表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/83

ツンデレ美少女がクラスに来ました


 失恋を乗り越えて、いやまだ精神的には引きずっているがどうにか朝を迎えた龍太だが決して晴れやかな気分とは行かない。


 「はあ…今日、学校行きたくないなぁ……」


 学校に登校してしまえば当然同じクラスである天音とも顔を合わせる事となるだろう。だがあんな冷酷に自分を突き放した相手と顔を合わせて授業を受けるなど今の精神状態を考えると拷問に近い。

 外を見てみるとそんな憂鬱な自分とはまるで対照的に外は晴天でとても眩い。


 「はあ…学校行かないとな……」


 ここでショックを引きずって部屋に引きこもれば家族に心配を掛けてしまう。特に涼美とは違い母は自分が天音にフラれた事実を一切知らない。と言うのもこの話はあえて母には黙っている様に妹にも口止めしていたからだ。


 きっと母さんがこの話を聞けば僕と同じくショックを受けるだろうからなぁ……。


 小学生時代からの付き合いと言う事もあり母にとっても天音は大切な存在だった。まるで我が子の様に接していた母の姿を思い出すととてもじゃないが縁を切られた事実は衝撃的過ぎるだろう。

 それに自分が幼いころに父は交通事故で帰らぬ人となり女手一つで母は自分と涼美を育ててくれた。そんな母には極力心労を与えたくはない。


 家を出る際に妹から本当に大丈夫かと心配されながらも無事に登校出来た龍太であったがすぐに彼の心は乱される事となる。


 その理由は学校に付いて玄関で上履きに履き替えている時のことだ。背後から朝から楽しそうな男女の話し声が聴こえてきた。その声に反射的に反応するとそこに居たのは腕を組んで分かりやすくイチャイチャしている安藤大知と天音の二人であった。

 相手の方も自分の視線に気付いたのか更に声のボリュームを上げて自分の横を通り過ぎて行く。


 「もう朝からベタベタしすぎだよ大知君」


 「別にいいじゃないかよ。俺達の仲の良さを周りに見せつけてやろうぜ」


 「ふふ、そうね。特に未練がましく私を見ている誰かさんにはもっと見せつけるべきね。いつまでも粘着質に付きまとわれるのも嫌だしね」


 そう言うと天音は自分を横目で見て鼻で笑う。

 

 完全に自分に対して嫌がらせを働いていると理解して思わず龍太は下唇を噛んだ。


 どうして…どうしてこんな目に遭わなきゃならないんだ? 自分から関係を断ってきたくせにこんな見え見えの嫌がらせまでされないといけないんだ……!!


 崩れそうな心を鼓舞して何とか学校までやって来た彼であるがとてもクラスまで精神が持ちそうにない。


 ………もういいや、このまま家に帰ろう。


 家族に心配を掛けたくない一心だったがもう彼の心は折れかけていた。

 とてもこのまま今日一日を学園内で過ごすなど不可能だと思い学校に来て早々帰宅しようと考えていると背後から自分へと声を掛けて来る人物が居た。


 「あ、あら奇遇ね金木龍太」


 「え…?」


 背後からどこかで聞き覚えのある女性が急に話し掛けて来た。振り返って相手の姿を確認するとそこに居たのは昨日町中でガラの悪い男達に絡まれていたツインテールの少女であった。


 「確か君は昨日の……」


 「そ、その…あの……べ、別にアンタが来るのを待っていた訳じゃないんだからね! ただ偶然玄関先であんたを見かけたから声を掛けただけなんだからね!! だから変な勘違いするんじゃないわよ!!」


 「えっと別に何も訊いていないけど…」


 何かを質問した訳でもないのに昨日と同じく否定的な口調で話しをする彼女に少し苦笑をしてしまう。

 

 何というか本当に忙しい娘だなぁ。それにしても気になるのは今彼女は僕の名前を呼んだけど律儀に憶えてくれていたのかな?


 「な、何をじーっと見てるのよ金木龍太。わ、私の顔に何か付いているのかしら?」


 腕組をして豊満な胸を強調しながらツリ目で睨みつける彼女に何を言えばいいのか分からずとりあえず無難に朝の挨拶をしておいた。


 「えっと確か月夜愛美さんだったよね? おはよう」


 特に変哲の無いただの挨拶をしただけのつもりだったが何故か彼女は自分に挨拶をされると一瞬だけ嬉しそうに笑顔になる。だがすぐに頬が赤く染まるとまた攻撃的な口調に戻って理不尽に噛み付いてきた。


 「ふん少し疑問形で私の名前を呼ぶなんて記憶力が低いのかしら。人の名前はちゃんと憶えておきなさい」


 罵声を滲ませながらそう口にすると彼女は素早く上履きに履き替える。そして速足でそのまま自分の前から立ち去ろうとする。


 「……おはよう」


 「え、今何か言った?」


 何やら去り際にボソリと彼女が呟いた気がして聞き返してみるが愛美は反応せずそのまま自分の視界から姿を消して自分のクラスへと去って行った。

 残された龍太はしばし呆然としていたが溜息をつくと結局は自分のクラスへと向かう事にした。つい今しがたまでもうショックのあまり自宅に引き返そうとしていたが何だが今の彼女とのやり取りで気が抜けて馬鹿馬鹿しくなってしまったのだ。


 そう言えば昨日もショックを受けていたところを彼女に有耶無耶にされて少し気が楽になっていたなぁ。今も彼女が話し掛けてくれたお陰で家に戻って引き籠るなんて馬鹿な選択をせずに済んだと思えば感謝すべきなのかな? まああの娘からすれば僕の心情なんてどうでも良いことだろうけど……。


 とは言えクラスも違う彼女と早々関わり合いを持つ事もないだろうと思い自分のクラスに着く頃には彼の頭の中にはもう愛美の事はすっかり抜け落ちていた。


 だが昼休みの時間になると彼のその予想は見事に覆された。


 「えっと…一体今度は何の用かな?」


 「用が無ければ来てはいけないのかしら?」


 「いや…用がないなら何で来たの?」


 予想外の人物の訪問に龍太は首を捻っていた。


 4限目の授業が終わり昼休みとなるとクラスの人間はそれぞれ昼食を取り始めた。

 元幼馴染である天音は手作りと思われる弁当箱を持ちながら彼氏のクラスへと向かって行った。教室を出る際に一瞬だけ目が合ったがその時の彼女の瞳は完全に自分を負け犬でも見るかのように見下した視線だった。

 同じ教室内に居る間も何度も天音の蔑みの色が強い瞳を度々向けられて正直居心地は最悪で辛かった。昼休みになっても憂鬱な気分は晴れず学食や購買で昼食を購入する気にもなれず机に突っ伏しているといきなり頭に軽い衝撃が走った。


 机に張り付かせていた顔を上げると何故か自分の席の前に別クラスに所属しているはずの月夜愛美が立っていたのだ。


 「おいあれって確か2組の月夜さんだよな?」


 「相変わらずスタイル良いよなぁ。ホントに高校1年生かよ?」


 「しかもかなり美人だし。何で金木なんかに話しかけてんだ?」

 

 どうやらこの月夜愛美と言う人物は男子生徒からかなり人気があるらしい。


 まあ確かに間違いなく美少女と呼ばれる部類だからなぁ。でも他の男子の言う通りだよ。どうして彼女は僕に話しかけてくるんだ。わざわざクラスにまで足を運んでまで……。


 今朝の玄関での一幕と言い今と言いどうして自分に絡んで来るのか理由が分からず彼女にどういうつもりなのか真意を問う。


 「いい加減にしてくれいないかな月夜さん。どうして僕に絡んで来るのかな? もしかして嫌がらせでもしてる?」


 ただでさえ傷心中だと言うのに理由も分からずしつこく絡まれればさすがに基本は温厚な彼にも苛立ちが芽生え始め少しキツイ口調で訳を問う。

 龍太の表情が僅かに不機嫌そうに歪むと今まで強気な態度の愛美が慌て始める。


 「ち、違う。別に嫌がらせとかじゃなくて……」

 

 今までの強気な態度が急にしおらしくなり逆に龍太の方がバツが悪くなる。それに教室に残っている男子のやっかみの視線もチクチク刺さり気になって仕方がない。


 「とりあえず今から学食に行くけど一緒に行く?」


 本当なら1人で行きたい気分だがこの状況で彼女を無視すればますます悪い意味で目立ちかねない。その為に彼女に一緒に学食でもどうかと誘いを入れてみる。

 すると何故か彼女はぱあっと明るい表情に早変わりする。


 「し、仕方ないわね付き合ってあげる」


 口でこそは仕方ないなどと言いつつも何故か愛美は喜色満面と言わんばかりに嬉しそうに笑っていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まあある意味、元幼馴染の本性(地雷案件)が分かって、寧ろ、あちらの彼に感謝とも言える。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ