ツンデレ美少女の告白の返事をしました
ひとしきり幼子の様に泣きじゃくった龍太はようやく落ち着きを取り戻していた。その様子を見て愛美はもう大丈夫だと悟りホッと安堵の息を漏らす。その姿を見て龍太は小さく頭を下げながら心からの感謝を伝える。
「何だか愚痴を聞いてもらったみたいになったけど本当にありがとう。愛美さんのお陰で気分が大分スッキリしたよ」
「そう良かった……ハッ! べ、別にあんたを慰められて良かったなんて思っていないんだからね!! これでようやく鬱陶しいヤツから解放されると思って喜んでいるだけなんだからね!!」
「……くふっ」
「なな、何がおかしいのよこのバカ!」
自分から自宅まで半ば強引に連行しておき、しかも曝け出しても良いと言っておいてその言い分は無理がありすぎる。そう思うと未だにバレバレな照れ隠しをしている彼女が少し可愛くも見えた。そして……自分をどん底から救済してくれた優しさに胸がぽわっと温かくなった。
もしも愛美さんのような優しい人が僕の幼馴染だったらなぁ……。
そんなIFの話を想像したところで無意味だと理解しつつももし隣に居てくれた人物が彼女ならば裏切られる辛さを知らずに済んだのではないかと考えてしまう。
気が付けば龍太は無意識にそのあり得ない願望を言葉として吐露していた。
「あはは……愛美さんが幼馴染だったらきっと僕も泣かずにすんだのかもしれないのに……」
「何を荒唐無稽な話をしてるのよ。時間を巻き戻さない限りは幼馴染なんて無理に決まってるじゃない」
「そりゃそうだよね。あはは……」
「そうよ、もし幼馴染並の親密な関係になりたいと言う意味で言っているなら恋人同士になるぐらいしか道はない……ハッ!?」
そこまで口にして愛美は自分が口走った言葉に赤面する。その反応は聞いていた龍太も同様で彼も恥ずかしそうに俯いて無言となる。
互いに気まずさから無言のまましばし時が凍り付く。その静寂の中で口火を切ったのは龍太の方であった。
「あ、あのさ、この空気の中で訊くのもあれなんだけど……さっき君の言っていた言葉って本気、だったのかな?」
「え…私の言っていた言葉?」
「うん。その…『好きになっちゃった』って言葉なんだけど……」
今まで愛美の頭の中は天音や安藤に対する怒り、そして龍太の精神的負傷のフォローばかりに目が行っていて自分の告白については頭の片隅へと追いやられていた。だが彼の一言で学校内の玄関での記憶が鮮明にぶり返して彼女は顔中から煙が吹き出る。
「あ…や…あれは……」
あの時は場の勢いも相まってすんなり『好き』だと言えたが本来の天邪鬼な性格の自分ならばあり得ない言動だ。もしもあの時に龍太が傷つけられていなければ間違いなく自分は二の足を踏んで『好き』だなどと告げられなかっただろう。
てゆーか自宅に彼を招くなんて冷静に考えてみれば一体どれだけ階段を飛ばしているのよ。あの時は興奮していたとはいえこの私がここまで積極的に行動を起こすだなんて……。
とは言え結果的に見れば好きな少年との距離を1日だけで予想以上に進められた。そう考えれば悪い事ではなく、むしろ喜ばしい事なのかもしれない。だがまずは〝友達〟から始めようと考えていた彼女からすれば心の準備が整っていないのだ。
で、でも私もう『好き』だってハッキリ言っているし今更こんな風に躊躇っても……。
「……やっぱりあの時の『好き』は僕を気遣ってくれて言った言葉なのかな」
「え、いやあの……」
「あはは気を使わなくてもいいよ。愛美さんには本当に助けられたから怒ったりしないよ。だから正直に言って欲しいかな?」
馬鹿なの私は!? ここで言葉を濁したりしたらあの時の告白は嘘だったと思われかねないじゃない!!
この時に愛美は昨日の夜に受けた弟からのこの助言を思い出す。
――『ここぞと言う場面ではハッキリ好きと言わないと恋は実らないぞ』
そうよ、ここで今まで通りに否定的な態度を取ってしまえば私の恋は実らない! 何より私は彼に更に深手を与えることになる。それは嫌、自分の大好きな人を苦しめるなんて絶対に嫌!! ああもうっ、こうなったら当たって砕けろだわ!!
「ええそうよ! 好きよ! あんたが好きになっちゃったんだから仕方ないでしょ!! なに、文句ある!?」
「ええ、いや文句なんて……」
ここまで珍しい告白もそうそうないだろう。半ば逆切れ状態で好きだと言う世にも珍しいアタックに龍太も完全に戸惑ってしまう。
だがそれでも本当に自分が好きだと言ってくれた愛美の言葉に彼は嬉しく思っていた。
「じゃあ…君は本当に僕が好き…なの…?」
「だからそうだって言っているでしょ!」
「……軽薄だと思うかな?」
そう言いながら龍太は愛美の手をギュッと握ると彼女の想いに対する返事をした。
「僕は愛美さんに心を救われた。こんな出会って間もない僕に寄り添い支えてくれた。そんな君に僕は……惹かれたんだ」
「じゃあ……私と付き合いなさいよ。当然…OKなんでしょうね?」
今までの強気な口調から一転して不安気そうな声色で自分の想いについての返事を求める。
もし断られたらどうしよう。もし『お友達で居よう』なんて言われたらどうしよう。そう考えると怖くて怖くて仕方がない。
だがそんな不安をまるで消してくれるかのように龍太は彼女を抱きしめる。
「こ、こんな僕で良いなら是非ともお付き合いしてください!!」
自分が生まれて初めて心から好きになった人からのOKの言葉に愛美は思わず泣いてしまった。
「ぐすっ…ぜ、絶対に幸せにしなさいよ」
「うん、こんな僕を選んでくれてありがとう」
気が付けばもう龍太の中の元幼馴染の与えた傷なんて完全に塞がっていたのだった。