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ツンデレ美少女がお弁当を作ってきてくれました


 月夜愛美と正式に交際関係を結んだ翌日の朝、龍太は学校の通学路を歩きながら胸をドキドキと弾ませていた。

 昨日までは元幼馴染と同じ学校に登校する事が拷問のようで登校の際はずっと憂鬱な気持ちであった。だが今は苦痛とはむしろ正反対の心地良い気分に満ちた状態で彼は通学ができていた。


 その理由は言わずもがな、学校へと行けば最愛の恋人となった愛美に出会えるからだ。


 自分を心から想ってくれる相手が居る。ただそれだけで目に入る周りの風景まで違って見えてくるから不思議だ。元幼馴染に裏切られてから灰色に映っていた世界が今は煌びやかに輝いてすら見えて来る。幸福感から踊る心に釣られてスキップしてしまいそうなほどに上機嫌な龍太。そんな浮足立っている彼へと背後から声を掛けて来る人物が居た。


 「なーに朝っぱらからニヤけた顔をしてるのよ」


 振り返ればそこには浮かれ気味の彼氏に対して呆れ顔をしている愛美がこちらへと歩いて近付いてきていた。

 

 「あ、お、おはよう愛美さん」


 「ん…おはよ。それから昨日から言っているけど愛美と呼びなさい愛美と」


 通学中にバッタリと遭遇した二人は当然ながらそのまま並んで一緒に登校する。


 まだ交際して時間などほとんど経過していない初々しい二人は折角朝から恋人同士で登校しているにも関わらずほとんど会話がなかった。

 学校までの残りの距離をひたすら無言で歩いているのも気まずく愛美の方から話題を振る。


 「ああそう言えば龍太に言っておかないとね。あんた昼休みには飲み物買ってから屋上に集合しなさいよ」


 「え、それは構わないけどどうして?」


 「……お弁当作って来たからよ。その…あんたと二人っきりでお昼を一緒に食べたいのよ」


 恥じらいを見せつつも自分の正直な気持ちをぶつける恋人の仕草に龍太は頬がカーっと熱くなるのを感じた。


 そう言えば今日から愛美さん…愛美が手作り弁当を作ってきてくれるって言っていたなぁ。僕の為にお弁当を……う、嬉しい……。


 「ありがとう愛美。その…お弁当楽しみにしてるね」


 「ん……」


 自分の手作り弁当を待ち望んでいると言われて愛美の口角が緩む。だがすぐにハッとなるとまたしても彼女の天邪鬼が発動した。


 「変な勘違いするんじゃないわよ! 私はただ間違えて余分にお弁当を1個作ってきてしまっただけであんたの為に作って来た訳じゃないんだからね! 捨てるのも勿体ないからあんたに食べて処理してもらおうと考えているだけなんだからね!!」


 自分からお弁当を作って来ると言いながらもそんな支離滅裂な言い訳をする恋人を見て思わず吹き出してしまう。


 「何笑ってるのよバカ!」


 「あははごめんごめん」


 初めて出会った時は彼女のこの性格は少し面倒だと思っていた。だが彼女が優しい心根を持っている事を知った今は印象も大分変っている。何というかすぐにムキになる部分が今では少し愛おしくすら感じるのだ。


 それからもムキになって噛み付く可愛らしい恋人を諫めているうちにいつの間にか学校へと到着していた。


 「それじゃあお昼休みにちゃんと屋上に来ておきなさいよ」


 「うん、それじゃあまたお昼に」


 少し名残惜しさを感じつつもそれぞれのクラスへと向かう二人。

 愛美と別れて龍太が自分のクラスへと入って行きクラスメイトに挨拶をしていくと元幼馴染とも目が合った。


 「ふん、朝っぱらから辛気臭そうな顔……」


 目が合って早々にまるでゴミでも見るかのような天音に嫌味を飛ばされる龍太であるが不思議とまるでこたえなかった。


 大丈夫、もう大丈夫だ。僕には隣で支えてくれる大切な人が居るんだ。もう高華の言葉なんて気になるもんか…!


 今の自分には心の拠り所となってくれる大切な人が居るのだ。自分を酷い形で裏切った元幼馴染に未練などあるはずもない。当然そんなもはや眼中にすらない人物の口から出て来る棘のある言葉など意にも介さない。


 「……チッ」


 相手の天音の方も昨日までと違い自分の態度や発言にショックを受ける様子の無い龍太を見て面白くなさそうに舌打ちをする。

 

 それから時間は過ぎていき待ちに待った昼休みとなった。4時間目の終了を知らせるチャイムが響き渡り授業が終わると龍太はすぐに屋上を目指して移動を開始する。


 「はんっ、どーせ寂しくボッチ飯のくせに何を急いでいるんだか」


 横を通り過ぎる際に天音がまた嫌味を言っていたが当然無視してクラスを出る。その際にまた彼女から舌打ちが聴こえてきた気がするがどうでも良い。

 元幼馴染の罵声を無視して飲み物を購入後、急いで屋上へと向かうと既に愛美が先に到着して自分の事を待ってくれていた。


 「お待たせ」


 「ん…別に待ってないわよ。それよりほら、こっち座わりなさいよ」


 屋上では既に愛実はシートを引いてお弁当を用意して待ってくれていた。彼女のすぐ近くに座って飲み物を用意するとおずおずと愛美は自分の手作り弁当を披露する。


 「それじゃあコレ…あんま期待しないでよね」


 手渡されたお弁当の蓋を開けその中身を見て龍太の口からは小さな驚嘆の声が漏れる。それは一目見ただけでも手の込んでいる事が一目瞭然の出来栄えだからだ。恐らくは栄養面まで考えているであろうバランス良く彩りの良い中身に龍太は素直な感想を口にする。


 「凄くおいしそう。こんな立派なお弁当を作ってくれてありがとう」


 「ふ、ふん。お世辞はいいからさっさと食べなさいよ」


 刺々しい口調とは裏腹に嬉しそうな顔をしながら箸を渡される。

 

 「それじゃあいただき……」


 まずは卵焼きから頂こう、そう思って龍太が箸を伸ばしたその時であった。屋上のドアが開きこの空間に新たな訪問者が現れたのだ。


 「うわっ、何でアンタ等がここに居るのよ?」


 「……それはこっちのセリフよ」


 屋上のドアを開いてやって来た人物は先客である龍太達を見て忌々しそうな表情を浮かべる。そして同じく愛美の方も嫌悪感を抱きながら苦虫を噛み潰したような顔になる。何故ならやって来た人物はこの幸せな空気をぶち壊すには十分な相手、天音と安藤の二人だったのだから。



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