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女装少年が家を飛び出してしまいました


 無事に退院を果たした龍太は平穏な生活に戻りしばし平和を謳歌し過ごしていた。だが現在の彼はこの上ない辱めを二人の女性から受けていた。

 

 も、もう嫌だ。誰かこの地獄から解放してください……!!


 恥辱から顔を真っ赤にしながら龍太は目をギュッとつぶって必死にこの地獄のような時間が早く終わる事を祈り続ける。

 そんな辱めに身を震わせる龍太に対して二人の少女は盛り上がる。


 「いやーやっぱりお兄ちゃん女装のセンスあるって。妹の目から見ても滅茶苦茶可愛いもん」


 「うぐっ、ま、また鼻血が出て来たわ。涼美ちゃんティッシュ取ってくれる?」


 龍太が今受けている屈辱的な行為の内容――それは妹と恋人の前で女装した姿を強制的に披露させられていたのだ。

 

 顔をまるで信号機のように真っ赤にしながら女性ものの服を次々と着せ替え人形のように着替えさせられる龍太。どうして彼がこんな意味不明な状況に陥っているのか、それは愛美から与えられた罰だからだ。


 「も、もういい加減に満足してよ。もうかれこれ5着くらい着替えているんだけど……」


 「はいはい言い訳しない。忘れたわけじゃないわよね。以前の遊園地デートの時に私と約束したはずよ。今度機会があるときに女装した姿を披露するって」


 その約束を持ち出されると龍太は何も言えなくなってしまう。実は以前のデートの際に愛美を心配させた罰として後日女装の恰好をすると約束してしまったのだ。その時は負い目もあって承諾したが今は激しく後悔している。何故自分はあの時にもっと別の罰にしてほしいと強く懇願しなかったのだろうと。


 うぅ…もうてっきり忘れているものとばかり思っていたのにぃ……。


 昨日の下校時に愛美がどこか興奮気味で明日は龍太の家に行くと言われた時は嫌な予感がしていた。そして家に帰宅すると涼美が悪い笑みを浮かべて自分の女装した写真を見せてこう言って来たのだ。


 『明日はお兄ちゃんのファッションショーするからね~♪』


 こうして恋人と妹の二人からの圧力に屈して結局着せ替え人形となってしまった。

 それにしてもてっきり母のお古の服でも着せられるかと思ったがどこで用意したのか妹は色々なジャンルの女性服を用意していた。


 「よーし、じゃあ最後はこれ着てくれるかな~?」


 「なっ、何でそんな服持ってるの!?」


 妹が出した服を見て龍太が驚きのあまり大声が出てしまう。何と妹が満面の笑みでお披露目したのは明らかな〝メイド服〟だったのだ。しかもミニスカと言った過激な物だ。


 「いやー実は機会があればお兄ちゃんに似合いそうな服をネット通販で見繕っていたんだぁ。安物の割にはかなり出来がいいから買っちゃった♪」


 「買っちゃった♪ じゃないよもうっ! 絶対にそんなフリフリの服なんて着ないからね!!」


 ただでさえ女性ものの洋服を着せられ死にそうなほどに恥ずかしいのにこんな服なんて着用できる訳が無い。何よりミニスカなんて一歩間違えれば変態だ。


 「えーノリ悪いよお兄ちゃん。罰なんだから無駄な抵抗はしないで大人しくしましょう」


 「無理無理無理! これは着れないよ!」


 例え往生際が悪かろうが構わない。ここまで二人の言いなりになってあげたんだからもう十分だろうと訴えて全力で拒否していると愛美が小さく息を吐いた。


 「そうねぇ、まあ流石にこんな恥ずかしい服は着れないわよね。龍太にだって男のプライドがあるわけだし」


 「あ、愛美分かってくれたの?」


 罰を与えた張本人である愛美が諦めたかのような発言をしたので龍太の瞳に希望が灯る。だがすぐに彼の瞳に灯った希望は霞んで行き笑顔が引っ込む。


 「折角のデートの最中にいくら恋人を不安にさせて泣かせたと言ってもここまでの罰を受ける必要ないわよねぇ」


 「うぐっ!」


 「しかもその後には病院送りにまでなって私の心臓を止めんばかりに心配させた事を考慮してもここまで恥ずかしい思いをさせるのはやり過ぎよねぇ」


 「あうっ!」


 ワザとらしく溜息を吐きながら胸を抉る恋人の言葉に龍太の口から小さな悲鳴が漏れる。

 

 「私もお兄ちゃんが病院に運ばれたと知った時は血の気が引いたなぁ。お兄ちゃんが1人で抱え込んで無茶しなければあんな事態にならずに済んだのかもしれないのにねぇ」


 妹からも追撃の言葉が飛んできて胸を貫いていく。

 実際に恋人や家族に迷惑をかけた自覚がある分、龍太の罪の意識は重くのしかかり二人の頼みが断りにくい空気がいつの間にか出来上がる。


 そして結局彼はワザとらしく悲しそうに目を伏せる二人の少女に勝てず――


 「うわっ、お兄ちゃん冗談抜きで似合い過ぎ! ちょっと写真撮らせて!!」


 「あっ……また鼻血が……」


 涙目になりながらメイド服に身を包んだ龍太の姿に妹はスマホで写真を撮り、恋人は鼻から出て来る赤い液をティッシュで拭う。


 も、もういっそ殺してほしい……。


 とは言えこれでもうこの恥ずかし過ぎる罰から解放されると思っていた龍太は内心で息をついていた時であった。


 3人の居る部屋の扉が開かれて予想外の人物が入って来たのだ。

 

 「ただいま龍太ちゃんに涼美ちゃん~。今日は珍しくお昼前にお仕事終わって早く帰って来たわよぉ~……あらぁ~?」


 本来ならばまだ仕事の時間帯であろう母がこの日に限って早上がり。しかも今まで母には隠していた女装姿をモロに見られてしまった。


 「あらぁ~龍太ちゃんその恰好はどうしたのぉ?」


 「い、い、いやああああああああああ!?」


 気が付けば龍太は赤面状態で涙を零しながら部屋を出てその勢いのまま家を飛び出してしまったのだった。



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