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元幼馴染に対して心を鬼にしました


 ボイスレコーダーから垂れ流される天音の自白音声を全て聞き終えると校長は深々と溜息を吐いていた。その仕草はまるで自分の学校の生徒がこのような過ちを犯していた事に対する失望と嘆きを表している様にも見えた。いや、事実そうなのだろう。

 

 「和木見(わきみ)先生。あなたは今の今まで自分のクラス内でこのような事態が起きている事に気が付かなかったんですか?」


 「そ、それは……」


 「自分の受け持つ教え子が盗み、それをどう思っているんですか?」


 「あぐうう……」


 自分のクラスの現状を把握できていなかった龍太のクラスの担任は分かりやすく汗をかいて俯いていた。その情けない教師の姿を見て愛美はボイスレコーダーを停止させながら内心で呆れていた。


 はぁ…何だか見る限り情けない教師ね。まぁウチの担任も似たようなもんだけど……。


 確かに彼は龍太の口から直接盗難の相談を受けたわけではない。だが今回の龍太の様にクラス内で明らかに困っている生徒が居ても基本は自分から事情を尋ねない。言うなれば事勿れ主義とでも言おうか、学校や自身の評価を最初に考えて問題にしたくないのだろう。今時の大人と言うのは……。

 校長もどうやら自分と同じような考えなのか嘆かわしいと言わんばかりに龍太の担任教師を睨むかのように見ている。


 「まあそちらの話は後で二人でするとしましょう。それよりも高華君、何故こんな事をしたのかな?」


 ゆったりとした口調だが凄まじい重圧を含んでいる言葉に対して天音はしばし無言で俯いていた。そしてしばらくの間を置くと小さな声でこう呟いた。


 「……けてよ」


 「ん、小さくて聞き取れないよ。もう一度言ってくれるかな?」


 「……助けてよ」


 先程とほとんど変わらぬ声の大きさだったが耳を澄ませて天音の言葉を今度は聞き取る事が出来た。だがよく見てみれば彼女の視線は校長ではなく龍太の方へと向いている。


 次の瞬間に天音は鬼気迫った表情をしながら龍太の方へと一気に駆け寄って来たのだ。まさかの行動に龍太を含む全ての者は面食らった顔をしてしまう。


 「お願い龍太!! どうか、どうか私をまた救ってちょうだい!!」


 そう言いながら天音は必死の形相を浮かべながら涙交じりに懇願した。みっともなく龍太の脚に縋りつきながら自分を助けてくれと都合の良い訴えを続ける。


 「少し魔が差しただけなの!! もう金輪際あなたには陰湿な嫌がらせはしないしこれまでの事だって全部謝るわ!! お望みなら土下座でも何でもするから!!」


 今まで何が何でも自分の非を認めなかった天音はもはや恥も外聞も捨てて龍太の情に訴える。


 大丈夫よ、お人好しの龍太ならきっと私を助けてくれる。こんなにも情けない私を龍太が見捨てる訳が無い。いや見捨てれないのよ。


 もう教師連中に盗難がバレてしまった以上は無傷では済まないだろう。だがここで被害に遭った龍太が自分を庇ってくれればまだ大炎上の状態からボヤ程度にまで傷を浅くできる可能性もある。つまりはこの謝罪も本心から申し訳ないと思っているものでなく、自分の罪を少しでも軽くしようと言うパフォーマンスに過ぎなかった。


 残念なことにこの期に及んでも天音と言う人間は腐っていた。


 「アンタいい加減に……!!」


 この期に及んでも自分の恋人に助けを求める往生際の悪さに愛美が無理やり龍太から彼女を引き剥がそうとする。

 だが愛美が手を出すまでも無く龍太は自分の脚に纏わりつく幼馴染を両手で引き剥がしたのだ。


 「もう観念するしかないよ天音。君は一度ちゃんと罪を償わなければいけない。そうでなきゃ……君はこの先も堕ち続けるだけだよ」


 「な、何を言ってるの? 私はちゃんと反省してるわよ! 見てよ私の顔、これが演技に見える!?」


 龍太は一度目線を天音から切ってチラリと他の3人を見た。

 校長も愛美もどうやら自分に最後まで喋らせてくれるらしく自分と天音の会話を遮る様子はない。まあ担任の和木見先生はこの後の校長との話し合いを気にしてこちらをそもそも見ていないが。


 とにかく自分に好きに喋らせてくれる時間をもらった龍太は天音へと言うべきことを言う。


 「今の君は本心から申し訳ないと思っていないよね。自分が少しでも助かりたいって欲が見えている。だからそんな性根の君をここで許してしまえばまた君は何かしらの過ちを犯してしまう」


 「どうしてそう言い切れるのよ! 私の反省が演技なのか本気なのかなんてどう見分けてるってのよ!? エスパーでもないくせにいい加減な事を言うな!!」


 確かに龍太には相手の心を読み取るような神通力は持ち合わせていない。だが今の彼女の瞳を見れば分かってしまうのだ。


 昔の君はこんなにも濁った瞳をしていなかった。謝罪している時でさえ君の眼は黒く染まっていた。だからここで僕が下手に甘さを見せると君はもう昔のような純粋な人間に戻れないんだ。


 この時にようやく愛美の言っていた『下手な優しさはかえって相手を歪めるだけ』と言う言葉が本当の意味で理解出来た気がする。たとえ一度はどん底に落とす事になるとしてもここは心を鬼にしなければ天音は更生する機会すら失ってしまう。もし幼馴染を本当に想うならば下手な優しさはかえって毒になる。


 だから龍太は怒りを滲ませた瞳を向けながら冷酷な言葉を言い放つ。


 「キッチリと罰を受けるんだ。少なくとも僕は今の君を『助けない』から……」


 「そ、そんなぁ……」


 自身の中の最後の糸が切れた事を悟った天音はその場で項垂れる事しか出来なかった。だがこれは自業自得だろう。何しろ彼女は何度も目の前の彼を〝裏切った〟のだから当然の末路としか言いようがなかった。



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[一言] 塀の向こう側で猿と合流して、猿鳶ッチーズ再結成!(•▽•;)(出処後のコンビ名は、ドーロ・ホリャアズで。)
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