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元幼馴染の悪行を晒しました


 龍太と愛美からの最後のチャンスを自ら放り捨てた天音はその翌日に学校の校長室で顔を青くしながら震えていた。

 

 「さて、これで話し合いの場は整ったようだね」


 白髪が多く混じり年季の入った彫の深い顔をした高齢の人物が口を開いた。そう、この学校の校長だ。

 とても覇気を感じられる風体の校長の発言によって室内の空気が更にひりつく。


 校長室に集まっている面子は全部で5人だ。まずはこの部屋の所有者である校長と1年1組の担任の教師の二人。残りの3人は1年1組の生徒である金木龍太と高華天音の二人と1年2組の月夜愛美だ。


 校内放送で校長室に呼び出された天音は先程から体の小刻みな震えが止められなかった。何しろ職員室を通り越して学校の長の元へと至急来るように言われたのだ。しかも部屋を訪れてみればそこには重苦しい空気と共に担任の教師と龍太が居たのだ。


 ま、まさか私がノートを盗んでいた事で呼び出されたんじゃ……。


 この面子を見ればまさかも何もないだろう。教師達やあの忌々しい月夜愛美の怒りに滲んだ顔、そしてまるでお別れでもするかのような龍太の表情が全てを物語っている。それでもまだ何か別件で呼び出されたのではないかと儚い希望を乗せて何故自分が呼び出されたのか問いを投げた。


 「あ、あの…私はどうして呼び出されたんでしょうか?」


 貫禄のある校長の不機嫌そうな表情に怯えつつも天音は質問をする。


 「何故呼び出されたか? それは君が一番理解しているのではないかな?」


 「あ…あの……」


 「では単刀直入に呼び出した用件を言わせてもらうよ。高華天音君、君はここに居る金木龍太君のノートを通算3度も盗んだようだね?」


 「ち、違います! 私は盗みなんてしていません!!」


 普通ならばこの場に呼び出されてこんな見苦しい言い訳はしないだろう。だが天音は昨日の愛美との会話を思い出してつい反射的にこう口をついていた。


 大丈夫大丈夫!! だってあの女は証拠はないと言っていたじゃない!! ここでもし『盗んでいました』なんて言ってしまえば終わりだけどシラを切り通せば何とかなる!! 疑わしくても証拠が無ければ有耶無耶に出来るはずよ!!


 かなりテンパっている彼女はまだこんな状況下でも乗り切れると踏んでいた。だがそんな砂糖の様に甘ったるい考えは――愛美の用意した〝証拠〟によって一瞬で霧散した。


 ――『……無いなら変にこびへつらう理由もないもの』


 えっ…何今のセリフ? 私喋ってないのに……。


 突然室内には自分と瓜二つ、と言うよりも自分としか思えない声が聴こえてきたのだ。声の発信源は愛美の方からなので視線を移動してみると彼女の握られている〝ボイスレコーダー〟を見て青ざめてしまう。


 「そ…それ……」


 指を震わせながら天音は自分の声が再生されたボイスレコーダーを指差す。

 その行動に対して愛美はゆっくりと頷くと彼女を一気に奈落の底へと叩き落とす言葉を突きつけて来た。


 「あんたが龍太のノートを盗んでいた証拠音声よ」

 

 「ど、どうして!? だってアンタ証拠は無いって言っていたじゃない!!」


 「正確には『今はまだない』と私は言ったのよ。この証拠は昨日のあんたとの会話の中で録音した証拠よ」


 「ひ、卑怯よそんなの! こんなの誘導尋問じゃない!!」


 「あの時に屋上で私は言った。ここで謝罪さえすれば龍太も私も最後のチャンスを与えると確かに言っていたわよね? そのチャンスを踏みにじったのは他ならぬあんたよ高華天音」


 そう言う彼女の瞳には一切の慈悲の心は宿っていなかった。そして改めて録音した機器を最初から再生しようとする。


 「や、やめてよ!!」


 あの屋上で口にした自分の発言が校長や担任教師の耳に入れば自分は破滅だ。それだけは避けようと彼女は思わず力づくで愛美からボイスレコーダーを奪い取ろうとする。

 

 だがその行く手を邪魔したのは龍太であった。


 「往生際が悪いよ天音。もう…手遅れなんだよ……」


 う…うそでしょ? 龍太が……あのお人好しがこんな目で私を見るだなんて……。


 まるで汚い物でも見るかのようなお人好しの幼馴染の瞳に圧倒されて天音の足は止まってしまった。その隙を付いて愛美は容赦なく昨日の録音を再生した。


 「校長先生も聴いてください。これが真実です」


 「や、やめろぉ!!!」


 必死な天音の訴えは聞き入れられず愛美はカチッと再生ボタンを押した。


 ――『何が情けよ。アンタやあの女顔に頭下げるなんてごめんよ。証拠が無いなら変にこびへつらう理由もないもの。もう金輪際二度とノートを盗まなければ問題にならないわ。ざんねんでーした! もしアンタがこれまで私がノートを盗んだ瞬間の証拠を持っていれば頭ぐらい下げていたのにねぇ。アンタが浅はかに行動してくれて助かったわ。今日の放課後もアイツのノートを盗んで家で引き裂く予定だったのに行動を焦ったわね。証拠が無ければ学校だって真面目に対応しちゃくれないわよ』


 その音声が流れ終えると全てが終わったと悟った天音はその場で崩れ落ちるのだった。


 

 

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