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ツンデレ美少女を泣かせてしまいました


 「うん……あれ、ここ……どこ……?」


 瞼を持ち上げて意識を取り戻した龍太は見知らぬ場所のベッドの上で眠っていた。

 周囲を見渡せば清潔感の溢れる真っ白な壁や天井、そして物静かな部屋と微かに消毒薬のような匂いで自分の今いる場所を把握する。


 ここってもしかしなくても病院…だよね? あれ、何でこんな場所に……。


 目覚めた直後で未だに記憶がおぼろげな状態の龍太であるが体を起こすと頭に違和感を感じて手を回した。


 「頭に包帯が巻かれている……あっ!?」


 頭部に施されている処置に気付いた次の瞬間には全てを思い出した。


 そうだよ、確か僕は安藤に石で頭を殴られてそれで……あ、愛美は、愛美はどうなったんだ!?


 記憶が確かならば気を失う直前に安藤をノックアウトしたはずだった。だがもし意識が飛んでおらずあの男が愛美に再度襲い掛かって来ていたら? そう考えると居ても立っても居られずベッドから飛び起きようとする。


 だが彼が布団から体を出そうとすると同時、周辺のベッドを囲っているカーテンがめくられ1人の人物が姿を現す。


 「あ、愛美……」


 現れたのは今まさに安否を心配していた自分の恋人であった。


 よ、よかった。ここに居るってことは安藤に手を出されずにすんだんだ……。


 恋人の無事な姿を見れて一安心する龍太であったが対面している愛美は違った。無事に目を覚ました龍太の姿を見た途端に無言で大粒の涙をポロポロと零したのだ。


 「あ、愛美どうしたの?」


 まさか無言で涙を流されるとは思わず慌てふためいていると消え入りそうな彼女の声が耳に届く。


 「ばか……しんぱい、したんだからっ……!!」


 そう言いながら彼女はその場で蹲って号泣し始めてしまう。


 「あんたふざけんじゃないわよ。いくら守ってもらえたからってあんたが怪我したら意味ないじゃない。もし運悪く一生目覚めなかったらどうしてたの? 私はこの先からは1人ぼっちで悲しみを背負って過ごしていけとでも言うの? ほんと、分かってるの? あんたは今回運が良かっただけ、下手したら大袈裟でもなく命に関わっていたかもしれないのよ……!!」


 ああ……僕は何て大馬鹿なんだろう……。


 正直今までの自分は大切な恋人である愛美の存在を第一に考えていた。ハッキリ言って自分よりも愛美の方が大事だとすら考えていた。だからこそ安藤が彼女に襲い掛かる光景を目の当たりにした時、我が身の危険など一切省みず体を張って彼女を護った。


 でも僕は彼女を護る事ばかり考えてその後の事をまるで考えていなかった。もし彼女を護って代わりに僕が大怪我した時はどうなるかなんて完全に頭の中から抜け落ちていた。僕のためにこれだけ泣いてくれる人を残して、最悪1人にさせて更に深い悲しみを与えるかもしれない、何でそんな簡単なところまで気が回らなかったんだ。


 今もまだ蹲って泣き続ける恋人の姿を見て自分の浅慮さに嫌気がさす。


 「ごめん…ごめんね愛美……」

 

 「ひくっ、うぐっ……」


 「僕にとって君は世界で一番大切な人だ。だから自分よりも君を優先して物事を考えていた。でも、それだけじゃダメに決まっているよね。僕は君を護れていなかったんだね…ごめんなさい……」


 こんなにも悲しみを露にする彼女を前にして『自分は恋人をちゃんと護れた』などと口が裂けても言えないだろう。


 後悔の念に胸を押しつぶされ龍太は申し訳なさから視線を下げてしまう。まるで自分が恋人を悲しませた事実を受け入れたくないみたいに。

 そんな龍太の手に自身の涙で濡れた愛美の手が伸びて重ねて来た。


 「お願いだから1人で解決しようとしないでよ。1人で抱え込まれてこんな事態になるぐらいなら私にも相談してよ。私だって遠慮せず巻き込んでよ……」


 その言葉を聞いて龍太はまさにその通りだと痛感させられた。

 別に自分は漫画に出て来る主人公でも何でもない。不安ならば愛美や家族、それに担任の教師やクラスメイト達に相談すべきだったのだ。


 「ほんとうにごめんなさい…」

 

 気が付けば龍太の目からも涙が零れ二人は互いにすすり泣いていた。


 「ぐずっ…つ、次、また私をこんな形で泣かせたら許さないから。もう二度とお弁当作ってあげないから」


 「うん…」


 「これからはちゃんと、うぐっ、ちゃんと私にも相談する。自分だけで対処せず私と一緒に考える、行動するのよ」


 自分の溜まっていた不満を全て言い終えると愛美はそのまま龍太を抱きしめながら最後にこう言った。


 「でもあんたが無事で本当に良かった。よかったよぉ……」


 最後に出て来た恋人の言葉に龍太の止まりかけていた涙はぶり返し、それにつられて愛美もまた泣き出した。


 それからしばしの間、少年と少女は決して離れないように強く抱きしめあって互いの温もりを感じながら頬を濡らすのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 大事に成ってしまいましわ。
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