表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/83

元幼馴染はようやく罪を自覚しました

 

 虚ろな瞳を浮かべながら天音は自分の家の自室で体育座りをした状態で壁のシミをぼーっと眺めていた。

 

 「ああ…どうしてこうなってしまったの……」


 彼女は死んだ魚のような目をしながら独り呟く。


 同じクラスの幼馴染のノートを3度に渡って持ち去ると言う窃盗行為を働いていた天音は当然無罪放免とはいかなかった。結果から言えば彼女に下された罪状は停学2週間の処分が下された。だが彼女のこの処分はまだ温情がある方だと言えるだろう。本来であれば退学処分となっていてもおかしくはない、と言うよりも校長は退学処分を下そうと考えていた。だが被害を受けた龍太が彼女の罰を『退学』でなく『停学』にすべきだと意見したのだ。


 『確かに彼女に罰を与えるべきだとは思います。ですが俺は何も破滅的な罰を与えたい訳ではありません。俺が罰を与えたい理由は更生する為に必要な禊だと思ったからです。ですから停学処分として彼女に自身の過ちを見つめなおす時間を与えてはくれないでしょうか?』


 そんなことを言いながら龍太は校長に対して頭を下げて停学処分で勘弁して上げて欲しいと懇願したのだ。そんな恋人の行為を見て愛美は小さな声で『やっぱり甘いわね』と呆れていたが校長は被害を受けた龍太の意志を汲み取って最終的に天音に下された罪科は2週間の停学処分と言う形で落ち着いた。


 華やかな学園生活を目指していた私がこんな惨めな境遇に陥るだなんてね。いや学校だけじゃないわよね。クラスメイト達どころか挙句に両親からまでも軽蔑されて見下げ果てられてしまったんだから……。


 今回自分の停学した理由の内容に関してはクラス内で公にされた訳ではない。だが停学明けに登校すれば間違いなく自分の盗みを働いた事はクラス皆の周知の事実となっているだろう。人の後ろ暗い秘め事は何故か隠し切れない。あの龍太や愛美、それから担任教師が例え口をつぐんでくれたとしても盗難の事実はバレるだろう。かつての自分の恋人であった安藤大知が他校の女性達と関係をもっていた事が知られたように。

 そして今回の天音の犯した罪は当然だが彼女の両親にも知らさられた。

 

 まさかお父さんもお母さんもあそこまで大激怒するだなんて……いや、当然の反応と言うべきかしらね。二人共龍太をまるで自分の息子の様に想っていたんだから……。


 瞼を閉じれば両親が龍太に対して揃って土下座をするシーンが思い浮かぶ。

 父には『この恩知らずがッ!』と言われながら平手打ちをされ、母からは泣きながら『どうして龍太君を裏切れたの!?』と嗚咽交じりに肩を揺らされた。


 成長するにつれて天音の人間性はどんどんと腐って行った。しかしずる賢い彼女は両親の前では善良な良い子を演じていた。当然だが龍太とも高校に入ってからも仲良くしているなどと出任せを笑いながら話していたぐらいだ。そんな娘が小学生時代からの幼馴染に裏ではこんな卑劣な行為を働いていたと知った両親はしばし放心してしまった。

 天音の両親にとって龍太は娘の恩人とも言える子だった。小学生時代に二人は娘が小学校でいじめを受けていた事実に間抜けにも気付けなかった。そんな不甲斐ない自分達よりも先に娘をいじめ問題から救ってくれた彼には心から感謝をした。

 だが娘はあろうことかそんな彼を裏切ったのだ。今回の件で娘が盗難だけでなくずっと龍太を貶していた事実も連動して知られてしまい天音は学校だけでなく自宅でも肩身の狭い生活を強いられるようになった。


 『どうしてお前は龍太君にここまで惨いことが出来る!?』


 『いじめから救ってくれて、毎年手作りの誕生日プレゼントまで貰って……どうしてなの天音……』


 家族にまで非難された事で天音はようやく自分が最低な過ちを幼馴染に行っていた事を理解できた。だが今更自分の罪を自覚したところで何もかも手遅れだろう。

 

 「どうして……こうなっちゃったのかなぁ……」


 停学を言い渡されてから天音の自宅謹慎は今日で3日目となる。親からは自分の行動を思い返して反省しろと叱られ、そして他にする事もない彼女は言われたとおりに自分の部屋で何度も龍太に対して行った非道や暴言を反芻していた。


 1日目には悪いことをしたなぁと軽く反省した程度で終わった。だが2日目には龍太のお陰でうす暗い小学生時代が明るくなった事を思い出していた。そして今日の3日目には毎年自分の誕生日を祝ってくれた龍太の優しさを思い返していた。


 ほんと……どうして私は龍太よりもあんな顔だけしか取り柄の無いクズを受け入れたのかしら? 


 実の親からの叱責、そして何より自分を見つめなおす時間を与えられた事でこれまで龍太に救われた記憶が蘇って来る。自分がいじめられていた時に助けてくれた事だけではない。勉強に困ったときだって彼は助けてくれた。それに毎年自分の誕生日には自身の時間を削ってくれてまでプレゼントを用意してくれた。それに引き換え自分は彼に何をした? ただ苦しみと絶望だけを与えて一方的に縁切りしかしてない。


 「あ……思い出した……」


 誕生日の手作りプレゼントの事で天音は今まで忘れていた過去の自分が龍太に対してお願いした〝あの言葉〟を思い出した。


 それはまだ彼女の人格が歪む前の幼き頃だ。暗闇の中から救ってくれた龍太に対して心から好意を抱いていた時に彼が自分の誕生日に初めてくれた〝ある手作りプレゼント〟を貰った日の記憶……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 天音自身も気がついてるけど退学より停学の方が地獄なんだが。話が何処からか広がり停学明けたら針の筵の学園生活を送る事が確定するし。しかも今回の窃盗だけでなくクズと付き合ってた事も追い風になるだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ