番外編 海に入る前の一幕
「おまたせーどうかしら龍太、私の水着は?」
着替え終わった愛美は自分の顔を見るなり早速水着姿の自分への感想を求めて来た。
事前にどんな水着を購入するかは買い物の際に龍太だって見てはいる。だが服の上から軽く試着した姿と実際に身に着けた姿、その二つをいざ見比べると眼前の彼女の方が刺激が強く違い過ぎた。
今の愛美はいつものツインテールを解き髪を下ろした姿をしておりとても新鮮だ。そしてつややかな白い肌に抜群のプロモーションも惜しみなく見せつけ、選んだ黒の水着ともとてもマッチして恋人贔屓無しでも美しかった。
まるで有名モデルの様な存在感ある出で立ちに龍太は素直な感想を述べる。
「とても似合ってるよ。文句なく可愛いと思う」
「ん、当然よね。まあ月並みなセリフだけど満足してあげる」
そう言いながら腕組をしつつ得意げな顔を愛美が見せた。ただ彼女が両腕を組むと自己主張が強すぎる豊満な胸がより一層に強調されてしまい、恥ずかしさから龍太がさりげなく目を逸らす。するとその反応を見ていた涼美が悪戯っ子の様な笑いと共に二人のことをからかい始める。
「あ~お兄ったら愛美姉の豊満なバストを意識してるんだぁ~。まぁこーんな特大メロン二つもぶら下げられたら意識しちゃいますなぁ」
「ななな何言ってるかな涼美は!?」
「相変わらず我が兄ながら分かりやすいなぁ~。ほれほれ~これでも理性が耐えられるか~?」
必死に取り繕うとする龍太の反応が面白かったのか、涼美は背後から愛美の胸を掴むと龍太の前で揺らして来た。
刺激的な光景を眼前に龍太はもう真っ赤となり言葉が出ず、対照的に徹はその行動に呆れ果てている。
「ちっ、ちょっと涼美ちゃん!?」
「いやーそれにしても愛美姉スタイル良すぎだって。世の男共は全員悩殺されるんじゃない? もしかしたらそこの弟君も秘かに欲情していたりしてぇ」
そう言いながら今度は彼女の弟である徹をからかい出す。
しかし初心な龍太と違って彼は冷静そのもの。それどころか逆に涼美の姿をひとしきり観察してからかって反撃した。
「そんなこと言いつつもお前だって中々派手な水着でおめかししてんじゃねぇかよ。良かったなぁ、見た目だけなら周りの男を釘付けにできるほど綺麗じゃんかよ。まぁ外見は可愛くても中身は小学生レベルだけどな」
そう言いながら徹はしてやったりと言わんばかりに小さく笑ってやる。
あくまで彼としては『見た目だけ』を強調して中身の方は残念という意味で嘲笑の念を送ったつもりだった。だが〝綺麗〟や〝可愛い〟と言われた当の涼美はというと……。
「え、あ……綺麗って思っているんだぁ……可愛いとか言っちゃうんだぁ……ふ~ん……」
一気にしおらしい態度となって大人しくなってしまう。
皮肉のつもりで言った言葉であったのだが、その結果普段の学校生活では見せないモジモジとした乙女の様な一面に徹も反応に困って何も言えなくなる。
「(ぐっ……そこは言い返してくれよ)」
予想外の反応に戸惑う徹だが、同時に今の涼美を本心では可憐な少女だと認識してしまっていた。すると先程までのお返しと言わんばかりに愛美が二人のことをいじり出す。
「へぇ……涼美ちゃんもしかしてウチの弟とイイ感じなの? おねーさんったら全然知らなかったわよ。徹も隅に置けないじゃないのよ」
「ふぇあ!? ちちち違います! ほらアンタも一緒に否定しろ!」
「いでぇ!? 何すんだこのガサツ女!!」
「うるさいわよ貧弱男! 悔しかったらここまで来なさいよバーカ!」
小さく舌を出しながらそのまま走って逃げて行く涼美と怒りと共に後を追いかける徹。口調こそは喧嘩しているが兄と姉の目線から見ればとても微笑ましい光景だった。何しろ追いかけ合いながらも二人の表情はとても晴れやかなものだからだ。
すっかり遠くなった二人の姿を眺めながら愛美が囁いてきた。
「ねえあの二人、もしかしたらこの夏の間に私と龍太と同じくらいは関係進むかしらね?」
「ふふ、どうかな。でもそう遠くないと思うよ」
「まぁあんなやり取り見ればそうよね。ところでさ、さっきはスルーしたけど涼美ちゃんの言う通り私のバストに意識していたって本当?」
流れる様に先程のリアクションを蒸し返されて思わず言葉に詰まる。チラリと視線を傾けると羞恥心を持ちつつ、期待してるかのようなキラキラとした目で彼女が見ている。
「いやあれは涼美がからかって言っていただけ……」
「じ~~~~」
「……見惚れていました」
「うん素直でよろしい。じゃあ私達も遊びましょ!」
そう言いながら笑顔と共に腕を引いて海の方へと彼女は走り出す。
太陽にも負けな程の眩しい笑顔がとても愛しく龍太も自然と笑顔となるのだった。
活動報告にちょっとした報告があるので気が向いた方は見てみてください。