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ツンデレ美少女が庇ってくれました


 長い時間を掛けて築いたと思っていた信頼を酷い形で裏切られ、それに飽き足らず自分と言う人間をとことん貶める元幼馴染の非道に耐え切れず涙を零しそうになる龍太を予想外の人物が庇ってくれた。


 今にも崩れ落ちそうな龍太をまるで守るかのように二人の前に立ちはだかった人物は月夜愛美であった。

 彼女は怒りをむき出しにしながら眼前の二人に向けて言葉を投げる。


 「さっきから聞いていればアンタ達胸糞悪いのよ! 何の落ち度もないこいつに罵声を浴びせて嫌がらせばかりしてどういうつもりよ!!」


 いきなりの乱入者に3人はしばしフリーズしてしまう。その中で最初に我に返った天音は急に怒鳴り込んで来た愛美に強気で言い返した。


 「はあっ? いきなり部外者が割り込んできて何言ってんの? そもそもあんた誰よ?」


 突然噛み付いてきた愛美を鬱陶しそうにしながらどこの誰かを問うと彼女は一瞬だけ龍太をチラ見しながら言った。


 「わ、私はこの金木の〝友人〟みたいなものよ。それよりもアンタは一体どういうつもりなのよ? 話を聞く限りあんたって彼の幼馴染なんでしょ? それなのに何で『負け犬』だのなんだの傷つけてあんな風に冷たく当たれるのよ!?」


 「なになに、もしかしてこっそり会話を盗み聞いていた訳? 随分と趣味の悪いことで」


 怒りを滲ませる愛美の質問に対して天音はまともに取り合おうとせず趣味が悪いで片付けようとする。その態度に益々腸が煮えくり返る愛美はここで衝撃の事実を目の前の性悪女に報せてやった。


 「はんっ、趣味が悪いのはアンタの男選びの方じゃないの? その安藤ってヤツが手当たり次第に女子生徒に声かけている軟派野郎って知っていて付き合っているのかしら?」


 「ちょっと人の彼氏にありもしないレッテルを貼るのはやめてよ!」


 「言っておくけど嘘なんかじゃないわよ。だってソイツと私って同じクラスだもん。もう何度もソイツに放課後一緒に遊びに行こうって気持ち悪く迫られたし。それに他の女子にも必要以上に距離詰めて話し掛けたりしていたわよ。他にも女子の胸やお尻に視線を向けたり気持ちの悪い事も色々とね」


 愛美の口から語られる衝撃の事実に話を聞いていた龍太は驚き以上に悲しみを覚えた。


 何だよそれ。つまり僕はそんな誰彼手を付ける節操のない男に負けたって事なのかよ……。


 視線を安藤の方に向けてみるとその表情は焦りが表面に浮き出ており、視線も分かりやすく泳いでおり一目で狼狽している事が見て取れる。そして今の愛美の発言が真実であると言う事も明白だ。しかし自分の恋人に盲目的になりつつある天音はその現実を受け入れず否定した。


 「聞くに堪えないほどにくだらない言い掛かりだわ。もう行きましょうよ大知君。こんな負け犬幼馴染と言い掛かり女と一緒に居たら頭がおかしくなりそうだわ」


 そう言って一方的に会話を打ち切る安藤と共に学校を出る二人。その際の安藤はまるで真実を隠し通せたと言わんばかりに安堵の息を吐いていた。


 あんなのもう完全に後ろめたい事がある人間の見せる顔じゃん。どうして天音は僕よりもあんな軽薄なヤツを信じられるんだよ?


 自分と天音の間にはもう〝信頼〟と言う名の糸が繋がっていない事実に落ち込んでいると愛美が話し掛けて来た。


 「その大丈夫あんた? 別にあんな奴等の言う事なんて気にしない方がいいわよ」


 「……ありがと」


 「べ、別にあんたを心配している訳じゃないんだからね!」


 どう考えても気にかけてくれているにも関わらずまた否定的な事を彼女は口にしていた。またして心が折れそうな自分を救ってくれた事には感謝するがもう龍太の精神は参っていた。何しろ今日1日だけでもあの二人に何度心を抉られた事か。この先もあの二人の居るこの学校を通い続ける自信などとてもではないが持てそうにない。

 

 これから先の地獄の学校生活を想像するとストレスから胃液が逆流しそうになる。もはや拷問にも近いと理解しながらこの学校に通い続ける意味なんてない。


 先程引っ込んだはずの涙がまたぶり返して頬を伝う。だがその涙が床に落ちる事は無かった。


 「だ、大丈夫だから泣かなくてもいいでしょ。ほらしっかりなさいな」


 龍太の頬を伝う涙を愛美が取り出したハンカチが優しく拭ってくれた。


 「……どうして君はここまで僕を気にかけてくれるの?」


 心配してくれる事は素直に嬉しいが彼女が気にかける理由がいまだ不明だった。昨日偶然出会っただけの自分にどうしてここまでよくしてくれるのだろうか?


 その疑問をぶつけられた愛美は少し顔を赤くして挙動がおかしくなる。だが何かを決心したかのように一呼吸すると龍太の手を握って想像もできなかった答えを口にする。


 「その…いきなりこんな事を言われたら戸惑うかもだけど……す、好きになっちゃったみたいなのよ」


 「え、好きになったって誰が?」


 「この状況であんた以外に居ないでしょうが!!」


 羞恥心を押し殺してまでようやく素直になったのに自分の好意に気付かれず流石に怒って頬を引っ張る。

 両頬を餅の様に引っ張られながらも自分を好きだと言ってくれた愛美に戸惑う龍太。


 僕のことが好き? 長年一緒に居た幼馴染にすら見限られた僕を好きになる異性なんて居る訳ないじゃないか……。


 「助けてくれたのはありがとう。でももう庇わなくていいから……」


 失恋を超える見限りを受けた龍太は自分に魅力など無いと決めつけていた。だから愛美の口から送られた『好き』と言う言葉も素直に受け取れなかった。それどころか疑心暗鬼に陥りつつある彼はまた裏切られるのではないかと言う恐怖から愛美から距離を取る事にした。


 初めから1人きりなら裏切られる事もない。それがこれ以上傷跡を深く付けないで済む最善の行動なんだ……。


 「ちょっと待ちなさいよ…」


 自分から遠ざかる龍太に手を伸ばす愛美だがその手が触れるよりも早く龍太はその場から逃げ出してしまう。


 離れていく少年の脆く崩れそうな背中を見て愛美は伸ばした手を引っ込め自分の服をやるせなさそうに強く掴むことしかできなかった――などはなくそのままダッシュで追いつくと龍太の手首を捕まえた。


 「そのまま用事もなく家に帰るぐらいなら少し私に付き合いなさい!!」


 そう言うと強引に彼女は戸惑う龍太を無視して『とある場所』まで連行するように彼を引っ張って行くのだった。



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