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女装少年が喫茶店でお仕事をしました 

何だか龍太と愛美のキャラがどんどんと変な方向に……。


 「凄いわぁアニ、いや『龍太ちゃん』!! まるでお人形さんみたいで可憐すぎぃ!!」


 「いやぁ剛幡ちゃんも凄い逸材を見つけてきてくれたわね」


 目をキラキラと輝かせながら二人の〝女装男性〟が目の前のメイド服を着用している〝少年〟を褒めちぎっていた。

 

 「あのぉ……やっぱり僕には荷が重いです。とてもじゃありませんがこの恰好で接客なんて……」


 緊張感からまるで小鹿の様に膝を震わせながらメイド服を身に纏っている龍太を背後から見つめながら愛美はつい先程のやり取りを思い返していた。


 それは太平にかかってきた1本の連絡から始まった。


 『はーいもしもしパパ? え……ええっ! ママが倒れた!?』


 太平の口から出て来た言葉に隣で聞いていた剛幡、その場を立ち去ろうとしていた龍太達も思わず聞き入ってしまっていた。

 

 『うん…うん…分かったわ。それじゃあ私も今から病院まで行くから』


 スマホの通話を終了すると剛幡が何があったのかを尋ねる。

 どうやら太平の母が高熱によって倒れてしまったそうなのだ。それもかなりの高熱らしく偶然にも今日は仕事が休みで家に居た彼の父が病院まで送り、そして太平に連絡をしたらしいのだ。どうやら母親は前日から少し風邪気味だったらしく、今日になっていきなり悪化したらしい。

 勿論この連絡を受けて太平もすぐに病院に向かう決断をする。だがその場合1つだけ困った事があった。それはこの後に控えて居るバイトについてだった。


 『母親の一大事なのよ。店長だってわかってくれるわよ』


 『でもここ最近ウチのお店って客数が増えているでしよ。私が抜けた分のしわ寄せが剛幡や他のシフトの娘達に行く事になるわ』


 自分の友人や他のシフトの娘達に迷惑を掛けてしまう事を申し訳なく思いながらも太平は病院に向かわなければならない。

 そんな彼の姿を見ていたたまれなくなっていると愛美が溜息混じりにこう言って来たのだ。


 『はあ……これじゃ私たちも帰りにくいじゃない。仕方ないわね、あんたのバイト時間ってどれくらい?』


 『え、今日のシフトは3時間程度だけど……』


 『しょうがないわね。簡単な仕事だって言うなら私と龍太が代わりに出てあげるわよ』


 まさかの愛美からの提案に思わず龍太は戸惑っているとそっと愛美が耳打ちして来た。


 『(どうせあんたの事だから手助けしてあげたいって考えていたんでしょ? お見通しよ)』

 

 どうやら愛美には龍太の考えは見透かされていたようだった。

 自分に気を使ってデートを中断してくれた事を申し訳なく思いつつ、ここまでお膳立てされた事で龍太も自分の本心を躊躇う事無く語る事が出来た。


 『ここで再会したのも何かの縁かもしれないし、良ければ僕たちが代わりに今日はそのバイトの応援をしてもいいかな?』


 『うぅ…その優しさ、やっぱりアニキは大きい男ですね。ではご迷惑をお掛けしますが私の代わりに〝喫茶店〟のバイト、お願いしてもいいですか?』


 オーバーに目頭を押さえながら感謝を示す太平に苦笑しつつも彼の代わりに急遽バイトの応援をする事となった龍太だったのだが、この時に彼はその喫茶店についてもっと深く聞いておくべきだった。だって……彼が応援に向かったバイト先は『男の娘カフェ』だったのだから……。


 まさかの女装喫茶での仕事と言う事で龍太は自分の判断を思わず呪った。とは言えここまで来て嘆いても後の祭りでしかない。

 ちなみに女性である愛美は裏方の方を手伝う事となっているが、ぶっちゃけた話をするなら彼女としては龍太とは違いこのバイトの応援を引き受けて得をした気分となっていた。


 う~ん龍太には申し訳ないど私にとっては目の保養になるわ。それにしてもここの制服一着貰えないかしら? 是非とも今後個人的にこのお店の服を来た姿を私に見せて欲しい。

 

 視線の先ではこのお店で働いている他の女装従業員に囲まれて色々と質問攻めをされている彼氏。


 「凄ーい、ほとんどお化粧もなくここまで高クオリティな女装ができるなんて!」


 「素材がやっぱり良いからかしら? うらやま~」


 「は、恥ずかしいのであんまり褒めないでください」


 女装をメインとしたお店と言う事だけあってこの店の女装のレベルはハッキリ言って高い。だがそれでも龍太のレベルは他の者達と比べて次元が違うレベルであり、1つ1つの仕草がもう破壊力抜群だ。

 

 む~……何だか他のバイト連中ったら馴れ馴れし過ぎない? あくまで龍太は今日だけの応援であって私の恋人なんですけど……。


 しばらくの間は静観していた愛美であったがあまり自分の彼氏が他の人間に囲まれてきゃあきゃあ言われている光景は何だか面白くなかった。相手が〝男〟と言う事でそこまで強烈に嫉妬を抱いている訳ではないのだが……それでも何だか嫌だ。


 「はいはいそこまでにしてもらえますか。〝私の彼氏〟が困っているので」


 少し強引に輪の中に入り込んで無理やり龍太を自分に抱き寄せる愛美。そんな彼女に対してまるで安全地帯に逃げ込めたかのように龍太が安堵と共に照れくさそうな笑みを浮かべながらお礼を言って来た。


 「ありがとう愛美」


 僅かに赤く染まる頬、それにこの店で施された化粧によりいつも以上に愛らしくなっている最愛の人の笑みにもはや日常化している愛の鮮血が鼻から滴る。


 「また鼻血出ているけど大丈夫?」


 心配そうにティッシュで自分の鼻を押さえる仕草にさらに鼻から真っ赤な尊さを漏らしつつ愛美の中に一つの不安がよぎった。


 これまさかとは思うけどお店の中が真っ赤に染まるんじゃないでしょうね。


 自分の彼氏の愛らし過ぎる振る舞いに自分同様に鼻から鮮血を舞わせる客達の姿が容易に想像できてしまっていた。


 こうして急遽として龍太ちゃんの女装喫茶でのお仕事が始まったのだった。



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