ツンデレ美少女が彼氏とクズ男の会話を陰で聞いていました
「えっ、さっき他の男子と一緒にクラスを出て行った?」
「うん。確かあなたと同じクラスの安藤君? だったっけ。その人と一緒に……」
いつまで待っても一向に屋上にやって来ない龍太に軽く業を煮やした愛美は仕方なく彼のクラスまで直接足を運んだ。だがクラスの方に出向いても龍太は不在で教室内を見渡していると1人の女子生徒が話し掛けて来た。どうやらこのクラスの委員長らしく事の詳細を教えてくれた。そしてどうやら彼女の話では昼休みが始まってすぐに安藤がこのクラスにやって来ると一緒にどこかへ姿を消したそうなのだ。
何であのバカが龍太を連れて? もう私には関わらないように釘を刺しておいたはずなのに!!
安藤が何を目的に龍太に近づいたかは不明だが碌でもない事であるには違いないだろう。
そんな事を不安に思っていると情報を提供してくれたクラスの女子が心配そうな顔をしながらこんなセリフを零した。
「それにしても金木君大丈夫かな? 何だか相手の男子かなり殺気立った様子にみえたけど…」
「……そんな不機嫌そうな感じで龍太に話しかけていたの?」
「う、うん。少なくとも私にはまるで今にも殴りかかるんじゃないかって感じに見え……ああっどこ行くの!?」
クラス委員長の言葉に愛美はクラスを飛び出した。
まさかとは思うけどアイツ、私に相手にされない腹いせに龍太に暴力を振るう気じゃ……!
あの男が龍太のクラスに来ただけでも驚きだがそもそもただ話をするだけならわざわざ場所を移す理由がない。つまり他の人間の前では話しにくい会話をしようとしていた。もしくは最悪今の自分の想像通り陰で暴行を働こうとしている可能性だってある。
いづれにせよ龍太とアイツを二人きりにさせるのは危険すぎるわ。どこに行ったの龍太……!
それから愛美は学校内を駆け回り人の目のつきにくそうな場所を捜索した。そしてその過程で偶然にも二人の姿を確認した生徒と巡り合えた。
「ああ、金木なら向こうの校舎裏の方まで歩いて行っていたぜ。他にも見覚えのねぇ男子も一緒に居たかな」
偶然にも昼休みにグラウンド近くを散歩していた時、龍太のクラスの人間が二人の姿を捉えていたのだ。そのまま彼の証言を辿り愛美は息を切らせながら校舎裏近くまでやって来た。すると耳障りな男の怒声が響いてきたのだ。
この声は安藤のもの。やっぱりここに居た!!
二人から死角となる位置に移動するとそこからこっそりと顔を覗かせ状況を伺う。すると視線の先では顔を憤怒に染めた安藤が龍太と向かい合っていた。だが顔に怒りを滲ませているのは安藤だけでなく龍太も同様であった。絶対に自分の前では見せる事がないであろう龍太のその表情は恋人の愛美ですら少し怖いほどだ。
状況は完全に把握できてはいないが間違いなく安藤が何か龍太を怒らせるような発言をしたのだろう。とにもかくにも今すぐ飛び出して龍太の味方になろうかと思っていると彼女が飛び出すよりも先に安藤が気持ち悪い笑みを浮かべながらふざけた提案を口にした。
「ははっ、そうかよ。だったらこうしようぜ。お互いの彼女を交換しようじゃないかよ。そうすればお前はまたあの幼馴染と一緒になれるぞ」
………アイツ、マジで何を言ってるのよ?
自分が来るまで二人がどんなやり取りをしていたかは知らない。だが今の発言だけでも安藤が救いようのないクズである事だけは理解できる。元々見損なった人間性ではあったがここまでとは思いもしなかった。だってそうだろう、自分の恋人と相手の恋人の交換? どんな倫理観を持っていればそんな考えが脳みそに湧いてくるのだ?
あまりの衝撃発言で一瞬だけ思考が止まってしまった彼女だがすぐに我に返ると怒りに任せてその場から飛び出そうとした。
「ふざけんじゃないわ『ふざけるなぁ!!!』…ッ!?」
愛美の口から飛び出した叫びは更に大きな龍太の怒りの声によってかき消された。
「君は…君はどこまで人の尊厳を侮辱すれば気が済むんだ!! 恋人の交換なんて不可能だしそんな事をしても意味がないんだよ!! 天音は幼馴染の僕より君を選んだ!! そして愛美も同じクラスの君よりも僕を選んでくれた!! プレゼント交換とは訳が違うんだ!!」
「だ、だけどお前だって最初は幼馴染の天音が好きだったんだろ!! もし俺が口説かなきゃ今でも幼馴染に恋をしていたんだろ!!」
安藤の放ったその言葉に愛美の胸がじくりと痛む。だがその胸の痛みは他ならぬ龍太の言葉によって一瞬で取り除かれた。
「それは〝過去〟の僕ならそうかもしれない。でも〝現在〟の僕が心から好きな人は月夜愛美ただ1人だ!! 何が交換だ! お前に…お前みたいな外道に僕の心から愛する人を奪わせてたまるか!!」
二人の死角に隠れて話を聞いていた愛美の瞳から涙が零れる。
ああ……ほんと、この人を好きになって良かったなぁ……。
龍太の言葉を噛み締めて涙を流す愛美だが、次の瞬間にその顔は青ざめた。
「ば、馬鹿にしやがって。お前みたいなチビ助がよぉぉぉぉ!!」
え……ちょ、うそでしょ!?
愛美の表情が一気に青ざめるのも無理はないだろう。何しろ激情に駆られた安藤はあろうことか近くの石を拾って龍太に投げたのだ。
「ぐっ!?」
流石に投石は予想外で龍太も避ける事はできたが体勢を崩してしまった。
「愛美は俺のもんだぁぁぁぁぁ!!!」
自らの腐った欲望を剥き出しにしながら安藤はもう片方の手に握っていた石を龍太の頭部目掛けて振り下ろした。




