番外編 お兄ちゃんは妹の恋路が気になる
主人公とヒロインのイチャラブだけでなく、二人の妹ちゃんと弟君の甘酸っぱいやり取りも載せていく予定です(笑)
燦燦と煌めいている太陽、その光を反射してキラキラと輝いている巨大な水面。果ての見えない蒼穹の海を前にして龍太は思わず魅了される。毎年夏になれば必ず一度は訪れているはずなのに未だにこの絶景には圧倒されてしまう。
海の方から吹いてきた潮の匂いが纏われている風を感じていると背後から声を掛けられる。
「いやーやっぱり夏の海は込んでいるっスね」
龍太へと話し掛けて来た相手は愛美の弟である月夜徹であった。
実は今回海に遊びに来たのは龍太と愛美の二人だけではなかった。龍太の妹である涼美、そして愛美の弟である徹の二人も参加していた。
二人が参加した切っ掛け、それは涼美が一緒に付いて行きたいとねだった事が始まりであった。
『お兄と愛美姉だけ海で夏を満喫するなんてずーるーい! 私だって一緒にいーきーたーいーよー!』
今年で妹は中学三年生となりもうすぐ受験を控えている身だ。自分や愛美と同じ高校に入るんだと意気込み、学校終わりには自主的に机に向かい勉学に勤しむ姿は龍太も良く知っている。だがやはり適度な息抜きは必要だろうと思い妹の参加を認めたのだ。そしてこの話を聞いた愛美も受験勉強に忙しい弟にリフレッシュの機会を与えたいらしく彼を半ば強引に同行させえる事とした。
ちなみに出発ギリギリまで徹が参加する事を涼美は知らされておらず、集合約束の駅で彼を見た時はかなり動揺していた。
その時の二人の会話はこんな感じだ。
『ちょ、愛美姉だけじゃなく何でアンタまで一緒に来たのよ』
『姉ちゃんに半ば強引に誘われたんだよ。なんだよ、俺が居たら悪いのかよ?』
『べつにぃ……』
待ち合わせ場所の駅に着くまではテンションの高かった涼美だったが、徹と顔合わせた途端に気恥ずかしさを感じさせる態度に変わった事を兄の龍太は見抜いていた。だが当の徹本人は鈍いようでズレた事を言っていた。
『何モジモジしてんだよ。もしかして便所か?』
『こ、このデリカシー無し男!』
出発前にギャーギャーと二人がいがみ合う一幕はありつつも無事に目的の海まで到着した。ただ移動中も口調こそ喧嘩していた涼美だったがその顔はどこか楽しそうであり、明らかに徹を意識している事は龍太や愛美にとっては一目瞭然だった。
海に到着して先に水着に着替え終わったその後、女子の着替えを待っている中で龍太は思い切って気になっている話題を徹へと持ち掛けて見た。
「ねえ徹君。君ってさ、ウチの妹の事をどう思っているのかな?」
「随分と唐突な話っスね」
「ああごめん。いきなりこんな話題を振られても困るよね」
龍太としてもこんな質問をどうして彼にぶつけたのか分からなかった。もしかしたら深層心理では実の妹の恋愛事情が上手くいくのか確かめたかったのかもしれない。何しろ兄の目線から見れば妹はこの少年を意識しているのだ。それに愛美の交際がスタートして必然的に弟である彼と関わる機会も何度もあり、その過程で彼がとても優しい心根を持つ人間だとも十分理解していた。兄としては是非とも上手くいってほしいという気持ちがあったのだろう。
だが冷静に考えれば、いくら兄とは言え妹の恋路に深く干渉するのも間違っている気がしてすぐにこの話を打ち切ろうとする。
龍太が忘れてくれと言って別に話題をしようとするのだが徹は先に口を開いた。
「正直に言えば……気になっていますかねあいつのこと」
「え、それってどういう意味で……」
「まぁ……他の女子よりも〝特別〟に見ている傾向があるとだけ言っておきますよ」
はぐらかすような言葉を選んで答える徹であるが、自分が涼美をどのように見ているかは本当は気付いていた。
顔を合わせば口喧嘩をする事が日課のようになっており、初めて彼女と話した時から水と油の関係だと知った。同じクラスだから嫌でも顔を合わせざる負えない仕方のない存在、そう思っていた時期もあった。
だが毎日話をする事で涼美という人間をどんどん知って行った。とても家族思いで優しい女の子だ。兄に恋人(自分の姉とは知らず)が出来た時には自分の時の様に喜んでいた。それにクラスで困っているヤツが居ればさり気なく手を貸してあげる。自分が学校の課題で苦しんでいる時も……なんだかんだ言いつつ手伝ってくれた事もあった。
気が付けば龍太が何やら安心したかのような顔を向けて微笑んでいた。それが気恥ずかしく視線を晒しつつぶっきらぼうに口を開く。
「……何っスか?」
「いや何でもないよ。それよりほら、二人も着替え終わったみたいだよ?」
そう言いながら遠巻きに手を振りながらこちらに小走りでやって来る二人を龍太が指す。あの顔を見る限り自分が涼美をどう思っているのかお見通しなのだろう。
「(もう今年で中学も卒業かぁ……このままダラダラ本当の気持ちを隠して卒業、それでいいのかな?)」
元気よくこちらに駆け寄る涼美を見つめながら徹は自分の気持ちに葛藤を抱きつつ、いつも以上に彼女の姿が眩く見えて仕方が無かった。