ツンデレ美少女がクズ男に釘を刺しました
屋上にやって来た招かれざる二人組に愛美は敵対心をむき出しにし、龍太は不快感を顔に滲ませていた。そしてそれは相手の片割れの方も同じようで屋上に居た先客に対して文句を吐く。
「さいっあく。折角大知君と一緒に楽しい昼食を過ごしたかったのに……」
自分と彼氏の時間に水を差されたような気分にされて天音が苛立った様子で睨みつけて来る。
だがそれは愛美の方にも言える事であった。折角彼氏に丹精込めた手作り弁当を食べてもらえる直前に見たくもない顔を見せられたのだから。
ほのぼのとした空気はギスギスとした一触即発の重いものへと変わりつつある。
しかし今にも噛みつきだしそうなそんな愛美を止めたのは龍太であった。
「気にしなくてもいいよ愛美。彼女達の事は放っておいていいから、ね?」
後ろから優しく肩に手を置かれて掛けられるその優しい声色に険悪な空気を出していた愛美の怒りが沈静化される。
「龍太…でも……」
「僕ならもう何を言われても大丈夫だからさ」
一番傷つけられていた龍太にそう諫められてしまえば愛美としてもこれ以上は噛みつきづらく黙り込む。
落ち着きを取り戻した愛美の姿に一安心する龍太であるが相手の天音の方は更にこの場を蒸し返そうと嫌味を口にする。
「随分と大人になったわね龍太。もしかして私にフラれた腹いせにその女にでも乗り換えたのかしら?」
この期に及んでも下らない戯言を吐く天音に怒りが再燃しかける愛美。しかし彼女以上に二人の関係が気になって仕方がない人物がこの場に1人居た。
おいおい何であんなチビと愛美のヤツが仲良くやってんだよ?
敵対の目を向けている天音の背後では仲睦まじそうにしている二人の関係に安藤は腹の中で憤慨していた。
自分がいつも距離を縮めようとしていた本命の女子があんな冴えない男と楽しそうな一時を過ごしているなど認められなかった。しかもあの龍太の手に持っている弁当、明らかに愛美の手作りだと言う事が伺える。
「それにしてもアンタも趣味悪いわねぇ龍太。そんなストーカー女と仲良くするなんてさ。まあ私にいつまでも未練たらたらのアンタの事を考えればある意味でお似合いだけどさ」
「はあ? 私や龍太がストーカーですって? 何を意味不明な妄言を吐いているのかしら?」
ありもしない情報を耳にして愛美が呆れ果てる。いくら何でもここまで事実と異なる暴言は怒りよりも呆れの色の方が強くなる。
「とぼけんじゃないわよ。そっちの元幼馴染は今でもこの私にキモい視線をクラスで送り続け、そしてアンタは私の彼氏である大知君に色目を使っているそうじゃない。そんなアンタ等をストーカー呼ばわりして何が悪い訳?」
「「はい?」」
事実無根の言い掛かりを捲し立てる天音に二人は度肝すら抜かれてしまう。
まず龍太の方はあれだけ手ひどい縁切りまでされたのだ。それなのに未だに天音に対して好意を抱き続けるなどあり得ないに決まっている。もう彼にとっては他人に等しいくらいだ。そして愛美に至っては言い掛かりと言うレベルではない。そもそも毎朝クラスで絡んで来るのは安藤の方からだ。むしろストーカーを受けているとこちらが被害を口にしたいぐらいだ。
「いやいや私がストーカーですって? そんなわけないでしょ。何が悲しくてそんな顔しか取り柄のなさそうな男を好きにならなきゃならないのよ。罰ゲームでも嫌だから」
「な、何ですって!?」
自分の彼氏を侮辱されて天音の顔が怒りで赤くなる。
「そうだわ。丁度安藤のヤツもこの場に居る事だし都合がいいから言っておくけど私と龍太は正式にお付き合いしているから。だから安藤、今後は毎朝クラスで私に絡んでこないでよね!」
「なっ…ああ…付き合って…!?」
愛美が放ったその言葉に安藤は思わず声が詰まってしまう。
うそだろ…あんな平凡なチビに俺様の愛美が取られたって言うのかよ!? あのクソ野郎がッ、人の女を横取りしやがって……!?
何やら自分の大本命としていた女をまるで寝取られたかのように考えているがそもそも彼女は安藤のものではない。むしろこの男こそが龍太の幼馴染であった天音を口説いて寝取ったと言われても仕方がないほどの外道行為を働いている。
既に愛美が別の男の彼女となっている事実にショックを隠せない安藤とは裏腹に天音はその報告を聞いて笑いだす。
「へーマジでアンタ等交際してんだ? まあこれで私も大知君もそれぞれ目障りなアンタ等とは綺麗に関係を断てて有難いけどさ。もう行こう大知君、どうやら私達はこのカップルのお邪魔みたいだからさぁ~」
馬鹿にするかのような口調で大知と腕を組んで屋上を去ろうとする天音。
自らの〝都合の良い恋人〟に腕を引かれながら安藤は歯を食いしばる。そして二人だけの時間を再開して心から楽しそうに笑っている龍太を恨みがましく睨むのだった。