ツンデレ美少女と付き合う事になりました
「えっと愛美さん。その…当たっているんだけど……」
「うるさいわね。それよりも付き合っていながらさん付けなんて呼び方はやめなさいよ〝龍太〟。あんたもこれからは〝愛美〟って呼びなさいよ。ふんっ本当に鈍い彼氏で仕方ないわね!」
晴れて正式なカップルとなれた愛美は隣に座っている龍太に寄り添って棘のある言葉と裏腹に喜色満面の顔をして甘えていた。
言葉の方は未だ素直になれない愛美であるようだが行動は完全に取り繕う事無く龍太に甘え切っていた。ただハッキリ言って愛美のスタイルは高校生の平均を遥かに上回っている為ここまでべっとりと寄り添われると発達している胸部が当たって気まずい。かと言って一旦引き剥がそうとしたらしたで……。
「何で離れようとするのよ。もしかしてくっつかれて迷惑だって言うの? ふ、ふん、だったら距離取ってあげるわよ! べ、別に悲しく何てないんだからね!! 寂しく何て…ぐすっ……」
などと涙目になって言われ良心が痛んでしまい、結局は彼女が満足するまでぬいぐるみの様に腕に抱き着かれ続けた。
それからしばし抱き着かれ続けていた龍太に対して愛実が思い出したかのようにこんな質問をしてきた。
「ところでさ、これから交際が始まっていく訳だけど龍太は確か昼食はあれよね。購買か学食ですませているのよね?」
「うんそうだけど…」
「そ、それなら私がこれからはあんたにお弁当作って持っていくから!」
「気持ちは嬉しいけど本当に大丈夫? 別に無理をしなくても……」
恋人からの手作り弁当、龍太からすればとても嬉しい。だが弁当を作るとなれば朝は早く起きなければならないだろうし、それに弁当に宛がわれる食材費も繰り返せば塵も積もれば山となる、そこそこ高くつくだろう。そう考えると自分の為に時間を削る彼女に申し訳がない。
その事について指摘すると彼女は何の問題もないと説明してくれた。
「言っておくけどあんたのお弁当を作る事なんて特別負担にならないわよ。こう見えてもよく自分と弟の為にお弁当を頻繁に作っている訳だし1人分増えても負担量なんて変わらないわよ。材料費だって気にしなくても良いわよ。別に高級食材を扱う訳じゃないしさ」
「そ、そうなの。それならお願いしようかな。愛美さんのお弁当…食べてみたいし……」
そう言いながら笑顔を向けると愛美の表情がまたしても緩んだ。
だがすぐに表情を引き締めようとする。だだ喜びが許容量を超えている様でまだデレが抜けきっていないまま彼女がこんな形の見返りを提示してきた。
「そ、それじゃあ今度都合のついた休日にデ、デートしなさい。それでお互い様って事でいいでしょ。か、勘違いするんじゃないわよ! べべべ別にデートがしたいのではなくあくまで見返り目的なんだからね!!」
「うん勿論いいよ。そ、それに僕も愛美さんと恋人になったのならデートとかしたいから……」
恥ずかしそうにしつつも可愛らしいく笑顔を見せる龍太。
彼は一見平凡そうな見た目に見えるが童顔で少女に見えなくもなく、その笑顔の破壊力は愛実には凄まじくまるで天使の微笑みとすら思えた。
わ、私の彼氏ちょっと素直で可愛すぎでしょ!!
「うわ大変! 愛美さん鼻血が出てるよ!!」
「あ、愛美と呼びなさい。それからそこのティッシュ取って……」
こうして最後は少し締まりがない終わり方であったが愛美の恋は無事に成就したのだった。めでたしめでたし。
「たくっ、まだ姉ちゃんのボディブローのダメージが抜けきらねぇ……」
自分が気を失っている間にカップル成立したあの金木龍太が帰ってからと言うもの姉は終始ニコニコとしており帰宅した両親からは不気味がられていた。そりゃそうもなるだろう。すぐにがなり立てるあのサイレン並に喧しいあの姉があそこまで有頂天になって大人しくしていれば。
まあ何はともあれ姉の恋路が上手くいった事は素直に祝福してあげよう。
「しかし姉ちゃんにもついに春が訪れたってか。あのじゃじゃ馬の手綱を握る人物が現れるとはねぇ……」
しかし姉の幸せそうな表情を見ていて思ったが恋愛とはそこまでいいものなのだろうか? 自分も男である以上は確かに異性に興味が無い訳ではない。ただ恋愛と言われるとどうにもピンとこない。別に女子と話す事が苦手と言う訳でもなければ奥手と言う訳でもない。ただ自分が姉の様に1人の異性に夢中になる光景が思い描けないのだ。
「まあ俺にはまだ恋愛なんて当分先の話だろうな」
それにしても確かあの人の名字って〝金木〟だったよな。まさか俺の中学の隣の席の女子と同じ名字だなんてどんな偶然だよ。笑い話として明日でも〝あいつ〟に話してみるか? なーんてな……。
そう思いながら徹は自分の中学の同じクラスの隣の席の〝とある女子〟を思い浮かべていた。
この時の徹にはまだ知る由もないだろうが少し先の未来、彼は今思い浮かべている隣の席の女子の口から衝撃の事実を告げられる事となる。そして発覚する衝撃の事実を切っ掛けに彼にも春が訪れるのだがそれはもう少し先の話だ。




