ツンデレ美少女とデートに行きました
大人から子供まで大勢の人間が集まり賑わう場所、テーマパークの代名詞と言っても差し支えない娯楽施設である遊園地。その入り口付近で龍太はある人物がやって来るのを今か今かと待ち続けていた。
「おーい龍太ぁ!!」
慣れ親しんだ声で自分の名前を呼ばれて龍太の表情も明るくなる。
声のする方向へと顔を向けるとこちらに小走りで駆け寄って来る人物に彼も手を振って返事をする。
「こっちだよ愛美!」
「お待たせ。まさか私よりも先に待っていたなんてね。一体どれだけ早く家を出たのよ」
以前より互いの時間と都合の空いた日に約束していたデートに二人は今日来ていた。
手作りお弁当のお返しの代わりと言う事で今日のデートプランは龍太が1人で立てている。
「それにしても遊園地とはベタな部分を選んだわねぇ。まあ下手に冒険するよりも賢いけど」
今日のデート場所を選んだのも当然龍太である。可もなく不可もなさそうな場所を選んだ龍太に対して愛美が小馬鹿にするかのように笑いかける。
「ご、ごめん。もしかして他に行きたい場所あったかな?」
「別に嫌だとは言っていないじゃない。……それにあんたと一緒の時間を過ごせるなら場所なんてどうでも良いわよ」
「え、最後の方何って言ったの? 小さすぎて聴こえなかったんだけど」
「うるさいわね! ほら合流できたんなら早く中に入るわよ!!」
照れ隠し気味に声を大きくしながら愛美ほ鈍い彼氏の手を掴むとそのまま入場したのだった。
やはり園内は大勢の人間で賑わっており周囲からは陽気な音楽が流れている。
それにどうやら自分達と同じくデート目的で訪れている客もいるようで仲睦まじげな男女の姿がちらほらと確認できる。
腕を組みながら楽し気に笑い合うカップルをどこか羨ましそうに眺める愛美。
目に映るカップルの女の子達はみんな取り繕う事なく彼氏に向けて純粋そうに笑ってるなぁ。もし私がまともな性格ならあんな風にいつだって素直になれるのかなぁ。
やはり長年根付いた性格と言うものは簡単に修正できず交際してからも時折不躾な態度が出てしまう事は愛美にとってもネックに感じている。何しろ未だに手作り弁当を持って行っても『べ、別にアンタに喜んでほしくて作った訳じゃないんだから!!』などと言ってしまう程だ。
だが彼女の彼氏さんはその程度の事で愛美に嫌気を感じなどはしない。
「その…僕たちも一緒に腕でも組もうか」
そう言いながら照れくさそうに笑って腕を差し出される。
「しょ、しょうがないわね。動きづらいけど一応はデートらしく見せるために面倒だけど乗ってあげるわよ」
しょうがないなどと言いつつも言葉とは対極に愛美はとても満面な笑みを浮かべるのだった。
それから二人は色々なアトラクションを楽しんだ。ただその中で絶叫系に耐性のある愛美に付き合い苦手なジェットコースターに乗せられ龍太は乗車後に真っ青な顔をする羽目となった。
「うう~気持ち悪い…」
「もう情けないわねぇ。仮にも男の子なんだからシャキッとしなさい」
ふらついている足取りの龍太に肩を貸しながら彼のことをベンチに座らせる。その際に女性にエスコートされている龍太を見て周りのお客達はクスクスと笑う。
「ちょっと見てよあれ。彼女さんに肩を貸されてみっともなーい」
他のカップル客の女性が脱力気味な龍太を見て彼氏と一緒に指をさしながら笑う。
「うぐっ、ごめんね愛美。情けないところを見せちゃって…」
自分でも絶叫マシンで顔を青くしている事が情けないと自覚したのか無理してベンチから立ち上がり気丈に振る舞おうとする。
だがやはりまだジェットコースターでのスリリングな余韻が消えず膝が震えてしまう。
「あーあー無理して立ち上がらなくていいわよ。少しそこで待ってなさい。近くの自販機で何か飲み物でも買ってくるからさ」
そう言うと再度ベンチに膝が震えている彼氏君を座らせて近くの自販機まで駆けていく。
「えーっと水、いやお茶でいいかしら?」
そう独り呟きながら硬貨を投入しようとする愛美だが背後から気配を感じて振り返る。
「いやーお姉ちゃんもこの自販機で飲み物買うの?」
「それなら俺らが奢ってあげるって」
振り返ってそこに居たのはいかにもチャラそうな二人組の男だった。
うそでしょ…何で私ってこういう男に最近声かけられるのよ……。
目の前の下卑た視線を自分に向ける二人組はあの安藤を連想させるほど醜悪で気持ち悪く愛美は逃げ出そうとする。
だがその場から離れようとする愛美の肩に男の1人が馴れ馴れしく手を伸ばしてきた。
「おいおいちょっとお話ぐらいしようよ。そんな露骨に逃げられたら傷付くじゃん」
「いやっ、やめ『人の彼女に何してるんですか?』…りょ、龍太……」
思わず声を上げそうになる愛美であったが、伸ばされた男の手をいつの間にかベンチから起き上がった龍太が掴んで止めていた。
だが現れた龍太を見て男達は嘲るように笑いだす。
「おいおいこの手は何かな坊や? 男に触れられる趣味はないんだけどぉ?」
「さっきまでこの娘に肩を貸されていた情けない僕ちゃんは引っ込んでようねぇ~」
実はこの絡んで来た二人組は愛美に介抱されていた龍太の姿を遠巻きに見ていたのだ。彼氏がいかにも頼りなく、しかも連れは極上の女と言う事で愛美に目を付けて絡んで来たのだ。
「女の子をエスコートするどころかエスコートされていた男は引っ込んでな。お前に代わって俺達がこの娘を楽しませてあげ……いががががッ!?」
半笑いで龍太を突飛ばそうとする男だがその表情が苦悶に染まる。
龍太の掴んでいる男の腕からは何やらギチギチと肉が締め付けられる音が響いており、その不穏な音色と共に与えられる苦痛に男の顔からニヤけた笑みが失せる。
「離せやテメェ!!」
もう一人の男が無防備な龍太の腹部に拳を叩き込んだ。そして続くように腕を掴まれている男も龍太の頬に拳を繰り出してきたのだ。
「いやっ、龍太!?」
二人からの暴行を受けた龍太を見て悲鳴を漏らす愛美だが当の本人は笑顔を向けて彼女を安心させる。
「心配しなくても大丈夫だよ。すぐに終わらせるから」
明らかに加減無しで頬や腹部を殴られたにも関わらず笑みを浮かべる龍太に殴った方の男達が逆に不気味さから後ずさる。
そしてそこからは本当に一瞬の事であった。何と龍太は腕を掴んでいる男を思いっきり自分の方に引っ張ると無防備なボディに拳を叩き入れた。まるで内部が爆破されたかのような衝撃に男の口からは涎と苦悶の声が漏れる。そのまま呆然とするもう1人の男の方には頬にむけて勢いよく振りかぶった平手打ちを叩き込んでやった。
「うっ…うぐぁ……」
「いががが……」
小さな体格からは想像もできない拳と平手打ちの威力に男達はそれぞれ腹部と頬を押さえてその場で蹲る。
そうして最初の余裕がなくなり消沈している二人に龍太が普段は見せない冷めた瞳と声色で消える様に指示を出す。
「これ以上まだやるなら僕も今度は加減せずに手を出させてもらうよ。大事な人を護る為なら容赦はしない……どうするの?」
「「ひえっ、消えさせていただきますぅ!!」」
たった1発ずつだけでも戦意を折るには十分な衝撃を受けた二人は脱兎のごとくその場から逃げ出した。
ひとまず恋人に迫る危機を遠ざけられた龍太が安堵の息を漏らすと愛美が抱き着きながら大声で彼を咎めた。
「このバカッ! 心配させないでよ!!」
「ご、ごめん。でも君が守れてよかったよ」
「良くない。私を守る為だとしてもあんたが……龍太が傷付くのは嫌……」
龍太が殴られた瞬間、ハッキリ言って愛美は生きた心地がしなかった。確かにあの二人組は撃退できたが感情を処理できず愛美は人目をはばからず泣き出す。
「ひくっ……ばかぁ……」
「……ごめん」
周りの客たちは何事かと盗み見て来るがそんな視線など気にせず龍太は愛しい人が落ち着きを取り戻すまで腕の中で震える彼女を優しく抱きしめ続けてあげた。