クラスメイトが心配してくれました
病院に押しかけて来た高華の1件があったその翌日に龍太は無事に退院することが出来た。そしてその翌日に学校へと久しぶりに登校してクラスに行くとクラスメイト達が次々と自分を心配してくれた。
「よお久しぶりだな金木」
「石で頭を殴られたって聞いていたけど大丈夫?」
「いやー体張って彼女を護るだなんて見た目に反して度胸あるなぁ」
うう…何だか皆に囲まれてむず痒いなぁ……。
クラスメイトに囲まれて気遣われる事は嬉しかったが同時に少し恥ずかしくもあった。ここまでクラス内で想ってもらえるのは日頃からこのクラスの人間に優しく接し、時には力を貸してきた龍太の人徳による賜物と言えるだろう。
だがクラス内でただ1人だけ龍太に声を掛けず教室の端で遠巻きに様子を眺めている人物が居た。
「………」
その人物は元幼馴染である高華天音であった。彼女は渋面を浮かべながら自分に視線を向けている。その視線に気付いて龍太が意識を向けると露骨に目を逸らす。とは言えもうお互いにすっぱりと関係を断った龍太は特にショックも受けずに自分の席に座る。
すると少し自分の席から離れた場所からクラスの人間のこんな会話が耳に入った。
「それにしても高華のヤツかなりバツの悪そうな顔してんな」
「そりゃそうでしょ。日頃から幼馴染の悪口を散々言っていたけどそれも全部あの娘の嘘だったし……」
「金木君もいい迷惑だよね。あんな人の心の無い幼馴染を持ってさ」
別に盗み聞きをするつもりなど毛頭なかったが耳に入ってきたものは仕方がない。
そう言えば彼女が病室に訪れた時に今の自分の心象がクラス内で悪いと言っていたけど……どうやら本当だったんだ。てっきり同情を誘う為の嘘だとばかり……。
正直なところ今の天音がクラス内で敵視される環境は龍太の立場からも心地良いとは言えなかった。別に彼は彼女に復讐しようなどと陰湿な事をしたいと考えてはいない。ただもう互いにただのクラスメイトと言う関係になる、それだけでよかった。
だが彼女がクラス内でこのような扱われ方をしているのも言ってしまえば自業自得でもある。
もう一度だけ天音の席の方を見てみると彼女は居心地の悪そうな顔をしながら窓の外の景色を眺めていた。
昼休みとなると久しぶりに愛美と二人っきりの昼食を屋上で取った。
「はいお弁当よ。べ、別に料理するのが好きなだけであってアンタを想って作って来た訳じゃないんだからね!」
「あはは、今日もありがとうございます」
久方ぶりの愛美のツンデレに思わず笑いが漏れてしまう。
相変わらずクオリティの高いお弁当に舌鼓を打っていると彼女がこんな質問をしてきた。
「それで久しぶりのクラスはどうだった?」
「うん、みんな心配してくれたよ。ちょっと必要以上に気を使われて恥ずかしかったけど……」
「それだけクラスの人間に慕われていた証じゃない」
う~ん慕われていたねぇ。別に僕は大したことはしていないと思うけど……。
本人がそう思っているだけでちなみに龍太と言う人間に対するクラス内での共通認識は〝お人好し〟である。
しばらく楽し気な話題で盛り上がる二人だがここで愛美の表情が僅かに引き締まった。
「あの身勝手な幼馴染はどうだった? もしかしてまた教室で絡んできたりしてないわよね…」
わざわざ入院中の病院にまでやって来てあれだけ傲慢な振る舞いをした天音の存在が愛美にとっては不安であった。とは言えクラスが違うと言う事でこうして龍太の口から確認を取ろうとすると彼の顔が少し悲しそうに歪む。
「心配しなくても特に何も言われてないよ。いや…そもそも彼女にはそんな余裕もなさそうだったし……」
詳しく話を聞いてみれば今の彼女はクラス内で孤立しているらしい。クラスメイトの間では陰口も囁かれて肩身を狭そうにしていたそうだ。
「正直なところ私からすれば完全な自業自得だと思うけどあんたはそう思ってないみたいね」
「うん…僕は別に彼女に何か仕返しをしたいとかは考えてないからあまりいい気分はしないかな……」
クラス内で目に焼き付いた彼女の寂しそうな横顔を思い返して少し胸が痛む。
そんな彼の表情を見て愛美は内心で溜息をつく。普通ならばざまあみろと思うだろうが彼はやはり優し過ぎる。あれだけ自分を散々傷つけた相手を心配するなど自分の立場ならまずないだろうに。
それと同時に何だか幼馴染にまだ心が残っている彼に嫉妬して龍太の肩に寄り添って不満げな顔で睨みつける。
「恋人の横で幼馴染の事ばかり考えるなんていい度胸ねぇ」
「あっ、ごめん。でも心配しなくても僕が好きなのは愛美だけだよ」
「~~~あ、あんたってマジでそう言う恥ずいセリフを時々素で言うわよね。もう…バカ…」
軽く罵倒をしながら彼女は龍太に寄り添って彼の体温を感じ取る。
久方ぶりの彼氏の温もりを堪能しながらも愛美は内心である心配事が消えてくれなかった。
やっと龍太が学校に戻って来てくれたけどあの幼馴染、まだ何か龍太にしてくる気じゃないでしょうね……。
もしそうだと言うならば自分は決して容赦しない。この期に及んでまだ自分の愛する人に害を為すならば龍太本人が許そうが自分は裁きを与える。
そう心に誓った瞬間の愛美はまるで処刑人のような冷酷な瞳をしていたのだった。
「あ、愛美どうしたの? 何だか怖い顔してるけど……」
「ん、別に何でもないわよ」
愛する人が不安気な顔をしていると理解した瞬間にはもう冷酷な感情は引っ込みいつものツンデレ少女へと戻っていた。