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ツンデレ美少女が慰めてくれました


 「まさかここまで愚か者だったとはね。もう救いようがないわ」


 屋上での天音とのやり取りの一部始終を録音したボイスレコーダーを握りしめながら愛美は疲れたように溜息を吐く。

 このボイスレコーダーの中には天音が龍太のノートを盗んだ発言がしっかりと録音されている。これで彼女が窃盗行為を働いた証拠を手に入れる事ができた。


 「それにしても龍太はきっと悲しむわよね。最後の最後まであんな女でも救いの糸を垂らし続けていたぐらいだし……」


 もしも自分が龍太の立場ならあんな性悪女に慈悲など与えずとっくの昔に制裁を加え終わっているだろう。だが彼はあまりにも優し過ぎる。もしも彼女が謝罪の1つでもしたら許してほしいと頭を下げて頼んだほどにだ。これまで何度も一方的に非道を働かれても幼馴染を許してしまおうとする。だがあの幼馴染はその優しさを利用して完全に〝依存〟していると言ってもいいだろう。だからこそ彼女は自分が何をしても許されると信じてしまう。金木龍太は許す人間だと決めつけて行動している。それが愛美には許し難い事実だった。


 でも許し続けるだけじゃあの女は一生反省しない。むしろ図に乗って逆恨みすらする。現に今回が最後のチャンスだったと言うのに簡単にそのチャンスを捨ててしまったからね……。


 結局彼女は龍太に盗みを働いた行為に対して一言たりとも謝罪はしなかった。それどころか自分は証拠が無いと言った途端に有頂天となり開き直ったぐらいだ。


 「……報いは受けてもらうわよ高華天音」


 この場から立ち去った天音に向けて愛美は処刑人のような瞳でそう呟くと屋上を後にする。

 

 いつもであれば昼休みは屋上で龍太に自分の手作り弁当を振る舞っている。だが今回は天音との話し合いで時間を潰してしまったために龍太とは別々に昼食を済ませる約束をしている。

 今から食堂に行っても混んでるだろうと思い購買でパンでも買おうかと考えていた時、前方に見知った人間が背を向けて歩いていた。


 「あっ龍太……」


 自分の視線の先で歩いているのは恋人である龍太だった。

 だが正面に回って顔を見ずとも彼が落ち込んでいる事が背中から漂う哀愁で一目瞭然だった。そんな彼を放置などできず当然彼女は声を掛ける。


 「何をゾンビみたいな歩き方してんのよ」


 「あ…愛美……」


 自分に声を掛けてくれた人物が恋人だと知ると最初に彼の口から出て来た言葉はコレだった。


 「どうだった? 天音は反省…してくれた…?」


 「………」


 恐らくだが龍太はきっと私の口からこのような返答が出るのを期待しているのだろう。


 ――『良かったわね龍太。どうやら彼女も反省する心はあったみたい。ちゃんと自分の犯した過ちに対して謝っていたわ』


 そんな風な答えを彼は欲しているのだろう。だって私がそう答えれば彼はまだ幼馴染に手を差し伸べられるのだから。


 だが私はあえて心を鬼にして残酷な真実を話す。屋上での天音のどこまでも己の悪行を省みない発言、そして証拠となる彼女の盗難暴露のボイスレコーダーの音声も聞かせて上げた。当然謝罪など彼女は一切しなかった事もきっちりと話す。

 全てを聞き終わると龍太は『そっか…』と小さな声で呟いただけだった。


 まるで生気が抜けたかのような顔をしている龍太を見て愛美は彼の腕を引いて再度屋上まで連れて行こうとする。


 「……アンタちょっと付いてきなさい」


 「えっ、でも今から購買に行こうかなって。愛美だってまだお昼は済ませていないんでしょ?」


 「1日ぐらいお昼抜いてもいいでしょ。ほら一緒に来る!」


 半ば強引に屋上まで連行された龍太。

 屋上内には他に誰も居ない事を確認すると愛美は無言で龍太の頭を掴むと自身の胸に抱き寄せた。


 「なっ、あ、愛美!?」


 豊満な恋人の胸に圧迫されて思わず龍太が戸惑いの声を上げる。

 だが慌てふためく彼氏とは対照的に愛美は落ち着いた声色でこう言った。


 「今なら誰も居ないわ。我慢できないなら一度泣いて気持ちをリフレッシュさせないさいな」


 彼のことを心から愛しているからこそ愛美は瞬時に今の龍太が悲しみを堪えている事など容易に見抜けた。幼馴染をもう救うことが出来ない事実に彼が心痛を感じている事を。


 もう彼女はどうしようもない。その現実に打ちのめされている彼をせめて……癒してあげたい……。


 「悲しいなら思いっきり泣きなさい。こんな時こそ恋人である私が受け止めて上げるからさ」


 そう言うと限界だったのだろう。龍太の顔は自分の胸に沈んで伺えないが小さな嗚咽が聴こえてきた。そして屋上の地には小さな水滴がポタポタと落ちていく。


 「ごめん…ごめんね……」


 彼の口から出て来た謝罪、これは果たして恋人に情けない姿を見せている自分に対してなのか? それとも救ってあげれなかった幼馴染に対してなのか? その答えを彼女はあえて聞かなかった。

 残りの昼休みの時間、龍太は恋人に縋りつくように涙を零して謝り続けていた。


 そしてその翌日、ついに高華天音の行いを清算する時がやって来る。


 

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