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高華天音 ①

幼馴染の話に入りまーす。


 長年一緒の時間を過ごした幼馴染を捨てて安藤と言う薄っぺらい人間を選んだ天音はここ最近の出来事に苛立っていた。


 「ああもうっ、どうして最近大知君は素っ気ないのよ」


 その理由の1つは自分の彼氏である安藤大知の態度がここ最近急に冷たくなっている事だ。

 付き合った当初は自分に優しい笑みを向けてくれていたがここ最近ではそんな彼の笑みを見る機会は減った。それどころか理不尽な八つ当たりとしか思えない対応をされる事が増えつつあるぐらいだ。今日の放課後もデートに誘ったと言うのに『遊びたいならお前だけで行ってこい』などと言われてまともに相手されなかった。とても愛しているはずの恋人に向ける態度とは思えない。


 もしかして私は嫌われちゃった……ううん考え過ぎよ! たまたま機嫌が悪い日が重なっただけよ!!


 確かに天音のこの予想は間違ってはいないだろう。安藤は別に彼女のことを嫌っている訳ではない。だが決して好きでいる訳でもない。彼にとって天音はただ『都合の良い女』に過ぎないのだから。そう、愛されていると思っているのはあくまで天音の一方的な思い違いにすぎないのだから……。


 それにしてもムカつくのは龍太のヤツよ。何でこの私がこんな思いをしているのにアイツは楽しそうに笑っているのよ。


 自分に失恋した最初の頃は項垂れていた龍太であったが今は毎日楽しそうに笑っている。その理由としては間違いなくあの月夜愛美とか言う女が理由だろう。


 ふん……私の事はずっと放置しておいて他の女に対しては簡単に尻尾を振る。やっぱりアイツにとって私は〝自分が注目されるための都合の良い〟幼馴染だったって訳ね。ほんと、大知君の言う通り見切りを付けて正解だったわよ。


 本人が目の前に居ないこんな時でも龍太に対して罵声を送る天音。


 どうして小学生時代から付き合いのあった彼をここまでして彼女は貶すのか? それには彼女の酷い誤解と無意識に抱き続けていた悪意が原因であった。


 天音と龍太が接点を持つ切っ掛けは小学生時代に彼女が受けていたいじめが理由であった。

 今でこそ男子人気もそれなりに高いと自負している天音であるが昔はどちらかと言えば暗い性格をしていた。クラスでも周りに上手く馴染めずに今の彼女からは想像もできないほどに控えめな性格をしていた。

 そして子供と言うのはどこまでも純粋であるが故に集団から外れているものを馬鹿にする傾向がある。


 今と違いおしゃれに気を遣う事もなく前髪も目が隠れるほどに垂らしていた彼女はよくクラスメイト達からこう言われていた。


 ――こっち見るなよ『根暗女』が!


 特にクラスの男子達には毎日その不名誉な仇名を呼ばれ続け、そんな風に扱われていてますます彼女は殻に閉じこもるようになった。そうなれば調子づいた男子達にとっては格好の的となり日に日にいじめは酷くなっていった。


 もういやだ……どうして何もしていないのに私がこんな目に遭わなきゃならないの……。


 内気な性格が災いして親にも教師にも怖くて相談できず抱え込む。普段から内向的な性格であり、別段体に目立つような痣の1つも作って来ている訳でもない為に周りの大人も彼女がいじめを受けている事実に気付いてくれない。そして周りのいじめに参加していないクラスメイト達も面倒ごとは御免だと言わんばかりに自分から距離を置いて遠ざける。


 自分に味方となってくれる人はいない。そんな憂鬱な気分で自分はこのまま卒業していくんだろうと思っていた。だがそんな彼女を救ってくれた人物、それこそがこれを機に幼馴染の関係となる金木龍太であった。


 『ちょっと何しているの!!』


 他の教師の目を盗んで数人のクラスの男子に廊下で囲まれちょっかいを出されていると1人の少年が割って入って来たのだ。その少年はお世辞にも頼りになりそうとは言い難い雰囲気を出していた。何しろ体は小さく身震いしており唇をキュッと噛んで恐怖を無理やり抑え込んでいる。だが彼は自らの恐怖を隠し切れないにもかかわらず見知らぬ自分の為に体を張って庇ってくれた。


 『い、嫌がってるじゃないか。やめてあげてよ…!』


 言うまでもなくそんな頼りない相手の言う事を聞く連中ではなく、しかも相手が同じ男子と言う事もありいじめ連中の1人が彼を殴り出す。1人が暴走すると他の連中も彼を囲んで手を出し始める。だがそんな暴力の嵐に晒されても龍太は盾のように天音を庇い続ける。

 そしてがなり立てるいじめ連中の声が周囲の耳に届いたのかいつの間にか廊下には野次馬が集まり出す。


 『ぐ……ふんっ白けたぜ。おめーら行こうぜ』


 このままでは教師まで来てしまうと危機感を抱いたいじめ連中はバツの悪そうな表情をしながら退散していく。


 『いてて……大丈夫だった君?』


 集団の暴力や罵声に晒されても自分の事を最後まで引かずに守り通してくれた目の前の少年に天音は涙交じりに礼を述べる。


 『あり…がとう。本当にありがとう…!』


 これがこの先の人生で高校生となるまで幼馴染関係が続く金木龍太と高華天音の出会いであった。



 

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