表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/83

高華天音 ②


 周囲になじられて陰惨な小学生時代を終える事を覚悟していた天音であったが金木龍太と言う少年との出会いで彼女の生活は一変した。これまで誰も味方などいなかった彼女だが廊下で龍太に救われたその日以降から彼が何度も自分のいじめられている現場に割り込んでは守ってくれたのだ。しかしその度に彼が子供の力とは言え相手からの暴力を受けてしまい天音は申し訳ない気持ちで一杯だった。


 「ねえ金木君。どうして別のクラスの私の為にそこまでしてくれるの?」


 同じクラスの人間ですら自分の境遇に見て見ぬふりを決め込むのに別クラスの彼がここまでしてくれる理由が天音には分からなかった。どう考えても彼に損しかないからだ。現に今だって自分を守ったせいで傷付いている。


 だが心底不思議にしている彼女に対して龍太は即答する。


 「確かに僕は君とは別クラスだけど関係ないよ。困っている人を見かけたら見て見ぬ振りできない性分なんだと思う。もし無理して見て見ぬふりをしても僕は心から笑って明日を過ごせないから……」


 その言葉を聞いた時に天音は目の前の少年が本当に同年代かと疑ってしまった。

 今の世の中では面倒ごとに関わらないでおこう、そう思う人間など珍しくないだろう。それこそ成人した大人ですら揉め事は御免被ると言う損得勘定をもって動いている。


 でも目の前の少年は打算などなく感情に素直に従い救ってくれる。そんな彼があまりにも眩すぎて仕方が無かった。それと同時に彼の様になれたらと強い憧れも感じた。


 「凄いね金木君は。もしも私もあなたほど強かったらこんな風にいじめられないですんだのかな?」


 「別に僕は凄く何てないよ。それに『もしも』なんて言わなくても今からでも一緒に立ち向かおうよ」


 そう言うと龍太はどこか悪戯っ子の様な笑みを浮かべるとポケットから小さな長方形の機械を取り出した。一瞬携帯かと思ったがよく見るとまるで別の機械のようで天音がソレは何か尋ねる。すると龍太が少しドヤ顔をしながらこの機械の正体を言う。


 「実はこれボイスレコーダーなんだ。さっきまで僕を殴っていた彼等の発言をこの中に録音しておいたんだ」


 「ボ、ボイスレコーダー……?」


 よくドラマなどでは使われる場面を見かけるが現実に、それも小学生がそんな代物を扱っている事に少し戸惑う。


 「これまで僕が何度か先生に相談したけど証拠がないから先生も口頭注意だけで積極的に動いてくれなかったでしょ? だから僕も証拠を押さえるためにお母さんから借りたんだ」


 先程まで龍太を殴っていた連中のセリフの中には天音を貶す発言もいくつもあり、その全てがこの小さな箱の中に詰まっている。これを彼女のクラスの教師に渡せばこれまで教師の目を盗んでいた悪事を働いていたあの連中も終わりだろう。


 「高華さん今からこの証拠を持って一緒に職員室に行こう。彼等は天音さんが何もできないって高を括っているからいつまでも調子に乗るんだ。だから一緒に僕たちが無力なままじゃないってみせつけようよ!!」


 これまでただ殴られるだけのサンドバッグ同然の精神だった彼女はこの瞬間に気が付いた。決して自分をいじめていた連中を擁護するつもりではない。だがいつまでも立ち上がろうとせずただ陰で泣き続けていたからこそ状況はどんどん酷くなった。何をされても立ち向かうどころか言い返す事もしない。この弱気な自分を変えない限りは例え今回のいじめ問題を乗り越えても自分はこの先の人生でまた躓いてしまうだろう。


 そんなのは絶対に嫌だ。私は何もできない無力な人間なんかじゃない!!


 「今すぐ職員室に行こう龍太君! わたし…私だって立ち向かえる! いつまでもあんな奴等に負けたままでいるもんか!!」


 龍太の持つ力強さに触発されたのか知らないが天音自身も自分がこんなに大きな声を出せたのかと驚いた。

 

 それから二人はこのボイスレコーダーを職員室へと持っていき天音がいじめられている証拠を突きつけた。その結果教師からの追及により天音に対するいじめの期間も長く、そして龍太に暴行を働いていた事もありいじめを行っていた連中はそれぞれの親まで呼ばれるほどの大事となった。当然だがいじめを行っていた連中はこれまでの代償を払う事となる。どうやら親の方は全員がまっとうな性格だったようで彼等は全員が親同伴で龍太と天音のそれぞれの家に謝罪にまで来た。特に主犯格だった男子は調べてみたところ天音の他の人間にもいじめをしていた事実が発覚、この問題を機にその男子はこの町から引っ越してしまった。


 こうして無事に平穏を取り戻した天音はこれを機に龍太と仲の良い幼馴染の関係を築いた。


 今回の1件で自分の軟弱な性格に難があると思った天音は今までのイメージを一転させようと奮起した。暗い性格を変えようとはきはきと喋り笑顔を浮かべる回数は増え、更には髪型や服装など身だしなみにも気を配るようになった。


 今までとはだいぶ一転して明るくなった天音には友達もでき小学生時代は龍太のお陰で楽しい思い出を多く残せることが出来た。


 そしてその後中学へと進学した二人。だがこの時から天音の中では仲の良いはずの龍太に対して不穏な考えを片隅に持ち始めるようになってくる。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ