ツンデレ美少女が彼氏の妹と対面しました
「へえー龍太の家って意外と私の家から近かったんだね」
「うん、僕も少し驚いているよ」
学校終わりの放課後に龍太は恋人である愛美を自宅へと招いていた。その理由としては愛美がそっちは私の自宅の場所を知っているのに自分は知らないと言うのは不公平だと言われたからだ。
とは言え正式に交際した以上はいつかは龍太としても彼女を自分の家に招待する気ではいたから何も問題はない。
「あっ、そう言えば言い忘れていたけど妹が居るんだ。少しお転婆な部分もある娘だけど仲良くしてくれると嬉しいな」
「え、妹さん居たの? てっきり1人っ子とばかり……」
「うん。愛美の弟さんの徹君と同じ中学2年生なんだ」
彼の自宅にお邪魔する直前に追加された新情報に少し驚く。
別に兄妹が居る事自体は何もおかしなことではないが果たして自分と打ち解けれるかと言う不安が僅かに芽生えた。
龍太はもう私の性格を凡そ把握しているみたいだけど正直普通の人からすれば我ながら馴染み難い性格だしなぁ……。
もしかしたら妹さんに『こんな不躾な人とは別れた方が良い』なんて言われようものならどうしよう。そんな不安を抱え彼氏の家へとお邪魔させてもらう。
玄関を開けて家に入るとすぐに部屋の奥から1人の少女が出迎えてくれた。
「あーお帰りお兄ちゃ……」
帰って来た兄に出迎えの言葉を投げ掛ける妹の涼美であったが隣に立っている女性を見て硬直する。
「えっとお兄ちゃんその人誰かな? もしかしてクラスのお友達とか?」
当然だが妹からは愛美についての説明を求められる。
てゆーかお兄ちゃんがあの裏切り女以外に異性を連れて来るなんて初めてなんだけど。見た感じ仲は良さそうだけど……。
これまで兄は元幼馴染の天音以外に異性を家に招いた事がないため隣の人物が気になって仕方なかった。とは言え少なくとも〝恋人〟ではないだろうと涼美は予想していた。何しろあんな酷い失恋をしてまだそこまで日も経っていないのだ。今の兄にとって〝恋愛〟はさぞトラウマだろう。
それもこれも全部あの最低幼馴染女のせいだ。どうしてこんな優しいお兄ちゃんがここまで理不尽な思いをしなきゃ……。
必死に忘れようとしても長年一緒に居た相手を簡単に記憶から消去できるものではない。またしてもふつふつと腹の底から天音に対して怒りがせり上がって来る。
「えっとどうしたの涼美? 何だか少し怖い顔になっているけど……」
「あっ、何でもないよ何でも」
怒りに染まりつつある顔を無理やり笑顔にして適当にその場を取り繕う。そしてすぐに話題を逸らそうと隣にいる女性は誰なのか質問する。
「ところでお兄ちゃんいい加減にその人の紹介してよ。やっぱり高校で新しくできたお友達とか?」
「いやその……この人は僕の……恋人です」
「……マジ?」
恥ずかしそうにしながら龍太の口から出て来た言葉に思わず本当かどうか確認を取ってしまった。
「えっと初めまして。私の名前は月夜愛美です。あなたのお兄さんとお付き合いさせてもらっています」
緊張からか愛美も愛美でいつもの強気な姿勢を崩しぎこちない口調で自己紹介を始めた。
「え…えっとこちらこそお兄ちゃんがお世話になっております?(あれ、月夜ってあいつと同じ名字だけどまさかね……)」
明らかに言葉の使い方がおかしいのだが涼美の方もまさか失恋したての兄に彼女が出来るなんて想定外でリアクションがおかしくなってしまう。
それから玄関で立ち話を続けるわけにもいかず3人はリビングの方へと移動する。
「それじゃ何か飲み物でも用意するから座って待っていてくれる?」
そう言いながら冷蔵庫の方へと足を運ぶ龍太。
残された二人はテーブルを挟んで互いに対面した状態となり気まずい時間が流れ出す。
うう……彼氏の身内ってこんなに話しかけにくいものなの。もう龍太も飲み物用意するよりもまずは妹さんと打ち解けれるように気を配ってよバカ!
内心でどう打ち解けて仲良くしようか思案する愛美に対し、涼美はどちらかと言えば彼女に対して警戒心の方が強かった。
目の前の女性は本当に兄を心から愛してくれているのかと言う疑念が彼女の中で消せなかったのだ。
あまり疑いたくないけどもしもこの人が何かしらの下心を持っていたとしたら今度こそお兄ちゃんは立ち直れなくなるかもしれない。もう…お兄ちゃんに泣いて欲しくない……。
初対面の、それも兄が信頼して交際した相手に抱くには失礼な考えだと言う事は嫌と言う程に理解している。だが長年の付き合いがあった幼馴染に兄は裏切られて間もないのだ。だからこそ妹としては呑気に祝福すると言う訳にもいかないのだ。遊び半分のお付き合いならばむしろ別れてすらほしいとまで思っている。
お兄ちゃんには申し訳ないけどここは妹として一肌脱いでこの人の本音を確かめさせてもらう。もしもあの最低女みたくお兄ちゃんを悲しませようとしているならそれはこの私が許さない……!!
こうして愛美にとっての初めての彼氏でのお家デートはほのぼのでなく重い空気に包まれたものとなりつつあるのだった。
「あっ、オレンジジュースでいいかな?」
二人の女性の心情など察せれない龍太は呑気に飲み物の確認を取るのだった。