元幼馴染がお見舞いにやって来ました
学校内で起こってしまった流血事件により少しの間は安静の為に病院生活を送る事となった龍太。だが毎日お見舞いに来る恋人や妹、そして母のお陰で寂しいと言う気持ちは湧かなかった。それに頭部の傷もそこまで深くなく退院予定日もすぐだ。それから通学している愛美からの話を聞いて自分の居ない間での学校の出来事を知った。
まず今回の凶行に及んだ安藤大知は結果から言えば学校を退学処分された。学校内で相手を病院送りにしてしまった彼には相応のペナルティはあるだろうと龍太も思っていたが停学程度だろうと正直思っていたので愛美から聞いた時には少し驚いた。逆に愛美からはその程度の処分で済むわけないでしょうがと呆れらてしまったが。
ちなみに退学の決め手となった理由は主に2つ、その1つ目はやはり暴行を振るった相手を病院搬送させるほどの怪我を負わせたことだ。そして2つ目は凶行に及んだ理由、他者の恋人を奪い取ろうなどとあまりにも身勝手な理由から及んだ暴力行為に学校側も重い処分を下さざるを得なかったそうだ。
ちなみに入院中に自分の病室には安藤の両親が謝罪に来たのだ。驚いたことに両親の方はかなり人間のできた2人で土下座までして謝って来たから逆に申し訳なさすら感じた。そして謝罪と共に聞かされたがどうやら安藤は家族や親類から縁を切られたらしい。凶行に及んだ理由が理由だけに完全に親類達から見限られたそうだ。もうその気になれば働きに出れる年齢なのだから後は好きに生きていけと言うのが親類の総意らしい。どうやら家族も本気らしくそちらが望むなら愚息を訴えて少年院送りにしてくれても構わないとまで言われた。無論その提案に涼美は『そうすべき』だと言ってきたが親類からも捨てられた安藤を少し不遇に思い最後の情けで被害届だけは勘弁しようと言うのが龍太の最終判断だった。
だが安藤に対する制裁はそれで終わりではなかったらしい。今まで親の前では良い子を演じていた安藤だが今回の件で余罪が無いかと両親が追及、そして他の学校の女性複数に手出ししている事実がバレてしまったそうだ。そのことが家族としての縁を切られてしまった決め手らしい。
……馬鹿だよ安藤。こんな優しいご両親に支えられて生きてきて何でそんな馬鹿な生き方をしたんだよ。そのせいで家族からすらも見放されていたらどうしようもないじゃないか……。
これでもう安藤の毒牙が愛美に伸びずに済むと言う不謹慎ながらも安心感を抱き、それと相反してあまりにも重い十字架を背負いこの先の苦労が絶えない人生に僅かばかりではあるが同情してしまった。
そして安藤の両親だけでなくもう1人、まさかの人物が自分の病室に訪れていた。
「そ、その…思ったより元気そうじゃない。良かったわね……」
「………」
病室の扉をノックして入って来た人物はもうとうの昔に幼馴染としての関係が切れているはずの高華天音だったのだ。
「一体何の用かな?」
我ながら見舞いに来た相手に対して失礼であると自覚はある。だが自分と彼女はもう終わっている関係だ。ましてや一方的な裏切りの仕方なのだから冷淡な対応をしてしまうのも仕方がないと自分自身でも納得していた。
だが相手の方は自分のそんな態度に物申してきた。
「ッ! そんな言い方ないんじゃないの!? わざわざお見舞いに来て上げたのにさ!!」
「君が逆の立場ならどう思うのかな? 自分を散々貶した相手が何食わぬ顔でお見舞いに来たら穏やかでいれるかな?」
「うう…それは……」
どうやら天音にも自らの取っている行動が非常識だと言う自覚はあったらしく黙り込んでしまう。
入院中の学校での出来事は愛美を通して大方知っている。安藤が退学となった事は当然学校内で話題になった。当然だが彼の恋人である天音もその事実に驚愕を隠せなかった。だが不思議なことだが人の犯した後ろ暗い行いは人の耳に必ず入るらしい。今回の退学の件を皮切りに安藤の抱える女性問題の闇も露呈した。そして天音も自分が弄ばれていた1人だったと言う事実を知ったみたいだ。
この時に龍太は何故今頃になって天音が昔の仲の良かった幼馴染のようにまた近づいてきたのか理解できなかった。
もしかして安藤がもう居なくなったからまた自分と仲良くしようと? でもあれだけ僕を全否定した彼女が今更僕と昔のような関係に戻りたい理由って……。
実は彼女が龍太のお見舞いに来たのは自分の印象を良くする為と言う下心があったのだ。
龍太と一方的に縁を切ってから彼女は同じクラスである彼を教室内で何度も貶すような発言をわざとしていた。しかもクラスの友人にまで龍太の悪印象を与えるような話題を出して話してまでいたのだ。だが天音の彼を貶めるような発言とは裏腹に龍太のクラス内での印象は元々とても良い。何せ彼は困っているクラスメイトには無償で何度も手を貸している場面をクラス内では大半で確認されている。それ故に日頃の行いのお陰で天音の陰口よりも龍太の信用の方が大きかったのだ。それどころか天音の人格に問題があるのではと思うクラスメイトもいたぐらいだ。そして安藤が今回の問題行動を起こし退学となったせいで天音のクラス内での印象は一気に悪化していた。
あんなに優しい幼馴染の金木君よりも女の敵みたいな安藤を選ぶなんて彼女はどうかしているのではないかとクラス内のほとんどが軽蔑の視線を彼女に向けているのが現状だ。
この事実については愛美はクラスが違う為に一切知らない。当然だが愛美が話していない以上は入院状態の龍太も今の天音のクラス内立場を把握していないので彼女が何を思って自分に近づいたのか疑問を持つ。
だが天音が何を目論んでいようが自分の伝える言葉は変わらない。
「申し訳ないけどあれだけ酷い裏切りをされてまた簡単に元通りの関係なんて都合が良すぎるよ。今日はもう帰ってくれないかな?」
「ぐっ、何を一丁前に命令してんのよ! アンタみたいな冴えないチビとまた仲良くしてあげようとしてんだからアンタは黙って頷きゃいいのよ!!」
ああ……やっぱりもう彼女と昔のような関係には戻れないなぁ……。
幼馴染と言う関係に上下など本来は存在しないはずだ。少なくとも昔の彼女はそう思っていたのだろう。だが今の彼女はもう別人だ。自分の幼馴染の高華天音はもう……死んだのだ……。
自分とこれまで多くの思い出を築いてきた幼馴染の消失に内心で悲しみを感じていると病室のドアがノックもされずに勢いよく開いた。
「黙って聞いていればふざけんじゃないわよ。これ以上アンタなんかを龍太と関わらせてたまるもんですか……!!」
「もう我慢の限界よ。これ以上お兄ちゃんの人生に関わるな……!!」
扉を勢い荒く開いてそこに立っていたのは怒り心頭の恋人と妹の2人だった。