのままでは戻る事も出来ない。そこで龍太は急いで水着の捜索に努めるのだが、ここで愛美がいきなり背中に張り付いてきたのだ。


 「ななな、何してるの愛美!?」


 いきなり背後に暖かく柔らかな二つの果実を押し付けられて顔を真っ赤にする龍太に対し、愛美は『隠すために仕方なく』と言って離れない。

 水中で隠せば見えないと言っても『龍太の背中の方が安心できる』と言われては引き剥がす気にもなれなかった。だがこうなってくると龍太の理性がかなり危ない。恋人の胸部を直に背に押し付けられて冷静でいられる訳もない。


 「(何も考えちゃいけない。何も考えちゃいけない。何も考えちゃいけない)」


 龍太は頭の中で同じフレーズを反芻し続け、視界は水中だけに向けて背後を振り向かないようにして現実逃避をしていた。愛美が時折話しかけるが、このシチュエーションで彼女のことを意識しては不味いと思い申し訳なく思いつつも無言を貫く。

 そんな彼氏の姿を背中越しで観察しながら愛美は不満を募らせる。


 「(むぅ~……本当に初心なんだから。これじゃ〝ワザと〟水着を流した私がバカみたいじゃん)」


 必死に捜索を続ける龍太だが、実は愛美の水着は波で流されてなどいない。近くの岩場の死角となる場所に愛美自身が隙を見て隠しただけなのだ。

 何故彼女がこんな行動に出たのか、それは彼氏である龍太との関係をさらに進展したいが為であった。


 「(ちょっと騙しているみたいで罪悪感あるけど……でもそろそろ私だって限界、もう我慢したくない……!)」


 自分でも中々に強引な手を使っている事は理解している。だが愛美としてはこの夏の間に愛する人と更に進んだ関係に進みたくて仕方が無かった。交際を初めてから1年経過するが未だに龍太とは一線を越えた事までは発展していない。無論自分を大事にしてくれる龍太の優しさはとても心地よい。だがこの辺りで男らしい部分を剥き出しにして欲しいという想いもあった。

 自分の弟である徹が涼美ちゃんと仲良くしている先程の光景、それが彼女の想いに火をつけ暴走させてしまい遂に行動を起こさせたのだ。

 だがここまで大胆な行動に出ても龍太はまだ縮こまったままで何もしない。そんな彼につい不満が声になって漏れ出てしまう。

 

 「ねえ龍太……私を想ってくれているなら今はこっちを見てよ……」


 気が付けば愛美は水中を眺めている龍太を背中から強く抱きしめていた。


 「ひうっ!? ああああ愛美どうしたの?」


 今まで軽く引っ付いていただけの愛美がいきなり力強く抱きしめた事で龍太の心がかき乱される。緊張と動揺から声が裏返っている。

 そんな彼氏に対して愛美はもうネタバレをする。


 「ごめん、実は水着流れたって嘘。本当は岩場に隠しているだけ」


 「ええ、そ、そうなの。何でそんなこと……」


 「ねえ龍太、『据え膳食わぬは男の恥』って言葉知ってる? 女の子だって大事にされるだけじゃ不満が溜まるんだよ?」


 「そ、それって……うわっ!?」


 背後から愛美に強く押されて龍太はバランスを崩してしまう。そして水中から顔を出すと目の前には晒されている胸部を隠しもせず堂々と彼女が立っている。そのまま彼女はゆっくりと正面から自分に抱き着き、そして秘め続けていた本音を吐露する。


 「ねえ龍太、ここなら人も来ないから……一緒に大人の階段に上りたいな」


 「で、でも……」


 「…………イヤ?」


 潤んだ瞳と共に自分を見つめる恋人の姿に首を横に振れる訳も無かった。それに龍太だって理性が邪魔をしてはいたが本心では彼女の全てを欲している男としての部分もちゃんと存在する。

 至近距離で自分を求め欲する恋人の姿、それはこれまでブレーキとなっていた理性の壁を取り壊すには十分だった。

 龍太は打って変わって冷静な口調で彼女へと告げる。


 「僕……多分途中で止まれないよ? もしかしたら乱暴になるかもしれない。それでも……いい?」


 「うん……いいよ……あなたの全部をちょうだい」


 愛する人の笑顔と共にぶつけられたその言葉により龍太は愛美を抱きしめる。

 

 この日、交際から1年という長い時間をかけて龍太と愛美の二人は少年少女から〝大人〟となったのだった。




ここから先は皆さまのご想像にお任せします(照)

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