クラス委員長が元幼馴染の犯行を目撃していました
高校入学から本当に様々な事があったと龍太はしみじみ思い返していた。長年仲良くしていた幼馴染からの絶縁、お手本のようなツンデレ少女との交際、そして元幼馴染の彼氏との揉め事により入院生活とまだ高校生活を始めてから三ヶ月の間にこれだけの経験をするとは入学時は想像もしなかった。
さて、少し話は変わるかもしれないが今の時期は学校は少しピリピリとした空気となっている。その理由はもうすぐ迎える期末考査だ。今後の成績に大きく関わるテスト期間が迫っている事で皆がいつも以上に勉学に力を入れている。少しでも上位を取りたいと大半の生徒は試験範囲の勉強に必死になっている。だが逆にテストが近づこうがいつもと変わらぬように過ごす生徒も居る。それは潔く諦めている者と日頃から勉強を真面目に取り組み点を取れる者だ。
ちなみに龍太は日頃から真面目に勉強に取り組んでいるので完全に後者だ。しかし彼は少し困りごとを抱えていた。
「またかぁ…今度は歴史のノートが消えているよ……」
その悩みとはノートの紛失だ。ここ最近ノートが消えると言う現象が自分の身に起きており、しかも今回でもう3回目なのだ。
最初は数学のノートが消えた際は自分が無くしたと思いそこまで問題にしなかった。だがその次は理科のノートが消えた。そしてついにこれで3度目、今回は歴史のノートが突如紛失したのだ。
こんなの絶対におかしいよ。いくら何でもこんな立て続けにどこかに置き忘れとか考えられない。それに最初の数学のノート以降は常に教科書やノートの場所を確認していたし……。
そもそも今日の昼まで間違いなく机の中に歴史のノートは在ったはずだ。だがいざ帰宅時間となり荷物を纏めているとノートが消えている。これはもう…完全に盗まれているとしか言いようがない……。
だが自分のノートなど盗んでどうなると言うのか
一体何がしたくて僕のノートを……まさか……嫌がらせ目的で盗んでいる?
ここで龍太は自分のノートを盗んでいる人物の犯行動機にまさかの可能性を感じた。
こんなことを自分で言うのもなんだけど僕は良くテストで平均90点は取っている。でもその事をひけらかしたりしてない。そして特に誰かと上位を目指して成績を争っている訳ではない。となればもう自分に悪意を持って盗みを働いているとしか思えない。
だがこのクラスの人間は皆が自分と親しく接してくれる。しかし唯一このクラス内に自分に強い敵意を抱いている人物が1人だけいる。それは幼馴染である高華天音のことだ。本来ならば幼馴染はもっとも友好的な関係だろうに……。
だが実際に龍太にも思う部分はあった。前回の理科のノートが消えて机や鞄の中を探している時に他のクラスメイト達は怪訝な顔をしていたが天音だけは違ったのだ。上手く言えないがこう『してやったり』と言わんばかりの笑みを浮かべていた気がするのだ。
……いやいくら何でも考え過ぎだよね。確かに天音とはすれ違っている状態だけどそこまでするはずがないよね。
もしも本当に天音の犯行だと言うならばもう冗談では済まない。例えノートと言えどもこれは立派な犯罪行為だ。もしも学校全体にこの事実が知れ渡ればこの学校にもう天音の居場所はなくなるだろう。それに天音を疑う自分の根拠だって彼女が見せた怪しげな笑みだけ、明確な証拠だってある訳でもない。しかし天音の犯行でなかったとしても誰かにノートを盗まれている事は確実とも言える。
もういっその事この事実を担任の教師にでも相談しようかと思っているとクラス委員が近づいて話し掛けて来た。
「あの金木君……少し大事な話があるんだけど……」
そう言いながら彼女は何故かもう既に下校して教室を出た天音の空席を見つめている。その視線がどういう意味か気にはなったが要件を尋ねると彼女は信じがたい事実を告げて来た。
「その、今日の昼休みに高華さんが金木君の机の中を漁っているように見えたけど……何か知ってる?」
「え……何それ? ぼ、僕の机を漁っていた……?」
「うん…その時にノートを一冊取り出していたけど……ほら、もうすぐ期末テストも控えて居るからノートを貸していたのかなって?」
昼休みに自分以外誰も居ないと思っていた天音は三度目になる窃盗行為を龍太に対して働いていた。だが実は教室の外から偶然にもクラス委員の彼女がその現場を見てしまったのだ。だがもしかしたら龍太から事前にノートの貸し借りの許可を得ている可能性もあると思いその場では黙っていた。いや、本音を言うのであれば犯行を行っている天音が不気味すぎて怖かったのだ。
当然だがノートの貸し借りなどそんな約束を自分は一切していない。そもそもあの病院でのやり取り以降は彼女と直接会話すらしていない。なのに彼女は許可も得ずノートを持ち去って行った? え……え……?
この時、龍太は元幼馴染に対して怒りではなく恐怖に近い何かを感じ取っていた。その狂気に対して気が付けば膝が微かに震えていた。