幼馴染が自分の過ちに涙しました
いじめ問題を龍太からの救いによって解決したその年に行われた天音の誕生日会。今までは祝ってくれたのは父と母の家族だけであったがこの年の誕生日は違った。
「おめでとう天音さん!!」
「おめでとー!」
今年の誕生日にはなんと龍太とその妹の涼美も自分のバースデーを祝いに来てくれたのだ。
この時の天音は龍太に対して密かに好意を抱いていたので彼がお祝いに来てくれた事には本当に喜びを感じていた。
そして用意されたケーキを食べ終わると龍太が何やらモジモジとしながら自分をこっそりと隣の部屋に呼び出した。親や妹の目の届かない部屋へと行くと龍太が少し頬を赤く染めながらポケットに手を入れてごそごそとし始めた。
「どうかしたの龍太君?」
「あの…もし良かったらコレ、受け取ってくれないかな?」
そう言いながら彼がポケットから取り出した物は〝手作りの指輪〟だった。
「龍太君…これ……」
「その、僕あんまりお小遣いないから手作りなんだけど指輪を作って来たんだ。その、もしよかったら受け取って欲しいなぁ……」
手渡されたのはモールにビーズと玩具の宝石が付けられている手作りの指輪だった。
慣れない手作業で作られた指輪は龍太自身も安上がりで不格好な出来だと自覚はあった。それでも何か幼馴染の為にしてあげたしと思って何度も失敗作を作りながらこの指輪を完成させて渡した。
だがその出来の悪い指輪を受け取った天音は笑顔を浮かべると心底嬉しそうに振る舞ってくれた。
「嬉しい……私の為にわざわざ手作りしてくれたんだ……」
龍太から受け取った指輪を自身の指にはめながら彼女は嬉し涙まで零していた。
今まで自分と同世代の人間から攻撃されてばかりいた彼女にとって自分と同年代、しかも自分を救ってくれた恩人からの手作りのプレゼントは嬉しいに決まっていた。下手に金を注いだ品よりもこの拙い指輪は天音の心を満たしてくれた。
「良かったぁ、喜んでくれて…」
嬉しそうに指輪を見つめる天音の姿に龍太も照れくさそうにしながらもにっこりと笑みを浮かべる。とは言え龍太からすればやっぱりもっとちゃんとしたプレゼントを渡したかったと言う思いもあり、彼は来年は小遣いを溜めてちゃんとしたプレゼントを渡すと約束した。
だがそんな決心をする彼に対して天音はゆっくりと首を横に振る。
「気持ちは嬉しいけど毎年私の誕生日の為にプレゼントを用意しなくても大丈夫だよ。今日みたいに誕生日を祝ってくれるだけで私は嬉しいから」
「でも……」
確かに自分の喜びを考えてプレゼントを贈ってくれる事はとても喜ばしい。でもだからと言って自分と同じ小学生の子供にお金を使わせてまで無理はさせたくないと言う思いも天音の中にはあった。
だが龍太としても1年に1度しか訪れない祝いの日は出来る限り祝ってあげたいと言う考えがあるのか遠慮する自分に対して『自分がしてあげたい』から気にしないでと言ってくる。しばらく互いが押し問答をしていると折れたのは天音の方であった。
「う~ん、じゃあ私の方から1つおねだりしてもいいかな? もし毎年誕生日プレゼントを贈ってくれるなら龍太君の手作りがいいな」
「えっ、そんな安上がりなプレゼントでいいの?」
「安上がりなんかじゃないよ。私の為を想って作ってくれたあなたのプレゼントはどんな高級品よりも価値があるから。私にとってはあなたの手作りプレゼントは世界一の贈り物だよ」
そう言いながら彼女は貰った指輪を自分の胸の中に抱え込みながら頬を染めて心からの笑顔を彼に向けてた。
「えへへ…じゃ、じゃあこれから毎年天音の誕生日には手作りのプレゼントを用意するね!!」
「うん、毎年楽しみにしてるから」
そう言うと天音は照れくさそうに笑っている龍太の頬に唇を一瞬だけ当てる。
「ふええええ!? あ、天音さん!?」
「えへへ、プレゼントのお返しだよ」
そう言うと彼女は悪戯っ子の様な笑みを浮かべながら龍太の手を取って皆の元へと戻る。いきなり頬にキスをされた龍太は顔を真っ赤にしながら湯気を出している。
ありがとう龍太君。もし私にもっと勇気が付いたらその時は私の中のこの溢れんばかりの想いをあなたに伝えて見せるから……。
初めて龍太と過ごした自分の誕生日会の記憶を思い返しながら天音は気が付けば涙を流していた。
その手の中には机の中を漁って出て来た初めてもらった彼からの手作りの指輪。その指輪をしばし見つめていると後悔の念がどんどんと溢れ、それは涙となって指輪を着けている指の上に落ちて滴る。
「そっかぁ……そうだったよね。私が龍太にお願いしていたんだよね。誕生日にあなたの手作りのプレゼントが欲しいってねだっていたんだったね……」
どうしてこんな大事な記憶を私は忘れていたの? どうしてこんなにも私を想ってくれた龍太をあんな風に突き放したの? どうして私は……彼に抱いていた恋心を自ら捨ててしまったの?
自分の行動を振り返る時間を与えられてようやく理解した。自分は今の今まで彼に対して謝罪をする理由など何一つないと本気で認識していた。自分を見捨てた龍太が悪いと思っていたからだ。だがその考えはあまりにも愚かだったと言う事実を思い知った。
どうかしているわ、冷静に振り返ってみれば最初から最後まで私が悪いじゃない。それどころか龍太は何度も私に許すチャンスを与えてくれていた。こんな最低最悪、醜悪極まりない品性下劣な高華天音と言うクズを救い出そうとしてくれた。でも自分はそんな彼の優しさを踏みにじり続けた。
あの日、彼に渡されたマフラーを踏みつける光景が脳内に映し出される。
「あはは……やっと理解した。私のこの現状はどう考えても自業自得だ。どの面を下げて龍太の事を幼馴染を護ってくれない裏切り者だと思っていたのかしら。私が彼を裏切ったからこの救いようのない現実に突き落とされただけ……」
幼き頃の純粋な自分を取り戻しても後の祭りだ。あれだけ散々龍太を傷つけてしまって何もかも手遅れとなってしまった。
「それでも……彼に謝りたい。あなたに今度こそ心から謝りたいよぉ……」
消え入りそうな後悔の念を口にしながら彼女は初めて贈られた龍太からのプレゼントを抱きしめながらその場で蹲るのだった。