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更生大学生と再開したら女装に目覚めていました

お久しぶりです。こちらの作品も再開していこうと思います。それにしても……再開早々に凄いエピソードタイトルになっちゃいました(笑)


 驚いて声も出ないとは正に今のような出来事を前にした自分のような人間に当てはまるのだろう。思わず頭が真っ白となってしまう事にすら『仕方がない』と龍太は自分で納得してしまっていた。

 

 「あら~急にそんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてどうしたのぉアニキィ?」


 「私達の顔に何か付いていたぁ?」


 「いやそりゃ龍太だって呆然とするわよ!! あんた達のその変わりようを見たら!! と言うよりもはや別人でしょ!?」


 未だに半ば呆けている龍太に代わって愛美から稲妻のような大声のツッコミが炸裂する。

 

 思わず大声を発してしまった自分は決して間違っていないと愛美は疑わなかった。


 かつて彼女が初めてこの二人と出会った時にはこの二人に因縁をつけられた上にナンパまでされたはずだ。そんな野蛮な男二人に何があれば今の龍太のように女装をして街中を堂々と歩くような人間に変化すると言うのだ?

 息を荒げて話しかける愛美の大声によってようやく龍太も我に返ったようで剛幡斉藤と太平扶村の二人に話しかける。


 「え……えっと久しぶりだね二人共? そのぉ……一応確認するけど君達は僕の知っている剛幡さん太平さん……ですよね?」


 未だに龍太の中ではもしかして同名の人違いなのではないかと言う考えがあったが、そんな彼に対して二人は笑い声を含ませながら返答する。


 「だからそうだって言っているじゃないの~」


 「アニキったら疑り深いんだから~」


 「あはは……」


 口元を隠しながらどこか上品そうに笑う二人に対して龍太は乾いた笑みを浮かべる事しかできないでいた。その際に口元を隠す指の爪にはマニキュアまで塗ってあった。


 し……信じられない……いくらなんでも面影が無さすぎる。


 何しろ今の二人は傍から見れば本物の女性にしか見えないほどに完成しているのだ。いくらカツラや化粧をしているからと言っても人間とはこうまで極端に変化するものだろうか? いや変化と言うよりも変身と言った方がこの場合は正しいのかもしれない。


 「だ、大丈夫龍太? 何だか凄い疲れたような顔してるけど……」


 完全に死んだ目をしている龍太を気遣いつつも愛美が二人の極端な変わりようについて質問をする。


 「それにしてもあんた達に何があったのよ? 確か龍太から聞いた話じゃ改心して真人間になったと聞いていたけど……」


 「ええそうよ。アニキのお陰で自分達のこれまでの愚かしい振る舞いを恥だと思えるようになったのよ」


 「とは言えアニキに更生させてもらう前の私たちもさっきのあなた達をナンパしていた二人組と大差ない人間だった訳だし偉そうに生まれ変われたとは言えないんだけどね」


 いや……見事なまでに別人に生まれ変わっているよ。だって君達ぱっと見た感じ〝男性〟に見えないんだもの……。


 もしかしたらデリケートな問題かと思い口には出さず心の声で龍太も思わずツッコんでしまっていた。

 そんな彼氏とは違い気の強い愛美はダイレクトに口に出してツッコんで行く。


 「いや別の意味で生まれ変わったと言えるわよ。今のあんた達の姿を見れば間違いなくね。まさか真面目になった反動で女装趣味に目覚めたとかじゃないでしょうね?」


 「ん~そうねぇ。正確に言えば今の自分達を心から気に入ったのは〝途中〟からであって、更生しようとしていた〝最初〟の頃は少し違ったのよねぇ」


 かつて剛幡と太平は本当に下らない人間であった。気に食わない事があればクラスメイトや親に当たり散らす。特に未来設計がある訳でもないのに目についた好みの女性に尻尾を振る。勉強だって真面目に取り組まず大学の授業では昼寝だってする。

 そんな二人にとって龍太との出会いはまさに人生の分岐点だった。初めて彼と出会った時はとんだ偽善者だと怒りを向けていた。

 

 だが小さな子供の為に自分の事の様に怒るあの日の彼の姿を目の当たりにして二人は彼のような人間になりたいと心からそう思うようになっていた。

 

 どこまでも〝真っ直ぐ〟な年下の少年の姿に惚れ込んだ二人はその日から今までの自分とは決別し、生活態度を改めるようになった。

 親孝行など小学生以降からしなくなったので両親からは感激のあまり泣かれそうになった。学校での授業も真面目に受けるようになり教師や他の生徒からは頭でも打ったのかと言われた。そんな周囲の反応がむず痒かったが、それ以上にとても心地よかった。真っ直ぐ生きていく事がこんなに気持ちの良い事だと知った二人は益々憧れの龍太のようになるべく邁進を続けていきそして辿り着いた境地が――彼のような『可憐で優しい男の娘』だったのだ。


 「最初は自分の部屋で家族にも見られないようにしていたんだけどねぇ~」


 「おめかしして別人になった自分に夢中になっちゃっていたのよねぇ。気が付いたら完全にこっちの姿が定着してしまっていたのよねぇ」


 「ねー」


 二人の女装にハマった経緯を聞いて龍太はどこか罪悪感にも似た感情が押し寄せていた。


 それってさ……愛美と涼美に無理やり女装した僕の姿に影響を受けたってことだよね? じゃ、じゃあ二人が乙女になった理由ってまさか僕が原因で……。


 当然だが別段龍太には何の罪も無い。それを言い出すなら龍太に女の子丸出しの恰好をさせて楽しんでいた恋人と妹の方に矛先が向くべきだろう。その証拠に経緯を知った愛美は二人から目を逸らして冷や汗をかいている。

 

 「と、とにかく改心したのなら良かったわ。それじゃあ私たちはもう行きましょうか龍太」


 「う、うん。そうだね……」


 「あらもうお別れなんて寂しいわね。まあでも私たちもこれからバイトだし仕方ないかぁ」


 名残惜しそうにしつつも剛幡がそう言いながら相棒と共に二人と別れようとした時だった。

 まるで龍太と愛美の重苦しい空気を払拭するかのような可愛らしい着信音がその場に鳴り響く。


 「ああごめんなさい。どうやらパパからみたいだわ」


 太平が軽い謝罪と共に自身のスマホを取り出す。


 パパか……多分女装する前まではそんな呼び方しなかったんだろうなぁ……。


 そんな事を呑気に考えていた龍太だったが、まさかこの電話が切っ掛けで彼にとてつもない試練が課せられとはこの時には露にも思っていなかった。


 

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