ツンデレ美少女と元幼馴染が屋上で対話します
学校の屋上に二人の美少女が眼前の相手を睨み合いながら向かい合っていた。
1人は龍太の恋人である月夜愛美。そしてもう1人は龍太の元幼馴染である高華天音。
この二人は互いに金木龍太と言う人間に1人は愛情を持ち、そしてもう1人は憎しみを抱いている相反する存在だった。
「こんな場所に呼び出して何の用なのよ? 今更アンタと話なんかしたくないんだけど……」
不機嫌そうな声色を出しながら天音はこんな場所まで連れて来た愛美に向かって腕組をしながら要件は何かを問う。
無駄な前置きなどする必要も無いと判断し愛美は単刀直入に言った。
「心配しなくても私だってアンタと無駄話をする気はないわ。単刀直入に訊くけどアンタさ、龍太のノートを盗んでいるわよね?」
その問いに今まで不機嫌そうに歪めていた彼女の表情が青ざめた。しかも動揺のあまり彼女は『何でそのことを知って…』とまで口走ってしまった。すぐにハッとなって口を押えていたが今更手遅れだ。
「まさか質問直後に自白するなんてね。お陰で話がスムーズに進むわ」
「う、うそ。教室には誰も居なかったのに……」
もう口を滑らせてしまったからか彼女は取り繕う事なく自分の犯行を見られていた事に焦っていた。
目の前で顔を青くしている彼女を見てどうやら不味い事をしている自覚はあったらしい。だが悪意があった分余計に質が悪いとも言える。まあ悪意が無ければそもそもこんな行為に走らないのだが。
「ね、ねえまさかこの事を学校側にチクったりしてないわよね?」
真っ先に出て来るその言葉に愛美は思わず溜息を吐いてしまう。予想は出来ていたがやはり彼女は龍太に対して罪悪感を覚えるよりも先に自分の保身を考えていた。
「心配しなくても龍太はこの事実をまだ学校には報告していないわ。それに現場を見たらしいけど証拠はそれ以外何もないらしいし……」
ちなみに犯行現場を目撃していたクラス委員長には龍太の方から黙っていて欲しいと頼んでいるらしい。その際にその女子にはどうしてなのかと怪訝な顔をされたらしいが。
龍太がこの事実を黙っている事、そしてなにより明確な証拠がないとを知ると天音は急に余裕を取り戻した顔をしながら横暴な態度を取り出す。
「はんっ、それならもう何もしなければ私は安全ね。話はそれだけ? 昼休みも終わっちゃうから私はもう行くわよ」
そう言うと彼女は愛美の肩にわざと強くぶつかりながら屋上を出て行く。
自分に一切の被害が無いと知ると同時に態度をコロッと変える。挙句には龍太に対して申し訳なさも一切感じていない天音の姿に愛美は屋上から彼女が消える前に呼び止める。
「まだ話は終わってないわ。アンタさ、自分がやっている事が犯罪だって理解している? 本当なら学校側に報告してアンタに制裁を加えられる龍太が踏み留まってくれた気持ちに感謝の心は無い訳?」
その言葉に対して天音は信じがたい発言をしてきたのだ。
「はんッ! 私がこんな真似をした理由はそもそもが龍太が悪いからなのよ!! 同じクラスでしかも幼馴染の私が苦しんでるのに助けてくれなかった!! 私なんかよりも高校から出会ったアンタなんかに懐いてさ! 小学生からの付き合いの私よりアンタを選んだ罰だと思えばいいのよ!!」
「一体どの口がほざいてんのよ? これまでのアンタの行動を冷静に振り返ってみなさいよ。どこをどう捉えれば龍太が悪いなんて結論になる訳? アンタの方から一方的に縁切りして、散々根も葉もない龍太に対する悪評を教室内で広げ、そして挙句にはただの一度も自分の行いに対する謝罪を彼にせず逆恨みして」
「ぐっ、五月蠅いのよ!! やかましい!! 黙れ!! さえずるな!!」
冷静に自分の悪行を並べられた天音は子供の様に具体性の無い悪口をぶつける。
……やっぱりもう駄目よ龍太。あんたはこの女を救いたかったかもしれない。でもこんな時までこの女は自分の罪を理解しない。いや理解していたとしても受け入れず無罪の龍太を悪者と非難する。もう……どうしようもないわ……。
できる事なら龍太の望みを汲んであげたかった。だがもし彼女が反省をしなければ事前に温情を与えなくてもよいと龍太にも許可は取ってある。
彼女はこっそりと忍ばせている〝ある機器〟のスイッチをオンにして作動させる。
「よく聞きなさい高華天音。確かに今回のアンタの犯行に対する証拠は〝今はまだない〟わ。でもね、アンタの行いで龍太は迷惑をこうむった。自分の所有物が盗まれる恐怖が分かる? 今から龍太に謝りなさい。そうすれば龍太も私も最後の情けを掛けてあげる」
「何が情けよ。アンタやあの女顔に頭下げるなんてごめんよ。証拠が無いなら変にこびへつらう理由もないもの。もう金輪際二度とノートを盗まなければ問題にならないわ。ざんねんでーした! もしアンタがこれまで私がノートを盗んだ瞬間の証拠を持っていれば頭ぐらい下げていたのにねぇ。アンタが浅はかに行動してくれて助かったわ。今日の放課後もアイツのノートを盗んで家で引き裂く予定だったのに行動を焦ったわね。証拠が無ければ学校だって真面目に対応しちゃくれないわよ」
そう言って天音は屋上から勝ち誇ったような笑みを浮かべて愛美を侮辱しながら出て行った。
「……終りね」
そう言いながら愛美はこっそりと作動させていた〝ボイスレコーダー〟を取り出しながら消えて行った天音を哀れに思うのだった。